2021.03.30

そよ風のように「シム・ウンギョンの現在地」

日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞して1年。いまや韓国だけでなく、日本の映画界においてもシム・ウンギョンの存在は希望である。春の日差しを感じ始めたある日、自由に海辺をゆくその姿は、息をのむほど美しく、透明感にあふれている。彼女の周りにはいま、心地よいそよ風が吹く。

そよ風のように「シム・ウンギョンの現在地の画像_1
フラワープリントブラウス¥150,000、中に着たフリルカラーボウタイブラウス¥130,000、デニムパンツ¥120,000/グッチ ジャパン(GUCCI) ブーツ¥63,637/ボース トウキョウ(ボース)

可憐なブラウスと、タフなブーツの組み合わせ。両極端の魅力を併せ持つ、彼女ならではのバランス。

そよ風のように「シム・ウンギョンの現在地の画像_2
ドレス¥334,000、中に着たニットボディ¥286,000/エルメスジャポン(エルメス) ブーツ¥63,637/ボース トウキョウ(ボース)

プライベートでもモードを愛するウンギョン。「私服は自分の好みを反映しますが、ファッション撮影は、“デザイナーの色”を着るイメージで、それがとても新鮮」。サスペンダー

そよ風のように「シム・ウンギョンの現在地の画像_3
フラワープリントブラウス¥150,000、中に着たフリルカラーボウタイブラウス¥130,000、デニムパンツ¥120,000/グッチ ジャパン(GUCCI)

ブラックのボウタイブラウスと花柄のブラウスをレイヤリング。荒野に力強く咲く、一輪の花のように。

そよ風のように「シム・ウンギョンの現在地の画像_4
ブラウス¥167,000、パンツ¥135,000(ともに予定価格)/プラダ クライアントサービス(プラダ) ブーツ¥63,637/ボース トウキョウ(ボース)

ラフ・シモンズが加入した新生プラダのセットアップ。モアレ模様が自然の年輪石と呼応する。

そよ風のように「シム・ウンギョンの現在地の画像_5
ジャケット¥295,000、シャツ¥87,000、デニムパンツ¥87,000、ベルト¥54,000/セリーヌ ジャパン(セリーヌ バイ エディ・スリマン) ブーツ¥63,637/ボース トウキョウ(ボース)

普段からメンズ服も愛用する彼女らしいベーシック。

 

海風にのって軽やかに。さらに飛躍する彼女が見たい

韓国では子役の頃から活躍。『サニー 永遠の仲間たち』などヒット作を飛ばしながら、キャリアを中断して高校生活をNYで過ごす。2017年から日本で活動を開始、『新聞記者』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞受賞――そんなダイナミックな軌跡からは、自由と変化を求めるタイプなのかと思っていた。ところがシム・ウンギョンは日本に来た理由を「たぶん、反省からだと思います」と笑う。
「高校のときはアメリカの文化や学校に少しなじめなくて。子どもの頃から仕事をしていたので、学生時代をちゃんと過ごしたかったんですが、英語の勉強の時間をあまり割けずに、ぽんとそのままアメリカに行っちゃったんです。あのときもう少し言葉ができたら、もっといろんなことができたんじゃないか、そういう反省、それに悔しさもありました。同じ頃、日本文化にハマり、いつか日本の作品に出られたらいいなという夢があったんです。最初は日本語も全然できなかった。ただ、へたでもしゃべってみよう、そういうチャレンジする気持ちや前向きな気持ちが今回はあったので、会話もできるように。日本で仕事をするようになってから、言葉の大事さを実感しました」
 日本では一人暮らしも始めた。それは小さなようで、大きな変化だった。
「最初はすごく緊張したんです。これからどう日本になじんで暮らしていくんだろうって。それに食べ物に慣れていなかったこともあり、おなかをよく壊していました(笑)。それで病院に行ったりも。初めの頃は自分一人でどう過ごせばいいのかもわからなかった。でもいまは、一人の時間がもうちょっと欲しいくらい。そこは変わりましたね」
 ただ、一本の出演作でキャリアががらっと変わるのも役者の仕事。長期的にやりたいことやチャレンジと、目の前にあるチャンスを両立させるのはなかなか難しいはずだ。
「もちろん、目の前にあるチャンスをつかまないといけないと思うときもあります。だけどそれだけだと、焦っちゃうんですよね。成長しないと、上達しないと、という気持ちが、むしろじゃまになってしまう。だから私はなるべく、仕事に関してはゆっくり進めることを心がけています。一生懸命、とにかく楽しくやりたい。そのマインドで自分のバランスを調整するんです。焦ると、むしろ目の前にあることもできなくなってしまうから」
 コメディ、ホラー、シリアスと、いろんなジャンルのいろんな役に挑む姿勢が彼女にはある。意外性があって、でも結局シム・ウンギョンでないと成立しないような役だ。
「日本の役者さんのフィルモグラフィを見ると、主演だけじゃなくて、脇役や出番の少ない役がありますよね。でもその次の作品ではまた主演だったり。特に蒼井優さんや、妻夫木聡さん。そういう方々の作品選び、役者としての行動に影響を受けた部分もあります。これからやりたいのは……まだ悪役をやったことがないんですよ。そろそろやってもいいんじゃないかと。あとは人間じゃない役をやってみたい。吸血鬼やモンスターとか!」
 ハリウッドをはじめとして、いま世界では女性のクリエイターたちが映画やドラマで新しい女性像を提示している。そしてその潮流は韓国や日本にも届こうとしている。
「ハリウッドのシステムが変わってきていることには、私も影響されています。それまでの映画が悪いわけじゃないけれど、女性が作ったものを観ると、女性がいま生きていくことはどういうことなのか、その悩み、女性の主体性が描かれている。先日ミュージカル映画『ザ・プロム』(’20)を観てから、メリル・ストリープさんについていろいろ調べたんです。本当に大女優ですけど、2017年のゴールデングローブ賞でのスピーチが素晴らしくて。特に亡くなった友人のキャリー・フィッシャーさんの言葉を引用したところに感動しました。『心が壊れても、それをアートにすればいい』と。あとマーティン・スコセッシ監督のドキュメンタリー『都市を歩くように』でのフラン・レボウィッツさんの言葉も響きました。『出来が悪くても、世間に発表すべきものもある。その人にしかできないことだから』。それを聞いて、私はどうだろう?と感じました。これからその言葉を考えながら、芝居をやっていきたいと思っています」
 アーティスト、役者として――そう自称するのはまだおこがましいと言いながらも、将来に対して、経験で培った意志がはっきりと感じられる。それはきっとシム・ウンギョンのさらに軽やかな歩み、飛躍につながる。
「まだ勉強中ですし、足りないところもたくさんありますが、彼女たちの言葉を心の中に入れて……自分の真心といっしょに出せるような演技をしたい、そう改めて思います」

Profile
1994年5月31日生まれ、韓国出身。出演作に『サニー 永遠の仲間たち』(’11)、『怪しい彼女』(’14)、『新感染 ファイナル・エクスプレス』(’16)、『ブルーアワーにぶっ飛ばす』(’19)ほか。『新聞記者』(’19)で日本アカデミー賞主演女優賞などを受賞。現在ドラマ「アノニマス」放映中、映画『椿の庭』は4月9日公開予定。また4月には「全部が新しい」と言う、ミュージカル『消えちゃう病とタイムバンカー The Vanishing Girl & The Time Banker』が始まる。

 

SPECIAL MOVIE

SOURCE:SPUR 2021年4月号「そよ風のように シム・ウンギョンの現在地」
model: EunKyung Shim photography: Mikiya Takimoto styling: Naomi Shimizu hair: shuco〈3rd〉 make-up: MICHIRU for yin and yang〈3rd〉 interview & text: Mari Hagihara

FEATURE