祝・生誕90年。現代美術界の巨匠による個展「ゲルハルト・リヒター展」、絶賛開催中

ドイツ・ドレスデン出身の現代美術界の巨匠、ゲルハルト・リヒターの60年にわたるキャリアを紐解く展覧会「ゲルハルト・リヒター展」が、東京・竹橋の東京国立近代美術館にて開催中だ。日本では16年ぶり、東京では初の美術館での個展。初期作から最新のドローイングまで、122点が展示されている。

火曜2022年2月に90歳を迎えた現代美術界の巨匠、ゲルハルト・リヒターのキャリアを紐解く展覧会「ゲルハルト・リヒター展」が、東京・竹橋の東京国立近代美術館にて開催中。本展は日本では金沢21世紀美術館・DIC川村記念美術館を巡回した回顧展以来16年ぶり、東京の美術館では初めての個展となる。

ゲルハルト・リヒター《エラ(CR: 903-1)》 2007年 作家蔵 油彩、キャンバス 40×31cm © Gerhard Richter 2022
ゲルハルト・リヒター《エラ(CR: 903-1)》 2007年 作家蔵 油彩、キャンバス 40×31cm © Gerhard Richter 2022(07062022)

リヒターは1932年ドイツ東部ドレスデン生まれ。ドレスデン造形芸術大学で絵画を学んだのち、ベルリンの壁が作られる直前の1961年に西ドイツへと移住し、デュッセルドルフ芸術アカデミーに入学した。在学中にジグマー・ポルケやコンラート・フィッシャーらと「資本主義リアリズム」運動を展開、その後独自の表現を開拓して注目を集めるようになった。

あああああ
ゲルハルト・リヒター《モーターボート(第1ヴァージョン)(CR: 79a)》 1965年 ゲルハルト・リヒター財団蔵 油彩、キャンバス 169.5×169.5cm © Gerhard Richter 2022(07062022)

60年代には雑誌や広告の写真を題材に、それを拡大した絵をキャンバスに描く〈フォト・ペインティング〉で頭角を表し、60年代後半には色見本をテーマとした〈カラーチャート〉や、画面全体をグレイで覆い尽くす〈グレイ・ペインティング〉などのシリーズでも注目を集めた。1976年に始まった〈アブストラクト・ペインティング〉は、スキージと呼ばれる大きなヘラを使って油絵具を塗り広げ、さらにそれを削っていくという手法が使われたシリーズで、40年以上描き続けられている。

ゲルハルト・リヒター《8枚のガラス(CR: 928)》 2012年 ワコウ・ワークス・オブ・アート蔵 8枚のアンテリオ・ガラス、スチール 230×160×350cm Photo: Takahiro Igarashi © Gerhard Richter 2022
ゲルハルト・リヒター《8枚のガラス(CR: 928)》 2012年 ワコウ・ワークス・オブ・アート蔵 8枚のアンテリオ・ガラス、スチール 230×160×350cm Photo: Takahiro Igarashi © Gerhard Richter 2022(07062022)

他にもガラスや鏡を用いた作品や、静物画や風景画、写真の上に油彩を施した〈オイル・オン・フォト〉、2011年から始められたデジタルプリントのシリーズ〈ストリップ〉など、リヒターは60年以上にわたって多岐にわたる表現を生み出し続けてきた。本展は、2019年に創設されたゲルハルト・リヒター財団と作家本人が所蔵する作品を中心に、「人がものを見て認識する原理自体を表すこと」にひたむきに取り組み続けてきたリヒターの軌跡を紹介するもの。初期の作品からコロナ禍に描かれたドローイング作品まで、代表的なシリーズを中心にバランスよく展示されている。

ゲルハルト・リヒター《ビルケナウ(CR: 937-4)》 2014年 ゲルハルト・リヒター財団蔵 油彩、キャンバス 各260×200cm © Gerhard Richter 2022
ゲルハルト・リヒター《ビルケナウ(CR: 937-1)》 2014年 ゲルハルト・リヒター財団蔵 油彩、キャンバス 260×200cm © Gerhard Richter 2022(07062022)

中でも注目は、近年の最重要作品と呼ばれる、ホロコーストというテーマを下敷きにした4点から成る《ビルケナウ》だ。油彩の下層写真を描き写したイメージが隠されたこの作品は、絵画と同寸の4点の複製写真と、大きな横長の鏡の作品(《グレイの鏡》)、そしてイメージの元となったモノクロ写真と併せて展示。空間に身を置くと、油絵具で覆われて見えないイメージが浮き上がってくるようで、息苦しさのようなものを感じる。1960年代以降、ホロコーストという主題に取り組もうとしては断念してきたというリヒターは、2014年にこの作品を完成させたことで、自らの芸術的課題から「自分が自由になった」と感じたそうだ。

ゲルハルト・リヒター《2021年6月1日》 2021年 作家蔵 グラファイト、紙 21×29.7cm © Gerhard Richter 2022
ゲルハルト・リヒター《2021年6月1日》 2021年 作家蔵 グラファイト、紙 21×29.7cm © Gerhard Richter 2022(07062022)

会場は大きく6つの空間に分かれているが、章構成に基づいた順路は決められていないため、好きな順番で自由に鑑賞できるのが面白い。会場入口に置かれているリストには「リヒター作品を読み解くためのキーワード」も載せられており、作品を観る時のヒントになるのも便利だ。また、長年にわたるリヒター好きを自認する鈴木京香がナレーションを担当した音声ガイド(1台¥600、現金のみ)も聴きやすく、作品の理解が深まるのでおすすめだ。

Photo: Dietmar Elger, courtesy of the Gerhard Richter Archive Dresden © Gerhard Richter 2022
Photo: Dietmar Elger, courtesy of the Gerhard Richter Archive Dresden © Gerhard Richter 2022(07062022)

当日券の販売もあるが、会場内が混雑した場合は入場まで待たなければならなくなるため、予約優先チケット(日時指定制)の購入がベター。なお、同時開催されている、19世紀末から今日に至る日本の近現代美術の流れがわかる所蔵作品展「MOMATコレクション」(リヒター展のチケットで入館当日に限り入場可)も必見。重要文化財指定作品が5作品展示されているほか、2階11室ではリヒター展に関連した展示も行われているので、お見逃しなきよう。


「ゲルハルト・リヒター展」
会期:~ 2022年10月2日(日)
会場:東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー(東京都千代田区北の丸公園3-1)
開館時間:10:00〜17:00(金曜・土曜は10:00〜20:00)※入館は閉館30分前まで/9月25日(日)~10月1日(木)は10:00〜20:00で開館
休館日:月曜(ただし7月18日、9月19日、9月26日は開館)、7月19日(火)、9月27日(火)
観覧料:一般 ¥2,200、 大学生 ¥1,200、高校生 ¥700
050-5541-8600(ハローダイヤル)
https://richter.exhibit.jp/


text : Shiyo Yamashita



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ゲルハルト・リヒター《エラ(CR: 903-1)》 2007年 作家蔵 油彩、キャンバス 40×31cm © Gerhard Richter 2022(07062022)
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ゲルハルト・リヒター《モーターボート(第1ヴァージョン)(CR: 79a)》 1965年 ゲルハルト・リヒター財団蔵 油彩、キャンバス 169.5×169.5cm © Gerhard Richter 2022(07062022)
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ゲルハルト・リヒター《8枚のガラス(CR: 928)》 2012年 ワコウ・ワークス・オブ・アート蔵 8枚のアンテリオ・ガラス、スチール 230×160×350cm Photo: Takahiro Igarashi © Gerhard Richter 2022(07062022)
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祝・生誕90年。現代美術界の巨匠による個の画像_4
ゲルハルト・リヒター《ビルケナウ(CR: 937-1)》 2014年 ゲルハルト・リヒター財団蔵 油彩、キャンバス 260×200cm © Gerhard Richter 2022(07062022)
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ゲルハルト・リヒター《ビルケナウ(CR: 937-2)》 2014年 ゲルハルト・リヒター財団蔵 油彩、キャンバス 260×200cm © Gerhard Richter 2022(07062022)
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祝・生誕90年。現代美術界の巨匠による個の画像_6
ゲルハルト・リヒター《ビルケナウ(CR: 937-3)》 2014年 ゲルハルト・リヒター財団蔵 油彩、キャンバス 260×200cm © Gerhard Richter 2022(07062022)
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ゲルハルト・リヒター《ビルケナウ(CR: 937-4)》 2014年 ゲルハルト・リヒター財団蔵 油彩、キャンバス 260×200cm © Gerhard Richter 2022(07062022)
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ゲルハルト・リヒター《2021年6月1日》 2021年 作家蔵 グラファイト、紙 21×29.7cm © Gerhard Richter 2022(07062022)
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ゲルハルト・リヒター《2021年8月17日》 2021年 作家蔵 グラファイト、紙 21×29.7cm © Gerhard Richter 2022(07062022)
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ゲルハルト・リヒター《8人の女性見習看護師(写真ヴァージョン)(CR: 130a)》 1966/1971年 ゲルハルト・リヒター財団蔵 8枚の写真 各 95×70cm © Gerhard Richter 2022(07062022)
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ゲルハルト・リヒター《グレイの縞模様(CR: 192-1)》 1968年 ゲルハルト・リヒター財団蔵 油彩、キャンバス 200×200cm © Gerhard Richter 2022(07062022)
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ゲルハルト・リヒター《頭蓋骨(CR: 548-1)》 1983年 ゲルハルト・リヒター財団蔵 油彩、キャンバス 55×50cm © Gerhard Richter 2022(07062022)
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ゲルハルト・リヒター《花(CR: 764-2)》 1992年 作家蔵 油彩、キャンバス 41×51cm  © Gerhard Richter 2022(07062022)
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ゲルハルト・リヒター《4900の色彩(CR: 901)》 2007年 ゲルハルト・リヒター財団蔵 ラッカー、アルディボンド、196枚のパネル 680×680cm パネル各48.5×48.5cm  © Gerhard Richter 2022(07062022)
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ゲルハルト・リヒター《アブストラクト・ペインティング(CR: 952-2)》 2017年 ゲルハルト・リヒター財団蔵 油彩、キャンバス 200×200cm © Gerhard Richter 2022(07062022)
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ゲルハルト・リヒター《1998年2月14日》 1998年 ゲルハルト・リヒター財団蔵 油彩、写真 10.0×14.8cm © Gerhard Richter 2022(07062022)
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ゲルハルト・リヒター《2014年12月8日》 2014年 ゲルハルト・リヒター財団蔵 油彩、写真 10.0×14.8cm © Gerhard Richter 2022(07062022)
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Photo: Dietmar Elger, courtesy of the Gerhard Richter Archive Dresden © Gerhard Richter 2022(07062022)
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