多様な4回転ジャンプを可能な限り多く組み込む流れは、ますます加速している。一方で技の完成度の高さで加点(GOE)を稼ぎ、追い上げる選手も見逃せない。
4回転ジャンプ時代の五輪は、手に汗握る展開に!
「2018年に開催された平昌五輪と比較して、男子シングルは4回転ジャンプに挑んでくる選手の数が圧倒的に増えましたね。トップ選手だけではなく、最終グループのひとつ前の段階でも、4回転2本を組み込む選手が。それを踏まえると、SPで2本、FSで4本の4回転は確実に決めていかないと表彰台には厳しいですね。さらに、技の基礎点に、その技のよし悪しで-5から+5までの出来栄え点(GOE)が加算されるのがポイント。たとえばジャンプを着氷した後、後ろに流れているかいないかでかなり点数に開きが出ます。詰まったり、軸足じゃないほうの足をついてしまったり、ターンしたりすると出来栄え点が低くなります。よいジャンプの目安として、注目すると面白いですよ!」
Nobunari Oda
大阪府出身。プロフィギュアスケーター、キャスター、タレント。テレビ朝日系列で北京五輪の解説者として参加。YouTube「織田信成の"滑るけどスベらない"チャンネル」をスタート! 好評発売中の著書「フィギュアとは“生き様”を観るスポーツである!」は必読!
※本記事の取材は2021年11月に行われたものです。
羽生 結弦 Yuzuru HANYU
Date of birth:07.12.1994
Country:JAPAN
SP:Introduction and Rondo capriccioso
FS:Heaven and Earth
ソチ、平昌五輪と続けて男子シングルの金メダル獲得という偉業を果たす。ジュニアからシニアにかけてグランドスラムも達成してもなお、自らの掲げる目標に向かい高みを目指している。
「今季はけがでグランプリシリーズを欠場していましたが、誰よりも経験豊富で、五輪シーズンの過ごし方は心得ていると思います。"世界一の3回転アクセル"と評される彼の得意技は、難しいジャンプの入り方や空中姿勢、着氷の美しさを見てほしい。ジャンプをはじめ完成度の高い技で世界観を表現し、演技構成点も高い。3度目の五輪では、彼が思い描く理想のスケートを、思う存分追求してほしいですね」
鍵山 優真 Yuma KAGIYAMA
Date of birth:05.05.2003
Country:JAPAN
SP:When You're Smiling
FS:Gladiator Rhapsodyなど
コロナ禍の2020-’21シーズンにシニアデビューし、世界選手権で銀メダルを獲得した成長著しい選手。4回転トゥループ、サルコーにループも習得。
「スケーター・オブ・スケーターと呼びたいぐらい、滑る技術がしっかりとしています。まったく力みのない、熱々のトーストにバターをのせたようななめらかなスケート技術に注目してください。スピードを保ったままターンしたりジャンプを跳ぶなど、最後までエネルギッシュなところは国際的に評価が高い。持ち前の柔軟性を生かしたステップやスピンも上手です。次世代を担っていく才能だと思います」
宇野 昌磨 Shoma UNO
Date of birth:17.12.1997
Country:JAPAN
SP:Oboe Concerto
FS:Bolero
平昌五輪で銀メダルに輝きながらも、現状維持ではなく新しい環境を目指し海外のコーチに師事。4回転を多く入れる高難度の構成へ挑戦し、芸術性に磨きをかけた演技で頂点を狙う。
「膝が柔らかく、重心が低く、氷に吸いつくようななめらかなスケーティングが魅力的。トップを目指すにはSPで2本、FSで4〜5本の4回転を入れた構成が必要になってくると思うのですが、ポテンシャルを持っていると思います。氷の上で、首や足など使って曲に合わせて細かくリズムを取ってダンスするのもうまい。オフアイスではシャイだけど、氷上ではクール!」
佐藤 駿 Shun SATO
Date of birth:06.02.2004
Country:JAPAN
SP:The Four Seasons:Summer
FS:The Point of No Returnなど
鍵山選手と切磋琢磨し、頭角を現してきたシニア2年目。ジュニア時代からジャンプの才能が抜きんでていて、今では4回転トゥループ、サルコー、最高難度のルッツを跳んでいる。
「同時代によきライバルがいるというのはお互いにとってプラスですよね。彼の持ち味は、やっぱりダイナミックな4回転ジャンプ。跳び上がってから空中での回転が速く、軸もしっかりあるので回転不足で減点されないところが強みだと思います。まだまだ跳べる選手の少ない4回転ルッツを安定して成功させているのはすごい。これからが本当に楽しみなんですよね」
ネイサン・チェン Nathan CHEN
Date of birth:05.05.1999
Country:U.S.A.
SP:Eternity
FS:Selection of Music by Wolfgang Amadeus Mozart
4回転時代の申し子、通称"クワド・キング"。アクセル以外の5種の4回転をものにし、自在にプログラムに組み込む。体操やバレエで培った身のこなしで音楽とコネクトするのも見ごたえ満点。
「平昌五輪では重いプレッシャーを背負っていましたが、精神的な強さをこの4年間で鍛えてきたと思う。ここで決めないと、というところは必ず決めてきます。ジャンプももちろんですが、バレエの基礎があるので一つひとつのポジションが美しい。リンクサイドのカメラマンもどこから撮っても絵になると言うぐらい、体のラインの出し方、曲の雰囲気のつくり方も上手」
ダニエル・グラッスル Daniel GRASSL
Date of birth:04.04.2002
Country:ITALY
SP:Nureyev
FS:Interstellarなど
驚異的な柔軟性を武器に、難度の高い4回転ルッツ、フリップ、ループを跳ぶ。成長期を乗り越え、今季のグランプリシリーズ、イタリア杯では強豪が集う中3位と健闘し、喝采を浴びた。
「一見すると正統派ヨーロッパ美男子なのですが、プログラムは独特の世界観を持っていて、観客を引き込みます。思わずおおっと驚いてしまうような姿勢のスピンやステップなどは見逃せません。難しい4回転ジャンプをきれいに決めてくると、かなり高い点数の出る選手です。2026年にイタリアで行われる冬季五輪を見据えて期待されている次世代スケーターです」
ジェイソン・ブラウン Jason BROWN
Date of birth:15.12.1994
Country:U.S.A.
SP:Sinnerman
FS:Schindler's List
3年前にコーチを変更し、ジャンプや芸術性を強化。4回転はFSに1本のみの構成だが、そのほかの要素を丁寧に美しく実施することで加点(GOE)を高くつけ、トップと互角に戦う。
「フィギュアを知らない人にもぜひ見てほしい選手。スケートに彼のやさしい人柄が反映されていて、誰もが幸せな気分になります。技術的な素晴らしさを挙げるとキリがないのですが、強いて言うならスピン。男子が苦手とする、足を持って上げるキャメルスピンは彼のたぐいまれな柔軟性で、かなり速くきれいに回ります。高得点スピンのお手本といってもいいでしょうね」
ジン・ボーヤン Boyang JIN
Date of birth:03.10.1997
Country:CHINA
SP:Night Fight
FS:Invocacion y Danzaなど
自国開催の五輪でプレッシャーがかかるボーヤン選手。グランプリシリーズ、イタリア杯ではSPで2本の4回転を成功させ首位に。4回転の出来により全体の演技が左右されるタイプ。
「平昌五輪後にけがやジャンプの不調などがあり、苦しんでいた時期も長かったように思います。イタリア杯のSPは彼が得意とする4回転ルッツがきれいに決まっていて、やっと本来の実力が戻ってきた!とうれしくなりました。ものすごく高いジャンプを跳ぶので、決まってくると出来栄え点もつくはず。いいところをたくさん持った選手なので、楽しく滑ってほしいですね」
ミハイル・コリヤダ Mikhail KOLYADA
Date of birth:18.02.1995
Country:RUSSIA
SP:The Nutcracker
FS:Schindler's List
2020-’21シーズンにロシアの名伯楽、アレクセイ・ミーシンコーチのチームに移る。ダンスの基礎があり、一つひとつのポジションも美しい。目下、4回転の安定が課題になっている。
「アレクセイ・ヤグディンやエフゲニー・プルシェンコを彷彿とさせる、正統派ロシアンスケーターといった趣。とにかく姿勢がきれいで、ジャンプを跳ぶとき、降りるときも揺るがない体幹の強さを感じさせますね。ミーシンコーチはベテランのスケーターへの指導にも定評があって、徐々にジャンプの安定感を取り戻してきました。バレエ音楽のSPも彼にぴったりの演目ですね」
チャ・ジュンファン Junhwan CHA
Date of birth:21.10.2001
Country:KOREA
SP:Fate of the Clockmakerなど
FS:Popoli de Pekinoなど
羽生選手と同じ、カナダのブライアン・オーサー氏に師事。シニアに転向し、体型変化によりジャンプをうまく跳べない時期もあったが、乗り越えた。試合に出るごとに魅力を増している。
「北京五輪後に世界をリードしていく選手のうちのひとりになりそうな可能性を秘めています。しなやかな柔軟性に注目してほしいのですが、プログラムの中に組み込んだイナバウアーが伸びやかで素晴らしいんです。荒川静香さんがトリノで演じた『トゥーランドット』を想起させるようです。コレオシークエンスも独特な世界観を持っているので、突っ走ってほしい」
SOURCE:SPUR 2022年3月号 別冊 SPUR ON ICE「織田信成さんがナビゲート 男子シングル注目の10人」
edit: Michino Ogura photography: AP/アフロ、ロイター/アフロ、Raniero Corbelletti/アフロ、アフロスポーツ/アフロ、Newspix24/アフロ