ロマン・デュリスにインタビューした、と何人かの知人に告げたところ、「えっ!? 彼、日本に来ていたの? 私、ファンなのよ」という反応が多かったことに驚いた。それこそ、20代前半で出ていた『青春シンドローム』(1994)等から、ロマの青年役を好演した『ガッジョ・ディーロ』(1997)、そして『真夜中のピアニスト』(2005)や『タイピスト!』(2012)などのヒット作まで、コンスタントに高い評価を受けて、44歳になった今、また新たな地平を拓いている。
タイムリーな作品に込めた想い
――新作『パパは奮闘中!』はたぶん5年前、10年前でも話題になったと思うけど、2018年、2019年の今だからよりタイムリーですね。フランスの黄色いベスト運動(労働者デモ)と呼応してる。
「この映画を作り始めた時は、ヒューマンな内容にスポットを当てようとは考えていたけど、特に黄色いベスト運動につながるなんて思いもよらなかった。でも僕が演じた主人公は職場では労働運動のリーダーとなり、家では妻が出て行ったことで2人の子どもの世話に奮闘しなければならなくなるという状況は、きっとあのデモに参加している人間たちの中にもあるかもしれないなと思ったよ」。
――大人の俳優たちの中で、2人の子どもの演技がナチュラルでとても良かった。
「アドリブ重視でやったおかげだと思う。もちろんストーリー・ラインはあったけど、ガッチリ決められた台詞だと、“間違ったらどうしよう”と緊張してしまって自然な感じにならない。幸い今回は、パリの自宅から毎日撮影現場に通って各々の家に戻るというやり方じゃなくて、みんなそろって地方のロケ現場に行って、それこそカメラが回っていない時も晩御飯を一緒に食べるような時も、常に役のキャラクターとして接していた。子どもたちもいろいろ提案してくれたから、僕たちはその話によく耳を傾けていたしね」。
――主人公の妻が物語りの序盤からいなくなったり、ある印象的なシーン以外は音楽がなかったり、色彩も無彩色に近かったりと、”不在“の存在感が際立つ作品ですね。
「それが映画を観る人にとってはある種のサスペンスをもたらすと同時に、一旦、音楽や色が目に入った時のインパクトは強いんじゃないかな」。
――確かに。ラストシーンなどは特にそうで、私、大好きでした。
「僕もだよ(笑)。いろいろなことがあっても、誰かを糾弾したり裁いたりしていない、そこがいいよね」。
生粋のおしゃれパリジャン!
――というわけで、奮闘する父親役が似合うような年頃なのに、目の前のあなたは相変わらず素敵で、エディ・スリマン時代のサンローランのジャケットと胸につけているブローチがよく似合う。どうしてこんなにカッコ良く年を重ねることができるの?
「あ、これ? 僕が描いたイラストをブローチにしてもらったんだよ(笑)。良い年の重ね方かぁ……たぶん好奇心を持ち続けることだろうな。その好奇心を抱く対象もどんどん変わってきて、今はより自然が大切に感じられるようになった。仕事の面でも、今回のように新しいものにどんどん取り組んで行きたいし」。
――それで思い出した! 10年近く前にあなたがルーブル美術館の展示室の特設会場でやった一人芝居『La nuit juste avant les forêts(森の直前の夜)』が素晴らしかった!!
「あれ観てくれたの!? 観たのはいつ? 月曜日の出来は今イチだったんだけど(笑)。あれは僕にとっても忘れられない経験だよ。ルーブル美術館の、有名な巨大絵画『ナポレオンの戴冠』なんかが展示されている部屋の隣りの部屋で、ベッド上で1時間半、一人で演じ続ける。演出のパトリス・シェローの稽古は物凄くハードで、深いところまで考察させられるし、どんどん追いつめられていくんだけど、そこまでやると本番がまるでゴールのようにやれるんだ。パトリス・シェローの人生の最期の時代に(シャーロット・ゲンズブール共演の映画も含め)濃密な時間をすごせたことは誇りに思う。でも…彼がいなくなってやはり悲しいな」。
――とてもいい作品だったし、一人芝居だからお金もかからないだろうから(笑)。あなたが監督する映画に仕立ててみてはどう?
「いいね、それ(笑)。ちょっと考えてみようかな」。
未来へ続く、飽くなき好奇心
――だって、好奇心を大切にしているのなら、とても挑戦し甲斐のあるプロジェクトだと思いますよ。
「フランスでベストセラーになった小説の映画化を含め、その後も刺激的な仕事は続いているけど、今回の『パパは奮闘中!』の日本での反応も知りたいと思うし、一作一作ていねいに向き合いたいと考えているよ。共演した子どもたちが、これからも演技の仕事を続けたいと思っている様子だったりするから、一緒だった大人としては責任重大だし。そういう意味でも本当にいい現場だったよ」。
interview&text:yuki sato
『パパは奮闘中!』4月27日(土)より公開
新宿武蔵野館ほか全国順次公開
http://www.cetera.co.jp/funto/
◆あらすじ
ある日突然、愛する妻が姿を消した。ふたりの子どもたちとともに残されたオリヴィエは、オンライン販売の倉庫でリーダーとして働きながら、慣れない子育てに追われる日々。なぜ妻は家を出たのか。混乱しながらも妻を探し続ける彼のもとに、一通のはがきが届き……。仕事一筋でダメなところがあるけれど、心優しい父親をロマン・デュリスが熱演!
◆プロフィール
1974年、パリ生まれ。セドリック・クラピッシュ監督の『青春シンドローム』(’94)でデビューし、『猫が行方不明』(’96)『パリの確率』(’99)など数々の作品でタッグを組む。『真夜中のピアニスト』(’05)ではリュミエール賞最優秀男優賞に輝く。リドリー・スコット監督の『ゲティ家の身代金』(’17)など近年は世界的に活躍している。