辛酸なめ子、バルセロナ・パリへの初ヨーロッパ3泊弾丸アート鑑賞トリップ!

はじめてのヨーロッパは3泊5日の弾丸旅行でした。友人たちとバルセロナで待ち合わせてサグラダ・ファミリアに観光に行く、という計画が発端でした。ガウディ没後100年の2026年にメインの「イエス・キリストの塔」が完成する予定で、その前に見学した方が空いていそう、という思いもありました。

はじめてのヨーロッパは3泊5日の弾丸旅行でした。友人たちとバルセロナで待ち合わせてサグラダ・ファミリアに観光に行く、という計画が発端でした。ガウディ没後100年の2026年にメインの「イエス・キリストの塔」が完成する予定で、その前に見学した方が空いていそう、という思いもありました。

サグラダ・ファミリア ガウディ 辛酸なめ子 バロセロナ

今も絶賛建設中のサグラダ・ファミリア。聖堂全体の完成は2034年頃になる見込みだそうで、まだ先は長そうです。

それでもネットで1ヶ月前にチケットを予約した時は、埋まっている時間帯もあり、すでに混雑の気配が漂っていました。今の時代は観光スポットでも美術館でも、事前のネット予約と入金がマストです。サグラダ・ファミリアは専用アプリがあり、ダウンロードして購入したチケットの2次元コードを表示するようになっていました。購入したのはサグラダ・ファミリアとタワー見学のチケット、36ユーロ(約6500円)です。お高いですが、教会へのお布施の気持ちで払いました。

朝早く、バルセロナの空港に到着し、友人と待ち合わせて午後にはサグラダ・ファミリアに向かいました。地下鉄に乗り、スリが多いと聞いたので荷物のジッパーを手で押さえながら気をつけて歩きました。そしてついに念願のサグラダ・ファミリアを間近で見ることができました。2023年の東京国立近代美術館での「ガウディとサグラダ・ファミリア展」も良かったですが、やはり本物の迫力は違います。

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「生誕のファサード」には彫刻がひしめいています。平和で癒し系の場面が多く、ずっと眺めていたくなります。

彫刻で埋め尽くされた「生誕のファサード」は、聖書の各シーンが永遠に演じられている舞台のようです。受胎告知や東方の三人の使者、羊飼い、イエス・キリストの生誕の場面などが繰り広げられています。裏側の角張ったポリゴンのような「受難のファサード」の彫刻も、シンプルな強さがあります。ユダの裏切り、最後の晩餐、鞭打ちの刑、十字架磔刑など辛い場面が多く、神妙な気持ちに。彫刻の表情も暗いので、見ているとシリアスモードになります。

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大聖堂の内部。中心にはイエス・キリストの像が浮かんでいます。時々パイプオルガンから天上界の調べが流れます。

サグラダ・ファミリア ガウディ 辛酸なめ子 バロセロナ ステンドグラス

上を見上げると、白い外光が降り注いでいます。マルコ、マタイ、ルカ、ヨハネの4つのシンボルが見えます。

でも、大聖堂の中に一歩足を踏み入れると、天上界のような美しいステンドグラスの光に包み込まれました。上方からは外界の光を取り込んだ白い光が降り注ぎ、心身が浄化されます。ステンドグラスのデザインは暖色系と寒色系にわかれていて、見る面によって違う感覚が刺激されます。そして有機的な柱や内装のデザインなど、大聖堂自体が生きているかのようです。ずっと未完成だからこそ、人間と同じように成長し続け、生きた存在に思えます。

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シンプルで無骨なぶん、訴えてくるものがある「受難のファサード」。キリストのハードモードの生涯が視覚的に伝わってきます。

予約したチケットには、エレベーターでタワーの高いところまで昇るオプションがついていました。「受難のファサード」「生誕のファサード」どちらの側のタワーか選べるようになっていて、私が選んだのは「受難のファサード」でした。エレベーターで60メートルほど登り、塔の隙間からバルセロナの絶景や、大聖堂のディティールを間近に眺めることができました。ただ、エレベーターのスタッフが軽く「帰りは400段の階段です」と言っていましたが、帰り道の延々と降りる螺旋階段(中心は奈落の底)がかなり怖かったです。教会の内部なので、人間として足を踏み外さないように注意せよ、というメッセージを受け取りました。少しでも立ち止まると後ろのおばさまが「People behind you!」とプレッシャーをかけてきました。

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やっと一階まで辿り着き、大聖堂の内部に戻ると、ステンドグラスやキリストの像に心身が癒されました。スリが多いといってもさすがに大聖堂内では、邪な心が消えると信じたいです。聖なる空間で物欲もほぼ鎮静化し、その後ハイブランドの店に立ち寄りましたが何も買わないでスルー、というかユーロが高くて手が出ませんでした。

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サグラダ・ファミリアは少し遠くから見ても神々しいです。周辺には他にもガウディ作の建物があり、名所となっています。

ルーヴル美術館 パリ 

パワースポット、ルーヴル美術館の前庭で太極拳をする人。建物の豪華さ、フランスの芸術の豊かさに圧倒されます。

翌日はLCCのブエリング航空でパリへ移動。空港からスーツケースを引いてルーヴル美術館に向かいました。こちらも公式サイトでの事前予約が必要で、一般料金は22ユーロ(約4000円)。1ユーロが100円なら普通の値段なのですが、今は180円で厳しいです。はじめてのルーヴル美術館は、もとは国王のお城だったというゴージャスな外観に圧倒されました。

ルーヴル美術館 パリ 

2025年10月15日からの「ジャック=ルイ・ダヴィッド」展の準備のために一時的に設置された鏡も映えスポットに。

行った日は例の盗難事件が発生する数週間前。入り口は空港の荷物検査のような厳重さでしたが、中は人手不足なのか監視員もほとんどいません。彫刻の展示室では勝手に触っている人も時々見かけました。美大受験のデッサンで有名なマルスの像(ここでは「アレス」という呼び名)は裸体だったのですが、家族連れの欧米人の母親が、遠近法を利用してマルスの局部を手に乗せているように見える写真を撮ってふざけていました。美術品と距離が近すぎるのも考えものです。サモトラケのニケやミロのヴィーナス、フェルメールやドラクロワの絵画など、世界的な名作がひしめいているルーヴル美術館。広すぎてとても全貌はわかりませんでしたが、エジプト美術コーナーも充実していました。盗難事件の舞台となったアポロンのギャラリーにはたどりつけませんでした。王家の宝飾品とは縁がなかったようです。

辛酸なめ子、バルセロナ・パリへの初ヨーロの画像_10

軍神マルスがこんなマッチョな肉体だったとは。ナポレオンがローマのコレクターから購入。勝負運の霊権がありそうです。

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「サモトラケのニケ」は紀元前3~1世紀に制作されたというのも驚きです。首がなくても美しさが成立しています。

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ヘレニズム期の彫刻、「ミロのヴィーナス」。広すぎるルーヴル美術館では、無理せず絶対観たい作品だけ観るのが体力的におすすめです。

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アイドルのファンミのように混み合っている「モナ・リザ」の展示室。意外と小さいですが存在感あります。

でも、この美術館で一番の主役なのは「モナ・リザ」。館内を歩いていると、「モナ・リザはこちらです」と示す看板をよく目にしました。レオナルド・ダ・ヴィンチが500年以上前に描いた「世界で最も有名な絵画」です。16世紀のフィレンツェの裕福な商人フランチェスコ・デル・ジョコンドの妻、リザ・デル・ジョコンドを描いたとされていますが、ダ・ヴィンチ自身の自画像説もあり、謎が多いです。風景画の下部は不完全で、この作品も未完成だと言われています。つまり、まだ成長過程にあって、サグラダ・ファミリアと同様に「生きている」状態といっても過言ではありません。レオナルド・ダ・ヴィンチは1503年頃に描き始めましたが、完成させることはなく、彼はどこへ行くにもこの作品を携行していたと言われます。今でいうバーチャル彼女の先駆けのようです。

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辛酸なめ子、バルセロナ・パリへの初ヨーロの画像_15

ついに近くで拝めた「モナ・リザ」。レオナルド・ダ・ヴィンチはスフマートと呼ばれる絵画技法を用い、油絵の具を何層にも重ね塗りして笑顔を際立たせました。

その、「モナ・リザ」が鎮座している部屋は警備がかなり厳しくて、間近で観たい人は囲いの中に入り、一列約20名ずつがじわじわ進む行列に並ばなくてはなりません。最前列になったら写真を撮りまくり、長時間になるとスタッフに引き剥がされます。まるでアイドルイベントのような熱気が渦巻いていました。後ろを向いて背後の「モナ・リザ」と自撮りする人もいました。

「モナ・リザ」の展示室に足を踏み入れ、遠くから対面すると目が合いました。妙な生気を感じるというか「モナ・リザ」も好奇心を抱いて群衆を見ているようです。まるで生きているような目の輝きと存在感、そしてオーラの大きさ。リアルなセレブに遭遇したような緊張感がありました。というか今生きているセレブたちがすぐに消費されて忘れられたとしても、「モナ・リザ」は何百年後も変わらずに人気を集めていることでしょう。

サグラダ・ファミリア、そして「モナ・リザ」と、世界中から人々を呼び寄せる至極の芸術には、「生きている」という共通点がありました。またいつか、会いに行ける芸術とゆっくり対峙したいです。

辛酸なめ子プロフィール画像
辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデ ザイン専攻卒業。アートやアイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。主な著作は『江戸時代のオタクファイル』(淡交社)『女子校礼讃 』(中央公論新社)『スピリチュアル系のトリセツ』(平凡社)など多数。Twitterは@godblessnamekoです。