脱北者という心の傷をクールなヴィジュアルで覆い隠し、新たに請け負った“荷物”は、泣き虫の男の子ソウォンと300億ウォンが入った貸金庫の鍵。それを狙う悪徳警官と殺し屋と、さらに脱北者ウナを調査する国家情報院まで。命を賭けた追走劇のその果てに、ウナはソウォンを無事運び切ることができるのか。臨場感あふれる息詰まるカーチェイスと身体を張った激しいアクション。「長編長編映画でもっと多くのアクションシーンに挑戦したかった」とこの映画の出演を決めたというパク・ソダムさん。映画では初の単独主演となる彼女をオンラインでインタビュー。作品の見どころから演技する上での彼女のこだわりなどを詳しく聞いた。
——初めての単独主演作ですが、どんな気持ちで撮影に臨まれましたか?
最初はすごいプレッシャーを感じました。監督は、このチャン・ウナという主人公に、なぜパク・ソダムという俳優を選んでくださったのだろうか。シナリオを読みながら、ずいぶん考えましたね。ウナという人物は、一見タフに見えるのですが、内面は痛みを抱えており、脆い部分もあるし、情に厚いところもある。それは私自身にも通じるところがあるのではと感じ、シナリオを読むほどにこのウナを包み込んであげたいという気持ちが大きく動いたのです。
私が韓国で映画を撮るようになって、今年で10周年を迎えます。“単独主演”という言葉はちょっと気恥ずかしさもあるのですが、作品のポスターで自分の顔が大きく表現されていたり、劇場では私の全身の姿が飾られていたりというのは、初めてのことなので、とてもワクワクしましたし、不思議な感覚でした。だから、どこかに行っては自慢もしましたし、我が家には今も大きなポスターが飾ってあったりします(笑)。プレッシャーは当然大きかったのですが、それ以上に、周りの方々に感謝する気持ちの方が大きいです。この『パーフェクト・ドライバー』という作品に出演できたこと、チャン・ウナという人に出会えたこと、今でも夢のようですし、そして感謝感謝の思いでいっぱいです。
——単独主演の大きなプレッシャーはどう克服しましたか?
共演する他の俳優さんたち、諸先輩方が、初めてお会いした時から、「私を助けてくださる」とおっしゃってくださり安心しました。特にペク社長(廃車処理会社ペッカン産業を隠れみのに、ウナが所属する「特送」を運営する社長)を演じたキム・ウィソン先輩が「パク・ソダムがこのウナという人物をちゃんと演じられるように、私たちが思いっきり助けてあげるから、君はしたいと思ったことを全部しなさい。絶対にちゃんと演じることができるはずだ」と言ってくださったんですね。その言葉を聞いて、私自身も、「あ、できそうな気がする」となりました。大きな勇気をもらい、演技に集中して臨むことができました。
——演じられているウナは天才的な運転スキルを持つ運び屋というかなりハードな役柄ですが、ソダムさん自身から見たウナの魅力を教えてください。
特送という仕事を持つウナですが、家では猫を可愛がっていて、家を出るときは、「ポドン(猫の名)、ママは仕事に行ってくるね」と優しく声をかけて家を出ます。で、家から一歩出た瞬間に彼女は仕事に対してプロの顔を見せる。そして、完璧に仕事を成し遂げます。とてもハードでクールに見えますが、実はその内面にはとても大きな痛みを持っています。そんな彼女の持つ痛みは、ソウォンという男の子と出会うことによって、癒されていく。ソウォンと一緒に過ごすうちに、ウナはおそらく、自分の子供の頃の姿を思い出し、その姿に彼を重ね合わせていったんじゃなかと思います。それゆえ、本能的に、ソウォンを守っていかなければいけないと思ったのではないかと。外見的には強靭で、とってもハードな女性に見えるかもしれないけれど、痛みを抱える脆さを内に秘めている。その部分が私の胸に迫り、共感を覚えて、私もウナに自然に入りこむことができました。
——ウナを演じる上で、工夫したことを教えてください。
私がシナリオに描かれているウナの役柄でとてもいいなと思ったのは、劇中でさまざまな姿を見せているところです。ウナとソウォンの関係性による微妙かつ繊細な心の動きがあるかと思えば、カーチェイスやアクションなどのクールでハードな一面があったり。違った印象の姿を表現することは難しくもあるのですが、俳優にとってはとても興味深いことだなと思いました。
中でも、一番注力したのは、ウナのソウォンに対する感情の変化。映画の撮影は、必ずしもシナリオの順番通りに撮れるものではありません。ウナとソウォンとの間に流れる感情の幅は大きく動くのですが、撮影のシーンによって、どれくらいの感情で相手に接すればいいかというのが刻々と変わっていくワケですね。ですから、その感情を維持することにとても力を注ぎました。このシーンではソウォンに対してこのくらい心を開いている。また次に撮るシーンではこのくらいの距離。そんな感情の加減も、細かく監督と話し合いながら撮影に臨みました。
——天才的運転スキルを見せるカーチェイスやリアルなアクションシーンも圧巻ですね。
カーチェイスについては、日常で運転するときは使うことがないドリフトなど、多くのテクニカルな動きがあり、完璧に習得できるよう事前にたっぷりと練習をしました。ドリフトをしながらハンドルを思いっきり回したり、視線の配り方などのテクニックまで訓練したり。また、ウナは専門的な訓練は受けていないけど、数人を一度に倒せるし、銃を撃つこともできる女性です。身体を使ったアクションのシーンは、現場で動きが変わることも多々あるんですが、そういう変化にも耐えられるように、撮影に入る2〜3ヶ月前から、週に2〜3回の頻度でトレーニングも受けました。私が劇中でチャン・ウナとしてどんな場所でもどんなことでも対応できる身体でないといけない。そのための基礎的な体力や技術をしっかり身につけるように努力をしました。それもあって、準備期間から、撮影が終了するまで、私はウナとして集中して生きていたなあと思います。
——ソウォンを演じているチョン・ヒョンジュン君は、『パラサイト』でも共演されていますが、今回はより密な関係になっていますね。今回の共演ではどう感じましたか。
久しぶりに会ったヒョンジュン君はとても成長していて驚きました。その彼が演じるソウォンとウナが、いつ、どのように心を通じ合わせていくかを演じるのはこの作品の大きな見どころの一つでもあります。実際にウナを表現するにあたって、私はヒョンジュン君にとても助けられたなと思います。彼の目を見ていると、自然と笑顔になれるし、撮影しているとカットの声が掛かるたびに、彼を抱きしめてあげたくなるくらい、本当に情もたくさん移りました。彼はそこにいるだけで、私が自然とウナとして生きることができるようにサポートしてくれたのです。彼に対しても感謝の気持ちでいっぱいです。
——ぜひとも、ここを観てほしいというシーンは?
公開前でネタバレになってしまうため、あまり詳しくお話しできないのが残念ですが、やはり廃車処理工場であるペッカン産業でのラストのシーンはぜひ、観ていただきたいですね。ある出来事に打ちひしがれていたウナが、その悲しみに浸るまもなく、ひとり闘い抜いていくのですが、自分が普段使い慣れたドライバーを手に取り、目の光が変わって、場面も感情も移り変わっていくシーン。そこに流れる音楽もとても素晴らしいので、みなさまには必ず観てほしいと思います。
——今回の作品に限らず、俳優として演じる上で、一番大切にしていることは?また、今後はどんな俳優を目指したいですか?
私が俳優を始めた頃から考えていたことですが、俳優とはそもそも人をつぶさに研究し、それを表現する職業だと思うんです。よく、「どんな俳優になりたいですか?」と聞かれますが、私はいつも人間的な俳優になりたいですと答えてきました。その答えは今も変わっていません。自分自身を客観的に見ることは難しいことではありますが、できるだけそれができるように常に努力はしているつもりです。
年配の先輩俳優の方からは、「いつも謙虚でありなさい」という言葉をいただいています。『パラサイト』という作品で、私はより多くの方に気づいていただけるような存在になりましたが、その作品以降、以前にもまして、「謙虚になりなさい」という言葉をたくさんいただいている気がします。その言葉を心に留めて、自分のできることはベストを尽くし、自分には正直に、そしてたくさんの人を見て、人間を表現できるよう努める。それらができる状況を整えておくように努めたいと思いますね。
実は、私は先だって、身体を壊して多くの人に会えない時間もありましたし、また、たくさんの心配をおかけしてしまいました。その間、姿をお見せすることができずに、自分としてもとても悔しく、残念な思いもいっぱいでした。だから、これからはしっかりと自分の健康を管理して、幸せな姿をみなさんに見せていける俳優でありたいと思います。そして、一人でも多くの方に会えるようになれれば嬉しいですね。
——これから来日する機会があれば、日本で何をしたいですか?
日本には福岡だけ3回訪れたことがあります。1回目は親しい先輩と旅行に。2回目は『福岡』という作品の撮影で。3回目はその2回で訪れた福岡がすごく良かったので、母と妹を連れて旅行にきました。福岡と聞けばハートをいっぱいつけたくなるくらい、大好きで、地図を見ずに街を歩いていても、美味しいお店は全部覚えているほど。福岡以外は行ったことがないので、あちこち行ってみたいですね。
冬の札幌にもとても興味があります。どこに行っても、あたかもそこに住んでいるような時間を持ちながら、朝起きたらスーパーに行って、買い物して、ちょっとお茶を飲みにカフェに入ったり、なんて過ごせたら最高です。日本の街歩きができたら、本当に嬉しいですね。
——最後に日本のファンにメッセージをお願いします。
2023年は、私がデビューしてから、ちょうど10周年となる年です。その年の始まりの1月に日本で、本作が公開されるということ、私の初めての単独主演作品をみなさまに観てもらえること、すごく楽しみですし、私自身も嬉しく思っています。本作に一生懸命に精一杯取り組み、楽しく撮影しました。キャスト陣との相性は抜群で、ストーリーが目まぐるしく展開し、爆発的なエネルギーがあふれる作品は、みなさまの目と耳を満足させるのはもちろん、きっと多くの方の心を虜にするはずです。本作の魅力をぜひとも体感していただけたら嬉しいです。