2021.01.22

上野千鶴子さん、日本で女性がもっと活躍するにはどうしたらいいですか?

いまだ分厚いガラスの天井に行く手を阻まれている日本の女性たち。問題の根源は一体何なのか。そしてそれを突き破るにはどうしたらいいのか。女性学、ジェンダー研究の第一人者・上野千鶴子さんに伺った。

今は女性も働くことがデフォルト。男性の意識も変わりつつあります

 #MeToo運動をはじめ、ここ数年フェミニズムの機運が高まっている日本。

「風向きは変わりましたね。2000年代以降、フェミニズムは冬の時代が続いてきましたが追い風になったと思います。理由のひとつは世代が変わったこと。今50代から上の女性たちにはフェミニストと名乗るのは損だと思ってる人が多いんじゃないでしょうか。男の敵だと思われたくないからやめておこうと。それでフェミは下火になってしまいました。ところが今の若い人たちは、これまでのフェミの歴史は何も知らないけれど、その代わりバッシングも経験しなかった。フェミニズムといえば、エマ・ワトソンだとか、韓国から始まってるという人が登場してきた。それが大きいと思います」

 背景にあるのは、女性の高学歴化だ。

「女性の大学進学率は、今や5割近くになって、自信をつけたんですね。私の周りには、女より男のほうが優秀だなんて思っている女性はいませんよ。ゼロです。そういう平等感覚を身につけた女性たちが育って、女性差別に我慢できないと言い出したのでしょう」

 また、日本経済が落ち込み、この20年で年収が増えるどころか減ったことも男女の立ち位置に変化をもたらした。

「上の世代は、男を立てておけば、おごってもらえるとか得することが何かあった。でも今は不景気だからおっさんにすり寄っても何もいいことがない(笑)。むしろ女性も働くことがデフォルトになっていて、自分で稼がないといけない時代です。男性と対等であるという意識が強くなって当然ですね。一方、男性側も変わってきました。妻に稼得力、つまり稼ぐ力を求めるようになってきた。妻に収入があると家計の規模が変わることを男たちは実感しているので、『仕事は辞めて家にいてくれ』なんて言う男性が減りました」

意思決定ができる地位に女性が就いて政治や制度を変えるしかない

 とはいえ、一歩社会に出れば、性差別の構造はいまだ歴然としている。特に70年代から欧米同様、ネオリベラリズム政策がとられるようになり、男女格差にさらにゆがみが生じることに。

「ネオリベとは、経済の自由化・効率化を徹底し、国家による福祉や公共サービスは最小化するという考え方ですが、日本でも『女性が輝く社会』などと社会進出を促しながら、低賃金の非正規雇用など、都合のいい労働力として女性を使っています。また、女性を労働市場に引っ張り出すために、家事・育児・介護の負担を減らすことをこの50年、各国はやってきましたが、日本は無策だったんですね。ナニーやメイドをお金で雇うケアの市場化も、育児や介護をパブリックサービスが提供するケアの公共化も、どちらも日本はやってこなかった。あるのは祖母力や親族ネットワークでケアするというアジア型の解決方法。しかしこれでは出生率は上がらず、女性の地位も向上しませんでした。それでも日本政府はこの30年、何の手も打ってこなかった」

 では、膠着したこの状況に風穴を開けるにはどうしたらいいのか。「それは意思決定ができるポジションに女性が就けるようにして、制度を変えるしかない」と上野さん。しかし政治も企業も見渡す限り、おじさんだらけだ。

「クオータ制(議員や会社役員の女性の割合をあらかじめ一定数に定める制度)を採用している企業もありますが、日本では強制力も罰則規定もない。本気でやる気がないんですね。データを見ると役職や管理職に女性を増やすと、企業の業績が上がるというエビデンスがたくさん出ているんです。だとしたら経済合理性が高いほうに動くのが当然なのに変えようとしない。つまり彼らは、経済合理性とは別の理由で動いているとしか考えられません。では、それは何かというと、ホモソーシャルな組織文化を維持すること。そこに利益を見いだしている人がたくさんいるということです。そのため査定評価において、能力や意欲より組織ロイヤルティ(忠誠心)を高く評価しているのでしょう。女性が出世しない理由は、おじさんたちが女性の組織ロイヤルティに疑わしさを持っているからだと思います。だって女性たちは、会社や組織と心中する気はないでしょう?(笑)でもこのまま日本が変わらなければ、国際競争力もどんどん落ちて、〝巨艦日本丸沈没〟となるでしょう。私たちは今おっさん連合と沈没していく泥船に乗っています」

 おっさんと無理心中!? それだけは避けたい! なんとしても男性中心社会を変える必要がありそうだ。

「30年のツケは30年かけないと取り戻せないかもしれません。それでも自分の子どもたちに、もう少しはマシな社会を手渡したいと思うなら、一歩一歩政治と制度を変えていくしかありませんね」

【 日本女性活躍の「現実」 】

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1 部長クラスになると、女性の比率が激減。「女性を積極的に登用するクオータ制に強制力を持たせる必要があると思います」

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2 ジェンダーギャップ指数が、世界121位と先進国の中では最下位の日本。特に政治家における割合は低く、この20年、10%前後と横ばいで、無限「おっさん政治」状態。北欧が羨ましい

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3・4 90年代から女性の非正規雇用者は増え始め、今や6割近くに及ぶ。また男女の賃金格差も80年代から依然として開いたままだ。「日本の労働市場では、ジェンダーが他の国における人種や階級の機能的等価物(同一機能を果たすもの)として作用している。それが日本の女性が苦労している理由です」

 

Profile
うえの ちづこ●1948年生まれ。社会学者・東京大学名誉教授・認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。1995年から2011年3月まで、東京大学大学院人文社会系研究科教授。専門は女性学、ジェンダー研究。近年は老人の介護とケアの問題にも取り組んでいる。

SOURCE:SPUR 2021年2月号「彼女たちはどう闘うか」
text: Hiromi Sato photography: Naoki Seo (still), AFLO

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