「遅咲き」で美しく花開いた女優、エイミー・アダムス

パワフルな役、意表を突く役を見事に演じきったエイミー・アダムスは、もうこれで過小評価されることはないと確信した。ハリウッドもまた同様だ


 映画デビューを果たしたあともさほど注目されてこなかったエイミー・アダムスは、その演技力が再評価されてアカデミー助演女優賞に二度もノミネートされ、世界的なヒット作で主演を務めるようになった。そんな彼女を2009年、ある有力紙は尊大にも「遅咲きの女優」と評した。

「いいじゃない」。つい先頃、アダムスはこう言って笑った。「少なくとも私は、女優として花開いたってことよね」。笑い飛ばすしかないではないか。映画スターであるということは理不尽なものだ。アダムス自身はもう許しているか忘れているかもしれないが、その記事は、数々の役で示した演技力を論じることなく、「遅咲きの女優」というレッテルを貼ることで、彼女の才能を情け容赦なくおとしめたのだ。

アダムスがハリウッドのセレブ文化の渦に巻き込まれずにすんだ理由のひとつは、スターになった経緯がそんなふうだったからだろう。2007年に公開された『魔法にかけられて』に出演したとき、アダムスは33歳だった。ハリウッドでは、特に女優の場合は中年と呼ばれる年齢だ。キラキラ輝く大きな瞳が魅力的なアダムスは、無邪気な少女役にぴったりに見えた。だが実際には、何年ものあいだオーディションに落ち続け、演技力を磨き続けていた。彼女がスターの座を獲得したのは神様のおかげではない。それは次から次に、さまざまな役柄を演じることによって勝ち得たものなのだ。

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 私がエイミー・アダムスに会ったのは8月中旬、ウエストハリウッドのサンセットストリップにある、落ち着いた雰囲気のクラブ風レストランだった。ここ20年あまりのあいだ40本ほどの映画に立て続けに出演してきたアダムスだったが、今年公開されるのは『ジャスティス・リーグ』1作のみ。

 3作目となるスーパーマンの恋人ロイス・レインに扮して、バットマンやワンダーウーマンなどDCコミックスのスーパーヒーローたちと悪との激戦にあたたかな人間味を添えている。次回作は、ベストセラー『ゴーン・ガール』の原作者ギリアン・フリンの小説をもとにしたケーブルテレビHBOの限定シリーズ『Sharp Objects』。したがって、少なくとも今年は、再びアカデミー賞にノミネートされそうな作品への出演はないということだ。

五度のアカデミー賞ノミネート歴をもつアダムスだが、高い評価を得た2016年全米公開のSF映画『メッセージ』で主演女優賞にノミネートされなかったことで、逆に注目を集めた。本作でアダムスが演じるのは、米軍から要請を受け、地球に現れた地球外生命体とのコミュニケーションの方法を探ろうとする、ずば抜けて優秀な言語学者ルイーズ。アダムスも、その力量をひけらかすことはないが素晴らしい女優だ。ルイーズは個人的に悲痛な苦しみを抱えており、やがてその悲劇が明らかになっていく。アダムスはそんなルイーズの苦悩をしっかりと胸に抱え、かすかな陰りのある表情で、内側からにじみ出るように悲痛な思いを表現した。エイリアンに初めて遭遇する場面でも、頭上を覆うタコのような不思議な生物を見上げるルイーズの表情には、畏怖とともに、消えない悲しみが感じられる。

 役者としてのエイミー・アダムスの偉大さは、全身全霊で役に打ち込むところにある。派手な演技をするわけでも、これ見よがしな演技や自己満足の演技で、自分のテクニックを観客にひけらかすわけでもない。ただひたすら役に入り込むのだ。彼女は演じる人物の過去を掘り下げ、ディテールを作り込み、演技のインスピレーションを探す。一部の役者のように、自分の感情をさらけ出して表現することはない。「トラウマに共感するために、トラウマを追体験する必要はないと思っているの」とアダムスは言う。自分は役柄の人物であり、その人の人生を生きているのだと自分に言い聞かせる。すると、その役が本当の自分のように思えてくるのだという。演技のインスピレーションは、身近なところで見つかることもある。それは昨年、映画『ノクターナル・アニマルズ』で、デザイナーである監督のトム・フォードと本読みをしているときだった。有能な画商であるスーザンという女性をどう演じるべきか悩んでいたとき、ヒントはすぐ目の前にあることに気がついた。「そこにスーザンがいる。スーザンはトム自身なのね」。アダムスは、フォードの優雅で隙のない手の動きやカウチの座り方をまねることにした。「トムのおかげで、スーザンの外見のイメージができあがったわ」 

 アダムスは点描画家がキャンバスに細かく点を描くように、感情をつくり上げる。だが、こうした手法は誇張された表現になりがちでもある。奇想天外なクライムコメディー『アメリカン・ハッスル』(’13年)で、シドニーを演じたときがそうだった。1970年代後半から1980年代初めにかけて実際に起きた汚職スキャンダル「アブスキャム事件」を題材に、おもしろおかしく脚色を加えた作品だ。アダムスが演じたシドニーは、今にも胸がこぼれそうなセクシーなドレスを身にまとい、イギリス訛りを巧みに操って人をだます詐欺師だ。しかしアダムスは、この派手で色っぽいキャラクターを、映画の中で最も強烈な個性をもった人物につくり上げた。 

彼女は一見矛盾をはらんだ、複雑な人物を演じる名人なのだ。何年も演技の勉強を続けてきたアダムスは、ささいなことで涙を流すことができる。いくつかのトークショーでもそれを証明してみせた。セレブのゲームの仕方も心得ている。トーク番組で司会者のジミー・ファロンとたわいないおしゃべりもできるし、レッドカーペットでどう微笑むかもわかっている。パパラッチに取り囲まれてもとり乱したりしない。何より、アダムスにはゴシップサイトに提供するようなネタがほとんどない。この夏、ふわっとしたサンドレスを着たアダムスを見たファンが、妊娠したのではないかと騒いでいると某サイトが大々的に報じたが、これは完全な誤報。アダムス自身はこうした憶測を面白がっているように見える。女優がスターの座に駆けあがると、つねにマスコミやファンに監視されるようになる。プライベートを維持し、守るためには、こうしたプライバシーの侵害を振り払うことも重要だ。(アダムスの出世作を振り返る)

SOURCE:「Amy Adams」By T JAPAN New York Times Style Magazine 

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