「ReiNaっていったい何者……?」。NCT Uの「Make A Wish(Birthday Song)」のPVが公開された後、一度見たら頭から離れないその独特な振付を手がけたのが19歳の日本人ダンサーであると判明するやいなやインターネット上に激震が走った。ダンス解説に定評のあるダンサー兼YouTuber、ARATAさんをインタビュアーに迎え、恐るべき才能の正体に迫る
カバーダンスを見て感動
「この仕事の魅力は何ですか?」という問いには、「アーティストの方々が輝いて踊っている姿を見られること。ゼロから作った振付が彼らを通じて世の中に広がること。私の部屋で作ったあの振付が、地球の裏側に住む人にまで伝わってカバーダンスされているのを見ると、世界はつながっている!と感じます」とReiNaさん。
初めてのオファー
初めて振付のオファーが来たのはStray Kidsの『Back Door』という曲。メールが来たんですが、差出人がJYPになっていて最初はニセモノかなって疑ったんですけど(笑)、RIEHATAさんにも確認して本物だとわかったんです」
人気YouTuber ARATAとReiNaのスペシャル対談が実現!
Interviewer ARATA
1992年、東京都生まれ。さまざまなアーティストのダンスを楽しく解説するYouTubeチャンネル「ARATA DANCE SCHOOL」で、大人気を博しているダンサー、振付師、演出家、脚本家。CMやテレビ番組への出演も多い。
ARATA(以下A) ご自身のダンスの持ち味はどこにあると思いますか?
ReiNa(以下R) ジャンルとしてはヒップホップで、5歳からダンスを始めました。小5からバトルに出ていて、フリースタイルも振付もできるのが一番の武器。振付を考えるときもフリースタイルの感覚を思い出しています。
A 振付師としてはいつから?
R 高校1年生のときに海外でワークショップを行うようになったんですが、海外アーティストの振付は、部分的に担当したStray Kidsの「Back Door」が初めて。NCT Uの「Make A Wish(Birthday Song)」の場合は、突然SMからメールが来て「4日後にできますか?」と訊かれたので大変でした(笑)。でもそういうオファーをいただいて、「私って振付師なんだ」と初めてちゃんと実感が湧きました。
A では早速公式のYouTubeダンスプラクティス動画を一緒に見ながら、「Make A Wish (Birthday Song)」の振付を深掘りしていきましょう。
R この曲にはMelvin Timtimさんと私の振付が使われています。私の担当はまずは25秒目あたりから。
A あー、ちょっといいですか? ここ、すごかった! 0:30のジェヒョン君の手を払うしぐさはいったい……?
R 手先だけの動きならみんなでまねできるし、覚えやすいかなと。ジェスチャーのひとつですよね。たとえばお金の話をしていたら親指と人さし指をこすり合わせる振りを入れたり。
A 「Let,s start~」(0:46)もヤバい。シンプルなボディウェーブだけど体の角度などで表情が変わりますね。
R この前はラップ調で、ここからハイトーンの歌が始まりますよね。一気に曲調が変わったことを見せるためにウェーブを使ったんです。方向を変えたのは、動いている歌のメロディが「見える」ようにしたんです。
A 声の「軌道」の表現ってことですね。0:52からの動きは、カバーダンスで人気。実際に踊ると「来る! 来る! 来たー!」って盛り上がる(笑)。
R うれしいです。実は後ろでスネアの音がチッチッチッて鳴っているから、合わせて肩を小刻みに動かしてちょっとバイブしているふうにしました。
A 「Back it up, back it up」(0:58)で後ろに下がる動きにも痺れます。
R ここはヒップホップぽくって、K-POPにはない新しい歌い方だと思ったんです。この歌を引き立てるには、跳ねるのがいいのかなと。見ている人もノリやすそうだし。
A そうなんです。こっちが思わずそう動いちゃう動きを振付で取り入れて、見ている人のモチベーションを誘導している。そして1:00からのサビ!
R 振付ってワン、ツー、スリーとビートに合わせることが多いけど、ここではワン・エン・ツー・エン・スリーのエンの部分の裏のリズムを表現しました。普通サビって力みがちだけど、あえて前に出したくなるところをハズして踊ったらかっこいいかなと。
A 確かに! 表情にゆとりがある状態で踊っているから、曲のフィーリングにも合っているし。そして1:02の、指さす手の動きも要注目です。
R ちょっとウェーブを取り入れながらやると、セクシーかなって。
シンプルで記憶に残る振りを
「アーティストが一番輝く振付を作りたいので、彼らが好むスタイルをYouTubeを見たりしながらリサーチします。簡単なのにトリッキーなことをやっているように見せたり、なるべくシンプルでもかっこいい振付になるように心がけています」。
K-POPのトレンドとは違うところを走る天才
A このあとの「アカウォ、アカウォ」(1:03)のパートも好き! 通常のリズムより一歩深めのリズムを、細かく刻んでいくような演出ですよね。足とともに前にもたれるような、ダルさみたいなものが出ていて。ちょっとズルいなって思っちゃうかっこよさ。
R 自分の振付をこんなに細かく解説してもらったのは初めてです(笑)。
A いやー、本当に好きなので、超楽しい! ReiNaさんの振付には日本人にはない感覚があるなと感じたりもします。裏のリズムを取ったりして。しかも、今のK-POPのダンスのトレンドとはまったく違うところを走っていて、ものすごく異質で、天才です!……おっ、「No more sign ya」(1:06)の跳ねる感じは何です?
R 私は振付するときに、外から見たときの絵を考えるんですよ。ずっと正面を見ているとつまらないし、角度を少し加えると動きに立体感が出る。だから横向きにして、「it's gonna be alright」(1:09)で手は固定してそこに腰を持ってくるという感じ。
A そしていよいよ2:21で手を合わせるジェスチャーが登場。これは一度見たら頭から離れない!
R もうこれはタイトルどおりに“make a wish”という感じで、すぐに思いつきました。一番に決まったくらい。すごく考えて何度もやり直した振付はあんまりよくなかったりして、直感的に決まった振付のほうが後々バズるんです。まさにそういう例ですね。
A ダンス・ブレイクはテヨン君のソロから入りますが、2:44でショウタロウ君が出てくる。この迫力と、足を引っこ抜くような感覚がいい。
R 低く響く曲調だから、重心を低くしたんです。地面に近くなるほど、ダンスって重たく見えるんですよ。
A そして1回目もそうでしたが、再び「デ~イ」を強調していて、歌とサウンドの取り方が絶妙!
R 振付で歌詞を取るのかトラックの部分を取るのか、人によって多分意見が違いますよね。でも「絶対にこっちしかない」って誘導したかった。
A でも2:48からは「チャチャチャ」で音を取る。「デ~イ」で歌詞を取ったまま続けないんかい!っていう。
R ここの「チャチャチャ」の動作は、フリースタイルならではの脳の使い方ですね。自分が振付の仕事しかしてなかったら発想しなかった。
目標はダンスを通じて誰かの原動力になること
R あと、3:03は曲を聴いたときにブレイキングぽいと思って、すぐにみんなでステップを踏んでいる絵が浮かんだんです。ほら、ストリート・ダンサーがよくやるじゃないですか。K-POPというエンタメの世界で活躍している人たちが、ストリートな雰囲気を見せたら、新鮮かなと思ったんです。
A 確かに。3:15の、シャオジュン君の音が戻ってきて首を戻すのも最高です。
R そう、巻き戻しみたいな。
A 映画『テネット』みたいですね。このあとの「Hit that line」(3:18)で、一番騒ぎました。K-POPは、最近はラストのサビで振付を大幅に変えないことが多いけど、これは全然違う。この足と手の動きはどういう発想ですか?
R サビは毎回同じだとつまらないし、こういう足をパカパカさせる動きでちょっと恐竜っぽい異様な形を作ると、印象に残るかなと思ったんです。
A もうね、絶妙すぎるんですよ。こんなダンス、ほかにないから。そして「Hit that」(3:18)のあと、「ラ~ イン」(3:20)で、なんと下げるんです。下げちゃったよ! しかも頭から! めちゃくちゃかっこいいです!
R こんな反応、初めてです(笑)。
A 次にまた手を合わせたあとの3:32からの組み立てもいいですね。普通なら、怖くてこんなに同じこと繰り返せない。テヨン君に至っては最初から最後まで同じステップ。繰り返しが多いのは今回の振付の特徴だと思います。
R ダンサー目線だと次々違う振りを盛り込みたくなるかもしれませんが、家族に訊いたりするとこれくらい繰り返してちょうどいいと言われる。長く見せることでやっと頭に焼きつきますし、ダンスをやっていない人からどんなふうに見えるかを考えてます。
A わ〜、これはスゴいことを聞いちゃった! 参考になります。
R ちなみに足を内側に入れるステップは、アメリカではやっているんです。新しいユニットだから、アメリカ人が見ても「yeah!」となるようなものを発信して、NCTを通して、アジア人でもこういうことができるんだと世界に伝えたかった。そういう意味で今回は、トレンドのスタイルとオールドスクールなヒップホップ系のスタイルを組み合わせているんです。
A それから、ここ! 3:47からの、この手はいったい何ですか!?
R ファンの方たちが遊びでできると思って、横に並んで願いを隣の人にどんどん渡して、最後にルーカス君に託すような流れを作ったんです。みんな同じ動きで、わかりやすいですよね。
A ほんとですよねー。はー、本当に勉強になりました。最後に、今後の意気込みを教えてください!
R 私は人の心を動かすことを常に考えています。たとえば映画を観て「あの場面にめっちゃ食らったね」って心が動くことがありますよね。私はダンスでそれを伝えたい。実際「ReiNaちゃんのダンスを見て受験頑張ろうと思った」とインスタグラムで言われたこともあって、そんなふうに誰かの原動力になれることが私の夢であり目標です。
POPPINとHIP HOP
「中学生のときにBROTHER BOMBさんとKITEさんのPOPPINのプライベート・レッスンを受けていました」(ReiNa)
「やっぱり! POPPINはロボット・ダンスと呼ばれたりもしますが、そのエッセンスを振付に感じます。BROTHER BOMBさんとKITEさんは業界でもめちゃくちゃコアな方ですよね。ヒップホップとPOPPINはとびきり強い掛け算だと思います」(ARATA)
「これも自分のダンスの持ち味のひとつなのかも」(ReiNa)。
ReiNa
2001年生まれ、東京都出身。5歳でダンスを始め、現在はavex ROYALBRATSなどのダンスチームに所属するほか、フランスのCriminalz Crewにアジア人として初めて加入。振付師として活躍する傍ら、国内外のアーティストのライブやMVにもダンサーとして出演。
SOURCE:SPUR 2021年4月号「世界が驚くコレオグラファー ReiNa躍動する19歳」
model: ReiNa interview: ARATA photography: ISAC〈SIGNO〉 styling: Ai Suganuma hair & make-up: Momiji Saito〈eek〉 text: Hiroko Shintani