【『鹿児島睦 まいにち』展】 展覧会の裏側を語ったインタビューから、注目のグッズまでお届け!

陶芸作品やテキスタイル、版画、プロダクトデザイン。自由自在に広がる鹿児島睦さんの世界には物語を読むような楽しさがある。初となる大規模個展や描き下ろしアートワークを堪能して

鹿児島睦プロフィール画像
鹿児島睦

かごしま まこと●陶芸家・アーティスト。沖縄県立芸術大学美術工芸学部で陶芸を専攻。卒業後、インテリアショップに就職し、35歳で陶芸家として独立。福岡のアトリエが拠点。

『鹿児島睦 まいにち』展のための新作の器
上の写真は『鹿児島睦 まいにち』展のための新作の器

目に映る景色を一変させる器

食卓に並べた瞬間、まるで花を生けた花瓶を置いたかのように、みんなの表情がパッと明るくなる。鹿児島睦さんの作る器には圧倒的な〝かわいい〟力が備わっている。多彩な活動を手がける鹿児島さんの作品群を網羅した『鹿児島睦 まいにち』展(市立伊丹ミュージアム)は、伊丹では閉幕したが10月7日からは立川のPLAY! MUSEUMに、その後は静岡の佐野と福岡へ巡回する。

「〝まいにち〟と名付けたのは、ものづくりの日々は淡々としたルーティンからできていると思ったから。決まったことを繰り返す私の日常を切り取って、展示室に持ち出したという感覚。会場構成などはディレクションを手がけたチーム『ブルーシープ』らにお任せしたので、私は制作に専念できました」と鹿児島さん。

会場は「あさごはん」から始まり、「ひるごはん」「ごきげんよう」「ばんごはん」「おやすみなさい」と鹿児島さんの器や多岐にわたるプロジェクトを交え、1日を追体験する構成。淡々と日常を紡ぐことに喜びを見出している鹿児島さん。彼の哲学は会場で流れていた音楽からも感じとれる。

「ブルーシープから展示室に何か音楽をかけたらと提案がありました。普段、私が器を成形しているときはバッハをかけています。最初から最後まで大体何分間なのかわかり、時間の経過を感じやすいため。絵付け作業になるとテクノなどアップテンポの曲で楽しく手を動かします。今回はどんな曲を選ぼうかと考え、ある展示室のためにカノンを選びました。映画『インセプション』(’10 )で登っても登っても永遠に階段が続いていく場面がありますが、カノンの音楽の形式と似ている。ひとつのフレーズに対して、同じフレーズを重ねたり、同じものだけど90度ずらしてみようとか、完全に重ねてしまおうとか。その流れが自分の毎日の仕事をする感覚ともつながっていて、面白いと思いました」

鹿児島睦

日々使う器とアート作品の境界線

鹿児島さんの器はアートピースのように飾って楽しむ方も多い。器としても、オブジェとしても美しいという捉え方に少し戸惑うときもあった。

「この仕事を始めたときに、私は食器としての用途が大切だと考えていました。器であり、毎日使える道具であってほしいと思っていたからです。一方で、使う人にとってその器を眺めて楽しむことも同時に提供したいと思っています。私が日本人だからなのか、日用品でありながら、そこに美を見出すという、〝用の美〟のような二面性に惹かれるんです。そういう矛盾しているところも、受け入れられるようになりました。私が作るものはアートなのか道具なのかわからない。まるで国境の上を歩くような仕事だと感じています」

『鹿児島睦 まいにち』展

職人として作り他者にゆだねる楽しみ

数々の取り組みの中で最も印象深かったと語る、道後温泉と銀座三越とコラボレーションした浴衣も今回の展示で見ることができる。

「銀座といえば柳、道後温泉といえば夏目漱石の小説『坊っちゃん』に出てくる校長〝狸〟。その二つの要素から〝柳おどり〟の柄を思いつきました。たぬきが柳の枝を持って踊るという絵柄です。デザインを紙に描き、日本橋にある染元の戸田屋商店さんに送って、自由にアレンジしてくださいとお願いしました。職人と協業すると本当の意味でプロフェッショナルな仕事を学ぶことができます。私の普段の作品や世界観も活かしてくださって、楽しかったですね」

今回、鹿児島さんとSPURが初のコラボレーション。〝装う楽しみ〟をテーマとしたアートワークを制作してもらった。もしも、こんなに美しい世界がテキスタイルになって、まとうことができたなら……。わくわくする想像の世界は下に続く。

鹿児島睦のSPUR描き下ろしイラスト

『鹿児島睦 まいにち』展を訪れて

静かな空間の中で向き合う鹿児島睦さんの作品の数々。この器とまいにち一緒に過ごせたらわくわくすると思わせてくれる。

「あさごはん」から始まり「おやすみなさい」まで。1日のいろいろなシーンを想起させる空間で作品を味わう。このために200点を制作した。

『鹿児島睦 まいにち』展

展覧会のハイライトは鹿児島さんの器を見て、児童文学作家の梨木香歩さんが文章をつけたという『蛇の棲む水たまり』の物語。絵本は10月7日に発売される

『鹿児島睦 まいにち』展

「さんぽ」と題された空間では器以外にも、洋服やバッグなど身にまとうアイテムを展示

鹿児島さんが手がけたミッフィー・アートパレード

鹿児島さんが手がけたミッフィー・アートパレードのためのテキスタイルも目を引く

『鹿児島睦 まいにち』展

カノンが静かに流れる部屋「ばんごはん」。カーテンや落ち着いた照明の中で浮き上がる作品群はとても親密な雰囲気。黒地の器に彩色が施された"黒地・下絵付け"の作品が並ぶ

『鹿児島睦 まいにち』展

「ひるごはん」の部屋はわいわいと大勢でテーブルを囲むようなにぎやかさ。鹿児島さんののびやかな作風により、器やキャンバスが大きくなってもアートワークがダイナミックに映える

『鹿児島睦 まいにち』展

オプティミスティックな"黄色地・下絵付け"の作品を軸にした部屋「あさごはん」。朝の木漏れ日を表現したインスタレーションとともに展示されている。1日の始まりに心躍る瞬間を切り取った

鹿児島睦 浴衣

鹿児島さんが手がける作品の源には、幼少期に着物好きの祖母が着物や浴衣を座敷で虫干ししていた情景がある。そこに描かれる図案の配置や、生き物や植物の形に魅入られた。インタビューでも語っていた道後温泉と銀座三越とコラボレーションした浴衣も展示されている。
※撮影はすべて市立伊丹ミュージアムにて

『鹿児島睦 まいにち』展のグッズ

展覧会を訪れたら、かわいいグッズも手に入れたい。チャーミングなデザインが日々を彩ってくれる

鹿児島睦 トートバッグ
"トートバッグ"¥2,530

器の図案をもとに、シルクプリントを施したトートバッグ。ワントーンのシックな色みも素敵。

鹿児島睦 まいにちプレート
"まいにちプレート"各¥550

鹿児島家でも用いられているというメモがカードに。日々の約束ごとをユーモラスに表現。

鹿児島睦 花と鳥のミトン
"花と鳥のミトン"¥14,300

ミトンのための図案を考案。鳥の目の表現が1羽ずつ違う。ミトンを収納する絵柄入り巾着袋つき。

鹿児島睦 BUAISOUの本藍染・手縫い風呂敷
"BUAISOUの本藍染・手縫い風呂敷"¥35,200

藍師・染師「BUAISOU」と取り組んだ風呂敷は長く愛用できる普遍的な美しさ。

鹿児島睦 ぷくぷくシール
"ぷくぷくシール"¥1,100

PVC加工の立体型ステッカーセットも人気のお土産。亀、犬、猫、猿のモチーフがアイキャッチ!

鹿児島睦 万の焙じ茶
"万の焙じ茶"¥2,268

制作拠点である福岡の茶酒房「万(yorozu)」と協業したほうじ茶は会場限定のスペシャルな缶もうれしい。八女茶もあり。

鹿児島睦 MFL カップ&ソーサー
展覧会とあわせた新作"MFL カップ&ソーサー"¥9,900

鹿児島さんのプロダクトライン「MFL」シリーズのカップ&ソーサーは大人気の猫もお目見え。

鹿児島睦

PLAY! MUSEUM
『鹿児島睦 まいにち』展は10月7日から立川のPLAY! MUSEUMにて巡回がスタート。黙々と毎日の仕事と向き合うことから生まれる作品の数々。その絶え間ない創作力の全貌を体感できる構成になっている。
会期:10月7日〜2024年1月8日
会場:PLAY! MUSEUM
042-518-9625
https://play2020.jp/article/makoto-kagoshima/

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