井浦 新インタビュー 映画館というかけがえのない場所

コロナ禍で延期となっていた出演作『朝が来る』が公開した、俳優・井浦 新。かつてない危機に直面した映画界、とりわけミニシアターへの熱い想いを語る


 いまだに世界中を脅かしつづけている新型コロナウイルス。パンデミックは、スポーツや文化イベントの自粛を余儀なくし、4月7日に東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県の緊急事態宣言発令後、映画館も閉館に追い込んだ。とりわけ存続の危機に直面したのが「ミニシアター」と呼ばれる小規模映画館だった。世界から集まる映画のダイバーシティを支えてきたミニシアターの灯を消さないため、映画監督や俳優をはじめとした映画人が立ち上がった。是枝裕和監督の『ワンダフルライフ』(1998年)でデビューし、『かぞくのくに』(2012年)でブルーリボン賞助演男優賞に輝いた俳優、井浦 新もミニシアター救済に声を上げたひとり。

画像: 井浦 新(ARATA IURA) 1974年、東京都生まれ。’98年に是枝裕和監督作『ワンダフルライフ』の主演で映画デビュー。映画、ドラマ、ナレーション等、幅広く活躍。『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(’12年)で日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞を受賞。その他、『菊とギロチン』(’18年)、『止められるか、俺たちを』(’18年)等、出演作多数

井浦 新(ARATA IURA)
1974年、東京都生まれ。’98年に是枝裕和監督作『ワンダフルライフ』の主演で映画デビュー。映画、ドラマ、ナレーション等、幅広く活躍。『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(’12年)で日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞を受賞。その他、『菊とギロチン』(’18年)、『止められるか、俺たちを』(’18年)等、出演作多数

「西東京の生まれなので、大作映画は八王子の映画館に観に行きましたが、10代、20代の頃は、当時『アートシアター』と呼んでいたミニシアターで上映される面白い映画を求め、中央線沿線の吉祥寺、中野、新宿、乗り換えて池袋や渋谷まで行っていました。90年代は、とりわけ渋谷のシネマライズに通いました。是枝監督に誘われて『ワンダフルライフ』で映画デビューさせてもらい、それまで観客側で楽しんでいたシネマライズで上映されると聞いて、あのスクリーンに自分が⁉ と驚いたり、気恥ずかしかったり。二度目の是枝監督作品『DISTANCE』(2001年)や曽利文彦監督の『ピンポン』(2002年)もシネマライズで公開されましたし、最初に僕の特集上映を組んでくれたのもこの映画館でした。そのシネマライズが閉館になると聞いたときは本当に寂しくて、閉館前の上映には通いましたね。元気がないとき、落ち込んだとき、苦しいとき、映画を観ることによって救われたり、心を潤したり、明日への力をもらったり、絶望の中から小さな希望を見いだしたり。ミニシアターはそんなふうに自分の人生と密接な関係を持つところなんです」

 かけがえのない場所を守るため、井浦が参加を表明したのは、政府に対して、ミニシアターヘの補償や支援を求める署名プロジェクト「SAVE the CINEMA」だった。

「2月末から3月に入った段階で、映画の撮影現場も止まり始め、この先は映画館がきっと閉鎖されてしまうだろう。そうなった場合、映画館、特に個人経営でやっているミニシアターは休館、さらには経営崩壊して閉館に追い込まれるのが目に見えていたから、これは何とかしなければいけないと。映画館は、さまざまな国の文化と出会える博物館や美術館と同じ役割を担った、生活にとても密着した場所です。3月末に緊急事態宣言が発令されるとなったとき、その重要性を国と行政にちゃんと伝えて、補償という形につなげなくてはと。今の映画館の危機は、僕らを含め、これまでの映画人が野放しにしてきたことが積み重なった結果。今、対策を講じないでどうするんだってことで、諏訪敦彦監督らが呼びかけ人となって『SAVE the CINEMA』が動き出したんです」

 ほどなくして、深田晃司監督や濱口竜介監督らがクラウドファンディング「ミニシアター・エイド基金」を立ち上げた。
「30代40代の若い世代の映画人がクラウドファンディングによって直接ミニシアターへの募金を募ったのが『ミニシアター・エイド基金』で、まさに今ならではの発想ですよね。最終的に3億円以上の支援金が集まって、僕たちもみな感動したんです」

画像: SPECIAL THANKS: THEATRE SHINJUKU ジャケット¥98,000、ベスト¥43,000、パンツ¥48,000/フランク リーダー MACH55 Ltd. TEL.03(5413)5530 靴¥11,500/キーン 4K TEL.03(5464)6061 Tシャツ・ソックス/スタイリスト私物

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 4月6日に開始した「SAVE the CINEMA」は、9万筆以上の署名を集め、第二次補正予算案に文化芸術活動への支援として約560億円を計上させることに貢献した。一方、「ミニシアター・エイド基金」で集まった3億3,000万円を超える支援金は、118劇場、103団体に分配されることとなった。そして井浦さんは、5月に終了した「ミニシアター・エイド基金」の活動を俳優たちで引き継ぐかたちで、新しいキャンペーンのプラットフォーム「#minitheaterpark」を立ち上げた。

「今年の2月以来、もっと何か僕らが直接的に動けることがあるんじゃないかとずっと考えていて。でも僕ひとりでは限界があるので、『ミニシアター・エイド基金』と『SAVE the CINEMA』の活動に積極的に加わっていた、同じ危機感をもつ渡辺真起子さんと斎藤 工くんに連絡したら快諾してくれて。僕らにとって、出演作の公開時に映画館で舞台挨拶するのは当たり前のことなんですけれど、俳優が『ありがとう』という感謝の思いを伝えながら寄り添っていける支援のかたちがほかにないものか。日々のライフワークのように考え続けて、近いうちにかたちにしていけると思っています」(続きを読む)

SOURCE:「Lights in The DarkBy T JAPAN New York Times Style Magazine:JAPAN BY REIKO KUBO, PHOTOGRAPHS BY TAKEMI YABUKI, STYLED BY KENTARO UENO, HAIR & MAKEUP BY TOMOKO YAMAGUCHI OCTOBER 06, 2020

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