イングマール・ベルイマン監督の公私にわたるパートナーだったノルウェーの名女優リヴ・ウルマン。自身も映画監督、演出家、アクティヴィストとして活躍する彼女がこの秋、瀬戸内国際芸術祭に参加する
「まあ、あのふたりも私と同じ東京生まれなの?」。一瞬少女に戻ったような驚きと喜びが混じり合った表情で、リヴ・ウルマンはこう言った。「あのふたり」とは、オリヴィア・デ・ハヴィランド(『風と共に去りぬ』(’39年))とジョーン・フォンテイン(『レベッカ』(’40年)、『断崖』(’41年))の女優姉妹。ノルウェー人のウルマンと違いふたりは英国人だが、映画史に残る女優3人が東京生まれというのは、なんだかうれしくなる。「私のほうこそうれしい。80歳になって生まれ故郷の日本で、こんなに有意義で素敵なプロジェクトに関われるのだから。オファーがきたときには、思わず歓声をあげました。人間の歩む道のりは、必ずつながっているのだな、と感じて。かつてマニラの難民キャンプでハンセン病の老女を抱きしめたときのぬくもりが、鮮明に甦ったのです」
「有意義で素敵なプロジェクト」とは、オランダ人アーティスト、クリスティアン・バスティアンスが作・演出を手がける《大切な貨物》。この秋『瀬戸内国際芸術祭2019』に出展されるが、これまでにないエキサイティングな映像作品になりそうだ。舞台は瀬戸内海に浮かぶ大島の国立ハンセン病療養所「大島青松園」。ここに強制的に移住させられた人々と、世界で飢餓や紛争などの悲劇に見舞われた人々の物語が、SF的にモンタージュされるという。長年、ユニセフの親善大使や人権活動をしてきたウルマンらしい作品ともいえるが、「最初からこの問題に関心があったわけではありません。マニラで抱きしめたハンセン病の老女も、はじめは触れるのにもためらいがあった。でも私の腕の中で、彼女がなんとも言えない安心感を得ているのが伝わり、なによりも私の祖母と同じ匂いがしたことに感動したのです」
そもそも、人権活動やボランティアに携わったきっかけも「お恥ずかしいものだった」と語る。「NYのブロードウェイの舞台に立ったとき、大先輩の俳優たちがチャリティに寄付するのを見て、“じゃあ、私も“とカッコつけてまねをしました。そうしたらオーガナイズする人がやってきて、“このあとも私たちと旅をしませんか?”と言うんです。でも私もスケジュールが決まっているし。“それはいつまでですか?”と尋ねたら、“Till the end of your life(あなたの人生が終わるまで)”ですって。だから私は今、その人との約束を守って、自分のできる限り、社会や人々のためになることをやっているんです」。ちなみに後日、このエピソードを同じユニセフ親善大使の黒柳徹子さんに伝えたら、「そうでしょ、そうでしょ。旅は続くのよ」と頷いていた。
今や女優としてだけでなく、演出家、監督としての評価も高いウルマンだが、なんと言ってもいちばん有名なのは、師であり、私生活のパートナーでもあった名匠イングマール・ベルイマン監督とのコラボレーションだ。ここでも彼女は、思いがけないエピソードを教えてくれた。
「イングリッド・バーグマンと共演した『秋のソナタ』(’78年)のラスト。イングリッド扮するピアニストの母親は、私が演じる娘を置いて、演奏旅行にとび回っていた。娘はそんな母親を恨んでいて、最後に怒りをぶつけるんですが、シナリオではイングリッドが私に“ごめんなさい、ママが悪かったわ!”と泣きながら謝ることになっていた。でもイングリッドは“絶対、こんなことは言わない!”とベルイマンに怒鳴ったんです。“私たち女性は、100年も前からずっと謝ってきた。もうたくさん”って。結局、しぶしぶ監督の指示に従ったけれど、この作品でオスカーをとったときも、イングリッドの眼は笑っていなかったわ」。師と大先輩にはさまれたウルマン自身はどう思ったのか尋ねると、「断然イングリッドが正しいと思った! だって、私の役はもう40歳。ママに甘える歳ではないでしょ?」と笑った。
女優としても、アクティヴィストとしても、揺るぎない信念をもって自らのスタイルを貫くウルマン。この秋、その“終わらない旅”は、瀬戸内の海へとつながってゆく。
【映像インスタレーション】
会場:大島・庵治第二小学校体育館
展示期間:2019年9月28日(土)~11月4日(月・祝)(瀬戸内国際芸術祭2019秋会期)
開館時間:10:15〜16:00
鑑賞料金:個別鑑賞料¥300
※ 瀬戸内国際芸術祭作品鑑賞パスポートをご提示の方は無料
【ライブ・パフォーマンス】
日程:2019年11月1日(金)、2日(土)
時間:19:00~20:00
会場:サンポートホール高松第1小ホール
料金:前売¥4,000、当日¥5,000(パスポート提示の方は¥4,500)
問い合せ先
瀬戸内国際芸術祭総合案内所
TEL. 087(813)2244
info@setouchi-artfest.jp
SOURCE:「Paths Meet」By T JAPAN New York Times Style Magazine:JAPAN BY YUKI SATO SEPTEMBER 27, 2019
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