2020.06.25

世界へ羽ばたく革命児。常田大希は、静かに熱い

King Gnu、millennium parade、PERIMETRON。東京のクリエイティブシーンを牽引する音楽家、常田大希。初夏、多忙を極めていた彼へのインタビューが実現した。大きく飛躍した2019年から、世界が揺れ動く今、そして未来へ。静かな炎を胸に灯しながら、どんな新世界を描いているのか。

interview with DAIKI TSUNETA

世界へ羽ばたく革命児。常田大希は、静かにの画像_1

「時代の寵児」とはなんだろうか。今ではあまり聞かなくなった言葉だが、それが好むと好まざるとにかかわらず「目が離せない」「無視できない」「なんとなく気になる」と同義なら、常田大希もまたそのひとりである。お茶の間にまで浸透した4人組ロックバンドKing Gnu、音と映像で魅せる先鋭的コレクティブmillennium parade、デザイナーや映像作家からなるクリエイティブ集団PERIMETRONの首謀者だ。こぢんまりしつつある日本の音楽をビビッドに、ワイルドに、押し広げようとしている。新型コロナウイルスの影響により緊急事態宣言発令中のさなか、自身の音楽をはじめ「同時代」について何を思い、どう感じているのか、話を聞いた。

表現という火を絶やさない。巻き込んでいく者の責任

「俺は自分の活動に対して緻密に計画的にやってきたので、思いどおりにいかないってことが今までなかったんです。それがこんな状況になってツアーやリリースが延期になり、予定どおりにいかないときの恐怖心はあって。そんななか、やっぱり『火を絶やしちゃいけない』というのが俺の責任としてはある。生放送の音楽番組でアクションを起こすなり、本来は動く予定じゃなかったところでも動いていかなきゃなと思っています」

 そう語ったリモート取材日は、奇しくもKing Gnuの全国ツアー延期とmillennium paradeのシングル発表延期がアナウンスされた翌日。今、ライブがしたくてたまらないのでは?

「今まではそんなにライブをやりたくないって言ってたんですけど、さすがにちょっとしたくなってきましたね(笑)。人に会ったりライブしたりする機会がなくなってしまってはいるんですけど、かといって音楽制作に関してはあまり変化はない。マインド的にも今までどおりにいようとしてます」と平常心を忘れない。

 家で過ごす時間が増えた今、いつもより音楽や映像、アートに触れる機会も増えたはず。どんなものを見聞きして、インスピレーションを得ているのだろうか?

「最近はKing Kruleを聴いてますね。超ロンドンっぽいし、洒落ていてすごい好きです。あと、先日亡くなったヘアメイクアップアーティストの加茂克也さんの映像を見たんですけど、頭にスタッズがのってるものやスペーシーなヘッドピースが本当に素晴らしい」

「芸術に金は期待しない」当事者としての視座

まさに常田が掲げる“トーキョーカオティック”な状態がディストピアとして現実になってしまったわけだが、この混沌と矛盾の、彼の受け止め方はこうだ。

「集団ヒステリーみたいになってるなって感じますね。恐怖心からだと思うんですけど、何か盛り上がって生き生きしてるような印象も受ける。ネガティブな内容がすごく多いから、SNSもあまり見ないようにしてます。とはいえ物事には多面性があるので、そういう意見も完全には否定できない。誰もが誰もを不幸にしようとしているわけではないので、よりよくしていこうってマインドでみんなが動いていく必要があるんじゃないかな」

 そんな状況下で自身の価値観や思想が変容したことは? 

「まったくないですね。急に何かを変えようとする人を見ると、浮き足立っているなあと思います。それだったら今までも言っていてほしい(笑)。もちろんより差し迫った選択が増えると思うので、そう言ってられない部分もあるんですけど、やっぱり何かが180度変わるみたいなことってちょっと違うと思うから、冷静にいたいですね」

 世界に目を向けると、ドイツ政府が「アーティストは生命維持に必要なのだ」とすぐさま支援した一方、日本の文化芸術への保障はままならない。当事者として思うことは?

「個人的に芸術に金を出せというようなことは、そもそも期待してないというか。品がないから、文化を保護しろなんてことを俺ら自身が言うべきじゃないなってのは本音としてあるんです。今の広がりを考えたら、この状況に合ったことをやったほうがいいんでしょうけれど……大航海時代じゃないけど、これから結構大変な時代がやって来る。時代の回転軸も変わるから、いろいろ考えて見極めなきゃいけない」

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10年代の終わりを駆け抜け20年代の初めに世界を見る

時間を少し戻そう。2019年は、まぎれもなくKing Gnuが日本の音楽をかき回した筆頭だった。1月に『Sympa』でメジャーデビュー、2月に「白日」の大ヒット、5月に自身が率いるmillennium parade始動、その合間を縫って怒涛のライブ活動やCMタイアップ曲制作を手がけ、年末にはNHK紅白歌合戦に初出場。そして2020年が明けるとニューアルバム『CEREMONY』をリリースし、それを引っ提げて全国ツアーがスタートする矢先だった。

「今回King Gnuとしては珍しく、凝った演出のライブを計画していたんです。それが飛んだのが痛い。ゲネも完了してたので、メンバーもスタッフも『ここで止まんの!?』って感じでしたね。King Gnuがここまで大きくなったのは、本当にチーム、メンバー、お客さんみんなのおかげ。最初に考えたコンセプトどおりになってきているし、当初思い描いていた理想がどんどん実現しつつある。曲もちゃんとお客さんのものになっていってると思うし、ステージでの振る舞い方だったりお客さんとの対話だったりが、よりバンドとしてうまくできるようになってきたかな」と八面六臂の日々を振り返る。

 King Gnuのこれからはどうなっていくのだろう。近日公開予定の映画『太陽は動かない』の主題歌「泡(あぶく)」は原点回帰とも取れるが、「ロックバンド」としての現在のモードは?

「映画の延期に合わせて主題歌のリリースも延期になってしまったので、曲の意味合いも変わってくる。だから今後はもっと違うアプローチの曲を準備しなきゃいけない。今はmillennium paradeのアルバム制作のタイミングなのでKing Gnuはノータッチですけど、時期が来たら届けられれば。実は2〜3年かけて、millennium paradeやPERIMETRONで海外に出ようと思ってるんです。徐々にチームでそっちの目線に切り替えだしてる時期でした」

海外を見据え新たなステージへ 日本から同時代を挑発する

映画やテレビだけでなく、ファッションやアニメーションなど他領域とのコラボレーションも活発だ。実は常田は東京藝術大学でチェロを専攻していたチェリストでもある。今年2月にNYで行われたN.HOOLYWOODのショーでは、自身が書き下ろしたエモーショナルな楽曲をチェロで生演奏した。

「本来ファッションショーって低体温なほうがかっこいいとされてると思うんですけど、俺の中で肉体性は絶対必要。もっと洒落た感じにもいけたかもしれないですが、どうしても肉体的なサウンドやビジュアルを出したくなっちゃいますね。やっぱり人は『人間』に感動するものだと思うので」

 常田はたびたび川久保玲への畏敬を口にするが、ファッションから見る音楽の理想について、こう語る。

「あの時代のファッションの人たちは本当にすごい。単純に日本で作ったプロダクトが海外に出ていくときのモデルケースとして捉えています。音楽もジャパノイズみたいにアンダーグラウンドで日本から海外へという動きはあるけど、オーバーグラウンドではないですからね。ファッションっていちばん時代を追うアンテナを張っていると思うんですけど、ジブリがトレンドを追っていないように、音楽は本来それとは違う領域に行かなきゃいけない。かといって時代性が伴ってないと面白くないので、もっと人間の根本へのアプローチを探りつつ、自分のバランスを見つけたいと感じてます」

 オーバーグラウンドで日本から世界へ。そんな期待を持たせてくれるのが、millennium paradeの動きだ。Netflixで世界同時配信のフル3DCGアニメ「攻殻機動隊SAC_2045」のオープニングテーマに、きらびやかなデカダンで彩られた楽曲「Fly with me」が起用されたのだ。

「なんだかんだ金が世界を回してるっていう、はからずも現在の状況にリンクする歌詞になってて、これこそ今出すべきものだと思っています。この曲のMVはmillennium paradeのメンバーであるPERIMETRONで作っているんですけど、本当にやばいレベルに達してます。俺らの世代の若者が、日本でこういうクォリティの作品を作っているって意味でも、かなりの衝撃を与えられるんじゃないかな。日本人の俺たちが何を作ったら面白いんだろうとずっと考えていて、その集大成というか。それを出せるのがこの状況にあって唯一の救いですね」

 millennium paradeは、フィジカルを浮き立たせるためのデジタル表現がちりばめられ、終末感漂うサイバーパンクSFを彷彿とさせる世界観が魅力。

「最近、イギリスでは人間が外に出てない分、ヤギが街にあふれているらしいんですよ。わりと俺らが描いてきた世界観に近い状況になってるなって」

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熱狂を生み出す人間の冷静で俯瞰的なまなざし

それにしてもロックバンドに先端プロジェクト、クリエイティブチームにチェリスト……どうやって頭の中を切り替えバランスを取っているのだろう。

「切り替えって感覚はなくて、『誰と会話するか』みたいな話に近いと思う。やっぱり自分の体を通してるんでね。サウンドや世界観のチョイスは似てくるし」と根本は通底していると話す。

「インスタとかで『みんなつながろうぜ』みたいな活動は、俺はしたくないですね。なんか学校みたいで」という常田。個として表現と、他者と、社会と、どのようにコネクトしていきたいと思っているのか。

「音楽や何かを作るときにいちばんの原動力になるのは、自分と同じようにそれをかっこいいと思ってくれる人に出会うこと。それがこの仕事をしていて幸せなことなので、同じように感じてくれる友達をつくって、その輪を広げたいですね」

 2020年代に入り、すぐにウイルスの脅威に見舞われた現在。それでも常田は熱い矜持を持ちながら、冷静に、俯瞰的に、自身の表現を探究し続けようとしている。生きていれば、人生のシナリオはいつなんどきでも書き直せる。平穏な日々に戻ったときに、ライブで、音源で、見たことのない表現で、ほとばしるクリエイティビティをまざまざと見せつけてくれることを、今は楽しみに待ちたい。

DAIKI TSUNETA/つねた だいき1992年生まれ、長野県出身。東京藝術大学でチェロを専攻したのち、音楽活動を開始。4人組ロックバンドKing Gnu、音と映像の先鋭的コレクティブmillennium parade、デザイナーや映像作家からなるクリエイティブ集団PERIMETRONの中心人物。さまざまなアーティストやクリエイターを巻き込み、音楽、映像、アート、ファッションと領域をまたいで活躍している。

「Fly with me」millennium parade(ソニー・ミュージックレーベルズ/発売中)

SOURCE:SPUR 2020年7月号「常田大希は、静かに熱い」
interview & text: Annie Fuku photography: Kosuke Ito, Ayumu Kosugi