2024年、注目のアスリート! 【ブレイキン 湯浅亜実】未知の領域へ

2024年のパリ五輪で新たに加わったブレイキン。音楽に乗せた即興ダンスで競う新種目で注目を浴びるのは「B-Girl Ami」として知られる湯浅亜実さん。SPUR初登場となる彼女が、モードな装いで踊り、語る

湯浅亜実プロフィール画像
湯浅亜実

1998年12月11日生まれ。Good Foot Crewに所属する、日本のブレイクダンスダンサー。ダンサーネームは「B-Girl Ami」。2019年、2022年の「WDSF世界ブレイキン選手権」で優勝。2023年には「Red Bull BC One World Final」で、2018年以来2度目の優勝を勝ち取った。

一瞬のきらめきを逃さず光も味方につけて踊る

SPUR3月号 湯浅亜実
SPUR3月号 湯浅亜実
コート¥121,000/THE WALL SHOWROOM(シンヤコヅカ) 中に着たチュールドレス¥34,000/ビビィ ブーツ¥36,300/ドクターマーチン・エアウエア ジャパン(ドクターマーチン)

黒いジャケットにちりばめられた金の箔押しが、しなやかな動きに合わせて静かにきらめく。

「いつもと同じ動きでも服が異なるだけで見え方が変わると発見しました。試合でのスタイリングはダンスが映えやすいように、色やサイズまで気を配ります」。

世界の舞台で躍動する。B-Girlが見つめる、ブレイキンの今

カルチャーとスポーツの垣根を越え、世界で挑戦を続ける

SPUR3月号 湯浅亜実
コート¥165,000/カーブストア(ヘルムシュテット) 帽子¥17,600(ワイエス)・首につけたカチューシャ¥16,500(ジュスティーヌ クランケ)/THE WALL SHOWROOM 白い靴¥12,100/クロックス カスタマーサポート(クロックス)

プライベートではあまり色のある服は着ないと話す湯浅さん。「鮮やかな色に慣れずソワソワしたけど、いつも着ているオレンジやベージュが入っているだけで少し安心(笑)」。

DJによる即興の音楽に合わせて、ダンサーが1対1で高速ステップやアクロバティックなダンスを交互に披露して競い合う。1970年代のニューヨークでストリート文化から生まれ、現在はダンススポーツにまで発展。2024年のパリオリンピックでは新種目に採用されて今注目を集めているのが、ブレイキンだ。この競技の数々の大会で結果を残し、世界のトップを走るのが「B-Girl Ami」こと湯浅亜実さん。

彼女がブレイキンに出合ったのは10歳のとき。現在所属するGood Foot Crewでともに活躍する姉、Ayuさんの影響で、小学校1年生からヒップホップダンスを習い始めた。その際、発表会で目撃した、背中を床につけながら両足を回転させる技「ウィンドミル」のかっこよさに心を奪われた。

「生で見たとき、私も同じ技に挑戦したいと思いました。それから本格的にブレイキンを習うため、ブレイクダンサーのKATSU ONEさんのもとに通い始めました。はじめは週に1回のグループレッスンでしたが、いつの間にか週3、4回の個人レッスンに加え、個人練習をするまでのめり込むように。当時、バトルに出ていた同世代の女の子はほぼいなかった。キッズが少ない分、大人に交ざってのびのびと練習できました」

決められた振り付けのショーケースよりも、その場で音楽に合わせて踊るバトルが自分には向いていると感じ、中学1年生頃から参戦するように。

「いざステージに立ったとき、自分が何を表現したいのか、対戦相手を前にしてどう踊るのかを即興で考えることが私には合っていました。未だにチームメイトとショーケースに出るときのほうが緊張します(笑)。ブレイキンの醍醐味は正解がなく、自由なところ。ダンサーはみんな勝つために全力を注ぐけど、全力を出し切った人が必ず勝てるわけではない。そこが面白いところでもあり、難しさでもあります。いろんな条件が重なって、一人のダンサーが優勝しても、条件がひとつ変わるだけでその勝ち負けは変わってしまう。逆に勝つためにはどうしたらよいのかを考え始めると、すごく難しいです。ほかのスポーツのようにこのトレーニングをすれば強くなるという保証もない。出るからにはもちろん勝ちたい。でも私は勝敗だけでなく、自分自身を背負ってステージに立つことができるか、見た人の印象に残るかを大事にしています」

パワフルな技を盛り込んだ人が勝つこともあるが、大技を入れずに勝つ人もいる。そんな中で湯浅さんの持ち味は、基礎的な動きから華麗なステップ、アクロバティックな技までを自在に組み合わせながら、自分のスタイルを貫き通す点。ただ意外にもオリジナリティを出すことは重視していないと語る。

「自分だけの技にこだわるダンサーもいますが、私はトラディショナルなスタイルを軸に自分がやりたいものをうまく取り入れるようにしています。もちろん真似事はタブーですが、オリジナルであろうと頑なにならず、私自身が見せたいものや、既存の技の好きな角度を深掘りしていくと、いつの間にか私のスタイルが出来上がっていました。キッズダンサーからオリジナルを生む方法を尋ねられることがありますが、考えすぎず、自分の踊りを楽しんでほしいです」

そんな彼女だが、スタイルを築く方法のひとつに、カルチャーをリスペクトしたアプローチを挙げる。

「ブレイキンのルーツや、ヒップホップ音楽を理解しているか、理解せずに踊るかでは雲泥の差がある。そこを学ばずに独自の路線を走っていくことが悪いことだとは思いませんが、ルールが曖昧で自由なブレイキンだからこそ、背景を学んだ軸があることで表現の幅が広がると思っています。習い始めた当初から、先生やDJの方に昔の話を聞いたり、海外ダンサーのワークショップに積極的に参加して、歴史について学びました。あとは映像などの資料をインプットしたり。ヒップホップ映画の代表作『ワイルドスタイル』('82)は何回も観直しました。言い伝えられてきていることだから、人によって解釈が違ったり、情報は正確じゃないんです。でも、何が正解かではなく、自分の中で噛み砕くことが大事だと思います」

自分のスタイルは妥協せず、とことんこだわりを貫く

SPUR3月号 湯浅亜実
通常は身につけない、大きな衣装でブレイキンのポーズにトライ。「写真を見たら、これ何してるんだろう?って自分でも不思議に思いました(笑)。白いチュールが、黒いジャケットで引き締まる。見え方が変わって面白い」

撮影中、モードな衣装でポージングをキメる凛とした姿とは打って変わって、話すと笑顔が絶えない。気さくな性格からは人を惹きつけるカリスマ性を感じる。

「今回の撮影では普段着ないようなアイテムや、鮮やかな色みのスタイリングに挑戦できて新鮮でした。特にブレイキンの動きで撮影したジャケットスタイルは、写真で見てみるとポーズも案外キマっていてお気に入り。私服は、試してみて似合っていればなんでも着るタイプ。ただ、身長があまり高くないので、サイズに気をつけて、シルエットでメリハリをつけるように意識しています」

私服は好きなものを自由に着ていると話す湯浅さんだが、ブレイキンの衣装には人一倍気をつかっている。

「袖の長さや、踊っているときのフィット感はしっかり確認しています。見ている人にはわからないかもしれませんが、その数センチの差が動きの見え方を左右するし、自分のテンションが乗るか、乗らないかが変わる。かといって、動きやすさだけを重視したシンプルなジャージだと、気分は上がらない。絶対にバトルで着たい服は2サイズ買って調整したりもします。あとは会場とのバランスも重要。フロアの色や暗さに対し、同じ動きをしていても衣装のシルエットや色が変わるだけでかなり見え方が変わる。たとえば、同じ黒い服でも、暗い会場で細かい動きをすると同化して見えなくなりますが、逆にステージの床に明るい色のステッカーが貼ってあると黒が映えて見えることも」

衣装の見え方まで入念に確認を行うのは、動きの細部にまで徹底したこだわりを持っているからだ。

「バトルでは自分がかっこいいと感じた技しか使いません。たとえ3カ月かかって習得した技でも、チェックのために撮影した動画で確認し、かっこ悪かったら使わない。一つひとつの細かい技の角度や、フローの美しさに気づいてほしいわけではないけど、こだわり抜いた動きを見た人から『Amiのダンスってかっこいい、見ていて気持ちがいいよね』と思ってもらえるとうれしい。また、映像では読み取れない臨場感が会場にはあるので、ぜひ味わってみてほしいです。バトルは生ものとよく言われるんですが、その時その場所でしか見られないものがある。会場の音楽と空気を巻き込む力もダンサーのスキルだと思います。大きな会場でなくとも、小さな箱のクラブイベントもおすすめ。ブレイキンは気軽に見に行けるのも魅力のひとつ」

ダンスカルチャーであったブレイキンが、パリオリンピックでダンススポーツ競技として採用されたことで、よりいっそう注目が高まっている。

「スポーツになることによってブレイキンを取り巻く環境が豊かになっていると日々実感しています。その一方で、運営側も手探りのため、プレイヤー側が大事な大会に向けて調整を進めている途中で、いきなり変更があったり。今まで自分の踊りに向き合っているだけでよかったのに、外的要因も気にかけなくてはならず、気持ちが落ちているダンサーも多いです。私も大会の連続で迷うことが多く、思うように踊れなくなったことも。でも今は、ブレイキンがスポーツになったとしても、私たちのやるべきことは何も変わらないと考えるようにしています。ただ挑戦するからには全力で取り組んでいますし、出るからには勝ちたい」

撮影当日に25歳の誕生日を迎えた彼女。最後に、今後のダンサーとしての目標を伺った。

「今までと変わらず、まずは目の前のことに全力を尽くしたいと思っています。正直、大きな大会が増えてくると、ついそちらに目が行きがちですが、心配性な私の性格上、先のことを考えるとソワソワして練習に身が入らなくなる。だからこそ、バトルの大小にかかわらず、1戦1戦を大切にしていきたいですし、練習でもその日の課題に集中することを心がけています。これからも着実に自分の信じた道を進んでいきたいです」

愛らしい佇まいの中で 静かに燃える闘志

SPUR3月号 湯浅亜実
ジャケット¥880,000/ヴィヴィアーノ 中に着た白Tシャツ¥4,400/FTLジャパン(フルーツオブザルーム) パールつきネックレス¥36,300・短いネックレス¥62,700/カーブストア(ガルブ)

重なったオーガンジーからお茶目なTシャツがのぞく装い。クールでありながら、話すと愛嬌たっぷりな彼女によく似合う。「私の中でブレイキンは自己表現のひとつでアートに近いもの。ブレイキンをスポーツにするというより、スポーツの世界にブレイキンをレペゼンしに行くイメージで取り組もうと思っています」。B-Girlは、静かに次の試合を見据えている。

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