2023年8月、FIBAバスケットボールワールドカップ 2023がついに開幕。さらに、2016年にスタートした「Bリーグ」もこの9月で8年目を迎える。注目が集まる日本のバスケットボール界を牽引するのが、千葉ジェッツふなばしに所属し、W杯男子日本代表の主将を務めた富樫勇樹選手! 彼自身が愛用するバッシュに合わせて、スポーツ×ハイモードの新しいスタイルを提案した。
※記事中には2023年10月号発売当時の情報も含まれます
どんなファッションでも、奔放にコートを駆け抜ける!
ダニエル・リーがチーフ・クリエイティブ・オフィサーに就任して以来、初となる今季のバーバリーのランウェイより。「一見タイトそうに見える、硬いレザー素材のパンツなので、最初にポージングするときは少し緊張しました! でも、ゆとりがあるシルエットなので実はとても動きやすいですよ」と話すのはボールを軽やかに操り、自由自在に動く富樫選手。
体が躍動するにつれ、形を変える衣服
バイカースタイルに新たな解釈を加え、モダンにアップデートしたフェラガモのセットアップ。メゾンを象徴するレッドのコードをあしらい、現代的なムードを醸し出す。「今日着た中でも、一番スポーティですよね。普段身につけるジャージに似ているからか、安心感がありました」。高くジャンプし、パスを投げる。驚異のスピードを誇る彼のモーションは、鋭さと、その輝きを増していく。
リングの先に待つのは、まばゆい未来
ロングコートを翻しながら、シュート! たっぷりとした布地をリズミカルにさばく姿に、コート上で俊敏に動く研ぎ澄まされた感性が光る。テーラードスタイルを再解釈した装いに、バッシュを合わせ、アクティブな空気も薫らせて。
大胆に装うときには、ユーモアをひとさじ
日本のバスケットボール界を盛り上げるため、新しい取り組みに積極的な富樫選手。ファッション撮影も数回チャレンジしていると語る。「何度かトライしてきましたが、さすがにこの帽子をかぶるのは初めてで、新鮮です(笑)」。バーバリーのシグネチャーであるチェック柄はシックなカラーパレットでお目見え。華やかなイングリッシュローズのプリントがあしらわれたカットソーで遊び心を添えて。
【スペシャルインタビュー】 富樫勇樹、どこまでも自由に走り抜ける
プロバスケットボール選手として10年目を迎える2023年。W杯を目前に控え、新たな挑戦に向けて、着々と準備を進める今、富樫選手の心の内に迫った
さりげない遊び心と意外性。それは装いと、プレースタイルにも
「何度かこういった撮影を経験していますけど、正直、全然慣れないです(笑)。スタッフの方のアドバイスのまま、挑戦するだけでした」
撮影後、富樫勇樹選手はそう謙虚に語った。しかし、超満員のアリーナで観客の視線を釘づけにする彼は実にスムースに撮影をこなした。何げなくボールを操るたびに、バスケファンでもあるフォトグラファーとスタイリストは子どものように目を輝かせ、パスを受けたスタッフは興奮を隠し切れない様子だった。
ゴールが頭上にある競技の特性上、バスケットボールは体格が大きくものをいうスポーツだ。世界最高峰のプロバスケリーグ・アメリカのNBAでは、身長2メートル、体重100キロ級の選手がボールを奪い合う。日本のプロリーグ・Bリーグでも、身長190センチ台の日本人選手もなんら珍しい存在ではない。
むしろ、異端なのは富樫選手のほうだ。B1リーグで二番目に小柄な167センチの身長で、プロデビューした19歳から常に国内のトップシーンを走り、2019年には日本人初となる1億円プレーヤーとなった。
この日、富樫選手は黒のTシャツ、ショーツ、サンダルといういでたちでスタジオに現れた。アクセサリーや時計は身につけていない。「いつも同じものしか着ないし、靴はできる限り履きたくない。普段は本当にひどい格好なんですよ(笑)」と語る。人前に出るときもモノトーンのシンプルなスタイルを好むそうだが、「たまにド派手なやつを着たくなるときがあるんです」と一言。たとえば?と尋ねると「半年くらい前にセリーヌのカーディガンを購入しました。ピンクの編み地に子犬が描かれているものです」とコメント。ちなみに、7月に放送されたドキュメンタリー番組ではパームエンジェルスのオレンジ色のスウェットを着ていたが、こちらも胸もとにレオパード柄のテディベアがあしらわれている、なかなかキャッチーなアイテムだった。
富樫選手がファッションに求める遊び心と意外性。それは、アスリートとしての彼の生きざまにも重なるものがある。
中学卒業後、当時としては非常に珍しかったアメリカ留学を決行。シャイな性格ながらバスケの実力で仲間の信頼を勝ち取り、主力として高校の全米ランキング2位に貢献した。高卒でのプロデビューも異例だった。
一回り、二回りも大きな選手をスピードとテクニックで翻弄し、相手の心を折るようなシュートを沈めるプレースタイルは、唯一無二のもの。彼はいつも、われわれを驚かせるようなことを飄々とした表情でやってのける。
最近はSNSを通して選手の立場では言いづらいような意見を積極的に発信し、フォロー外のファンのツイートにゲリラ的にコメントを送ったりもする。
「選手がファンに絡んじゃダメっていうルールはないし、喧嘩するつもりではないので。そういうアスリートがいても面白いじゃないですか」
彼はいたずらっぽく笑った。
富樫選手愛用バッシュ「ナイキ カイリー7」
今回の撮影では、富樫選手が実際に愛用しているバッシュに合わせて、スタイリングを提案。「これまでいろいろなバッシュを履いてきましたが、ナイキのカイリーシリーズの1、5、7番のものが好きですね。なぜか奇数番号のほうが相性がよかった! 特に今は7番を愛用中です。ナイキのバッシュは、入れ替わりが激しく、気に入ってもすぐに販売終了してしまうので、同じ色のものを二十数足、購入したんですよ(笑)」と富樫選手。
アスリートとして“やり切った”。到達し得る、究極の境地
富樫選手がキャプテンを務める千葉ジェッツは、5月に閉幕したBリーグのシーズンを準優勝で締めくくった。
3月の天皇杯は主力を欠きながらも優勝し、リーグの最高勝率を更新してレギュラーシーズンをフィニッシュ。上位チームで争われるプレーオフもぶっちぎりで勝ち抜くと目されていたが、ファイナルで琉球ゴールデンキングスに敗れた。
同様にファイナルで敗れた4年前、富樫選手は、憮然とした表情で対戦相手と挨拶し、眼前の優勝セレモニーを一切見ようとしなかった。ところが、今年は琉球の選手たちを笑顔で祝福し、まっすぐな視線でセレモニーを見届けた。「あれは自分でもびっくりしましたね」と意外そうに語り、当時の心境を説明する。
「優勝でも準優勝でもどっちでもいいというか、チームとしてやり切ったから落ちる必要がなかったという気持ち。今年はヘッドコーチを含めたスタッフが大幅に入れ替わって不安なスタートでしたし。スタート時の状況を考えたら、これ以上ない成績だったのではと思います」
富樫選手は十代のころから周囲の期待や重圧を受け流し、自らにベクトルを向けられるタイプだったが、先のような境地に至ったのはつい最近だという。
「これはアスリートとしてよいことかわからないんですけど。やる気もめちゃくちゃあるし、いまだにバスケが楽しい。でも、〝この身長でこれ以上何を求めるんだ?〟って思うんですよね。プロになってからの10年で、この身長でできることはやり尽くしたから。そういう意味ですべてのことが楽になった。もちろん負ければ悔しいですけど。〝勝たないと〟とか〝いいプレーをしなきゃ〟みたいなプレッシャーを今はそこまで感じていないんですよ」
2023年でプロ10年目を迎え、7月30日には30歳になった。身長の穴を突かれて得点を奪われることは日常茶飯事。過去を遡れば、目標としていたNBAには手が届かなかった。しかし、自分のやれることを精一杯やってきた。そう言い切れるだけ日々重ね続けた努力が、167センチの身長で日本最高峰の舞台を戦っているという現実と、彼の芯にあるしなやかで、ブレない心を作り上げた。
「100人に聞いて100人がいいと言う選手ではないと思ってるし、〝日本代表に富樫はいらない〟みたいな声がたくさんあることも知ってます。でも、〝まあね、この身長だしそうだよね〟という感じ。何を言われようが気になりません。今はチームとしての結果を求めつつ、勝ったり負けたりを繰り返しながら楽しく、向き合えていると思います」
自身のキャリアの集大成として。日本のバスケ界をさらに飛躍させる
8月25日から、沖縄でFIBAバスケットボールワールドカップ 2023が開催された。指揮を執ったのは東京五輪で女子バスケ日本代表を史上初の銀メダルに導いたトム・ホーバスヘッドコーチ。富樫選手はNBAプレーヤーの渡邊雄太選手、Bリーグ昨季MVPの河村勇輝選手らとともに主力の司令塔として出場。
「シンプルに楽しみなのに加えて、すごく運がいいなといつも思ってます。東京五輪が27歳。沖縄ワールドカップが30歳。経験があって体力的な衰えもない時期に、立て続けに日本開催の国際大会があるのが奇跡的ですよね」
今後は来年のパリ五輪を自身のバスケットボールキャリアの集大成として見定めている。パリ五輪に出場するためにはワールドカップでの好成績が必須。「東京五輪も〝最後の可能性がある〟と思って大会に臨んでいましたけど、今回もそういう気持ちでいます」と力を込める。
「僕個人のことは置いておいて、日本のバスケット界においてパリ五輪に出ることはすごく大きな意味を持つと思います。そこに向けた強化につながるよう、今、日本代表のユニフォームを着させてもらっている、一人の選手としてできることに全力で取り組みたいです」
とがし ゆうき●1993年7月30日生まれ。B.LEAGUE・千葉ジェッツふなばし所属。ポジションはポイントガード。2020- ’21シーズンには、キャプテンとしてチームを初のBリーグ年間チャンピオンに導いた。’21年の東京2020オリンピック出場。8月25日より開催されたFIBAバスケットボールワールドカップ 2023にも出場。