「ほんとうの私を知っても、ファンでいてくれるの?」。この言葉は、Netflixの人気メイクオーバー番組『クィア・アイ』の美容担当ジョナサン・ヴァン・ネスが半生を綴った初の著書『どんなわたしも愛してる』(訳・安達 眞弓、集英社)の中で、繰り返し問いかけられるフレーズ。愛に溢れた言葉と卓越したセンスで多くの人の変身を助け、ハッピーなムードメーカーとしてお馴染みの人気者が、過去のトラウマや「本当の私」を明かすことで伝えたかったメッセージとは? ジョナサンの素顔に迫る、愛猫あり涙ありのZOOMインタビュー。
一日の終わりに思うこと。「自分自身であることがいちばん大切!」
Q.著書『どんなわたしも愛してる』のなかで、みんなが知っている「明るく楽しいジョナサン」に収まらない一面や、過去のトラウマを打ち明けようと決めたいちばんの原動力は?
「この本に綴ったのは、私にとっての最大の喜び、最大の悲しみ、そして最大の痛みについて。もちろんフィギュアスケートも猫も大好きで、雑誌のカバーだってもっと飾りたいけれど、この本はいつも楽しくて絶好調な自分を見せたくて書いたわけじゃないからね。みんなが知っているのは、3秒ごとにハニー! ハニー! ハニー! と呼びかけるジョナサンかもしれないけれど、人間の本当の姿っていくつもの層が重なるようにレイヤーになっているものでしょ。だからこそ、いつもハッピーな自分の他に、もっとちがう私がいるのだと知ってほしかった。そして、トラウマというものは、決して仕事に対する愛や好奇心や人とのつながりを根こそぎ奪い去るものではないのだとシェアしたかったんだ」(ジョナサン)。
Q.他人に批判されたり嫌われることを恐れて自分をオープンにできない人に、アドバイスはありますか?
「日本文化の専門家じゃないから文化的な違いについてはよくわからないけれど、LGBTQ+のコミュニティにいる日本の友人からは、抑圧も差別もかなり根強いと聞いているよ。すごく難しい問題だから、カミングアウトして自分自身でいられるようになったという自分の経験が、全ての人に同じようにシェアできるとは思わない。ただ、一日の終わりに考えるのは、自分自身であることがいちばん大切なんだということ。自分との関係をきちんと築くことの重要性は、アメリカであれ日本であれ、どこにいても変わるものではない。自分を愛することさえできれば、たとえ家族や友人に拒絶されたり否定をされることがあっても、何らかの糧になるはず。まず最初に、本当の自分をシェアできるぐらい信頼できる人を誰か一人でいいから見つけて、その人に自分について話してみる。ありのままの自分オープンにしていくには、そういう一歩こそ大切なんじゃないかな。とはいえ、私自身も10年間にわたってセラピーを受けているほどすごく難しい問題だから、誰にでも通じる話とまでは言えないね」(ジョナサン)。
このコロナ禍で、誰かの助けなしに生きられる人なんていない
Q.本書では、性被害、いじめ、摂食障害、LGBTQ+への差別、性依存、薬物依存、HIV治療についてもオープンに書かれています。しかし、アメリカに比べると日本では悩んでいる人を受け入れる場所や周囲の理解が十分とは言えず、社会的なスティグマが強く更生や社会復帰のハードルも高いのが現状です。また、このコロナ禍で女性や子供の自殺率が増加しているのに、支援やセラピー文化が乏しい現実があります。この本を読んでいる当事者や、力になりたいと考える読者にメッセージはありますか?
「ものすごく感情的なリアクションをして、泣いちゃってごめん。助けを求めるということはすごく勇気がいること。特に、文化的に受け入れられてない場面では、ものすごく勇気が必要なことだから。私だって手を差し伸べてくれる人たちがいなければこうして本を書くこともできなかったし、私自身でいることもできなかったと思うよ。助けを求めるリソースがないことがいかに辛いか知っているぶん、本当に胸が痛みます。大切なのは、助けを求める人=弱く、壊れている人であるというパラダイム自体をシフトすること。考えてもみて。親になり子を育てるということを、誰かの助けなしにできる人なんかいる? まさに今のコロナ禍で、誰の力も借りずに生きられる人なんている? いるとしたら、あんた誰って感じ!」(ジョナサン)。
毎朝「あなたの全てを愛してる。愛される価値があるよ。私は私でいいの」と唱えてみて
Q.恥の感情や自己嫌悪にとらわれそうになったとき、自分を引き戻すにはどうしたらいい?
「恥の感覚は私にとっても身近な感覚だし、一瞬にしてとらわれてしまうものだってすっごくよくわかる。私にとってすごく効果的だったのは、瞑想を習慣づけること。毎日過酷なスケジュールで生きているから、いろんなことが起きるし、気が散ったりそぞろになったりすることもたくさん! だから、毎日のセルフケアとして、瞑想で落ち着きを取り戻すのが必須なの。恥の感覚にとらわれると、いっぱい食べたいとかセックスしたいという衝動が浮かんでくることもあるけれど、セラピーや瞑想などを通じてそういう気持ちを落ち着かせる。それに、恥というのは決して自分を定義づけるものじゃない。まさにこの本に書いたような経験ひとつひとつが人を作るわけで、トラウマというのは大きかろうが小さかろうが、決して喜びというものを消し去ってしまうものではないんだ。それともうひとつ、毎朝、自分自身に確かめるようにかける言葉があるの。あなたの全てを愛してる。愛される価値があるよ。私は私でいいの、っていつも自分に言い聞かせてるんだ」(ジョナサン)。
自分を大切にするために、ときには正直な「NO!」も必要
Q.自分を大切にするって、具体的にはどんなこと?
「まずは、正直にNOと言うことだね。人に対してNOを伝える行為は、自分の時間を確保して本当にやりたいことを求める行為でもある。例えば、子供の頃に真剣にフィギュアスケート番組を見ている最中にあれこれ尋ねられたら、“ちょっと待っててよ、今見てる途中だから!”って断ることができていた。NOを伝えることは、自分自身に時間を与えることであり、自分を大切にする一番重要なポイントなんだ。あとは、さっき話した朝にやっているメディテーションもそうだし、ヨガやワークアウトやフィギュアスケートの練習も、自分を大切にして心身の健康を保つためのとってもとても大事な習慣だよ」(ジョナサン)。
美とはその人が身につけている知識の表れ
Q.ご著書の中で、「美とはその人が身につけている知識の表れ」という言葉が印象的でした。自分を偽らずありのままの姿を受け入れて愛することと、自分の見た目を整える美容という行為。その二つを矛盾させず、調和させて考えるにはどうしたらいい?
「ファッションやスタイルを考えるときに、他人からどう見られるかなんて気にしないこと。本に書いたエピソードでいえば、当時のボーイフレンドのセルゲイとヨガに行く時に、私はタイツを穿いて彼はバスケットボールショーツを穿くとそれぞれ決断した場面がまさにそう。これまでいろんな人とデートをしてきて、外見やファッションで拒絶されていると感じたことなんて何度もあるよ。でも同時に、自分自身であるということ、自分自身のままであり続けるということのおかげで、たくさんの愛を感じることができたんだ。外見は本当の自分の表れでもあるから、自分を受け入れることと見た目を整えることは矛盾しないよ」(ジョナサン)。
SPUR.JPユーザーのお悩みにジョナサンが回答!
たくさんの応募の中から、ジョナサンが答えたお悩みは……。
私は27年間恋人がいません。それでも仕事は楽しかったし、打ち込む趣味もありました。しかし昨年、夢だった仕事でうまく行かず、たった半年で体を壊してリタイアしてしまいました。長年追い続けた夢でさえ達成出来なかった自分に失望し、何をするにも自信を無くしてしまいました。私は1人が好きです。恋人がいなくても私は私だし、1人でも幸せに生きられることを知っています。
しかし、他人に愛されたことがない事実はずっとコンプレックスでした。仕事のアイデアを出す時も、「恋人」という人間関係をもって多様な経験をしてきた皆の方が、豊かな意見が出ます。話し合いや折衝も、柔和に対応ができるのを見てきました。私は、他人に心の内をさらけ出して接したことが無いのも1つの弱みだと感じていました。だからこそ、この1年は多くの人と会いました。洋服も化粧も見直し、出会い目的のパーティーやマッチングアプリを試して何十人もの相手と出会いました。しかし、私には恋愛感情が芽生えませんでした。2度目の食事に誘われても、不快に思ってしまうことさえありました。
段々と疲れてきてしまいました。他人から認められなくても私は私、と思いたいのですが、やっぱり一度は他人から愛されてみたい、と思ってしまいます。それならばまずは私が相手を好きにならねばいけないのですが、相手を好きになろうとする私ですら嫌いになってきてしまいました。もうどうしたら良いかわかりません。どうしたら他人を好きになれるのでしょうか。
恋愛にとらわれず、 まずは人と繋がることを意識してみて
「私だってとんでもない失敗したことはたくさんあるよ。でも、誰か周りにわざわざ失敗だって言ってくるような人がいるの? その仕事は失敗したかもしれないけど、“よくやったよね、これまですごく頑張ったよね”って自分に共感して認めて愛してあげれば、失敗は失敗ではなくなるものだよ。例えミソジニー(女性嫌悪)の男に何を言われたとしても、自分が自分を認めてあげさえすれば、もはや失敗ではなくなると思うわけ。ちょっとエネルギーの話になっちゃうけど、ヨガの師匠に“自分の身体はマグネットのようなものだから、ポジティブなことを言えばポジティブなエネルギーが身体にそのまま響き、ネガティブなことを言えばそのまま吸収されてしまう”と教えられたんだ。だから、まずは“自分は愛に値する人間で、パートナーに愛される資格がある人間なのだ”と言い聞かせることが大事なんじゃないかな。とはいえ、ことがロマンチックな恋愛ともなると、誰しも傷つきやすくなるものだよね。メディアの影響もあって、恋愛と言ったらさもオーガニックラブみたいな感じで、出会うやいなや美しい恋に落ちて男が女を愛し……みたいな決まった型があって、あたかもすぐに関係が進んで行くようなイメージがはびこっている。だから、そのせいでプレッシャーを感じる人が多いのかもしれない。でも、実際の恋愛ってそんなに型通りのものじゃないものだよね。だから、そんなイメージにとらわれないで、とにかく繋がること。人との繋がりを見つけることを大切にしてほしいんだ。友情だって、性的な関係がなくったっていい。一口に愛するといってもいろんな愛の形があるし、いちばん大切なのは、恋愛にとらわれず人と繋がること。拒絶されるのはすごく怖いよね。でも、そこは受け入れるしかない。いろいろな出会いの場があると思うけれど、そこで見つからなければ、NEXT! NEXT! NEXT! はい次、はい次ってやっていてば、必ずあなたが探しているものは見つかるんだということを忘れないで」(ジョナサン)。
写真センターが日本語版
『どんなわたしも愛してる』ジョナサン・ヴァン・ネス著 安達眞弓訳 集英社刊 2400円
interview&text:Anna Osada interpreting:Miwako Ozawa photography:Natsumi Nakayama