ささやかな趣味があるだけで、人生はもっと楽しくなる。映画『ドライブ・マイ・カー』(’21)やNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」など、立て続けに話題作に出演。世界中から今一番熱視線を浴びている俳優・三浦透子はいったいどんな人物なのか。彼女が愛するものを手がかりに、その魅力を分解!
※この特集中、以下の表記は略語になります。WG(ホワイトゴールド)
まだ見ぬ場所へ
このセットアップは『LOS ANGELES』と大胆に書かれたデザインが新鮮でした。実はロサンゼルスはまだ訪れたことがなくて。今回のアカデミー賞授賞式には出席することができませんでしたが、いつか訪問できたらうれしいですね。行ったことがないところへは、どこへでも行ってみたいんです!
パンデミック以降初の大規模なショー「GUCCI LOVE PARADE」の発表の地として選ばれたのはロサンゼルスのハリウッド大通り。ジャケットとスカートには、観光地のスーベニアショップを想起させるプリントを大胆に配した。多種多様な人々が住む街を讃えるように、ルール無用の自由なファッションを体現する。
スコッチを少しずつ
20歳になったとき、近所のご夫婦が営んでいるスコッチパブへ行ったんです。地理と味の関係や樽の種類、年代について解説をしてくださり、飲み比べもさせてもらいました。知識欲が満たされて、すごく楽しかった。こうした経験込みで好きです
イヤリングは波のダイナミックな動きをモダンにとらえる「Surge」シリーズのピース。翻ってくだける瞬間をソリッドなシェイプで描き出した。水のきらめきは、さまざまなカットのダイヤモンドとパールで表現。培われてきた技巧が宿るジュエリーこそ、長い年月を経て熟成したスコッチを飲む横顔にふさわしい。
髪を染めたい
今までほぼカラーリングをしたことがなくて。でもWOWOWオリジナルドラマ『FM999 999 WOMEN'S SONGS』の魔法少女役でピンクのウィッグをかぶったら、意外と似合うなと(笑)。いつか思いきり染めてみたいです
海にまつわるモチーフをフィーチャーした2022年春夏メンズコレクション。シャツのフロントには、トライアングルロゴとオクトパスを融合したプリントが鎮座する。オレンジレッドのショートヘアでボーイッシュに。
建築へのロマン
なぜ建てられ、なぜこの設計なのかという背景も含めて面白い。デザインはミニマルなものが好き。ル・コルビュジエと、ここ法隆寺宝物館や『ドライブ・マイ・カー』に登場する広島市環境局中工場を造った谷口吉生に惹かれます
Summer 22プレゼンテーションに登場したオーバーサイズジャケットとマキシルーズスカート。無駄な装飾を排し、誇張されたシルエットを際立たせて。固定観念やカテゴライズを容易に飛び越えるセットアップがあれば新たな自分に出会うことができる。
透子の愛する数式
数学は哲学でもあって。無限という概念を用いて神の存在を証明する、そんな話もロマンティック。日常的に使っているから忘れがちだけど数字もあくまで概念。そういう当たり前を当たり前で終わらせず本質を思考することが好きです
ジャケットに配されているのは、メゾンのコード「ワーク・イン・プログレス(作業途中)」を反映した赤いステッチ。解を求める思考の流れを切り取ったかのようなデザインから、内側をさらけ出すことで生まれる幻想的な美しさが薫る。
たまには派手
子どもの頃からスカジャンやヒョウ柄、メンズライクなアイテムが好きだったんです。でも自分の好みを整理した結果、最近はデニムやTシャツがほとんど。派手な服が嫌いになったわけではないので、歳を重ねたらまた挑戦したい
ゴールドのテディブルゾン、ヒョウ柄のシルクシャツ、キャンディのようなネックレス。好きなアイテムを存分に盛り込み幼少期の自由なマインドに立ち返る。
心が赴くままに身を任せ、一瞬一瞬に集中する
映画『ドライブ・マイ・カー』が世界中で話題を呼び、さぞ心境や環境に変化があったかと思いきや「私自身は何も変わっていません」と語る三浦透子さん。この日も目の前のワンカットに誠実に向き合っていた。彼女は、ファッション撮影は”シンプル”で楽しかったという。
「歌もそうですが、ある意味表現が端的だからそこだけに集中できる。頭の中はクリアであとは体を使うだけ、という状況がすごく好きなんです。その点、俳優業は考えることが多くてマルチタスク。可能な限り準備して、現場で意識することの数が減るよう試行錯誤しています。そういうアプローチを考えることも、芝居の楽しさのひとつではあるんですけどね」
俳優としての幅を広げるためには、日々何をインプットするかも重要になりそうなもの。でも趣味を楽しむ時間に仕事への見返りはいっさい求めないと話す。
「今興味がある、今目的が達成される、今のための時間の使い方をしようって気持ちがあるんです。だからその瞬間にもう価値はあって、結果、何かにつながったらそれはオマケ。でもそういうところで得た経験が、仕事に結構生きてくるんです。怠惰になったらなったでそれにも意味があるから受け入れる。それでいうと俳優業には無駄になる時間がないなと思います」
そんな自分の感情に抗わない彼女が大切にしているのは「わからない、知らない」とちゃんと言える人であること。
「この仕事をしていてありがたいのは、たくさんの人やキャラクターに出会えるところ。世の中にはいろんな考え方があるという当たり前のことを忘れずにすむんです。いくつになっても、どんな人のどんな声にも耳を傾けられる人間でいたいですね」
Profile 三浦透子
みうら とうこ●俳優、歌手。1996年、北海道出身。2002年のデビュー以降、ドラマや映画を中心に活躍。映画『天気の子』(’19)では主題歌のメインボーカルに抜擢。映画『ドライブ・マイ・カー』(’21)で、第45回日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞。3月に新曲「私は貴方」を配信リリース。6月9日からは舞台『Secret War~ひみつせん~』に出演予定。
SOURCE:SPUR 2022年6月号「三浦透子を因数分解」
model: Toko Miura photography: Teruo Horikoshi 〈TRON〉 styling: Tomoko Iijima hair: KENSHIN for EPO LABO make-up: TOMOHIRO MURAMATSU 〈sekikawa office〉 text: Mai Ueno