photography:Takemi Yabuki〈W〉
活動そのものがある種のパフォーミング・アートとも捉えられる電気グルーヴはご存じのとおり、石野卓球とピエール瀧からなるバンド。3月1日リリースの、約4年ぶりとなるフルアルバム『TROPICAL LOVE』は、ゲストにトミタ栞やKenKen、夏木マリらを迎え制作された。
インタビュー当日の撮影前、石野卓球は慣れないハットのかぶり方がわからないらしく、ピエール瀧が前髪を出すか入れるかの確認をしてハットをかぶらせてあげるという、ふたりの素の表情が垣間見える瞬間も。カメラを見つめるふたりからは、積み重ねてきた経験を感じさせる貫禄のようなものが見てとれた。そんなふたりの関係性がにじみ出る、超ロングインタビューを、2回にわたってお届け。もちろん、アルバム制作時のエピソードもたっぷりと。
Profile
電気グルーヴ
石野卓球とピエール瀧からなるバンド。80年代後半、前身バンド"人生"解散後、"電気グルーヴ"を結成。1991年、アルバム『FLASHPAPA』でメジャーデビューした。石野は古くは篠原ともえ、当今ではハリウッドザコシショウなどのプロデュースをはじめ、DJや音楽制作などでも活躍する。瀧は、俳優として映画をはじめ大河ドラマでも活躍する傍らラジオのパーソナリティやナレーション、ゲームのプロデュースに至るまで幅広く活動する。オリジナル・アルバム『TROPICAL LOVE』を2017年3月1日にリリースした後、3月12日より全国6カ所7公演の「TROPICAL LOVE TOUR」を開催する。
キャッキャしてたらいつのまにかできてました
キャッキャしてたら
いつのまにかできてました
――アルバム発売おめでとうございます。
石野卓球(以下、卓球)&ピエール瀧(以下、瀧):ありがとうございます。
――今回新しくアルバムを作るに至ったきっかけは?
卓球:レコード会社には締切っていうものがあってですね。ぼちぼち出せっていうことだったんで、じゃあやろうかと。すぐできる自信はあったんですけど、いざつくり始めてみたら、本当に1カ月くらいでできました。
瀧:あっと言う間でしたね。
――以前はタイアップがあって、それがきっかけでふたりが集まってアルバムの制作が始まるっていうことが続いていた気がするのですが、今回はそうではないんですね。
卓球:ここんとこライブとかで(電気グルーヴとしての)活動が続いてたんで、スムースに。
瀧:じゃあ、やりますか?って、去年の10月に山奥に合宿で3日間缶詰になりに行って。
卓球:年内いっぱいレコーディングの予定だったんですけど、11月中にはほぼできてましたよ。もっと早かったかな? アルバムの96%くらいはGarageBand(Appleが開発した初心者向けの音楽制作ソフトウェア)で作って、仮歌ボーカルもMacBookについてるマイクで録ったりした。
瀧:部屋にラップトップだけ置いて、ずっとふたりで片時も離れず(笑)。
――なぜGarageBandで?
卓球:GarageBandってこれまでほとんど使ったことがなかったんですけど、Cubase(音楽制作ソフト)のドングル(ソフトウェアがライセンスの下に使用されているかをチェックするハードウェア)を持っていってなくて、MacBookに入ってた使える音楽ソフトがそれくらいしかなかったんですよ。最初、瀧に曲のイメージを説明しようとしたんだよね?
瀧:そうそう。最初はメモ代わりに曲の原型みたいなものを作るつもりで、シーケンスをいじって遊んでて。「そのベースラインいいよねー」とか「それ好き!好き!」とか言いながらキャッキャしてたら、いつのまにか曲自体ができてたっていう。
卓球:シンセも持ってったんですけど、ケーブル持っていってなくて。MacBookのマイクで録ってるから、後ろで(シンセを弾く音が)カタカタ鳴ってるんですよね。その空気感も入ったので、ソフトのシンセだけよりも、立体的で奥行きが出てますよ。普通に生活音も入ってるし。
――それも活かしてそのまま使ってるんですね。
卓球:そうですね。最初自然音を入れずにシンセだけで録ったらもう狂気そのもの。どこかの密室でなにかが鳴ってるって感じで、それに生活音も入ってくると、怖いし狂気しか感じない。
瀧:頭の中だけ、みたいな。
卓球:そうそう。そこで自然音を足すとたいていのものは大丈夫になるっていう。自然音を入れたのが『トロピカル・ラヴ』っていうことにもつながってて。
『トロピカル・ラヴ』って、 なんかあるなって感じがするから(笑)
電気グルーヴが『トロピカル・ラヴ』って出したら、
なんかあるなって感じがするから(笑)
――なぜ『トロピカル・ラヴ』というタイトルを?
瀧:急に「トロピカル・ラヴってどう?」って言うから、『トロピカル・ラヴ』って気持ち悪いからいいねって(笑)。
卓球:「ダウンタウンのごっつええ感じ」のコントで、YOUさんがガールズバンドのメンバー役でスタジオに入ってて、バンド内で揉めるシーンがあるんだけど。そのスタジオで松本さんがおじいさんの格好でその会話をずっと聞いてるんですよ。で、じゃあみんな、始めましょうってなったところで、松本さんが「よーし、じゃあ、ポップコーン・ラヴ」って言う(笑)。
瀧:あるね、あるね。
卓球:そのイメージです。あと、絶対ツアータイトルになるから、前回の「塗糞祭」から「トロピカル・ラヴ・ツアー」ってきたら、もうふた回りくらいしてるじゃないですか。20年前の自分たちに、「20年後、お前たちトロピカル・ラヴ・ツアーやってるぞ」って言ったらさ……。
瀧:「うそだー!」ってなるよね。
卓球:「え、どっちの意味で!?」ってなっちゃいますよね。
瀧:電気グルーヴが『トロピカル・ラヴ』って出したら、なんかあるなって感じはするよね(笑)。でも、別になんもないですから。今までは電気のポジションや自分たちがやるべきことなんかを多少意識してたんでしょうけど、今回そういうのがいっさいなかったんで、本当に部活っぽくキャッキャ言いながら音出して、その音をどんどん足していって。そういうことの積み重ねが必然的にゴールだったっていう感じですね。
卓球:まったく煮詰まるっていうのはなかったですね。煮詰まったらやめよう、煮詰まってまでやるもんじゃねえぞコレって。もう寝ながら作ってましたもん。ほんとに。
瀧:冗談抜きに作業中の卓球くんは自動書記に近い状態でしたよ。
――完全にふたりきりだったんですか?
卓球:そうですよ。16歳からの幼なじみが50を目前にして、ふたりきりで60時間もびっちり。部屋が暑かったんでずっと裸でいたんですけど、その写真があって……。写真すぐ出る?
瀧:俺持ってない。
卓球:(自分の全裸写真を表示したiPhoneをさし出しながら)なんか暑くって……。
――えーーーっ!
卓球:俺さ、途中でパンツはいてたでしょ? 瀧が寝てる間にトイレ行ったんですけど、さすがにそのまま座るのは悪いなと思ってパンツはいたんです。そのあとシャワー入ってまた裸になりましたけどね。
瀧:横からこう眺めながら、裸で作業してるなんてすげーなコイツって。そんな調子で、「シンセがしゃべるから聴いてみ?」って言われてシンセから鳴る音を40分間ずっと聴いてたりとか。そんなんですよ、ほんとに。
――そのやりとりが楽しいんですよね?
瀧:楽しいですよ。はい。ほかにここまでのやつはいないですからね。
だったらいっそのこと愛し合えよって(笑)
そこまでいったらいっそのこと愛し合えよって(笑)
――グアムもふたりで行かれたんですよね?
卓球:いや、いや(笑)。
瀧:ふたりきりじゃないですよ。撮影です、撮影!
卓球:さすがにそこまでは! 逆にそこまでいってなぜゲイにならない? だったらいっそのこと愛し合えよって(笑)。
瀧:話早いですもんね、そっちのほうがね。
――確かに。撮影はいかがでしたか?
瀧:『トロピカル・ラヴ』っていうタイトルもあったので、トロピカルっぽい雰囲気のある写真っていうのを。まぁ東京でも撮れなくもないと思うんですけど、東京でトロピカルっぽいところを探すよりも、グアムに行ってトロピカルっぽくないところを探したほうがいいだろうということになって、グアムに。けど、こういう写真も撮ってるんですよね。
photography:Ayumi Shikata〈ROOSTER〉 styling:Maki Ueno〈Upward.〉
卓球:瀧の水中メガネが壊れて、直してあげてるところですね。で、このあと部屋に戻って、ウルトラの瀧の話を10時間以上してた。ウルトラの瀧っていう……、あ、これ『電気グルーヴのメロン牧場』(雑誌『rockin'on』での連載及びそれをまとめた書籍)で言ったんだ。
瀧:そうっすね。ここでその話してたら収集つかなくなっちゃいますよ。
卓球:(遮るように)ファミリー・ツリーとか考えてね。
瀧:相関図から何から、全部を何十時間もかけて。
――それをグアムで?
卓球:なぜか(笑)。
――グアムのホテルで?
瀧:グアムのホテルで……。
卓球:もう、ウルトラの瀧っていうのがすごい面白くて。みなさんはどうかわからないですが、俺たちは思いのほかグアムで気に入って。でもさ、これって若手芸人の名前であるよな?と思って、ウルトラのなんとかって調べたら、なかったんですよ。でもTwitterで書いたら、みんなEDMのレイブ(ULTRA)だと思ってさ。
瀧:ああ、違うね。そっちじゃないね、ウルトラの瀧は。
卓球:EDMの瀧(笑)。
長続きの秘訣は記憶力の低下です
長続きの秘訣は記憶力の低下です
瀧:じゃあ、もう(取材終わりで)いいっすか?(笑)
――いやいや(笑)。もう少しお願いします。先ほども触れてましたけど、ツアーもアルバムの発売に合わせて回られるんですよね。ツアー中の楽しみってなんですか?
瀧:んー。ライブのあとの打ち上げ終わって帰ったら夜中12時とかじゃないですか。で、1時とかにホテルに帰ってきて、「じゃあ瀧、お前の部屋行っていい?」とか言うから、いいよって答えたらもちろん来るじゃないですか。そっからもうへたしたら次の日の昼2時3時くらいまで飲むんです。
卓球:話すことなんてないですよ。話すことを探すんです。探すっていうか、今まで過去に俺たちが会ったなかで……。
卓球&瀧:忘れてそうなやつ!
瀧:そう。あのときあそこにいた、アシスタントのやつ、えーっと誰だっけ、みたいな。「あのレコーディングのときのアシスタントの名前な〜んだ?」とか。
卓球:もはや寝ないために話してるだけですよ。
瀧:雪山と一緒ですよ。「寝るな、寝たら死ぬぞ」って。
卓球:で、結果なんにも覚えてない(笑)。だって覚えてるようなことでもないですもん。またしばらくして、同じような話をしてまた忘れるっていう。
卓球:長続きの秘訣は記憶力の低下(笑)。
瀧:まぁ、そうでしょうね。
卓球:だからSPUR読者の女性が(おつき合いしている)男性と長続きするには、記憶力を低下させることです。
瀧:だってそれ終わりがないもんね。
卓球:記憶力のないDJとMCいいね。毎回現場で初めまして。
瀧:毎回セッションっていうね。
卓球:今日よかったねーとか言いながらも、次会ったら初めまして。毎回フレッシュ。成長はしない。でも、なんとなくうまくなってってるみたいな(笑)。
photography:Ayumi Shikata〈ROOSTER〉 styling:Maki Ueno〈Upward.〉
INFORMATION
2017年3月1日 Release
4年振りニューアルバム
TROPICAL LOVE / 電気グルーヴ
1. 人間大統領/Ningen President
2. 東京チンギスハーン/Tokyo Genghis Khan
3. 顔変わっちゃってる。/Kao Kawacchatteru.
4. プエルトリコのひとりっ子/Puerto Rico no HITorIKKO
5. 柿の木坂/Kakinokizaka
6. Fallin’ Down (Album mix)
7. ユーフォリック/UFOholic
8. トロピカル・ラヴ/TROPICAL LOVE
9. ヴィーナスの丘/Venus Hill
10. いつもそばにいるよ/Stand by You