中国フレグランスブランド【to summer】 創設者Shen Liの独占インタビューをお届け!

SPUR 2024年9月号では、「知っていますか? 中国の今」と題して、隣国のアップカミングなトレンドをお届けしています! そんな本特集内で注目した現象のひとつが、空前のフレグランスブーム。to summer(观夏)はこのシーンを牽引するブランドのひとつとして、本誌でもたっぷりフィーチャーしています。「東洋」の世界観を軸に、ビジュアルやパッケージデザインに美意識が貫かれているのが特徴。何より“茶”をモダンに表現した調香が素晴らしいんです。ここでは特別にファウンダーのひとり、Shen Li(沈黎)さんの拡大版インタビューを公開します!

理想のフレグランスを作るためにスタートした

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to summer ファウンダー Shen Li(沈黎)さん

––なぜ中国で香水ブランドを立ち上げようと決めたのですか?

当初、創業チームで香水ブランドを巡ったときに、求めていた中国の香り、たとえば中国茶の香りなどをうまく取り入れている香水が見つからなかったためです。茶の成分を含むフレグランスはありましたが、私たちが幼い頃から接してきた茶の香りとは違うものばかりでした。理想のものが見つからなかったので、自分たちで作ってみようと。

初めに雲南省を起点に、雲南景迈普洱茶を栽培するラフ族(拉祜族)の茶農家や、茶摘みの女性と深く話し合い協力関係を作りました。そうして国内のリサーチを経験を積み重ね、まずは本当に良い“中国茶の香り”を作り上げることをミッションとしました。その土地に根づいた文化に触れ、香りへの探究心を膨らませるのが、to summer創業の出発点なんです。

to summer ビジュアル
キャンドルを訴求するビジュアル

––調香において意識していることは?

“東洋の香り”を作るためには、まず香水成分の組み立てから、これまでと違う方法を取る必要があります。フレグランスは化学分子の配合物というだけでなく、その背後にある文化の表現と、民族や暮らしの記憶でもあります。中国は唐宋時代以来、香り大国です。当時文化的で風雅な生活様式を送っていた人々は香り、生花、絵画、点茶、どの領域にも精通していました。彼らのライフスタイルと文化は再評価されるべきだと思うんです。

そのため、私たちは東洋を表現できる香料成分の探求から始めることに。雲南、広西、湖北、四川、吉林などの地で珍しい、ドメスティックな香料を採取しました。その旅の記憶と、中国古来の山水画などを手がかりに、世界トップクラスの調香師とともに香りを作り出しています。ドメスティックな香料、ローカルなスピリット、世界最先端の技術を合わせて、東洋モダンをクリエーションしているんです。

また、世界最大級の天然香料生産グループであるフランスのMAUBERT PARIS社とは10年間の研究開発計画を結び、中国本土成分のサプライチェーンを共同で研究開発・整備。本土香料の香水業界の発展を推進しています。世界のフレグランスのラインナップに東洋の香りを加えることで、新たな“東洋モダン”の形成を目指しています。

「煎茶」の香り。ワックスウォーマー、キャンドルディフューザーなど幅広く展開する

歴史的建造物をリノベーションしたショップ

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––to summerの店舗設計について教えてください。

中国全土の路面店では歴史的建造物の修繕とリノベーションを行い、新たな文化資産となるように再構築しているのが特徴です。to summerのショップは、都市のコミュニティ文化から独立して存在することはできません。これまですべての老舗ブランドが文化的な価値と商業のバランスを積み重ねて存在してきたように、to summerもフィジカルなショップを通じて、文化とライフスタイルの長期的な共存を実践し続けています。

ファッション業界ではこうした歴史建造物のリノベーション店舗は少なくありません。ブルガリとローマのスペイン階段、シャネルによるパリのグラン・パレ、フェンディによるトレヴィの泉など、世界的にもブランドと地域は重要なコミッションを果たしています。中国ではプラダが2017年に上海の旧邸、栄宅(ロンツァイ)の修復を行い、今はアート財団によるギャラリーとして開放されていることをご存じの方も多いはず。

“観夏閑庭”(to summer garden)という旗艦店を、上海旧フランス租界湖南路111号にオープン。この建物は1936年に建てられたスパニッシュ様式で、かつてスペイン人画家とその恋人が住んでいました。私たちが発見したとき、すでに建物は壊れかけていて。この洋館と建築を守りたいと考え、歴史建造物保護の修復チームを招集し1年かけて修復。木製階段やシャンデリアや暖炉など、本来のディテールを維持することができました。

ブランドとしてここまでする意味としては、これからの若者にはショッピングモールだけでなく、日々を暮らすその土地を知り、文化背景や街そのものにも関心を寄せてほしいから。to summerがそのきっかけを作ることで、より豊かになると考えています。

ショップ“観夏閑庭”(to summer Garden)。「闲」(余暇)という言葉には、誰もがリラックスした精神状態になれるように、との思いがある

人々は、香りに“情緒”を求めるようになった

––2018年のブランドのローンチから今まで、お客さんの変化はありましたか?

当初は、香水マーケットは依然として西洋の香水ブランドがメインで、東洋の香りに対しては、あくまでもトライアルするくらいの温度感でした。それが近年では、中国本土全体の景気が向上することで、国民が自国の文化に自信を持ち、自らが東洋のカルチャーや歴史を探究、理解するようになったと感じています。今では顧客自身がブランドのよい理解者となり、布教するようなパートナーとなっています。

また、初めは写実的な“東洋の香り”を好む声が多かったのですが、今はより情緒的な表現を求めています。たとえば、お茶でいうと东方哲学シリーズで「VOID」(空境研茶)というプロダクト。濃厚な中国茶の香りを苦味と甘味で表現し、それだけでなく茶道にある一期一会の価値観を香りの表現に取り入れています。そんな変化があるからこそ、香りのクリエイティビティを探究する上で、より大胆になることができています。

to summer
to summer

2018年に北京で創業。中国茶や竹、菊、松など“東洋の香り”をコンセプトにしたフレグランス、そして伝統文化をモチーフとしたモダンな世界観で知られる。現在ショップは北京、上海、杭州、南京、成都、無錫に12店舗がある。

Shen Li(沈黎)プロフィール画像
to summerファウンダーShen Li(沈黎)

中国版『Harper’s BAZAAR』誌に携わった後、2018年に化粧品EC販売の刘惠璞、デザイナーKhoonとともに3人でフレグランスブランド、to summerをスタート。

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