昨年、ロジェ ヴィヴィエの新クリエイティブ・ディレクターに就任したゲラルド・フェローニ。歴史ある伝統を重んじつつ今の空気感を取り入れ、より愛らしく、よりエレガントに進化させたその手腕に、早くも注目が集まっている。「パーソナリティはすべてに表れる」という彼の言葉どおり、美意識が凝縮された自宅とアトリエのインテリアを特別にお届け。
1 リビングで愛猫とくつろぐゲラルドが出迎えてくれた
MAISON DE GHERARDO
色、フォルム、希少性。インテリアもデザインもこの3つが大切な要素です
パリでは珍しい庭つきの一軒家にゲラルドは愛猫のミナと暮らす。ジオ・ポンティがデザインした家具から蚤の市で見つけた小物まで彼の感性が赴くままに配置されている。
2 ゲラルドが敬愛するインテリアデザイナー、ジオ・ポンティのコンソールテーブルと椅子。「シンプルなデザインでありながら色使い、フォルムが洗練されているのが好き」と語る
3 長年、アンティークジュエリーをコレクション。19世紀中頃の作品には目がないそうで、イタリアの古美術商から購入。ビジューの大きさに合わせて作られた箱も趣がある
4 シャツの上から年代物のネックレスを気軽につけるのがゲラルド流。19世紀のジュエラー、カステラーニの作品
5 アメシストの3点セットは19世紀中頃、ローマのもの。右のブローチはナポレオン3世時代のフランスのブローチ
洋服を合わせるときと同じようにインテリアもスタイリング
ゲラルドが住むのは20区にある“パリの田舎”と呼ばれる地区。石畳の路地に庭つきの一軒家が並び、どこかフランスの地方に来たような趣がある。「最初に訪れた瞬間にひと目惚れして。庭の緑が美しい、思い描いていたとおりの物件でした」
20世紀初頭に建てられた家のため、ゲラルドの指揮のもと、もともとあった窓枠や扉、床などは残しつつすべてを改装した。「最初に取り組んだのが玄関のホール(写真上・1)。机と飾り台を友人のデザイナー、ニコラ・マルティニに依頼して。素材をコンクリートと鏡にすることで、どこかコンテンポラリーなムードを足したかった」。そこに60年代のベネチア、ムラノガラスのライトとウィリアム・マーティンの花瓶を置いて、ドラマティックに。
「アクセサリーも家具もアンティークが好きなんだ。いろいろな時代をミックスするのが僕のやり方。同じ時代のものだけで集めたら統一感が出るけれども、退屈な印象に。洋服を選ぶときもそうだけれど、クラシックなスタイルでもどこかに今の要素を加えて、時代の空気を取り入れたい」
学業を終え、ミラノで一人暮らしを始めてから少しずつアンティークの家具を買い集めている。「妥協せず、気に入るまでとことん探す主義。だからミラノでは数年間、ソファのない暮らしをしたことも。でも一度手に入れたものは、よほどのことがない限り手放さないよ」
そうして集めたアンティークのなかでもイタリアのモダンデザインを代表するジオ・ポンティの作品(写真上・2)には特別な思い入れがあるとのこと。「デコラティブでありながら、どこか軽さを感じるデザインが好き。それにミニマルなスタイルの中に色を多用しているのもいい。それってロジェ ヴィヴィエの靴にも共通するところで、自分がデザインするうえでもインスピレーションを与えてくれるんだ」。洗練されたラインと美しい色使いが、ゲラルドのクリエーションと響き合う。
アンティークはさまざまな年代のものを時代を超えて合わせるのがいい
6 玄関ホール。ニコラ・マルティニに依頼したというコンクリート製のテーブルがモダンな要素をプラス。ガラスのライトはムラノの工房で製作されたアルキメデ・セグーゾのもの
7 色の異なるプラダのトランクをいくつも置いてインテリアの一部に。このテクニックは今すぐまねしたい
8 2階の寝室はグリーンで統一
9 玄関の隣のスペースには70年代の棚に本やCDを収納。ところどころに彼が手がけた靴のコレクションが置かれている
10 バスルームの前にはテーブルに鏡を置いて、グルーミングスペースに。家具、絵、小物、すべて長年かけて蚤の市で集めたもの。カーテンの色と合わせて、グリーンの色使いがきいている
11 地下にあるダイニングテーブルの上には陶器の置物を並べてキュートに。ミントグリーンのテーブル、イエローの花瓶と、ここにも色のこだわりが
12 2階のベッドルームの一角。絨毯は70年代のもの
ATELIER DE GHERARDO
コーラルピンクが印象的なゲラルドの アトリエ。自宅と同じく、彼の審美眼にかなったアンティークのオブジェが飾られ、すっきりとしたなかにも居心地のよい空間を演出している。
座り心地のよい椅子とアンティークに囲まれた、ゲラルドの家にいるような場所
ロジェ ヴィヴィエのサントノーレ本店の2階、オスマン様式の重厚な建物にゲラルドが働くオフィス兼アトリエがある。
「ここを改装するときに最初に決めたのが色です。イヴ・サンローランをはじめ、多くのクチュリエが愛したピンクを基調に空間をつくることに。サンゴの色に近いピンク、個人的にはクチュール・ピンクと呼んでいる、クラシックでありながらいつの時代でもモダンに見えるこのピンクをチョイスしました」
そのピンクに合わせるようにパステルブルーのテーブルを友人のデザイナー、ドゥッチオ・マリア・ガンビに依頼。そうしてできた空間に、長年、自身が収集していたオブジェを加え、オフィスに来た人がまるでゲラルドの家を訪ねたようなくつろいだ雰囲気を演出。
「インテリアはその人の世界観を表すもの。エディターやジャーナリストをここで迎えることも多いので、僕のことをより理解してもらうためにも、親しみのある場所にできたら」 まだ完成していないというアトリエが、彼のコレクションとともにどう進化していくのか楽しみだ。
13 ロジェ ヴィヴィエの2019年春夏コレクションより。(右から)リボンと刺しゅうがドレスの一部のように立体的に飾られている。靴¥169,000・甲のアッパー部分をハート形にカット。靴¥86,000・フェザー使いがゴージャス。靴¥133,000/ロジェ・ヴィヴィエ・ジャパン(ロジェ ヴィヴィエ)
14 リモージュ焼のティーセットなど、ゲラルドがアンティークマーケットで集めた小物を飾る
15 モンドリアンをモチーフとしたコラージュ作品は、創業者ロジェ・ヴィヴィエの時代からのもの
16 ゲラルドが座っている椅子は自宅と同じ、ジオ・ポンティの作品。ブルーのテーブルはドゥッチオ・マリア・ガンビが作製
17 ルーヴルのアンティーク商から購入した彫像と、ミッドセンチュリーの椅子のセットが並ぶなど、アトリエでもゲラルドのミックスセンスが光る
Profile
Gherardo Felloni/ゲラルド・フェローニ
イタリア・トスカーナ出身。当初は建築を志していたが、ラグジュアリーメゾンでクロッキー作成の仕事を手伝うなかで、デザイン分野の才能を開花。パリではグランメゾンでシューズ、アクセサリーのヘッドデザイナーを務めた。2018年3月よりロジェヴィヴィエのクリエイティブ・ディレクターに就任。
SOURCE:SPUR 2019年4月号「ゲラルド・フェローニの世にも可愛いインテリア」
photography: Mana Kikuta text: Hiroyuki Morita