本誌ファッション特集で活躍中のスタイリストの古牧ゆかりさんは、無類の旅好きだ。「旅先で見る景色は、心の中の引き出しにたくさんの色彩のストックを作ってくれる。旅は人生の宝物」という彼女が訪れたウズベキスタンへの旅の全3回にわたる記録の最終回お届けする
ブハラを後にして向かったのは砂漠の地、ヒヴァ。
ウズベキスタンにおいて最も西、砂漠の出入り口の街だ。ブハラから日本であらかじめ手配をしていた車に乗り込む。延々と広がる乾いた大地を車窓から眺めながら、どこまでも永遠に続くのではないかと思える長い一本道をひたすら進む。途中、私が日本のキャンディーを運転手さんに差し出すと、彼もウズベキスタンのチェリー味のゼリーのお菓子をくれた。これが昔懐かしいような美味しいゼリーですっかり気に入る。日本とウズベキスタンのささやかな交流を楽しみながら走ること7時間、ようやくヒヴァの旧市街に到着した。
宮殿の上から眺めたヒヴァの街。広い空を雲が美しく流れていく
ヒヴァはホレズム州都ウルゲンチから南西に35km、ムダリヤ川下流のオアシスにある街だ。古代ペルシャ時代からカラクム砂漠への出入り口として栄えた。街の周囲には二重の城壁がめぐらされ、外敵の侵入を防ぐための城壁に囲まれたディチャン・カラと呼ばれる地区と、内側の城壁に守られたイチャン・カラという地区がある。内城である旧市街のイチャン・カラには20のモスク、20のメドレセ(神学校)、6基のミナレット(宗教施設に付随する塔)をはじめ、数多くの遺跡がほぼ完璧な形で残されており、歴史的価値の高い都市として1969年に博物館都市、1990年には世界文化遺産に登録された。
高さ45mもあるイスラーム・ホジャ・ミナレットは、街のシンボル的存在
初冬のヒヴァはからっ風が吹き、非常に寒い。砂漠へ向かうツアーはシーズンオフで開催されていなかった。砂漠は一日の寒暖の差が激しい。以前旅したモロッコやヨルダンでは、砂漠ツアーに参加して満天の星や朝日に映える砂丘を見たものだが、日中は暑くても日の出前の砂はとても冷たく、素足では耐えられないほどだった。次回は暖かな時期に来て、ここから砂漠に出てみようと思う。
イチャン・カラの城壁。土壁の城壁が2.2kmも続く光景は迫力に満ちている
西門にあるチケット売り場で2日間共通のチケットを買い、町全体が大きな博物館となっている「イチャン・カラ」をさっそく回ってみる。このイチャン・カラを象徴するのが、町を囲む高さ10m、全長2.2kmの土壁の城塞だ。一部の人たちからは漫画「進撃の巨人」を彷彿とさせると言われている。迫力のある城塞や歴史的価値のある建造物が立ち並ぶ様子は、なんだかアミューズメントパークを連想させるほど非日常的な眺めだ。
城内を歩いていると、モスクの扉などいたるところに素晴らしい細工を施された木工芸術が見られることに気づく。街の中心に位置する「ジュマ・モスク」は、10世紀ごろ建てられた多様式建築だが、修復工事を重ねて現在の形になったのは18世紀後末頃。約3m間隔で213本の木柱が並ぶ様子は圧巻。1本1本異なる彫刻が施された柱はどれも美しく、そのうちの4本が10~11世紀、25本が17世紀に作られたものらしい。天窓から差し込む光に、彫刻の陰影が照らし出され幻想的だ。
ジェマ・モスクの内部。立ち並ぶ木柱を1本1本興味深く眺める
イチャン・カラの一角では、若い職人たちが木片に細工を施していた。まな板の表面を彫って、装飾を施しているのだ。ヒヴァは古くから木工が盛んな地で、そのクラフツマンシップは綿々と受け継がれ、庶民の暮らしの中に今も息づいている。
こまやかな彫刻が施された「まな板」は、お土産にもおすすめ
陽も傾いてきたので西門の傍にある17世紀に建てられた、古い宮殿と言う意味の名の「フクナ・アルク」へ。屋上からヒヴァの街を望む。少し埃っぽい霞がかったような夕焼けに包まれた街並みを前にすると、時間が止まったような感覚に襲われる。人々の今の日常の暮らしを垣間見つつ、しばし悠久の時の流れに想いを馳せた。(続きを読む)
「フクナ・アリク」の中にある木製の窓。みごとな彫刻が施され、美しい明かり取りとなっている
SOURCE:「Rahmat! Oʻzbekiston」By T JAPAN New York Times Style Magazine:JAPAN BY TEXT AND PHOTOGRAPHS BY YUKARI KOMAKI JUNE 28, 2019
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