白石和彌監督と初タッグ!『ひとよ』で新境地を切り開いた鈴木亮平にインタビュー!

子供たちを守るために愛する夫に手をかけてしまった母が、刑期を終え、事件後15年経って帰ってくる。大人になった三兄妹はどうするのか。4人は再び家族になれるのか。そんな重いテーマを扱った映画『ひとよ』が118日(金)に公開となる。監督は『凶悪』(’13)や『日本で一番悪い奴ら』(’16)、『孤狼の血』(’18)などで知られ、多くの俳優たちがその作品への参加を熱望するという白石和彌。佐藤健、松岡茉優、田中裕子ら豪華な顔ぶれが揃ったこの映画で、悩める長男・大樹を演じたのが鈴木亮平だ。

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2018年のNHK大河ドラマ『西郷どん』では圧倒的な存在感で主演の西郷隆盛を演じ切り、’20年公開予定の司馬遼太郎原作・原田眞人監督作品『燃えよ剣』では新選組局長・近藤勇役に決まっている鈴木。吃音を持ち、コミュニケーションが苦手。妻にも母の真実を話せず、内に籠る大樹の姿は、本人の明るく、堂々とした雰囲気とは大きく異なる。新境地を切り開いた鈴木に話を聞いた。

待ち焦がれた白石監督との初仕事

――白石監督とお仕事されるのは今回が初めてですよね。白石組に参加してみていかがでしたか?

撮影は淡々と進んでいって、現場はとても和やかで……なんていうか、僕が白石作品に抱いていた強烈な印象とは違う雰囲気でした。だから「今回は家族の物語だから“白石臭“を抑えているのかな」と思っていたんです。でも、出来上がったものを観てみるとすごくパワフルで、地味な話ではあるんですが、一瞬たりとも目が離せないエンターテイメントになっていた。ああそうか、監督はいつもこういう風に撮ってるんだ、と驚きました。

 

――鈴木さんは以前から白石監督の作品に出たいと思っていたそうですね。白石作品の魅力はどこにありますか?

ストーリーテリングのうまさ、人を引きつける話の進め方、飽きさせないためのちょっとした演出。どんな話もエンタメにするぞ!というところが面白い。役者がやりすぎる手前で抑えるバランス感覚も抜群なんです。

最初にこの人の映画好きだな、と思ったのは『日本で一番悪い奴ら』。警察の不祥事という、一見暗い実話を、ポップかつ重厚、かつエンターテインメントに仕上げているのには脱帽しました。以来、自分が白石さんとやるなら、ただのバイオレンスとかじゃなくて、人間の深いところまで撮られるようなものをやりたいな、と思っていた。今回の『ひとよ』は、まさにそういう映画でしたね。

飽くなき探究心で役作りに取り組む

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――鈴木さんは役作りに際してものすごく入念に準備されることでも有名ですが、今回はどのような準備をされたのでしょう? 大樹は吃音を持つという設定でもありました。

吃音については相当調べましたし、実際に3人の方にお会いして勉強させてもらいました。1人は研究者の方で、いろいろ根掘り葉掘り聞いて、ビデオも繰り返し見て、吃音とはつまるところ、どういう法則で生まれるものなのかを調べました。ただ、物真似をしてもしょうがないので、「大樹の吃音は生まれ持ってのものではなく、社会からの目を異様に気にしなくてはならなくなった15年間があってのもの。そういう場合の症状の出方というのはどういうものなんだろう」というのを自分なりに考えて取り組みました。

15年の間に大樹がどうやって生きてきたのか……、というのが一番僕が考えたところ。父親を殺した母親に対して、どういう思いを持っているのか。なぜこういう家庭に育ちながら若くして結婚して子どもを作るという決断をしたんだろうか。電気屋の仕事について妻の家の跡取りになったけれども、本当の気持ちは? そういうものを準備の段階で丁寧に考えていった感じです。

――白石監督と役作りについて話し合ったりはしましたか?

そうですね。大樹について、台本の設定で違和感があった部分については、いくつか相談させてもらいました。例えば、この作品は「劇団KAKUTA」が2011年に初演した舞台を映画化したものなのですが、そこでの大樹は手の指が曲がっている設定だったんですね。それが、映画の台本ではなくなっていた。でも、原作者の桑原裕子さんにお聞きしたら、大樹の指は幼少時代に父親に暴力を振るわれて曲がったのに、それを言い出せなくて、結局そのままになっているんだ、と。子どもが親のせいで怪我をしたことを言えないなんて、壮絶じゃないですか。それで、監督に「そこは生かしてもいいですか」と相談して、土壇場で設定を変えてもらったりしました。

 

――東京で暮らす弟の雄二を演じる佐藤さん、実家にいる妹の園子を演じる松岡さんとは、兄妹の関係をどう作るかなどは話されたりしたんですか?

3人で話し合うことはほぼなくて、雑談をする中で空気感を掴んでいった感じです。改まって話すと不自然になっちゃう。ただ、みんなが共通して「兄妹ってこんなもんだよね」というのを持っていた気はしましたね。僕には兄貴しかいないですけど、久しぶりに会ったら「おっ」みたいな感じで。

今回は松岡茉優ちゃんが自由に動き回ってお芝居してくれて、僕ら2人を繋ぐ役割を担ってくれたのが良かった。彼女はカメラが回っていない時も明るく立ち回って、雰囲気を作ってくれたんです。また、健とは以前も『天皇の料理番』で兄弟役を演じたこともあり、絶対的な信頼感があるし、尊敬しているので、うまくいきましたね。

田中裕子との共演で芝居の醍醐味を実感

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――予告編で鈴木さんが叫ぶところが使われている、田中さん演じる母親のこはる、MEGUMIさん演じる妻の二三子、そして妹の園子と4人で向かい合うシーンは、ものすごいリアリティで、作品のクライマックスだと感じました。こはるは親子の関係が15年間空白になっているところに帰ってきて、真正面からぶつかってくるんですよね。

あのシーンは、茉優ちゃんには事前に相談していました。もともと台本では大樹が家の物を壊しまくる設定だったんですよ。でも、物を壊すのはまだ気持ちに余裕がある証拠じゃないかとか、大樹は自分が許せない人なんで、その気持ちを物にはぶつけないんじゃないかとか、大樹の発作みたいな行動はこれまでにも何度か起きていて、それを園子は知っているんじゃないかとか。それで、監督に「こうさせてほしい」というのを伝えてリハーサルに臨んだんです。そうしたら、自分でも思っていなかったほど、「本当に何もかも嫌だ」っていう気持ちになって……演じているうちにどう気持ちが動くかというのは、実際にやってみなければわからないんです。

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――その場の緊張感などはどんな感じだったのでしょうか。

田中さんの出方は全くわかりませんでした。自分の15年は考えられるけれど、彼女がこはるの15年をどう考えてぶつかってくるかはわからない。そこがお芝居の難しいところです。現場では監督が田中さんに「大樹にじわじわ近づいてください」って指示していたんですが、じわじわ来られると逃げたくなる。でも、抱きしめられた時、自分の中の15年という時間は、一瞬にして母親の体温と匂いに溶かされてしまって。一方で、本当は自分もお母さん!ってすがりたいけれど、同時に、それをしたら俺の15年の苦しみはどうなるんだ、という葛藤も生まれてくる。田中さんとのシーンは、意識を外において魂のやりとりをしていくようなものでした。すごくよかったですね。

『ひとよ
』11月8日(金)より公開

https://hitoyo-movie.jp/

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◆あらすじ

15年前のある夜、タクシー会社を営む稲村家の母・こはる(田中裕子)は、愛した夫を手にかける。三人の子供たちの幸せと信じてのことだった。こはるは15年後の再会を子どもたちに誓い家を去る。運命を大きく狂わされた三兄妹は心に傷を抱えたまま大人に。家族と距離を置き東京でしがないフリーライターとして活動する次男・雄二(佐藤健)、地元で結婚するも妻に真実を話せず、夫婦関係に思い悩む長男・大樹(鈴木亮平)、事件によって美容師の夢を諦めスナックで働く長女・園子(松岡茉優)。そんな3人のもとに、約束通り、母・こはるが帰ってくる——。

 

◆プロフィール

1983年兵庫県生まれ。森田芳光監督『椿三十郎』(’07)にて映画に初出演して以降、映画・ドラマと活躍。近年の主な映画出演作品に『HK/変態仮面』(13)、『TOKYO TRIBE』(14)、『風に立つライオン』(15)、『予告犯』(15)、『俺物語!!』(15)、『海賊とよばれた男』(16)、『忍びの国』(17)、『羊と鋼の森』(18)などが。NHK連続テレビ小説『花子とアン』(14)ではヒロインの夫・村岡英治役を演じ第39回エランドール賞新人賞を受賞。NHK大河ドラマ『西郷どん』(18)では主演を務めた。公開待機作品として『燃えよ剣』(20年公開予定)がある。

Photography:Yuka Fujisawa  Interview & text Shiyo Yamashita

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