経済成長著しい中国。ビジネスやIT技術の進化についてはよく耳にするけれど、リアルなファッション事情はどうなっている?? 今まさに急成長を遂げている中国のシーンに迫るべく、徹底リサーチを敢行。この動き、もはや傍観しているだけでは済まされない!
PART2 中国のモード・インサイダーが今、考えること
ファッションの最前線をサバイブする3人に、それぞれの立場から見た課題や今後の展望を語ってもらった。
マーケットを切り拓くキーパーソン
Huasheng Media CEO / Editor-in-chief
冯楚轩 フォン・チューシュアン
Feng Chuxuan
PROFILE
山西省出身の35歳。中学時代から海外の雑誌に興味を持ち始める。出版社に10年間勤務したのち、2016年に栩栩化十生媒体集団(Huasheng Media)を設立。CEO兼編集長として国内外の雑誌を精力的に中国で出版している。
今後の課題は過剰消費と向き合うこと
今の中国のファッション界は、常に新しい変化を求め、成長している状態。今まさに人気なのはストリートファッションや中性的なスタイルですが、これはあくまでトレンドのひとつであり、長期にわたるものではないと思っています。今後は、中国発のブランドが増え、人気が出ていくでしょう。デザインも、よりクリーンになっていくはずです。たとえばEPO Fashion Groupによる「MO&Co.(1)」や「Edition」のように、ビジネス的に成功を収め、かつ洗練されたデザインの中国ブランドが、どんどん生まれてくると思いますね。
すでに現状でも、売上だけを見れば、欧米ブランドより高い業績を出している中国のブランドは多いと認識しています。とはいえ、今の中国は、ある意味で非常に機会主義的です。たとえば日本や欧米では、高い基準をクリアできた、才能のある人だけが新しいブランドを起こせますが、中国ではチャンスをうまく手にした人がスタートさせられる。日本や欧米とは、質的なレベルの高さが違うんです。ただしこれは時間が解決する問題で、今後は中国国内も世界標準化されていくでしょうね。
いわゆる「偽ブランド」問題も、現状では問題としてありますが、時とともに解決されていくものだと考えています。今後、世界から見た中国の位置づけは、より重要なものになっていくでしょう。それに伴って、文化面、そして文化教育面をいかに発展させていくかが、未来の中国における重要なポイントになるでしょう。
もうひとつ今後の課題となるのが、過剰消費の問題。今、中国社会では、人々が収入を上回る額を消費に回しています。企業はビジネス拡大のためにどんどん消費してもらいたいので、優待や割引などの方策をとっています。だからみんな大量にモノを買う。これは明らかに行きすぎています。いつか必ず、企業やわれわれメディアがこの代償を払うことになるはず。世界のどこでも、変化は必ずあります。浪費しないことで、いい方向へ変化していけるといいですね。
1 中国の注目アパレルブランドとしてフォンさんが挙げた「MO&Co.」
2 栩栩化十生媒体集団は『ナイロン』や『ティー マガジン』など欧米の雑誌の中国版を発行。「われわれの統計によると計7誌で読者は延べ1000万人以上です」
3 北京にある栩栩化十生媒体集団の本部オフィス。ほかにふたつのオフィスがあり、総勢150名ほどが働いているそう
Farfetch China Managing Director
刘晓琴 ジュディ・リュウ
Judy Liu
PROFILE
デジタル業界でキャリアを積み、2013年にデジタルマーケティング会社「CuriosityChina」を設立。2018年にファーフェッチがCuriosityChinaを買収したことにより、ファーフェッチの中華圏担当マネージング・ディレクターに就任。
成長著しいラグジュアリーEC界で最初に思い浮かべてもらえる存在に
ファーフェッチは2008年に設立されました。私たちのミッションは、中国のモード好きがファッションと聞いて最初に思い浮かべるような存在になること。そのためには、共感を持ってもらえるようなユニークな方法が必要になってきますよね。たとえばひとつのアイテムを紹介するにしても、ブランドや商品にフォーカスした従来の提案方式だけでなく、幅広い年代のインフルエンサーに「自分だったらこう取り入れる」という写真を撮影してもらって、彼らの世界観やストーリーを通してアイテムの魅力をお伝えするといったコンテンツも、今後はグローバルでより広く展開していくつもりです。
世界のラグジュアリー市場においてECでの売り上げが占める割合は、2017年時点の9%から、2025年には25%に増加すると見込まれています。ましてや中国は、すでにモバイルやアプリでモノを買うのが当たり前になっているデジタル大国。ファーフェッチを利用する方の平均年齢も世界でもっとも低いという特徴がありますが、今後はさらに若い世代も取り込んでいけると考えています。ファッションは究極の自己表現。世界最大級のラインナップが揃う私たちのプラットフォームは、彼らにとっても間違いなく魅力的に映るでしょうから。
"KOL( Key Opinion Leader)"の実態とは?
LOFi founder / Stylist / Creative Director
陈星如 チェリー・ガン
CherryGun
PROFILE貴州省出身の29歳。スタイリストやクリエイティブ・ディレクターとして幅広い分野で活躍。2016年、若い世代向けのソーシャルメディアプラットフォーム、LOFiを設立。
Weibo:CherryGun 陈星如
Instagram: cherrycherrygun
激しく二極化する若者のスタイル。そこが今の中国の面白さです
私のスタイルのポイントは、パンク精神があることかな。オーバーサイズのアウターを選ぶのは、私の個性でもありリラックスできるから。一方でインナーにはタイトなシルエットのものを選びます。大胆な色使いも好き。ベースとなったのは2000年代初頭の中国のユースカルチャーとパーティシーン。いろんなパーティに参加してそれぞれのカルチャーを吸収したことで、今の私のスタイルができたんだと思う。
「日本は今、死んでいる」ってよく言うじゃない? でも、私はそうは思わない。日本発のトレンドに影響を受けている中国の若者はやっぱり今でも多いし、私自身、日本のアニメやロック音楽からインスピレーションをもらっています。アンブッシュもすごく好き。特にYOONは、アジアの女性として世界に進出し、ディオールのメンズアクセサリーを手がけているのが本当にすごいと思う。
今、中国のファッションは二極化していると思います。一般的な若者たちは、K-ポップの影響を受けて、みんな同じような格好をしています。一方で、ファッションに強く惹かれている人たちの中には、「どこの惑星から来たの?」と聞きたくなるくらい独自のスタイルを作り上げている人も多く、その差が非常に激しい。この点がとても興味深いですね。そしてファッションだけでなく、音楽でも、動画配信でも、中国カルチャーはますます拡大していくでしょう。私も今後は、自分でドキュメンタリーなどの番組を制作して、有料でダウンロードしてもらうといった活動をするつもり。このジャンルも、右肩上がりに成長することは確実ですから!
4 チェリーさんのバッグコレクションを拝見。ストリートライクなものからクラシカルなグッチ(左手前)まで、幅広いラインナップ
5 こちらはシューズ。日本でも人気の高いメゾン マルジェラ(後列右)やトーガ(前列中央)も
6 カンゴールのハットとパームエンジェルスのジャケットは、ライン使いをリンクさせて
7 ビッグサイズのジャケットはメゾン マルジェラのもの。キャップはやはりカンゴールだ
SOURCE:SPUR 2019年5月号「中国の若者は、ショッパーを持たない」
photography:Wendy WU(Feng Chuxuan, Cherry Gun) coordination: Wendy WU(Feng Chuxuan, Cherry Gun) edit: Chiharu Itagaki