馬と緑とキャンピング・カーと。トスカーナの海岸で過ごす夏

古いキャンピング・カーを手に入れたインテリアデザイナーのパオラ・モレッティと息子は、ひと夏のあいだそこで暮らすことに決めた


引退したポロ選手のマルコ・センプリーニが所有するいろいろな種類の馬の隣に置かれた、キャンピングカーの「ローラー・スーパー 3」。ドアの内側には一面に、フォルナセッティの雲“ヌーボレット”が描かれたコール&サンズ社製の壁紙が貼られている

 インテリア・デザイナーでありスタイリストでもあるパオラ・モレッティの息子オルソが「自分だけの場所が欲しい」と訴え始めたのは、彼がまだ6歳のときだった。多くの少年と同じように、彼もカウボーイに憧れていた。カウボーイは、イタリア語で「ブッテリ」という。59歳になるパオラはイタリアで、キッチンとバスルームのデザインブランド「ボフィ」や、ミラノの前衛的なデザイン会社である「ディモレ・スタジオ」といったクライアントの仕事をしている。「息子は、大自然の中の“隠れ家(リフュージオ)”を持って馬と一緒に暮らすことを夢見ていたの」とパオラは言う。

 2015年、ある友人が別荘を整理した際に、ミッドセンチュリー・スタイルの、ハムの缶詰のような形をしたキャンピング・カーを息子のオルソに譲ってくれた。それは、かつてシボレーの高級車、ベル・エアーにでもつながれていたようなキャンピング・カーだった。もちろん少年はその車にひと目惚れしてしまった。14歳になった息子とパオラは、ミラノの西に位置するブレシアという場所で暮らしている。15世紀に聖職者のために建てられた館を修復した家で、かつてそこに住んでいた家族が使っていた骨董品と並んで、ハンス・J・ウェグナーやアルネ・ヤコブセンといった著名なデザイナーによるヴィンテージ家具があふれている。しかし、1960年頃にイタリアで作られたおんぼろなローラー・スーパー3が修理されるや、オルソは夏のあいだじゅう、その車の中で過ごすことにした。彼の夢は叶えられたのだ。

ゲストのベットとしても使われる長椅子は、手染めのリネン・カバーのかかった厚手の羽根布団で覆われている

 移動できる小さな家を持つというロマンスは、アメリカが戦後のレジャー全盛期を迎えた時代の、広々としたハイウエイのイメージと今も結びついている。だが実際のところは、こうした短期間の仮住まいは、ヨーロッパではもっと早い時代に大衆の心を捉えていた。19世紀後半には、スコットランド人で少年向けの小説を書いていたウィリアム・ゴードン・ステーブルスが、英国内を遊覧するために初の“イギリス紳士のキャラバン”を移動の手段として利用した。数世紀前にイギリスに移民として来たロマ人が当時使っていた幌馬車をもとにしたキャビンである。ジュール・ヴェルヌを手本としていたステーブルスは、馬が引くそのキャビンを「ザ・ワンダラー(さすらう者)」と名づけた。(おしゃれなキッチンスペースをチェック)

SOURCE:「A Caravan in Tuscany」By T JAPAN New York Times Style Magazine 

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