2022.02.03

荒川静香さんがナビゲート。女子シングル注目の10人

日本やロシアなど有望な若手が多く、層の厚い国は五輪代表枠争いもますます熾烈になっている。荒川さんのコメントとともに、個性豊かな10選手にフォーカス

 

技を丁寧に行い、いかに加点を狙うかがポイント

「五輪出場選手がまだ発表されていない段階(取材は12月上旬)で、未知数ではありますが、北京五輪で日本とロシア(ROC)の選手は大いに活躍するでしょう。直近10年ぐらいでは、大技3回転アクセルに挑戦する女子選手がコンスタントに出てきており、ここ2年では、上位に行くなら必須な技に。ロシアの選手はさらに4回転も身につけ、高難度のジャンプを跳んできますし、スケーティングも高い評価を得ています。しかし、個々のスキルを見ていくと日本の選手のほうがスケーティングは秀でていますし、スタミナもある。氷への少ないタッチでトップスピードに持っていけるのは、基礎を大事にする質の高い教えがあるから。日本選手の美しいスケーティングにも注目してください」

Shizuka Arakawa
1981年、神奈川県出身。日本スケート連盟副会長、プロフィギュアスケーター、解説者。2006年トリノ冬季五輪で金メダルに輝く。日テレ系放送で4大会連続となる北京五輪スペシャルキャスターに。今月号の本誌「KISS & CRY物語」にも登場。

※本記事の取材は202112月に行われたものです。

坂本花織 Kaori SAKAMOTO

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Date of birth:09.04.2000
Country:JAPAN
SP:Now We Are Free
FS:No More Fight Left In Me など

今季はNHK杯で優勝。中止となったグランプリファイナルに日本女子で唯一出場の機会を得ていた坂本選手。女性のエンパワメントをテーマにしたFSは競技生活の集大成とも言える。

「国内外の女子シングル選手の中ではスピード感、ダイナミックな演技が際立っています。今季のFSは今までより、いっそう難解なメッセージ性のある曲を選んでいて、表現力にも力を入れている証拠だと思います。どのように表現したいかを明確にするのがポイント。彼女が解釈する『女性らしさ』と持ち前のパワフルさを曲の中で調和させていく点に注目したいです」

樋口新葉 Wakaba HIGUCHI

荒川静香さんがナビゲート。女子シングル注の画像_2

Date of birth:02.01.2001
Country:JAPAN
SP:Your Song
FS:Spiritなど

グランプリシリーズのフランス杯では自己ベストを更新し3位となり、4年ぶりの表彰台に。昨シーズンから3回転アクセルを組み込んで、試合で成功の感覚をつかんできているのが強み。

「北京には並々ならぬ思いで立ち向かっていると感じます。坂本選手のようにパワーやスピードもありながら、丁寧にコントロールできるところも彼女の魅力。3回転アクセルの成功度も上がってきていますが、ジャンプだけでなく最後まで演技にしっかりと気を配っているところが印象的。FS最後のステップは、大草原に太陽が昇ってくるような情景が見えるようで必見です」

宮原知子 Satoko MIYAHARA

荒川静香さんがナビゲート。女子シングル注の画像_3

Date of birth:26.03.1998
Country:JAPAN
SP:Song for the Little Sparrow
FS:Vissi d’arteなど

平昌五輪では女子シングル4位という輝かしい成績を残す。高難度ジャンプに挑戦する選手が増えるなか、スピンやステップなど表現面で誰も及ばない高い技術を着実に積み上げている。

「一つひとつの動きに意図があり、丁寧。きめ細やかな表現力を活かして、確実に得点につながる緻密なプログラムを構成。昔は感情を内に秘めた印象でしたが、ここ数年で変化が。特にFS最後のステップは、あの華奢な体から、全身を使って音楽を表現しようという迫力を感じます。真面目にコツコツと練習を重ねる日本人スケーターならではのよさがありますね」

アンナ・シェルバコワ Anna SHCHERBAKOVA

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Date of birth:28.03.2004
Country:RUSSIA
SP:Dangerous Affairsなど
FS:Ruskaなど

繊細でリリカルな演技に、4回転ルッツや4回転フリップなどの最高難度のジャンプを組み込んでくる。2021年の世界選手権で優勝した実力派。ジャンプ後の美しい着氷に目を奪われる。

「五輪に向け、徐々に調子を上げてきている気がします。グランプリシリーズのフランス杯では構成に2つの4回転を予定していたり、3回転のコンビネーションには2本目のジャンプに難しいループをつけてきたりと、引き出しも多い。演目にどの技をどう入れるか、選択肢が豊富。可愛らしい雰囲気ですが、勝負どころでは強い。メンタルの強靭さは抜群だと思います」

カミラ・ワリエワ Kamila VALIEVA

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Date of birth:26.04.2006
Country:RUSSIA
SP:In Memoriam
FS:Bolero

シニアに移行し弱冠15歳でグランプリシリーズ、ロシア杯でSP、FSともに世界最高得点をマーク。ロマンティックなSPと躍動感のあるFSと振り幅でも他を圧倒し、「絶望」の異名も。

「4回転トゥループ、4回転サルコー、3回転アクセルの大技も強みですが、そのすべての基礎点に加点(GOE)がつくように緻密に考え抜かれた演目です。ジャンプに入る前の工夫や空中姿勢も美しく、動きが効率的で自然なので高得点に。FS『ボレロ』は同じメロディが続いて単調に感じがちですが、彼女の柔軟性や美しいポジションでエキサイティングに魅せてくれます」

ルナ・ヘンドリックス Loena HENDRICKX

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Date of birth:05.11.1999
Country:BELGIUM
SP:Caruso
FS:Andromeda(Psytrance)など

今季グランプリシリーズ、イタリア杯ではSP首位から総合3位に輝き、ベルギーでは初のメダリストに。兄のヨリクも男子シングルで活躍した元選手で彼女のコーチングチームの一員。

「大国ロシアが破竹の勢いを見せるなか、欧州勢で急成長してきているのが彼女。大技はありませんが、ジャンプが安定しており、スピンやステップに関しても評価が高い。それぞれの要素を失敗なく、丁寧にこなすことで加点(GOE)がついて、点数が伸びるタイプ。身長もスラリと高く、ダイナミックなムーブメントなので氷上でとても見栄えするのもポイントですね」

エリザヴェータ・トゥクタミシェワ Elizaveta TUKTAMYSHEVA

荒川静香さんがナビゲート。女子シングル注の画像_7

Date of birth:17.12.1996
Country:RUSSIA
SP:Oblivion
FS:Arabiaなど

2020-’21シーズンの世界選手権は、若手の勢いが止まらないロシア国内で勝ち抜き6年ぶりに出場。銀メダルに輝いたキス&クライで見せた涙も記憶に新しい。エンタメ色満載な演目も人気。

「3回転アクセルの精度も高く、すべてにおいてコントロールの術を身につけ安定感があります。演技後半まで疲れずジャンプも組み込めるのは、ひとえに練習のたまものだと思います。FSでは振り付けで観客を煽るシーンもあり、演技の世界に引き込む力も強い。能力の高い選手ですが、五輪出場がなかなかかなわず、今回こそ! 彼女ならではのエキゾチックな雰囲気も素敵ですよ」

アレクサンドラ・トゥルソワ Alexandra TRUSOVA

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Date of birth:23.06.2004
Country:RUSSIA
SP:Benediction And Dream など
FS:Call Me Cruellaなど

女子の4回転時代のトップランナー。ロシア国内で行われたテストスケートではFSで4回転トゥループ、サルコー、フリップ、ルッツを駆使し、5本を組み込む構成で世界を震撼させた。

「体のバネや体幹がすごい。身体能力の塊。女子では考えられないジャンプ構成です。グランプリシリーズではけがを抱えながら1試合の参加にとどまりましたが、4回転ルッツも跳んでいました。今季は表現力にも磨きがかかり、スケーティングの質も向上させてきました。FSは映画『クルエラ』ですが衣装の一部に愛犬の名前が入っていたり、プログラムへの愛も感じます」

ブレイディ・テネル Bradie TENNELL

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Date of birth:31.01.1998
Country:U.S.A.
SP:Restrictus
FS:Nuvole Bianche

すらりとしたプロポーションと品のあるムーブメントで観客を魅了。昨年の全米選手権で1位に輝く。フランスの振付師ブノア・リショーとともに作る唯一無二の世界観は五輪でも要注目。

「アメリカの選手は、五輪シーズンはグランプリシリーズをスキップし、全米選手権に注力して五輪出場権を獲得することが多い。ブレイディはけがもあって、今季はほとんど試合に出ていないですね。しかし、彼女の場合はすでに国際的な評価を確立しているので、それも戦い方なのだと思います。安定感のある3回転+3回転を武器に、五輪でも活躍すると予測しています」

アリッサ・リュウ Alysa LIU

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Date of birth:08.08.2005
Country:U.S.A.
SP:Gypsy Dance
FS:Violin Concerto in D, op. 35

ジュニア時代に3回転アクセルと4回転ルッツの両方を組み込み、アメリカの新世代スターとして注目を集める。シニアに移行した今季は不調期を乗り越え、はつらつとした演技がカムバック。

「昨シーズンは成長期に見られる変化などもあり不安定な印象でしたが、今季はミスも少なくなりました。日本で開催したNHK杯にも参加していましたが、練習では3回転アクセルをきれいに決めているので、本番でもあともう少し。それ以外の技で崩れずにしっかり調整してくるところはさすがでした。スピンやステップ、華のある演技にも定評があるので楽しみにしています」

SOURCE:SPUR 2022年3月号 別冊 SPUR ON ICE「荒川静香さんがナビゲート 女子シングル注目の10人」
interview & text: Michino Ogura photography: AP/アフロ、AFP/アフロ、ロイター/アフロ、Raniero Corbelletti/アフロ、Newspix24/アフロ、アフロスポーツ/アフロ

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