ポップアートが生まれるウォーホルの聖域 #80

京都に行く大きな動機になるかもしれない「アンディ・ウォーホル・キョウト」展が京都市京セラ美術館で開催。荘厳で格式が高い京セラ美術館の建物にまず圧倒され、京都だけで開催される特別感への期待が高まります。

アンディ・ウォーホルといえば、キャンベルのスープ缶やマリリン・モンローの肖像画など、ポップ・アートの印象が強いです。「お金を稼ぐことはアートだ」というウォーホルの格言もよぎり、商業主義や資本主義を体現するような存在だと思っていたのですが、この展示を観て印象が変わりました。ウォーホルの心に秘めた聖域に触れられるような展示です。

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キュレーターのホセ・カルロス・ディアズ氏。有名な作品から、知られざる側面までバランスが良い展示です。  

アンディ・ウォーホル美術館に収蔵されている中から200点以上の作品が出展(日本初公開は100点以上)。内覧会では本展キュレーターのホセ・カルロス・ディアズ氏のギャラリートークに伺うことができました。

展示はいくつかのセクションにわかれていて、最初のコーナーにはポップ・アーティストになる以前の作品がありました。キューピッドや孔雀をモチーフにした作品のピュアでかわいいタッチが新鮮です。

「彼はピッツバーグ出身なのですが、両親はヨーロッパからの移民で、貧しい環境で育ちました。敬虔なビザンティン・カトリックの家庭だったんです」と、ホセ・カルロス・ディアズ氏はレアな情報を公開。てっきり富裕層の家庭で美的センスを磨いていたのかと思っていましたが、彼の原点はカトリックの宗教画なのかもしれません。

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金色で多幸感漂う「馬に乗るキューピッド」「孔雀」。「孔雀」はウォーホルの恋人への思いが込められているとか……。
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ウォーホルが京都を訪れた時の写真とスケッチ。ちょっとした線にもセンスを感じます。

大学で広告芸術を学び、頭角を現したウォーホル。彼の描く「ブロッテド・ライン」と呼ばれる独特なにじみ線は、今見てもセンスがにじみ出ています。広告の仕事も依頼されるようになって、既に成功の兆しが見えています。

アンディ・ ウォーホルは、1956年の世界旅行中に来日し、京都も訪れました。この展示では、 ウォーホルと京都の関わりについてもコーナーを設けています。

「当時は若手ながら商業的に成功を収めていました。京都を旅しながら記録したスケッチブックのイラストも展示されています」と、ホセ・カルロス・ディアズ氏。

寺院の塔や、ラフに描かれた着物姿の舞妓さんなど、ウォーホルの個性を感じさせる作品の数々が。日本旅行中に入手したフライヤーやハガキなども展示。また、1974年に来日し、「徹子の部屋」に出演した時の珍しい写真もありました。ウォーホルに目を付けるなんて、徹子の部屋の制作会社は先見の明があります。

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舞妓さんのスケッチは着物が適当ですが、舞妓さんの華やかな印象は伝わります。
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「牛の壁紙{黄色にピンク}」の複製に「花」。ポップアートの絶妙な色彩がさすがです。

そして超メジャーな、「キャンベル・スープ」シリーズや「牛の壁紙」も展示。ポップアート感が盛り上がってきました。

 「日常にありふれているものは芸術にもなりうることを表現しています。NYの工房、ファクトリーは当時社交の場でした。アルミホイルで空間が覆われていたのでシルバーファクトリーとも呼ばれていました」

 もしかして、時代の先を行っているウォーホルは、早くもアルミホイルで電磁波を防いでいたのかも、と妄想。ちなみにこの展示の映えスポットは「銀の雲(シルバークラウド)」という、ヘリウム入りのシルバーの風船と写真が撮れる部屋です。ふわふわ浮いている銀の雲には触ることもできて、童心に少し返れます。

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ふわふわ浮かんでいる「銀の雲」は触ってもOK。触れることで作品参加できます。
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世界的スターをモチーフにした肖像画の中に、世界の坂本龍一を発見。漂うフェロモンが捉えられています

ウォーホルは、ファクトリーを訪れるセレブのポートレイトなどを撮影したり、注文肖像画を制作したりしながら、個人的に気になったセレブをモチーフに作品を制作していました。例えば、夫のジョン・Fケネディが暗殺されたジャクリーン・ケネディや、若くして亡くなったマリリン・モンローなど、光だけでなく闇の部分も感じさせるセレブに興味を抱いていたようです。「三つのマリリン」という作品は、1962年にマリリン・モンローが悲劇的な死を遂げたあと、すぐに制作されたそうです。今、日本でそのような作品を作ったとしたら炎上するかもしれない……と想像すると、結構勇気あります。マリリンの顔に入っている黒い影が、不吉な人相にも見えてきます。

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「病院」「ギャングの葬式」など、不穏さが漂うテーマの作品も。ウォーホルの手法でイメージ操作を試みています。
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影の中によく見たらキラキラしたものが見える「影1」は希望が持てる作品。東洋の陰陽図にも通じます。

「影I」は、光と影のコントラストに惹かれていたウォーホルならではの作品です。一見暗い影の部分にも、ダイヤモンドダストがちりばめられていて、影の中にも光がある、闇の中にも希望がある、ということを表現しているかのようです。敬虔なカトリックの家庭で育ったウォーホルにとって、神の救いを表しているのでしょうか。

 晩年になるに従って、自らの原点に回帰するような、キリスト教モチーフの作品も制作。物質主義と精神世界、宗教と商業を自由に行き来していたようです。ウォーホルが世界的に大成功したのは神のご加護もあったのかもしれません……。聖堂のような京セラ美術館で、厳かな余韻に浸りました。

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グッズショップのラインナップもセンスが良かったです。プレミアがつきそうなベアブリックも。(小さいもので17600円)
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京都の老舗のお菓子店ともコラボ。干菓子でウォーホルの花を再現している鍵善良房の品など素敵すぎます。  

アンディ・ウォーホル・キョウト/
ANDY WARHOL KYOTO


期間:~2023年2月12日(日)
時間:10:00~18:00(入館は閉館30分前まで)
休館:月曜日(但し祝日の場合は開館)、12月28日~1月2日


会場:京都市京セラ美術館 新館 「東山キューブ 」

京都府京都市左京区岡崎円勝寺町124


※開催日時などにつきましては、新型コロナウイルス感染症の状況により変更の可能性もあるので、公式HPなどでチェックしてください。


辛酸なめ子プロフィール画像
辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。

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