画家ヒグチユウコさんの大規模個展が国内巡回を経て、東京にカムバック! 未発表の原画や初公開のムービー、趣向を凝らしたグッズなど、充実した内容に。個展開催直前の思いやGUCCIとのこれまでの創作についてを語ってもらった
森アーツセンターギャラリーでの展示の様子。"グッチの部屋"など多彩な表情をもつヒグチユウコの世界が広がる
ヒグチユウコが語る、展覧会への思い、GUCCIとの絆
まだまだ描きたい。あふれる創造力のその先へ
20年を超える画業を振り返った『ヒグチユウコ展 CIRCUS FINAL END』。2019年1月、世田谷文学館を皮切りに、兵庫、広島、静岡、高知、愛知、福岡、長野、岡山と9カ所をめぐり、東京・森アーツセンターギャラリーで最終章を迎える。コロナ禍でも、仲間を引き連れ、制作する手を止めずに巡業を続けてきた。その結果、膨大な作品数を携えてフィナーレに臨む。3年前に行なったインタビューでは〝サーカス〟という主題を決めた理由について問われると「自分の作品は観客を楽しませる面と仄暗い寂しさや闇が表裏一体になっているから」と答えてくれたヒグチさん。そのコンセプトを体現する展覧会となる。
「当初作品数は1000点と思っていたのですが、実際カウントし直すと、1500点近い数を展示することになりそうです。私は描いた絵を売って生業を立てている画家なので、手放したものも多くて。今回の展示は会場も広く、お借りする作品もあるので、奮闘しています。世田谷文学館では〝じっくり見ると目が疲れた〟という意見もありましたが、今回はもっと多い。でも、何度いらしていただいても楽しめると思います。イメージは私の部屋の壁。ときどきインスタグラムに投稿していますが、作品でぎっしり埋め尽くされているんです」
すべての巡業先に足を運び、展示空間に合わせたプランを考え、実際に手を動かしてきたが、今回の東京展にも〝サーカス〟さながらのプレイフルな仕掛けが考えられている。
「絵画以外のコーナーも充実しています。たとえば、各地の展示で一緒にまわっている、ぬいぐるみ作家・今井昌代さんの人形を用いて、初めてストップモーションアニメを制作しました。絵本『ギュスターヴくん』をモチーフにしたものです。また、ギュスターヴくんのゾエトロープ(筒を回転させ、内側に描いた絵が動いているように見せる器具)やメインビジュアルにもなっている《終幕》を描いている様子をタイムラプスで再生する映像コーナーもあります。のぞき穴のムービースペースではお子さん用のところにのみ、ちょっとしたいたずらも仕掛けてあるので、楽しんでもらえたらいいですね」
グッチとのコラボレーションで最も印象深いのは2018年チルドレンズのデザイン。グッチの伝統的な色やロゴをミックスした象徴的なTシャツも
新たに追加された展示スペースのひとつに〝グッチの部屋〟があるという。2018年のチルドレンズに始まり、バッグや小物、ホームグッズまでと多岐にわたる。アーカイブスと原画が合わせて展示される。
「グッチとのコラボレーションは夢のような体験でした。ショーウィンドウに飾られている洋服やバッグを見て、ファッションに恋する気持ちを思い起こさせてくれたブランドから声がかかるなんて、今でも信じられないぐらい。私は最新のファッションでないとダメだとは思っていなくて。好きなものを、好きなときに着たいタイプなんです。絵描きなので、そんなに出歩く機会もないですが、この服を着て出かけたい。そんな気持ちにさせてくれるブランドって唯一無二だと思うんです」
2017年12月号の弊誌カバーはヒグチさんのスペシャルな描き下ろし。グッチの最新ランウェイルックをまとったアートワークが登場した
フィレンツェのグッチ・ガーデンで巨大な壁画を手がけたのも得難い体験だったと振り返る。
「異なる言語でやりとりしながらも、イタリアのスタッフは私を信頼してくれて、リスペクトのある現場でした。ある程度私が描いてみると、それはいいねとか、マークだけ入れようか?など、そのつど円滑なコミュニケーションを図ることができてやりやすかったです。イタリアに同行したデザイナーの名久井直子さんや今井さんはこんなに素敵なところにまで来られるなんてと、涙を浮かべていたのもいい思い出です。初めて声がかかったときは2回目があると思っていなかったし、3回目があるとは!と思って続けてきました。私は行き当たりばったりで絵を描いているところもあるので、そんなつながり方も心地よかったです。クリエイティブな遊びに参加させてもらった感覚でやらせていただきましたね」
会期中、グッチ六本木ではポップアップコーナーもお目見えする。そのやりとりの最中にクリエイティブ・ディレクター退任の報を受けた。
「アレッサンドロ・ミケーレは大好きでしたが、次なるグッチも楽しみ。コロナ禍を経て、世界は一変してしまい、これまでと常識も変わってくるのだと思います。歴史のあるブランドというのはどんどん変化していくものなので、それは受け入れないといけないですよね」
インタビュー時は展覧会の準備に追われるヒグチさんだったが、今後海外でも個展が開かれる予定がある。
「毎日、時間のなさにヒヤヒヤしています。それは締め切りがあるからなのか、絵を描く時間を割いてまで、普段の生活を送る時間がもったいないからなのか……。いま1週間休んでいいと言われても、やっぱり絵を描くことが日常なので、止めることはないです。最近、自分の人生のゴールがどこなのか、ということを考えます。これだけの作品を一度に眺められる機会もなかなかないので、自身としても興味深いですね」
絵本『せかいいちのねこ』シリーズ、『ギュスターヴくん』(人形作家・今井昌代と共作、ともに白泉社)、『ふたりのねこ』(祥伝社)などの絵本や自身のギャラリーが運営するボリス文庫による出版物も多数。映画ポスターなど国内外に熱狂的なファンをもつ。
幻想的な世界へと誘うスペシャルなアイテムが到着。グッチ六本木ほか、オンラインショップでも出合える
スウェット¥148,500/グッチ ジャパン(グッチ)
伝統的なウェブ ストライプとアートワークを組み合わせて、カレッジスウェットのような趣に。想像上の生き物たちが正装して練り歩く様子に目を奪われる。
(右から)バッグ「グッチ バンブー 1947」〈H15×W21×D7〉¥566,500・バッグ「グッチ ダイアナ」〈H24×W27×D11〉¥561,000/グッチ ジャパン(グッチ)
きのこに乗った猫と植物図のプレイフルなルックス。
クッション〈50×50㎝〉¥136,400/グッチ ジャパン(グッチ)
ポップアップのキービジュアルをクラシカルなクッションに落とし込んだ。モアレ模様もミステリアス。背面は植物や花々が敷き詰められたパターンに。
フーディ¥280,500/グッチ ジャパン(グッチ)
キュートなピンクのフーディに"YUKO"と"GUCCI"のネームを刺しゅうした遊び心たっぷりの一枚。うさぎや心臓、ボリスなどヒグチワールドの住人たちがカラフルに躍る。
Tシャツ¥79,200/グッチ ジャパン(グッチ)
グラフィカルなロゴTシャツはマストハブ。ブランドの象徴であるインターロッキングGの上を闊歩する猫のおちゃめさに心をつかまれる。なめらかな肌ざわりのコットンジャージ素材。
スカーフ〈90×90㎝〉¥61,600/グッチ ジャパン(グッチ)
大判のシルクスカーフはビビッドなグリーンが目に鮮やか。春らしい花々が咲き乱れる世界が全面に広がっていく。黒いレタリングがアクセントに。
個展の核となる大型作品を解説 『ヒグチユウコ展 CIRCUS FINAL END』
人生において、描ける枚数は限られています。個展は、自分がいまどこの位置にいるかを確認する機会です ー Yuko Higuchi
『ヒグチユウコ展 CIRCUS FINAL END』に向けて制作された大型作品《終幕》。その中でもキーとなるのが中心に描かれた、写真上の月と太陽にはさまれた球体のシーンだ。水の中のサーカステントと対をなすように配置された不思議な魚。
「これは世田谷文学館のために制作したアートワーク(写真下)に登場した魚と同じなんです」とヒグチさん。背中にたくさんの仲間たちを乗せて出発した魚は最終の地にたどりつく。仲間たちと別れ、自然に帰っていこうとしているような情景を思い浮かべる。この壮大な作品を仕上げていく様子はタイムラプス動画として会場の映像展示で見ることができる。
『ヒグチユウコ展 CIRCUS FINAL END』 絵本からクライアントワークの原画まで一挙に展示し、過去最多の作品数で展開。一部スペースを除いて、写真撮影OK。ヒグチワールドの生き物をモチーフとしたカフェメニューもぜひ味わってほしい。
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