好きなものを好きなだけ好きと言える世界のために。JUN INAGAWAインタビュー

渋谷・DIESEL ART GALLERYにて、JUN INAGAWAの個展「BORN IN THE MADNESS」が開催中だ。幼い頃から漫画家を目指していたJUN INAGAWAは、イラストやデザインを描きながら、DJや3ピースバンドのメンバーとしても活動する気鋭のクリエイター。2023年4月にはMBS・TBS・BS-TBS“アニメイズム”枠にて、原案を務めたオリジナルTVアニメ「魔法少女マジカルデストロイヤーズ」の放送も決定している。ちなみに、DIESEL ART GALLERYでの個展は、2019年の「魔法少女DESTROYERS(萌)」以来2度めとなる。弱冠23歳にして、オリジナルな道を邁進する彼の頭の中を覗いてみよう。

無駄なものが省けて整理されたような気がする

JUN INAGAWA「BORN IN MADNESS」展示風景
Photo: Miki Matsushima

ーーカオティックな空間展示だった前回に比べると、今回は平面作品が多いのでしょうか。

前回の展示がグチャグチャだったのは、当時は19歳で、頭の中がグチャグチャだったから。この時代、いろいろな情報がたくさんあるので、日々感じていた情報のカオスを自然に表現していたのかもしれません。皆さんにはそこに興味を持ってもらったのだと思いますが、今回は無駄なものを省けて整理されたような感じがしていて、展示しているのはこの4年間で描いた絵がほとんどです。前回ここでお見せした「魔法少女マジカルデストロイヤーズ」のアニメ化が進んでいるんですけど、今回は一部アニメ関連の作品もありつつ、新しく自分のアイデンティティを象徴するキャラクターを軸に構成しています。

JUN INAGAWA「BORN IN MADNESS」展示風景
Photo: Miki Matsushima

ーータイトルの「BORN IN THE MADNESS」とは?

今の時代、全てが速いというか。消費のスピードもそうだし、情報があふれて何がなんだか分からなくなっちゃっている。そんな混沌の中で生きてきた自分から生まれたもの。

10代の頃はサンディエゴに住んでいたんですけど、実は日本に来た途端にめちゃくちゃ資本主義を食らってしまって。良くも悪くも自分中心に生きていられたところから一転、人から評価されないとアートじゃない、多くの人に見られないと人気とは言えない、っていうような承認欲求の世界というか。人をそんなふうに価値づけることには100%反対で、自分の好きや幸せを他人に委ねることには違和感を持っていますが、当時は戻ってきたばかりで勢いに飲まれ、調子に乗っちゃっていた時期もありました(笑)。今は「そんな時期もあったな」と過去の自分も受け入れてはいるんですけど、他人によって貼られた“ストリートとオタクの融合”というレッテル、自分は何をしたかったのか、などについて落ち着いて考えたり、信頼できる人と話したりして徐々に落ち着きました。今は他人からどう評価されるかではなく、妥協せず作った作品を見てもらうためにはどうしたらいいかをしっかり考えながら、サンディエゴにいた頃の自分を取り戻せてきています。この4年間での考え方の変化は、今回展示している作品にも現れているんじゃないかと。

好きなものを好きなだけ好きと言える世界って、簡単そうで簡単じゃない

アニメ「魔法少女マジカルデストロイヤーズ」場面写真
ⒸMagical Destroyers Committee

ーーアニメ「魔法少女マジカルデストロイヤーズ」についても聞かせてください。原案を担当されたとのことで、アニメオリジナル作品なんですよね?

2018年以降、ずっと打ち合わせやLINEでのやりとりを重ねてきましたが、今年になって初めてアニメーションを見て、本当にやるんだな、という実感が湧いてきました。もちろんビジネスではあるものの、今は「人からどう思われようが、動いている絵を見て自分がうれしい」段階ですね。

僕は漫画家になって自分の作品がアニメ化されることを小さい頃から夢見ていましたが、「飛び級」してアニメを制作するとなった時に、正直信じていなかったというか、YouTubeショートアニメでも作るノリなのかな、と思っていました。まず僕に目をつけたプロデューサーが普通じゃないと思います(笑)。

「魔法少女マジカルデストロイヤーズ」第1弾PV

ーー作品は「好きなものがなくなってしまうかもしれない世界に立ち向かう」というテーマですが、“好き”ってどんなエネルギーだと思いますか?

好きなものを好き、と大声で言える人って多くはないと思っています。さらに言えば、自分が何を好きなのかわかっていない、自分が何を求めているかに向き合えていない人もいるんじゃないかと思っていて。SNSの時代、他人からの評価や影響が身近にある中で、若い子たちは一人になって考える時間を持てていないので、この作品は彼らに対してのメッセージでもあります。好きなものを好きなだけ好きと言える世界って、簡単に見えて簡単ではないんです。このアニメには僕の好きなもの、監督やプロデューサーの好きなもの、スタッフみんなの熱量を詰め込めたと思っています。物語や内容よりも、このスタイルを見てもらえたらうれしいですね。細かなセリフなども含め、妥協は一切していません。

アニメ「魔法少女マジカルデストロイヤーズ」場面写真
ⒸMagical Destroyers Committee

ーーストーリー、キャラクターの外見や内面はJUNさんが温めてきたものだったと思いますが、キャラクターたちが自分の声を持ったことについてはどう感じましたか?

コンセプトや物語は15歳くらいから考えていたんですけど、主人公のオタクヒーローの声は想像通りというか、当時、「オタクヒーローの声はこの人かな」と勝手にイメージしていた古川慎さんが演じてくれているんです。実際、オタクヒーローが「話している」のを聞いても、まんますぎてびっくりしています。アナーキーちゃんに関しては、ある程度のイメージはありつつ特定の声までは考えていませんでしたが、オーディションでは全員一致でファイルーズあいさんだね、となりました。


ーーファイルーズさんといえば、彼女も“好き”のパワーが強い人だと感じます。

彼女とは考え方が似ているところがあり、パンクでオタクなところもアナーキーちゃんにぴったりで。キャラクターをきちんと理解しようとしてくれるので、安心して自分のキャラクターを任せられる人ですね。声優さんには、設定やバックグラウンドなど細かいディテールまで押し付けるというよりは、それぞれの解釈で自由に演じてほしくて。アニメ自体、好きなものを否定される世界から始まることもあり、お互いの好きを共有して否定は一切しない、そんな現場を目指しています。

DJをすることでいろいろな壁を取り払いたい

JUN INAGAWA「BORN IN MADNESS」展示作品

ーー創作活動の傍ら、DJとしても積極的に活動していますね。

絵を描く自分もいれば、アニメを作る自分、音楽を作ったりDJをする自分もいて、それを全部含めてJUN INAGAWAだというのを知ってほしくてやっている部分もあります。最近は、クラブで出会った若い子に「え、JUNくんって絵も描くんですか?」と言われることもあって。今回、僕の絵を見たことがないからここに来てくれる子もいるので、そういうのがめちゃくちゃうれしいですね。僕は基本的にマインドがストリートなので、クラブにいるとリアルを感じられる。アートやアニメもしっかりやりつつ、アンダーグラウンドのリアルも感じ取っていたいですね。


ーーDJを始めるきっかけはあったのですか?

遊びでやってはいたんですけど、今この場にもいる(オカモト)レイジくんとのYAGIで現場に出るようになった感じですね。クラブカルチャーっていろいろなジャンルやカルチャーがありますけど、YAGIは特殊というかオールマイティなので、それも自分のスタイルに合っていたのかな、と。

JUN INAGAWA「BORN IN MADNESS」展示作品

ーー今、「現場」という言葉を使われましたが、音楽も時間や場所にとらわれずにアクセスできる今の時代、現場にこだわりはありますか?

完全に現場主義です。音楽はどこでも聴けるし、知りたいことがあればいくらでも調べられる。それもリアルといえばリアルですけど、根本的なリアルではないように感じます。元々はパンクが大好きで、最初はDJでも自分の好きなアニソンやロックをかけていて、ちゃんと始めるにあたっていろいろ聴いたり読んだり勉強もしましたが、やっぱり現場で聴かないと。今では石野卓球さんと一緒にイベントをやらせてもらうこともありますが、僕はまず電気グルーヴを好きになり、好きなものを好きなだけ好きと言っていて自由な卓球さんにハマっちゃって、実際にDJを見に行ったことで、「こんなにかっこいいおじさんいない!」と思いましたね。好きなことをやっているから本人も楽しそうだし、お客さんともすごく遊ぶんですよ。考え方とか強さとか、絵を描く時に卓球さんから影響を受けている部分もあります。

電気グルーヴの「虹」はタトゥを入れるくらい好きなんですけど、初めて聴いた時に、いろいろとぐちゃぐちゃ考えていたモヤモヤが全部晴れたんですよね。こんなにすごい曲を書いているのに、卓球さんはなんでこんなにふざけたおじさんなんだろう、と。その流れでケミカル・ブラザーズも聴くようになって、ちなみにケミカルのタトゥも入れています。でも面白いのが、大人からしたらどちらも王道かもしれないけど、僕たち20代はこんな音楽を聴いたことがないから、僕にとってはめちゃくちゃディグって探したコアな音楽なんです。今でも「虹」をかけるとShazamで曲名をチェックする若い子がいて、こういう世代間のギャップも面白いですね。

Photo: Miki Matsushima

JUN INAGAWA近影
Photo: Miki Matsushima

――大人世代の反応はどうでしょうか?

卓球さんとやったイベントの時は、彼以外は全員僕たちの世代のアーティストをブッキングしたんです。そうすると、普段は新しい音楽に偏見を持っているかもしれない卓球さんのファンが、新しい音楽に触れることになる。逆に20代も上の世代への偏見があったりするので、その二つをくっつけちゃえばいい、と思って。実際に世代の異なるファンたちがぐっちゃぐちゃになって踊っている姿は絶景でしたね。その光景を見て、「これは僕がやりたかったことだな」と思ったんです。イベント終了後、卓球さんファンの人たちに自分から積極的に話しかけたことで、彼らが僕のイベントに来てくれるようになったりもして。SNSなど情報ではなく、現場のコミュニケーションで自然に壁を取り払えたのがうれしかったです。


ーーお話を聞いていると、好きなものを好きなだけ好きと言うの「言う」、アウトプットがキーになっているような気がしました。

僕みたいな考え方の人は他にもいると思うし、逆に好きなものを表明しない人を否定するつもりもありません。僕は人と人をつなげるのが好きなので、自分が中心になるというよりは、僕を介していろいろな人がつながっていくことに幸せを感じます。そしてこういう体験が、自分の描くものやこの個展にもつながっている。というか、なんだかんだで絶対に絵につなげちゃうので、これからも絵を描くのを辞めることはないでしょうね。

JUN INAGAWA(ジュン・イナガワ)プロフィール画像
JUN INAGAWA(ジュン・イナガワ)

1999年生まれ。幼い頃からアニメや漫画を好み、2017年、LAを拠点にアーティスト活動を開始。アニメ、漫画、音楽、スケートなどさまざまなカルチャーを反映した画風が話題となり、A$AP Bari率いるVLONEやスケートブランドPARADIS3とのコラボレーションを果たす。帰国後の2019年、DIESEL ART GALLERYにて「魔法少女DESTROYERS(萌)」 展を開催。2022年にはビリー・アイリッシュの2ndアルバム「Happier Than Ever」のツアー衣装デザインを担当する。2023年4月には、原案を務めるTVアニメ「魔法少女マジカルデストロイヤーズ」が放送決定。またDJとしても、オカモトレイジ率いるYAGI、自身が主催する屋内レイヴイベントMad Magic Orchestraなどで精力的に活動している。

https://www.instagram.com/madmagicorchestra/

BORN IN THE MADNESS
アーティスト: JUN INAGAWA
会期:〜2023年2月16日(木)
会場:DIESEL ART GALLERY
住所:東京都渋谷区渋谷1-23-16 cocoti DIESEL SHIBUYA B1F
TEL: 03-6427-5955
開館時間:11:30-20:00(変更になる場合もあり)
入場料:無料 

https://www.diesel.co.jp/ja/art-gallery 


オリジナルTVアニメ「魔法少女マジカルデストロイヤーズ」 

JUN INAGAWAが原案を務めるアニメーションプロジェクト。JUN INAGAWAがこれまで発表してきたアート作品のコンセプトをベースに、新たなオリジナルアニメとして製作される。物語の舞台は、謎の組織「SSC」によってオタク文化が排除された日本。オタク文化をこよなく愛する若き革命者「オタクヒーロー」と彼を慕う3人の魔法少女「アナーキー」「ブルー」「ピンク」たちが、「好きなものを好きなだけ好きといえる世界」を取り戻すための戦いに挑む。
2023年4月〜 MBS・TBS・BS-TBS“アニメイズム”枠にて放送予定

https://magical-mad.com
https://twitter.com/magical_mad/
https://www.instagram.com/magical.mad/

INFORMATION

DIESEL ART GALLERYにて、JUN INAGAWA×ファイルーズあい スペシャルトークイベント開催!

2023年1月21日(土)、オリジナルアニメ「魔法少女マジカルデストロイヤーズ」の原案を務める JUN INAGAWAと、アナーキー役を務めるファイルーズあいによるスペシャルトークイベントが開催決定。ディーゼル ジャパンの公式Twitterでは、フォロー&リツイートキャンペーンに応募した人の中から抽選で40名をイベントに招待。ぜひご応募を。

<応募方法> 
・Twitterで@Diesel_Japanと@magical_madをフォロー
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<応募期間>
〜2023年1月9日(月・祝)

<当選発表>
2023年1月11日(水)予定

FEATURE