2018.08.30

「センセイ」と、僕【part1 デニス・ヴァシリエフス編】

ラトビア代表の男子シングル・フィギュアスケーター、デニス・ヴァシリエフス選手。五輪後の世界選手権ではショートプログラム(以下SP)を9位、フリースケーティング(以下FS)では自己ベストスコアを更新して5位に輝いた。両プログラムともクリーンに滑りきり、総合6位。2017-18五輪シーズンを素晴らしい成績で締めくくっている。世界ランキング11位に駆け上がった新星の素顔を、お届けしよう。

ニット¥157,000・中に着たロングスリーブシャツ¥32,000/ドリス ヴァン ノッテン(ドリス ヴァン ノッテン)

—— 五輪後の世界選手権では大健闘でしたね。

デニス: SPFSも、満足いくまでプログラムをまとめられました。幸せでしたね。たいせつなのは、パフォーマンスの完成度。順位のことは気にせず、ベストを尽くすことに集中しました。

——冬季五輪へ出場を果たし、次の世界選手権ではラトビアの出場枠を2つに増やしましたね。あなたの活躍は、ラトビア国内ではどう受け止められていますか?

デニス:僕がスケートを始めた頃は競技人口がゼロに近かったのですが、ラトビアでも関心を持ってくれる人が増えてきています。一般の人がもっと興味を示し、若いスケーターに道を示すことができるのは嬉しいことですね。

——あなたの“センセイ”であるステファンコーチも、スイスを代表する選手でした。自分が母国を代表する選手であるということについて話したことはありますか?

デニス:いい質問ですね。実際にセンセイがどう感じていたかについて正確には知り得ません。でも自分自身の気持ちは分かります。自分の国を代表するということは、何ものにも代え難い大きな名誉。皆に支えられるのを実感しています。

フィギュアスケートは、常に個人的なスポーツです。自分のやるべきことに集中する一方で、他国の代表同士が応援し合うというなかなか得難い体験もしました。それって相反することのように思えるけれど、本当なんです。スポーツの文化を探求し合う、そういう感覚ですね。

—— 五輪や世界選手権では、ファンの応援はどんなふうに届いていましたか?

デニス:競技の時は集中しているのですが、いざ終わって、自分がやりきったことを感じて初めて、拍手や応援のバナーに気づきます。それは僕にとって特別な瞬間で嬉しいことなんですよ。スケートにおいて最善を尽くすことが、価値あることである事実を体感する瞬間でもあります。

——今シーズンの目標を教えてください

デニス:SPFS、ともにトップクラスにもっていきたい。それにはプログラムを100%の出来に高めなくてはなりません。

そして4回転。4回転を組み込み、着氷することは不可欠です。ほとんどの種類のクワドに挑戦していますが、今はトーループとサルコウに集中しています。プログラムの中の決まった瞬間に4回転を決めるには、もっと自分を追い込まなきゃならないと。

——新シーズンのプログラムは決まりましたか?教えてもらえる範囲で聞かせてください。

デニス:SPFSも、来日直前に(取材は6月中旬)に振付を終えたばかりなので、まだ自分のものにはなっていないんです。頭に動きは入っているけれど、感情をいれて滑る段階までは至っていません。FSのプログラムは面白いものになりそうなので、今から観客の方々の反応が楽しみです。

—— 衣装や普段の着こなしについて、こだわりはありますか?

デニス:フィギュアスケートで重要視されるのは、機能性です。なぜなら、体にフィットして、第二の肌のようなものが求められるからです。だから、生地がたっぷりついていたり、カラフルすぎるのは居心地がよくないですよね。体の動きを邪魔せず、体の線がきれいに出るデザインが僕は好き。

普段の洋服は、ダークな色味を選ぶことが多いかな。(センセイの教えで)洗濯をするときは白いものと黒いものを一緒に洗ってはダメと言われているので、黒いものを選ぶようにしています。カラフルで明るいものも好きなのだけれど。

——SPURの撮影はいかがでしたか?

デニス:たくさんのアイテムの中から自分に似合う洋服を選んだり、ヘアメイクをしたりと、すべてが新しい経験でした。面白かったのは、撮影のプロセス。例えばグッチのスタイルのように、違う柄を組み合わせても馴染んでいたり、長すぎる袖と大きなニットのドリスのルックでは一見、機能的ではないように見えるけど、着心地が良かったり。コントラストがありながら、着てみると快適にフィットするということもあるんですね。普段、自分の服を選ぶときはセンセイに影響を受けているんです。着心地がよくて、そんなに過剰なものではなくて

ステファン:そうじゃなくて、いつも何を教えているか思い出して!

デニス:(笑)そう、素材が大切ということ。あと、シャツは常にタックインしてはいけない、ボタンは二つ目まで開けること。ボタンはきちんと締まっているほうが自分にはしっくりくるので、難しいのですが(笑)。スーツのスタイルが好きなのですが、スーツをリラックスして着こなせるようになるのはなかなか難しいですよね。

そう、センセイのいうとおり、まだ僕はファッションに関して、歩くことを覚え始めたばかりなんですよ。今日はアリガトウゴザイマシタ。

(右)肩にかけたコート¥272,000・ ジャケット¥310,000・シャツ¥82,000・ネクタイ¥23,000・パンツ¥120,000・ソックス¥19,000・靴¥145,000・(左)アイウェア¥81,000・コート¥272,000・ジャケット¥365,000・カットソー¥120,000・パンツ¥115,000・靴¥105,000/グッチ ジャパン(グッチ) ソックス/スタイリスト私物

 

SPUR.JP限定PHOTOをチェック!

衣装デザイナー・原 孟俊さんに聞く師弟について

2017-18シーズンのヴァシリエフス選手の衣装を担当したのは原孟俊さん。ステファン・ランビエールが関わるアイスショー「ART ON ICE」でのプログラム『Slave To The Music』の衣装も手がけるなど、もはやチーム・ステファンに欠かせない存在だ。

「3月にミラノで行われた世界選手権には、衣装のスタッフが現地まで行きました。私もテレビで観ていましたが、デニスは欧州の出身なのでとにかく会場のファンが熱狂的でしたし、彼もクリーンな演技で会場を魅了していましたね。FSが終わった後の、ステファンの嬉しそうな顔は忘れられません。スタッフも、つられて泣いてしまったそうです。

このシーズンの衣装はジャッジやメディアにも好評だったようで、次のシーズンの衣装の打ち合わせの際には、デニスの意識が全く変わっていましたね。とても協力的で、衣装がどれだけ、演技をする際にモチベーションを高めてくれているかが分かったようです」

2018-19シーズンのヴァシリエフス選手の衣装も手がけると聞き、そのプランについて聞いた。ステファン曰く“日本的なタッチ”となるFSの衣装はどのようなものになるのだろう?

「振付師に日本のコンテンポラリーダンサー小㞍健太さんが関わると聞いています。衣装は日本人である私が担当し、デニス自身も日本の文化を愛しています。グランプリシリーズは広島のNHK杯にエントリーしているし、2019年世界選手権も埼玉で開催。これらの要素がうまく合致して、プログラムが決められたのかな?

デニスは夏のアイスショーの来日では、広島、京都、鎌倉を満喫したようです。海を望むお寺やミュージアムもよく調べて足を運んでいて、江ノ電にも乗ったとか。そんなエピソードからも、本当に日本のことが好きなのが分かりますよね。

彼らは背も高いし、スタイルも良い。でもそれだけではなくて、練習を欠かさず、体型のキープにもストイック。彼らが氷上で着るものに関わるのは、彼らがやり続けている神聖な人生の一端を担うということ。その歴史も含めて、彼らを体現できる衣装を創っていきたいです」

チーム・ステファンとして、師弟の躍進を目の当たりにした原さんはふたりについてこう語る。

「夏のアイスショー“Fantasy On Ice”で披露したペアプログラム『ノクターン』でも衣装を担当しました。出来上がる過程を見て思いましたが、ステファンはデニスに対して、とても真摯に向き合っています。衣装に関しても、自分のことよりデニスを輝くようにしてほしいという希望があったほどです。デニスの個性とステファン自身の表現をかけあわせて生まれる新しいプログラムを、観ている人へ届けたいという思いが感じられました。
デニスの振付部分はかなり難しい構成になっているようです。アイスショー参加者の誰よりも、毎朝ハードに練習をしているのを目の当たりにしました。ステファンの熱量にシンクロできるデニスの才能にも驚かされます。今季も彼らをバックアップできるような衣装を考えていますよ」

 

一問一答 デニス編

Q1. Dream vacations (理想の休暇はどこで?)

―日本のどこか面白い所に行ってみたい。(すごく伝統的な町に)

Q2. Favorite body parts (好きな体の部分は?)

―頭

Q3. With or without a beard (ひげはあるほうがいい?ないほうがいい?)

―あるほうがいい。いい感じの口ヒゲとか。

Q4. V Neck or Crew Neck jumpers? (ニットはVネック派?クルーネック派?)

―シチュエーションによるけど、どちらも。

Q5. Can't leave the home without: (●●無しには出かけられません)

―笑顔と、ごきげんなムード

Q6. Favorite "Yuri!!! on ICE" character (アニメ「ユーリ!!! on ICE」で好きなキャラクターは?)

―どのキャラクターも好きだけど、一番に近いのは勇利。カンペキにではないけれど。

Q7. Your pre-game routine (競技本番前に必ずすることは?

―衣装の上にノースリーブジャケットを羽織ってウォームアップします

Q8. Favorite Japanese food (好きな日本食は?)

―好きすぎて、選ぶのが難しいよ!

Q9. Favorite adjective (いちばん好きな形容詞は?

―ゴージャス

Q10. On your music list: (今日のプレイリスト)

―エフゲニー・キーシンのピアノ協奏曲

Q11. Indispensable items of clothing (持ってないと不安になる服は?)

―うすでのセーター

Q12. Favorite skater ever (一番好きなスケーターは誰?)

―ひとりに絞れないよ。どのスケーターもそれぞれ好きなところがあるから。

PROFILE
Deniss Vasiļjevs デニス・ヴァシリエフス
1999年、ラトビア生まれ。19歳。フィギュアスケートの男子シングル選手。日本文化に造詣が深く、宮本武蔵の『五輪書』や『葉隠』も読破。

BACK STAGE MOVIE

photography:Bungo Tsuchiya styling:Noriko Sugimoto hair & make-up:Taro Yoshida edit:Michino Ogura motiongraphics:Uchijima Ryosuke(ZONA)