現在「少年ジャンプ+」で連載中の『正反対な君と僕』。ポジティブながらも、周りの目を気にしてしまう女子高生・鈴木と、意思表示ができる物静かな同級生・谷が繰り広げるラブコメディだ。今回、そんな「正反対」な性格の二人の物語をモードに再現!ピュアな彼らが紡ぐ、甘酸っぱいストーリーに浸りたい
『正反対な君と僕』制作秘話
作者・阿賀沢紅茶さんと、担当編集・藤田さんが語る誕生秘話。今作を発表したきっかけから、鈴木と谷のキャラクター造形にまつわる裏話をじっくり語ってもらった
鈴木と谷。二人が生まれたバックグラウンドとは?
――「ジャンプ+」で描き始めたきっかけは?
阿賀沢紅茶(以下A) 関西コミティア※1 にたまたま来ていた「ジャンプ+」の出張編集部に持ち込んだのがきっかけです。内容的にはめっちゃ少女マンガだったんで、何を言われるのかと不安でした。
ジャンプ+藤田(以下F) コロナ禍で、しかも関西での開催だったので、参加していた編集部が少なかったんですよね。
A そうしたら、たまたま「ジャンプ+」が年末年始にラブコメの読み切りの特集をやるというじゃないですか。
F 当時、「ゆく恋、くる恋、十三〝恋〟弾読切祭!!+」という企画があり、その締め切りのちょうど1週間前だったんです。
A 藤田さんが「もうこのまま会議出します」って(笑)。ラッキーでした。
――一読していかがでしたか?
F 超面白かったです! 率直に「めっちゃいいですね」って伝えました。
A これまで持ち込みって、編集さんがばーっと読んで、いいところとか、ダメなところとかを冷静に指摘してもらうイメージを持っていたんですが……。
F 『バクマン。』※2 みたいに(笑)。
A 主人公二人が手をつなぐシーンで、原稿を置いて、こっち見て、「はぁ〜♡」ってうっとりしてくださったんです(笑)。
――普通に楽しんでいるじゃないですか(笑)。
F ほぼ読者でしたね(笑)。少年マンガの編集部なので、基本的に恋愛ものが持ち込まれることが少ないんです。とても新鮮な気持ちで楽しく読みました。
――反響はいかがでしたか?
F 「面白かった」※3 率が過去3カ月の読切りでトップだったんですよ。これならば連載企画としても成立するのでは、と。
――「ジャンプ+」としては異色の少女マンガ作品だったと思うのですが。
F 当時はまだ『SPY× FAMILY』と『怪獣8号』の2本柱の時代。変化球を投げつつ探っている時期でしたから、そういうイメージが強かったと思います。
A 私としては少女マンガを描いているつもりはなくて。世間一般からすると「学生の恋愛=少女マンガ」になってしまうのかな? と思うのですが。でも少年誌にもラブコメはあるし、「少女マンガってどういうことなんだ?」と正直思っていました。
――『正反対な君と僕』というタイトルも男性目線のタイトルですしね。
F 少女マンガほど視点が一方的ではないのかなとは思っています。双方向的というか。実際、読者の4割は男性で、ありがたいことだと思っています。
――かつての少女マンガでは何を考えているのかわからない、クールで神秘的な男性キャラクターが人気なこともありました。一方、本作では、谷が自身の内面、考えていることをしっかりと言語化する姿が印象的です。
A 片思いしている間は、謎めいた雰囲気に魅力を感じるようなシーンも必要だと思います。でも、この作品はつき合い始めたあとの話が主軸。継続的な関係性を表現するなら現実、そして恋人同士の対話や言葉をきちんと描かなければ、と。恋愛のほわほわした楽しさも作中にはあるんですけど、リアルな人間関係を構築してゆく姿を描こうとしたらこうなったんですよね。
F 私はそこが好きなんです。ちょっとだけ〝マンガ〟だけど、現実にはあくまで忠実。そのあんばいが美しいです。
――キャラクター像の表現も絶妙ですよね。ファッションは個性的な鈴木ですが、実は自分に自信がなかったり。
A 服の好みと、人に対する感じ方・接し方って完全にリンクしないと思うんです。気が利くタイプの子が必ずしも清楚な服を着ているわけではないですし。そこを紐づけて、あの性格だから、この服装って、決めつけないほうがいいのかなって。
F キャラクターの造形がしっかりしているので、「この子はこういうことはやらないな」と、阿賀沢さんの中ではっきりしているのがいいなと思っています。
――逆に、もう一人の主人公、谷のワードローブはさっぱりしてそうですよね。
F おしゃれとか特に興味はないタイプだと思うんですけど、絵面的に読んでる人が集中できないくらいダサくても問題なので、とにかくシンプルにはしています。
――突如登場した鈴木の元カレ・岡も面白いキャラクターですね。
A まず、谷がモヤッとするとしたらどんなキャラクターだろうって考えると、やっぱり鈴木と近い位置にいる男子、女子とも平気でしゃべれそうなキラキラしたタイプがいいなと思ったんです。そういう人物を出したいんですって話をしていたら、まだなにも決まっていないのに藤田さんが「名前はリヒトにしましょう」って(笑)。
F 「名前からしてカッコよさそうでは?」って盛り上がりましたね。
――(笑)。今後の展開も楽しみです。
A 具体的なラストに向かっていくというよりかは、ぎゅっとしたまま、ふんわりと楽しいマンガでいたいなと。
F 群像劇でもある作品なので、脇役たちの恋愛模様や友情も楽しんでいただけたらうれしいです。
※1 創作マンガ同人誌展示即売会。マンガ雑誌の出張編集部のスペースが設けられる。
※2 『週刊少年ジャンプ』にて連載されていた高校生二人がマンガ家を目指す物語。原作・大場つぐみ、作者・小畑健。
※3 「ジャンプ+」アプリ内でランダムに実施されるアンケート。
大阪府在住。2020年に「氷の城壁」でデビュー。2022年より「少年ジャンプ+」にて『正反対な君と僕』の連載開始。