日本屈指の映画監督・是枝裕和氏の最新作であり、監督人生の中で「新たな挑戦だった」と語る韓国映画『ベイビー・ブローカー』がついに日本上映開始! 日本人監督が韓国のスター俳優&制作陣とタッグを組んだだけでなく、第75回カンヌ国際映画祭にて主演のソン・ガンホ氏が韓国人俳優初となる最優秀男優賞を受賞、さらに人間の内面を豊かに描いた作品に与えられるエキュメニカル審査員賞も受賞するなど、国内外で話題沸騰中だ。そんな本作の上映を記念して、豪華キャストたちが急遽来日!
舞台挨拶に駆けつけたファンは約500人。それだけでも驚異的な数字だが、映画館前には惜しくも落選してしまった約200人のファンの姿が! 改めて出演俳優たちの人気の高さと、本作への関心度を思い知らされる。
今回はまだ本作を観ていないファンのために、“ネタバレ一切なし”で魅力を伝えるという難題に答えてくれた。全世界で注目されている“赤ちゃんポスト”を題材とした本作の魅力と、イベント時の様子をレポート!
日本と韓国に限った特別な話ではなく、国境を越えて人々の心に響く温かい物語
クリーニング店を営む傍ら、ベイビー・ブローカーとして動くサンヒョン役のソン・ガンホ。サンヒョンの相棒で「赤ちゃんポスト」がある施設で働く児童養護施設出身のドンス役のカン・ドンウォン。赤ん坊を預けに来た若き母ソヨン役のイ・ジウン(IU)。ベイビー・ブローカーを追う刑事スジン役ペ・ドゥナの後輩、イ刑事役のイ・ジュヨン。それぞれ約2年振りとなる来日で、日本のファンを前に喜びの表情を浮かべながら、感謝の気持ちを述べた。
ソン・ガンホ「およそ2年振りに皆さんの前でこうしてご挨拶をさせていただき光栄です。この映画は日本と韓国に限った特別な話ではなく、私たちが生きている中で感じる様々なことを伝えている映画だと思います。
約6年前に釜山国際映画祭で初めて本作の話を伺った時、すでに僕は是枝監督の大ファンでしたし、尊敬する監督のひとりでした。実際に、新しい作品で……とオファーを受けて、とてもときめきました。是枝監督の作品ならばどんな役であってもやらせていただきたいと思っていましたし、本当に光栄です」
是枝監督の6年前の手書きのプロットには、ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、そして『空気人形』から2度目のタッグとなるペ・ドゥナの名前が書かれていたという。
ソン・ガンホ「今回の来日のために成田空港に着いた時、驚いたんですよ。イ・ジウン(IU)さんは韓国のスーパースターであり、もちろん日本でも有名なスターなので、日本の多くのファンが来るだろうと話に聞いていましたが、実際に100人を超えるファンが集まったそうです。でも、カン・ドンウォンさんを見るために集まったのは3人だったそうです。ちなみに、私は5人来てくださっていたんですよ!! なので、とても気分が良い1日になりました(笑)」と茶目っ気たっぷりに語り、カン・ドンウォンの笑いとともに会場も爆笑の渦に包まれた。
是枝監督「現場もいつもこんな感じで、ガンホさんがドンウォンさんをイジって楽しむという(笑)。僕はこのやりとりが大好きなんですよね」
心温まるエピソードのあとに突然の“笑い”を差し込んでくるギャグセンスは、やはりこの人、ソン・ガンホならでは!
是枝監督の作品が大好きで、いつかご一緒したいと思っていた
カン・ドンウォン「是枝監督の作品が大好きで、いつか一緒に仕事ができたらという思いがありました。本作で実際にご一緒することになり、本当に素晴しい経験になりましたね。監督はいつも変わらず優しくて、現場でも生き生きと楽しそうに撮影されていて。撮影の終盤はもう終わってしまうんだと思うと、とても寂しかった記憶があります」
是枝監督の誕生日を意図せず(!?)2年連続で祝ったことについて、思わずふっと笑いながら次のように語った。
カン・ドンウォン「幸いだったのか、否か……(笑)? 分かりかねますが、監督がひとりで誕生日を過ごされると聞いて、食事に誘ったんです」
是枝監督「僕は2年連続でドンウォンさんとソウルで誕生日を祝えて、本当によかったです……!」と嬉しそうな表情で話した。
ドラマとは違う難しさを持つ長編映画への出演は、まさに挑戦でした
イ・ジウン(IU)「これまでドラマ出演はありましたが、長編映画への出演は初めてだったので、私の中ではかなり大きな挑戦だったと思います。今回演じたソヨンには様々な設定があって、キャラクターを説明する修飾が多い人物だったんですよね。このいくつもの設定を立体的に表現できるようにと、監督とも話し合いながら演じました』
コロナ禍で“韓国ドラマ沼”に落ちたという是枝監督。オファーのきっかけは、イ・ジウン(IU)主演作であり、不朽の名作として愛される『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』にハマったこと。演技力に定評のあるイ・ジウン(IU)を是枝監督が見初めることは、ごく自然な成り行きだったのかもしれない。
是枝監督「僕はにわかファンなので昔っからのファンの方には申し訳ないのですが……(苦笑)。コロナ禍でがっつり韓国ドラマにハマりまして、その中でも『うわっ!』と印象に残ったイ・ジウンさんと、イ・ジュヨンさんに今回お声がけをしました。こんなに早く夢が叶って、理想的な、思い描いたとおりのキャスティングが実現して、僕自身がいちばん幸せな現場でした」
イ・ジウン(IU)「実は、監督が音楽や作品を通じて私のことを知る前に一度、韓国のご飯屋さんで監督を見かけたことがあったんです! 私はその時すでに監督のファンでしたが、監督は私のことを知らない状況だったので、ご挨拶したい!と思いつつ、できないままでした。それから1年以上経って、まさか監督が私の音楽や演技を知っていてくれている状態で、監督の作品に参加できるとは……すごく不思議な気分です」と胸中を語った。
素晴らしい先輩俳優とご一緒することができて、生涯忘れられない作品になると思う
老若男女を魅了した『梨泰院クラス』にて、トランスジェンダーという繊細な役どころをパワフルに演じ切り、多くの人に感動を届けたイ・ジュヨン。是枝監督もまさに『梨泰院クラス』で心を突き動かされたひとり。オファーを受けた時の心境を懐かしそうに話す。
イ・ジュヨン「私は映画について学んでいた大学生の頃から是枝監督の大ファンで、監督の作品を見に行くような普通の学生でした。それから数年経って、監督が私の出演作を見て、私という俳優を知ってくれていること自体とても不思議で、とても幸せです。そしてまさか監督の作品に出演できるとは思ってもいませんでした! 素晴らしい先輩俳優の皆さんや、一緒に演技がしたいなと思っていた俳優の方と仕事をすることができましたし、現場で多くのことを学ばせていただきながら、自分自身で“感じる”姿勢を忘れずに臨んでいました。こうして舞台挨拶のために日本に来ることができたことも素晴らしい経験です。私にとって忘れられない作品になると思います」
楽しいひとときはあっという間に過ぎ、最後の挨拶の時間に。
ソン・ガンホ「この映画は、日本の監督と韓国のキャストが一緒に作ったということが大事というよりは、日本人であっても、韓国人であっても、私たちが生きている社会の中の私たちの姿、私たちの隣人の姿、また人生の価値が描かれた作品となっています。国を越えて、誰にとっても共感できる温かい物語だと思います。皆さんにもその思いを受け取って、共感していただける、そんな意味のある時間として記憶されてほしいと願っています。ありがとうございました」と語った。
是枝監督「6年前に書いたプロットは実はすごくシンプルな話でしたが、映画を撮るために韓国に渡って、ベイビーボックス(赤ちゃんポスト)の周辺の人たちへの取材を重ねました。それがとても良かったなと思っています。取材をすればするほど『物語の中で人間の命をどう考えるべきか?』改めて考えさせられましたし、それを物語の中で登場人物たちが悩む話にすべきだなと、少しずつ最初に思い描いた話から変わっていったんですよね。撮影を始めてからも日々変わっていくプロセスを経て、ようやく完成しました。僕の映画はいつもそうかもしれませんが、明快な答えが最後に待っているというより、登場人物たちと同じように見た方たちも旅を続けながら、一人の赤ちゃんの運命を一緒に考えていただけたら嬉しいです。楽しんでください」と話し、大きな拍手に包まれながら舞台挨拶は終了。
改めて知るキャスト陣と是枝監督の絆の深さや、本作への思いを知った今回の舞台挨拶。物語の全貌を知ると、ソン・ガンホが語る「国を越えて、誰にとっても共感できる温かい物語」の意味が痛いほどに伝わる……。ぜひ劇場で『ベイビー・ブローカー』ならではの空気感を味わってみては。