2021.04.17

佐久間Pとジャンプ編集長が初対談「おやつ論・シゴト考」

果たしておやつとは単なる甘味なのか? いや、それ以上の何かがあるはずだ! テレビと漫画、ニッポンのエンタメを最前線で牽引するプロデューサーと編集長。同世代であり、実は大の甘党であるふたりが、愛するおやつと手土産のこと、そして情熱の仕事術からエンタメの未来まで、本音でクロストーク!

佐久間Pとジャンプ編集長が初対談「おやつの画像_1

SAKUMA’s OYATSU(右)

リベルターブルのクリスタル
森田一頼シェフが、伝統を守りながらも自由な発想で解釈したスイーツを提案。「食感のいいナッツ、ほろ苦いキャラメルを加えたプラリネクリームがうまい。絶品のシュークリームです」。
1個¥388 03-3583-1139

NAKANO’s OYATSU(左)

パティシエ エス コヤマのプレミアムフィナンシェ
100%兵庫県産小麦とフランス産ボルディエバターを贅沢に使った逸品。「初対面の方や、ここぞというときの鉄板手土産です」。プレミアムマドレーヌと各5個セット。
1箱¥3,996 079-564-3192 https://www.es-koyama.com/

テレビ東京プロデューサー
佐久間宣行さん
さくま のぶゆき●1975年生まれ。テレビ東京プロデューサー。担当番組は「ゴッドタン」、4月期ドラマ「生きるとか死ぬとか父親とか」など。ラジオ「オールナイトニッポン0」では水曜日のパーソナリティも務める。2021年3月末でテレビ東京を退社。
週刊少年ジャンプ編集長
中野博之
なかの ひろゆき●1977年生まれ。『ONE PIECE』『鬼滅の刃』『呪術廻戦』など、ヒット作を生み出す週刊少年ジャンプの第11代編集長。2017年より現職。編集全般を統括するほか、作品のアニメ化や映画化などのメディア展開、イベント等にも携わる。

SAKUMA’s OYATSU

佐久間Pとジャンプ編集長が初対談「おやつの画像_2

ロッテのトッポ〈ビター〉
プレッツェルの中にビターなチョコレートがたっぷり。「コンビニスイーツも大好き。リモートワークのおともに欠かせない、僕のスタメンおやつです」。
オープン価格 0120-302-300(ロッテお客様相談室)

NAKANO’s OYATSU

佐久間Pとジャンプ編集長が初対談「おやつの画像_3

アトリエ サブレヤのアトリエ アソート
素朴な風味と食感、豊かな味が魅力のサブレ。「焼き菓子が好きでして……最近のお気に入り」。
1缶38個入り¥3,240 03-3211-4111(代)(日本橋髙島屋 S.C.本館) https://www.takashimaya.co.jp/shopping/

SAKUMA’s OYATSU

佐久間Pとジャンプ編集長が初対談「おやつの画像_4

フルーツパーラーフクナガのフルーツサンド
注文を受けてから作る、果物がぎっしり入ったフルーツサンド。「コロナ禍の間だけテイクアウト可に。すばらしい店で、ずっと続いてほしいからこそ積極的に購入しています」。
¥1,000 03-3357-6526


おやつを買って好きなお店に貢献したい。もはやお布施です(笑)
―SAKUMA

デスク脇にはおやつコーナーを。つまみに来る編集部員とのコミュニケーションの場も兼ねます
―NAKANO

中野 コロナ禍により働き方が大きく変化しましたね。ジャンプ編集部では、リモートワークが格段に増えました。校了もパソコンやタブレット上でできるようになったし、社外の方との大人数の会議は、ほぼオンラインに。
佐久間 僕が所属するテレビ東京も、番組の収録以外は、ほぼリモートワークに切り替わりました。あれこれ模索しながら働き方を考える一年でしたね。
中野 残念なのは、アニメのアフレコやイベントなどの現場に伺うことが激減したこと。鉄板の「パティシエ エス コヤマ」などの手土産をお持ちする機会がめっきり減って、甘いもの好きとしては正直、武器をひとつ失くした気分で……。その反動か、編集部の僕のデスク脇には、個人的趣味で“おやつコーナー”を設けているのですが、そこの顔ぶれが少し豪華になりました。おやつを食べに来た編集部員からついでに相談を受けたり、逆に「あの件、どうなった?」と気軽に質問できるので、編集長としての実利をひっそり兼ねております(笑)。
佐久間 いいシステムですね。実は僕がおやつにハマったのは、「TVチャンピオン」のチーフAD時代だったんですが、当時のケーキ職人選手権大会で、好成績を収めていたのが「パティシエ エス コヤマ」の小山シェフでした。
中野 僕も『NARUTO』のメディア担当時にアニメの企画でお世話になり、それ以来のおつき合い。奇遇ですね! ところでリモートワーク中はどんなおやつを召し上がりますか?
佐久間 月曜と火曜は自宅でオンライン会議を詰め込むので、合間につまみやすいおやつをスタンバイしています。スタメンは「ロッテ」のトッポや「有楽製菓」のブラックサンダー。コロナ禍前は、すきま時間やヘビーな打ち合わせの前後にひとりでおやつ巡りをしていましたが、今はイートインを中止していたり、時短営業中のお店も多くて。だからこそ収録や編集作業で外出する日は、現場近くのお店のおやつをテイクアウトするようにしています。
中野 おお、気になりますね。
佐久間 「リベルターブル」の焦がしキャラメルが入ったシュークリーム、辛党も好きそうな黒トリュフ入りのマドレーヌは特においしかったです。お酒にも合うし。仕事終わりの僕のルーティンは、毎晩好きな映画を観ること。鑑賞しながら、ブログがめちゃくちゃ面白い「ワインブティックヴァンヴァン」から取り寄せたワインとおやつを味わうのが、至福のときです。
中野 スイーツとお酒、合いますよね。僕はサブレが大好きで、終業後は自宅でそれをつまみつつ、お酒を飲みます。最近のヒットは、デパ地下で見つけた「アトリエ サブレヤ」ですね。
佐久間 あとはコロナ禍という状況下、名店が閉店してしまうのは非常に悲しいし非常に困る! 貢献の意味を込めて買うことも増えました。果物店が営む「フルーツパーラーフクナガ」のフルーツサンドは少人数で集まる際に。また、今はファミレス業界も苦境に立たされていると思うので、「ロイヤルホスト」のパフェをさくっと食べに行ったりも。もはやお布施ですね(笑)。
中野 その気持ち、よくわかります。これまでは場所や人数を考慮し、その場にふさわしいおやつを選んでいましたが、今は“個包装で、ある程度日持ちがする”という+αの条件も加わりましたよね。僕のおすすめは「ノワドゥブール」の焼き菓子や「オードリー」のグレイシア、ニューフェイスだと「菓匠三全」の萩の調 煌 ホワイト あたり。“東京駅限定の萩の月”なので、会話のきっかけにもなります。
佐久間 タレントの朝日奈央さんとマネージャーさんが差し入れしてくれた「ザ・スウィーツ」のキャラメルサンドクッキーはおいしかったなぁ。その都度スマホにメモしてしまうほど、朝日さんはスマートなおやつをくださる。ちなみにその真逆が野呂佳代さん。食べるのに15分かかるようなコテコテのおやつを持って来てくれます(笑)。
中野 おやつがきっかけで会話が広がることも多いですしね。
佐久間 本当にそのとおり。「どこで買えるの?」「早く食べたほうがいいですよ」なんて会話が飛び交うと、現場の空気が一気にやわらぎ、不思議と仕事もスムースに進むんです。あの頃が懐かしいし、コロナ禍のせいで差し入れるのを泣く泣くあきらめるおやつが増えたのは、少し切ないですよね。

SAKUMA’s OYATSU

佐久間Pとジャンプ編集長が初対談「おやつの画像_5

ロイヤルホストの苺のブリュレパフェ
「個人的にロイホが大好きで、仕事の合間をぬってひとりでブリュレパフェだけを食べに行くこともあります」。ブリュレや生のいちご、シャーベット、ソースが多彩に折り重なる。
¥968 0120-862-701(お客様相談室)

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佐久間Pとジャンプ編集長が初対談「おやつの画像_6

菓匠三全の萩の調 煌 ホワイト
「デパ地下や駅ナカも頻繁にチェックします。こちらは銘菓『萩の月』の東京駅限定のおやつ」。白いカステラ生地の中にはホワイトカスタードクリームがたっぷり。
6個入り¥1,200 0120-22-3000

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佐久間Pとジャンプ編集長が初対談「おやつの画像_7

ザ・スウィーツのキャラメルサンドクッキー
ギフトカタログでおなじみ、「シャディ」のオリジナル商品。「タレントの朝日奈央さんから。話題のおやつの中でも特においしかった」。
12個入り¥1,620 0120-21-4801(シャディギフトモール) https://shaddy.jp/marche/caramelsand/


自分の視点にとらわれず誰かの「面白い!」も信用してみる
―SAKUMA

編集者はひとりでは何もできない。その〝報い〟をおやつに込めます
―NAKANO

中野 わかります。編集者は、自分ひとりでは何もできず、多くの人に支えられて成り立っている職業。みなさんに割いていただいた貴重な時間を、自分はどう使ってお返しし、報いるか? 答えのひとつが手土産でした。だから手ぶらで現場へ向かうと、申し訳ないというか、やはり武器を失くした気分で……。せめてもの気持ちを伝えるために、たとえば尾田栄一郎先生にはチョコレートをお渡ししました。一方で実体験がしにくい今、旅行と比べると、気になるおやつを探し、食べることはトライしやすい。おやつは人生を豊かにしてくれるものだから、前向きな気持ちで出合っていきたいですね。
佐久間 ですね。僕は栗好きが高じ、2年前からスイーツビュッフェという禁断の沼に片足だけツッコんでおりまして。コロナ禍が明けたら早く飛び込みたいような、一方で“マロンフェアに嬉々として通っちゃうおじさんってどうなの!?”という若干の不安を抱えながら、その日を待ちたいと思います(笑)。話は変わりますが、オンライン会議って、承認が主体の会議には向いているけれど、企画会議のようなブレストには向いていないなと思っていて。関係が密な漫画家と編集者は、どのように打ち合わせしていますか?
中野 コロナ禍初期は、漫画家に会うことを制限したので、打ち合わせは基本リモート。これを機にデジタルへと移行した先生も多く、原稿の受け渡しもデータで行えるように。ただ、先の展開など深いところまで突き詰める場合は、顔をつき合わせて何時間も話し合うことも重要で。今はなんとか、これまでの貯金でやっている感じです。
佐久間 デジタルだと、締め切りギリギリまで作業できるからこその欠点も?
中野 ありますね。生原稿だと先生の横で編集者が何時間も張りつき、必要であればお手伝いもできましたが、デジタルだと、担当は編集部などで震えながら待つしかない(苦笑)。
佐久間 うーん、一長一短ですね(笑)。
中野 ところで、佐久間さんは若手芸人など水面下に潜む才能をいち早く見いだし、新しいものを生み出していますよね。そのコツは何なのでしょうか?
佐久間 40代半ばにもなると、好き嫌いはある程度はっきりしてくるので、つい好みの作品ばかりを選びがち。だからこそ、鑑賞前に予断せず、たとえ好みじゃなくても最後まで観てから判断しています。おかげで面白いと思える世界が広がりましたね。それからプロデューサーの立場で仕事をするときは、スタッフの「面白い!」を一度受け入れる。自分の視界には限界があるから、他人の視界も信用し、いろんな価値観をごちゃ混ぜにしたいな、と。
中野 同感です。僕は最終的な判断をする立場ですが、最前線でバリバリ描く漫画家、先生と二人三脚で作品と向き合う担当編集が一番強い。細かい判断は控え、スタッフの偏愛をできるだけ優先します。幸いジャンプには、「とりあえず試そうぜ。コケたら仕切り直せばいい」という考えや土壌があるので、それを続けることが新しい作品作りにつながるのかな、と。
佐久間 テレビ業界はもう少し複雑で、視聴率優先で番組を作ると、センスとして新しいものではなく既視感があるものばかりで構成されるし、出演者と距離が近づきすぎるとバグを起こすことも。劣化を避け、目新しい作品を生み出すためにも、タレントさんとは極力収録現場でしか会わないようにしています。面白いかどうかで判断するフラットな状態を保つことで、多くの人が活躍できる場をつくっておきたいんです。
中野 徹底するのには、何か理由が?
佐久間 情がうつるというか(笑)。どんなに仲よしの芸人のネタでもばっさりカットできる人もいますが、僕はそれができない性格でして。精神衛生上、そこは貫いてます。
中野 そうなんですね(笑)。落ち込んだりすることもあるんですか?
佐久間 ありますあります。そんな日は、『HiGH&LOW』みたいなアクション映画を観て、サウナ行って、ビール飲んで。スマホの電源を数時間切って情報を遮断し、軽く行方不明になります。他人に不機嫌を見せるのは、申し訳ないですし。
中野 僕はこっそりクヨクヨ派ですが、なんとか自分を客観的に見て“いずれギャグになる”と思うようにして、痛みの回復を待ちます(笑)。話は戻りますが、佐久間さんが今、面白いと思う芸人さんは誰ですか?

NAKANO’s OYATSU

佐久間Pとジャンプ編集長が初対談「おやつの画像_8

ブルガリ イル・チョコラートのチョコレート・ジェムズ
フルーツ&リコッタチーズ、 アーモンドプラリネなど一粒ごとに多彩な味が広がる。「『ONE PIECE』の連載1000回記念として尾田栄一郎先生に贈りました」。
5個入り¥5,701 03-3567-1211(松屋銀座店)

SAKUMA’s OMIYA

佐久間Pとジャンプ編集長が初対談「おやつの画像_9

バロンのアロマスプレー for マスク
「おやつを差し入れしにくい今、ライブや舞台の出演者にはマスクスプレーを贈ることも増えました」。“フォレストブレンド”はじめ全3種。
50㎖¥2,145 03-3497-0585(ライブラリーデザイン) https://ballon.jp

NAKANO’s OMIYA

佐久間Pとジャンプ編集長が初対談「おやつの画像_10

『無趣味のすすめ 拡大決定版』
「人生を揺るがすような充実感や達成感は、リスクや絶望と隣り合わせにあり、それは仕事の中でしか味わえないという村上龍さんの名エッセイ。就活生やインターン生におすすめしています」。
¥502 幻冬舎文庫 


面白いもの、おいしいものが世の中に増えてほしい。僕の人生の楽しみのために
―SAKUMA

「漫画が好き」という情熱だけでは編集者は務まらない。知恵や技術を共有し、プロ集団を目指します
―NAKANO

佐久間 最近だとAマッソや蛙亭、あとはカカロニがいいですね。ただ、売れてほしいけど、その人の魅力を開花させたり、別の扉を開けることは、人生を変えることにもなります。開けたほうが幸せかどうかも含め、判断したいとは思っています。
中野 “丁寧に相手を思う”ことが大切ですよね。それは単にやさしく寄り添えばいいわけではなく、編集者ならば常に新しい武器を探し、漫画家に与えていくことが重要。今は、深い知識やアシスタント経験のない人でもSNS上にアップし、ともすればヒット漫画家になれる時代。ひと昔前の「漫画が好き」という情熱だけでは編集者は務まらないし、力のあるプロ集団にはなれない。少年ジャンプが開設する「ジャンプの漫画学校」は、志望者が漫画の基礎を学べる教育の場。一方で、編集者自身の腕を磨く場としても捉えています。昔は、見て覚えろ! 的な風潮でしたが、僕らは情報や知恵をきちんと形として残し、伝えていくべきだと。
佐久間 テレビ業界でも似た現象が起こっていて、一部の若手芸人に関して言えば、お笑いのマニアが多い。先輩たちのアーカイブから旬の笑いまで、全部知った上で芸人という職業を選んでいるから、並のディレクターではかなわないことも。面白さや磨けば光る能力を理解できず、ネタ見せの際に「わかりにくいんだよね〜」と一蹴してしまったりして。正しくジャッジできる人材が減っているとは思います。
中野 テレビのスタッフや編集者の力が加わることで、個人では想像しえない世界を描けたり、ヒットにつながることもありますし…… そこを目指したいですよね。コロナ禍でお笑いへの意識・価値は変わりましたか?
佐久間 お笑いが必要とされ、新番組も増えていると思います。簡単に分析すると、マニアが作るコアなお笑いがある一方、レジェンドの偉業に縛られてみんながあえて避けてきたネタを、何も知らない20代芸人が気負いなくやってのける。コアとベタが二極化し、乖離している状態なので、それぞれの面白さをすくい上げればエポックメイキングな番組ができると信じています。
中野 ヒットした『鬼滅の刃』はまさに、ベタとコアが同居した作品でした。
佐久間 加えて、お笑い芸人の才能はいろいろな膨らみ方をしているので、別の側面を見てみたいな、と。たとえばアニメの原作とかホラーとか。笑いとは、人を驚かせること。ベースにあるのは裏切りと緊張と緩和なんですが、ホラーも実は同じ構造な気がします。
中野 なるほど! たしかにギャグ漫画家は、サスペンスやホラーを描ける方が多いです。『死神くん』を描いたえんどコイチ先生、『ヒミズ』の古谷実先生もそう。漫画のほうは、在宅時間が増えたせいか投稿者が多少増え、国内外問わずレベルアップしている印象。少年ジャンプに限って言えば、新しい波が来ています。「見たことない!」とときめく、新しい才能や面白い作品であふれているので、今年は大きく舵を切って読者を驚かせたい。時代のトップを走るのは、常に少年ジャンプでありたいと思っています。『無趣味のすすめ』にあるように、人生の充実感や達成感は、仕事でこそ味わえるのかなと、最近しみじみ思います。
佐久間 働くとは、僕にとっては“誰かを活かす”こと。だからこそ番組に出てくれた方には、道が開くきっかけになってほしいし、僕以外の人から次のオファーが来てほしい。同じように、好きな劇団には多くの作品を創作してほしいし、好きな漫画家さんにはたくさん作品を描いてほしいし、好きなおやつは食べ続けたいからつぶれないでほしい。すばらしいと思うものが、世の中にひとつでも多くあってほしいんです。だってそのほうがこれからの僕の人生、幸せだし絶対に楽しいから。
中野 いいものは絶対に届く! そう信じて頑張りましょう。


SPECIAL MOVIE

SOURCE:SPUR 2021年5月号「おやつ論・シゴト考」
photography: Takashi Ehara text: Yukino Hirosawa

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