ボーイズグループ、「インターセクション」。彼らは日本の音楽業界に差した一筋の希望の光だ。日本だけでなくアメリカにそれぞれルーツを持つメンバーは、多様性を尊ぶ思想を持ち、日本から世界に向けて音楽を発信している。今回、ジェンダー、マスキュリニティ、あらゆる社会問題に対して、鋭い視点で意見を語った。彼らが音楽業界を塗り変える!
仲のよいメンバー。みんなではしゃぐ姿は18歳から21歳の等身大のきらめきを放つ。
(右上の右・ウィリアム)寡黙だが内側に強い意志を持つ。(右・ウィリアム)シャツ¥39,000・パンツ¥39,000/TOGA 原宿店(TOGA VIRILIS)カットソー¥32,000/Diptrics(アントン リシン) サンダル¥28,800/ネーム
(左・カズマ)ジャケット¥45,000/スタジオ ファブワーク(tac:tac) シャツ¥28,600(LEMAIRE)・ブーツ¥70,000(参考価格)(OUR LEGACY)/エドストローム オフィス パンツ¥25,000/M.I.U.(SOE BOOKS) ベルト¥4,900/alpha PR(is-ness)
(中央・カズマ)誰にでも公平で人懐っこい。
スウェット¥28,000/ネオンサイン ベスト¥70,000・パンツ¥68,000・靴¥90,000/ELIGHT Inc.(NICHOLAS DALEY) ソックス/スタイリスト私物
(右下・ミカ)穏やかで朗らかな性格。
ローブ¥72,000/エドストローム オフィス(Julien David) ブルゾン¥58,000・ ニットカットソー¥37,000/オーラリー パンツ¥32,000/M.I.U.(soe) 靴¥54,000/ ギャラリー・オブ・オーセンティック(foot the coacher) ソックス/スタイリスト私物
(左上・ケーレン)みんなのムードメーカー。
シャツ¥36,000・パンツ¥68,000/エドストローム オフィス(Julien David) ニット¥46,000/オーラリー ブーツ¥24,000/ティンバーランド/VFジャパン(ティンバーランド)
マスキュリニティの基準は変わりつつある
――日本だけでなく、アメリカにもそれぞれルーツがある皆さん。カルチャーにしろ社会の動きにしろ、東京にいても常に日米両方に目を向けているのでしょうか。
ミッチェル和馬(以下カズマ) そうですね。どっちかって言うと、みんなアメリカ寄りなのかもしれません。音楽的にはアメリカ寄りの音とJ-POP寄りの音の間を、行き来しています。
青山ウィリアム(以下ウィリアム) 日本とアメリカにはそれぞれいい面も悪い面もあるけど、日本の慣習には、さまざまな問題がある気がします。たとえば敬語って、初対面の人たちの間に自動的に距離をつくって、人間同士が理解を深める妨げになっていると、僕には思えるんですよね。そうなると新しいアイデアも生まれにくい。だから日本人は今もすごくトラディショナルです。逆に言えば、そういうシステムが日本に安定をもたらしているんだろうけど、もっとオープンな国になってほしい。
カズマ ウィリアムが言ったことに関係しているけど、日本では右へ倣えの画一的なカルチャーが主流ですよね。でもその裏側に巨大なサブカルチャーの世界があって、ファッションでも音楽でも人々はぶっ飛んだ試みをしています。画一的なカルチャーが主流だってことが、サブカルチャーの盛り上がりを可能にしているのかもしれません。
モリアティー慶怜(以下ケーレン) オリジナリティがもっとあればいいなと思います。僕は、母が聴いていた日本の90年代の音楽が大好き。アイコニックで、全然色褪せないし、すごく独自性があった。90年代にやっていたことを追求し続けていたらよかったのかな……。
カズマ 日本が間違いなく独自性を確立しているのはファッションですよね。東京のファッションはみんな大好き。原宿のストリートには、まだ知られていないブランドがたくさんありますしね。
橋爪ミカ(以下ミカ) 僕もファッションは世界一だと思う。ほかの多くの国に比べて、みんな積極的にファッションで実験していて、そういう環境に身を置いていると自分も実験できます。
――ファッションと言えば、最近男性がフェミニンに装ったり化粧をすることに抵抗が薄れて、男らしさの定義がフレキシブルになりました。今日のウィリアムはネイルを塗っていますし。
ウィリアム 僕個人としては、50年前に生きていたとしてもネイルを塗っていたと思います。でもそれがこうして受け入れられる社会になって、ジェンダーの捉え方が確実に変化していることを証明していますよね。僕は男女の平等も全面的に支持していて、世界は着々と進化しているのを感じます。
ミカ うん、マスキュリニティの基準は変わりつつあって、すごく面白い。ネイルとかピアスとかこれまではフェミニンだと捉えられていたことも、僕にしてみれば洋服と同じで、自己表現のひとつの手段にすぎない。フェミニンもしくはマスキュリンという枠組みから解放されて、自己表現の手段になったのは歓迎するべきことで、世の中は正しい方向に進んでいます。
名前と一緒に性別を記入する仕組みは不必要だと思う
――4人にとって、今一番関心がある社会問題を挙げてもらえますか?
ケーレン 今の社会にはたくさんの問題があるわけだけど、大学で、アメリカでの政治的な抵抗運動に関する講義を受けて、歴史がまた繰り返されるのを、目の当たりにしている気がします。それがどう始まり、どう発展し、どう決着するのか予測がつくし、人々が問題にどう向き合うかってことを考える上で、すごく興味深いですね。
ウィリアム 僕は大学でメンタルヘルスについて勉強していて、マスキュリニティの基準の話にもつながるんです。たとえば僕はネイルを塗っているし、最近の男性は化粧もしている。その結果、今まで女性がずっとそうだったように、男性も見られる対象になりつつある。つまり今は過渡期にあって、男性は不安を抱き始めています。疎外感を覚えたりして。女性もいろんな問題に直面しているのだけれど、男性のメンタルヘルスも、真剣に取り組むべき問題だと思うんです。
カズマ 僕はアメリカの政治の分極化をすごく憂慮しています。どちらの主張も有効だけど、極論に走っている気がして。民主党支持者は、共和党支持者がみんな人種差別主義者で他者への敬意を欠いていると思っている。逆に共和党支持者たちは、民主党支持者に神経質すぎて、過剰反応している気がして……。選挙でどう投票するべきなのか悩んでいます。僕は政策面では民主党寄りだし、トランプ大統領が特定の人種や同性愛者に差別的な発言をするのは、当然間違っているんですけどね。
ミカ これもアメリカの話だけど、やっぱりまだジェンダーと人種にまつわる差別が根強い。ハワイでは人種の多様性がすごく尊重されていて、学校ではいろんな人種の子どもたちが一緒に勉強しています。その点アメリカ本土、特に内陸の地域では多様性に関する意識が低い。そこをなんとかしないと。多様性の素晴らしさを伝えて、教育システムから変えていくことで、究極的に社会全体が変わるはず。それはジェンダーに関しても言えることですね。たとえば学校で共通テストを受けるときなど、名前と一緒に性別を記入しなくちゃいけない場面があるのもおかしい話で、僕は不必要だと思う。性別を明記することで女性が差別を受けるケースもあるし、何ごとにおいてもカテゴライズすることに疑問を感じます。
ケーレン 注意しなくちゃいけないのは、僕らはこういう社会問題について、SNSを通じて情報を得がちなこと。SNS上の情報はフェイクかリアルか判断できないから危険ですよね。でもメディアはメディアで、どうでもいいことばかり取り上げているし……。
カズマ カーダシアン一家のこととか、そんなに詳しく報じなくても。
ケーレン そうそう。気候変動のことより、カイリー・ジェンナーについて詳しいなんて間違ってる(笑)。そういう意味では音楽も有効なコミュニケーション手段で、だからこそパワフルなんです。僕らも曲を通じてコミュニケーションを試みているけど、今はもっぱら“ラブ”がテーマ。もっとスキルがあれば、こうして話しているようなことを曲に盛り込めるんでしょうね。
ウィリアム アーティストのキャリアにおいて一番難しいのは影響力を持つ人になるまでの過程で、いったんそうなれればいろんなことが可能になる。だから僕らの最初のゴールはとにかく影響力を持つこと。そこにたどり着いたら、自分たちがやるべきことがおのずと見えてくると思います。
20年代の始まりを、再スタートのボタンと捉えて
――今活躍しているミュージシャンで、重要なメッセージをちゃんと発信できているのは、誰だと思いますか?
ウィリアム The 1975じゃないかな。作詞も手がけるボーカルのマット・ヒーリーは、世界で何が起きているのか把握して、真実を語っていると思う。
ケーレン ラッパーのJ・コールもそう。彼のリリックには刺激を受けます。
――1月にはニュー・シングル「New Page」が登場しましたが、どんな想いを込めた曲なんでしょう?
ケーレン 20年代の始まりを、再スタートのボタンと捉えることもできる。そのボタンを押すのは簡単だけど、新しいページをどう作り上げるかは自分次第。だから、“手を取り合って一緒に新しい章を開こう”と呼びかけている曲なんです。
カズマ サウンドはこれまでで一番J-POPに近いですね。アニメ番組のタイアップ曲で、初めて全編日本語で歌っているから、僕たちにとって新しい挑戦なんです。
ミカ 新しい挑戦と言えば、今年はインドネシアとかアジアの国々に行く予定があるし、海外にどんどん出かけて、活動の場を広げていきたいですね。
ファッションも大好きな4人は、撮影をとても楽しんでくれた。そしてインタビューになると忌憚ない意見が飛び交い、まるで大学のディスカッションのような状況に。日本ではミュージシャンが、多数派と異なる意見を言うとすぐに攻撃されたり、最初から発言を控える人も多いが、そういう風潮をどう考えるかを聞いてみた。
「それも賢いと思う。僕なんか、こんな言いたいことをそのまま言っていると、明日つぶされちゃうかもしれない(笑)」(ウィリアム)
「今のアーティストは企業に支えられて初めて成立しているので、大衆の目を常に気にする必要があるんですよね。人々から見て僕らがおかしなことを言ったりおかしな行動をとってしまったら、その企業にも影響が及ぶ。だから僕たちは健全さを心がけて、物議を醸すようなことを言ってはいけない存在になった。それも仕方ないことだと思います」(カズマ)
「でも僕の場合、こういうふうに自分の想いを率直に話すことで、良心に恥じないで済む。フェイクになるより正直でありたいし、真実を話すほうが逆にずっと簡単だったりもすると思うんです」(ウィリアム)
ニューヨーク出身のミッチェル和馬、ハワイ出身の橋爪ミカ、アメリカ人の父を持つ、キューバ生まれのモリアティー慶怜、カリフォルニア出身の青山ウィリアム、日本とアメリカにルーツを持つ、それぞれに音楽的才能を備えた4人が2015年に東京で出会い、グループを結成。’18年にシングル「Heart of Gold」でデビューし、’19年8月にファースト・アルバム『INTERSECTION』を発表。全員現役の大学生でもある。
SOURCE:SPUR 2020年4月号「INTERSECTIONという希望」
photography: Shuya Aoki styling: Ryota Yamada hair & grooming: Miho Emori〈KiKi inc.〉 interview & text: Hiroko Shintani