数々の作品で注目を集め、10月から始まった新ドラマ「SUPER RICH」でも重要な役どころを演じる赤楚衛二。真摯に取り組んできた俳優としての姿勢、一作品ごとにまったく表情を変える演技力も魅力的だ。秋も深まったある日、コートを翻して私の元にやってきたら……? そんなストーリーを演じてもらった
大きな花束を抱えて突然現れた彼
メゾンの代名詞にもなっているトレンチコートは、フロントはロング、バックはショート丈という変形シルエット。後ろ姿ではロングワンピースとフェイクファーのロングベストをのぞかせて。個性的なスタイリングがチャーミングな表情にマッチ。
コンフィなニットで過ごす一日を追いかけて
一緒に過ごす休日は、リラクシングなニットのオールインワンを主役に。柄コートの上にオーバーサイズのブルゾンを羽織り、「重ねる」スタイリングが楽しい時間を盛り上げる。
くるくる変わる表情から目が離せない
シックなコットンのノーカラーコートでやってきた彼。中に着ていたのは、愛らしい表情の子犬を編み込んだビッグニット。意外性のある遊び心が、彼のパーソナリティとリンクする。
あたたかいロングコートでどこまでも行こう
GGパターンのハーフパンツにジョッキーブーツを合わせたトラッドな装いが品格を引き立てる。仕上げにはゼブラモチーフのファーコートを。
彼のまっすぐな瞳は、未来を見つめている
アウトドア調のロングコート。テイストの異なるシルバーの多連ロングネックレスと、大きなブローチをミックスして。アクセサリーの輝きが、瞳のきらめきと呼応する。
“自分に自信が持てるようになって、意見を言うことの重要さに気づいた”
不安や恐怖心は常に感じている
まるで魔法にかけられたみたいだ。ある日突然私たちの目の前に現れて、心をつかんで離さない。俳優・赤楚衛二。解けない魔法に、今多くの人たちが幸せをもらっている。
「今年もあと少しですが、この1年で一番成長したなと思うのは、自分の意見を言えるようになったところ。それまでは自分に自信を持てなくて、何かあっても言いづらかったんですけど、去年、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』に参加したときに、監督と話し合う重要さに気づいて。作品のためになるなら自分の考えを言わせていただきたいというスタンスに変わりました。そこは結構大きな変化ですね」
瞬く間に過ぎたこの1年の変化を振り返る。この夏は「彼女はキレイだった」の樋口役でたくさんの視聴者をときめかせたばかり。そして休む間もなく新ドラマ「SUPER RICH」でGP帯初の準主役を務める。着々と階段を上る一方で、膨れ上がる期待と責任。その重圧とどう向き合っているのだろうか。
「恐怖心はありますね(笑)。前から僕を知っている人たちなら、ちょっとした脇役でも注目してくださると思うんですけど、役が大きくなるにつれて、僕のことを知らない人が見るようになる。その人たちにちゃんといいキャラクターだと思ってもらえるようにしないといけないんですけど、それには説得力のあるお芝居が必要で。自分にできているんだろうかという不安は常々感じています」
赤楚衛二はプレッシャーを隠さない。決して自分を大きく見せようとしない人だ。
「だからいつも作品に入るときはヒヤヒヤするんですけど、現場に立ってしまえば、とにかく全力で挑むしかないんだって気持ちになるんです。どうしようって考えても視界が狭くなるだけだから。それより振り切っちゃったほうが意外といい化学反応が生まれたりする。だから、不安や恐怖心はひとまず脇に置いて、一生懸命やることにフォーカスするようにしています」
今、彼が全力を傾けているのは、「SUPER RICH」で演じる貧乏学生・春野優。私生活から役を自分になじませていくという赤楚流役作りを今回も実践している。
「『かのきれ』の撮影が8月末まであって、『SUPER RICH』にクランクインしたのは9月上旬。あまり時間がなくてどうしようかと思ったんですけど、まず簡単にできることからやろうと思って、贅沢をしないことから役作りを始めました。いつもだったらタクシーで行く距離をあえて歩いてみようとか。そうして贅沢を我慢していると、窮屈さを感じるというか、もうちょっと楽できたらいいのになあというストレスがうっすらと積もってくるんですね。そういう心のどこかに生えた棘が研ぎ澄まされていくような感覚を持って、役に入りました。あとはもう現場でみなさんのことを知りながら、少しずつ育てていこうと思っています」
春野優は、素直で可愛い〝子犬系男子〟という設定だ。
「最初に台本を読んだとき、どうしても人生を変えたいんだという熱量が強すぎて、暑苦しい男になってしまったんですね。これだと子犬でもなければ、見てくださる方が寄り添いにくいキャラクターになるんじゃないかなと思って、ちょっと考え直しまして。熱量も大事だけど、生い立ちに関する悲しみを抱えながらも表には出さず、前を向いて生きている姿勢を見せていこうと。そんなひたむきさに共感してもらえればいいなと思いながら演じています」
役の心情を誠実に汲み取りながら、作品として求められることにもしっかりとこたえる。この絶妙なバランス感覚が、役者としての強みのひとつだ。
「そこは意識しますね。僕は解釈のズレみたいなのがちょっとあるみたいで。『かのきれ』のときも僕がイメージした樋口と、本家の樋口が違いすぎて最初は戸惑いがあったんですよ。だから、なるべくプロデューサーさんや周りの方たちの意見を聞くようにしていて。主観と客観のバランスを保つことを心がけています」
芯がある人はカッコいいなと思う
一方で、ただ役を演じるだけでなく、放送中にTwitterで実況するなど、どうやってドラマを盛り上げるか、宣伝に対する意識も強い。
「僕らの携わっているエンターテインメントは楽しむもの。見て楽しんでもらえないと意味がない。SNSという視聴者のみなさんと距離の近いツールを使うことで少しでも楽しんでもらえるなら、いくらでもパワーを注げるというか、全力で盛り上げていきたい気持ちはあります」
だが実は、以前は真逆の考えだったとか。
「『仮面ライダーアマゾンズ』くらいまでは尖っていまして(笑)。見たい人だけ見ればみたいなスタンスに憧れていたんですよ。だから、SNSもあまり更新していなかったですし、ただ寡黙に作品に没頭している男がカッコいいみたいに思っていたんですけど、そういう時期は乗り越えました(笑)。『仮面ライダービルド』の頃からかな。オンエアが終わると、『楽しかったです』とか『学校行きたくないけど、明日も頑張ります』というコメントがつくようになって。そういう言葉にふれると、やっててよかったと思うし。もっと楽しんでもらうために自分にできることがあるんじゃないかと考えるようになりました」
赤楚衛二には、彼なりの〝カッコいい〟の美学がある。以前から「カッコいい男になりたい」とよく口にしていた。赤楚衛二が思う〝カッコいい男〟とはどんな男だろうか。
「芯がある人。自分の価値観や世界観を持っている人ですね。僕がやわらかすぎるので、いい意味で頑固というか、ある種の硬質さを持っている人に憧れます」
そう言って名前を挙げたのが、舞台『民衆の敵』で共演した堤真一と、「仮面ライダーアマゾンズ」で共演した田邊和也という二人の先輩だ。
「堤さんの役に取り組む姿勢というか、稽古が進むにつれてどんどん表現が研ぎ澄まされていくところに、これが役者なんだと憧れました。田邊さんには相談に乗ってもらうことが多くて。方向性や生き方に迷ったとき、背中を押す言葉をくれるのが田邊さん。よく『何かを得るときは何かを失うときだ』と言ってもらうんですけど。行きたい方向があって、でもそれが今の道と違うなら、今の道を消す覚悟を持たなきゃいけないんだと。田邊さんと話していると、生き方さえ定まっていれば答えはシンプルなんだと思えるので、自分はなんで役者をやっているのか、これからどうなりたいのかを考えるたびに助けられています」
そうまっすぐな目で話し終えたあと、「じゃあ最後にオフの日の過ごし方を」とライトな話題を振ると、真剣な表情が一気にほどけて「筋トレばっかやってます」と笑った。
「『わたし旦那をシェアしてた』のときに結構鍛えてたんですけど、そこからずっとサボっていて(笑)。そしたら今年のGWあたりでめちゃめちゃ痩せてしまって、この細さはダメだということで増量と共に筋トレを再開しました。最近、75㎏のベンチプレスが上がるようになったんですよ。あの快感は半端ないですね。次の目標は100㎏です!」
そう目もとを綻ばせた顔は、あどけなくて、無防備。この愛くるしさに、またきっと多くの人が魔法をかけられてしまうだろう。
「SUPER RICH」
ベンチャー企業の女性社長・氷河衛(江口のりこ)とその企業のインターン試験を受ける貧乏で心やさしい学生・春野優(赤楚衛二)のジェットコースターのように波乱万丈な日々を描く新ドラマ。赤楚さんと町田啓太さんの再共演も話題に。フジテレビ系にて、毎週木曜22時〜放送。
強い視線でこちらを射抜く、特別なポートレート
袖口のクラシックな装飾が目を引く、端正なダブルブレストのロングコート。中に重ねたフラッフィーな編み込みニットとのコントラストに注目。意思の強さと内面のやさしさ、それは彼の持っている飾らない魅力にも似ている。
ケープを翻して去っていくやっぱり捕まえられない彼
セットアップの上に羽織ったのはふわりと広がる、ドラマティックなロングケープ。貴族的でありつつエディ・スリマンならではのロックなムードも漂う。「また会おうね」と少年のような笑顔で去っていく彼は、やっぱりマイ・シンデレラ・ボーイ。
Eiji Akaso
赤楚 衛二●1994年、愛知県生まれ。2017年、「仮面ライダービルド」に出演、注目を集める。2020年「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」で主人公・安達清をみずみずしく演じ、ドラマは一大ムーブメントに。
SOURCE:SPUR 2021年12月号「赤楚衛二 彼は突然降ってきた マイ・シンデレラ・ボーイ」
photography: Wakaba Noda 〈TRON〉 styling: Kohta Kawai hair & make-up: Rumi Hirose interview & text: Yoshiaki Yokogawa