『【推しの子】』を介して出会った中島健人とキタニタツヤ。異色ユニットGEMNの幸福な化学反応とは? OP曲「ファタール」制作秘話 #推しの子 #中島健人 #キタニタツヤ #GEMN #OshiNoko #Fatal

7月3日に放送開始するアニメ『【推しの子】』第2期のオープニング主題歌「ファタール」を、新たに結成されたユニット・GEMN(ジェム)として手がける中島健人さんとキタニタツヤさん。3月末でSexy Zoneを卒業した中島さんと、バンドやボカロPなどを経て、現在シンガーソングライターとして活動するキタニさんの異色タッグは、大きな話題を呼んでいます。どんなユニットなのかまったく想像ができないまま取材現場に足を運ぶと、そこには驚くほどに波長の合った2人の姿がありました。

第一印象は、ワイプでカッコつけていた人?

『【推しの子】』を介して出会った中島健人の画像_1

──まさかの2人の組み合わせで、最初に知ったときはとても驚きました。今回のユニットを組む以前に交流はあったんですか?

キタニタツヤ 全然面識はなかったですよね。

中島健人 いや、俺は覚えてる。「CDTV(ライブ!ライブ!)」で一緒の回に出てたんだよ。

キタニ ええ!? ウソ! 全然知らなかった。

中島 去年の9月くらいかな? ステージが2つ対面になってて……。そのとき、白いセーター着てたでしょ?

キタニ ……思い出したー!! 確かに向かいにいた! 俺はそのとき、リョクシャカ(緑黄色社会)としゃべってました(笑)。まだ全然ワイプに慣れてない頃だったから、ワイプで抜かれる健人さんを見て「カッコいいな」と思った記憶がある。

──その頃キタニさんは「青のすみか」で話題を集めていましたよね。中島さんはキタニさんのことを、旬な人として認識していたんですか?

中島 いや、それが……ごめんね。あえて言うけど、「ワイプにめっちゃキザな人が映るな」って思ってた。

キタニ えええ、ウソだ!(笑)

中島 リョクシャカはみんなでワイワイしてたんだけど、1人だけめちゃくちゃキザだった(笑)。それがきっかけで、「どんな人なんだろう」と思ったのが第一印象でした。

キタニ いや、思い出してきたけど、健人さんもキザでしたよ。他のメンバーさんはちょっとおどけてて「意外と面白い方たちなんだな」って思ったんですけど、健人さんは1人だけカッコつけてた。

中島 ああ、だから俺たち、共鳴してるんだね(笑)。

愛を愛で返すような呼応が最初からできた

『【推しの子】』を介して出会った中島健人の画像_2

──キタニさんは中島さんへどのようなイメージを持っていましたか? やはり国民的アイドルという印象が強かったでしょうか。

キタニ そうですね。テレビの中の人だと思っていました。最初にソニー・ミュージックから今回のユニットの提案を受けたときは、「いやいや、そんなのあり? 無理でしょう」と。自分はインターネット世界の人間で、彼は半端じゃない王子様。年齢は2歳差で世代は同じですけど、出自や闘ってきた現場が違いすぎるから。

中島 斬新な組み合わせであることは間違いないね。

キタニ でも、実現したら絶対に面白いだろうなとも思いました。それからまず一緒に食事に行ったんですけど、裏表のない人で、テレビでの振る舞いが自然体だったということに驚きました。意外だったのは、反骨精神や、「誰にも負けたくない」という熱さを持っていること。シビアな下積み時代の話を聞いたときに、自分にも共感できる部分を発見できて。そこはいい裏切りでしたね。

中島 うれしいね。僕は、伝えたエネルギーをすごく丁寧に受け止めて、丁寧に返してくれる人だという印象を受けました。初対面のときって、遠慮したり照れてしまったりする人もいるじゃないですか。でもそういうところがなく、ちゃんと愛を愛で返すような呼応が最初からしっかりとできた。丁寧に取り組む方なんだな、と感じました。

キタニ 実は「絶対舐められたくない」って意気込んでいたんです(笑)。だから遠慮せずにズケズケといろいろなことを聞いて。もちろん仕事のため、クリエイティブに活かすためという部分もあったけど、「芸能人とか知らねえから」っていうモードがちょっとあった(笑)。

中島 (笑)。でも、しっかり言い合える関係性は理想的だよね。

店舗でショッピングする? ソファの色は?

──今日ここに来るまではお二人がどんな雰囲気なのかまったく想像がつかなかったんですが、すごく波長が合っていますね。せっかくなので、お互いに聞いてみたいことがあれば、些細なことでもぜひ質問していただけますか。

キタニ 聞きたいことはたくさんあるけど……健人さんって、ショッピングとかできなくないですか? 声をかけられたり、店員さんに覚えられちゃったりしそう。俺が健人さんの立場だったら、もう服なんてネットでしか買えないだろうなって。

中島 意外と気にしてないかも。百貨店とかも全然行くし、表参道とかでも普通に歩いてる。ブランドのショップとかって、入店までに並んでたりするじゃん。普通に並んでるからね。

キタニ そうなんだ!(笑) 俺はブランドとかは買わないですけど、この間、何回か行った服屋さんで店員さんから「Instagramで見ました! うちの服を着てくださってありがとうございます」って言われて、「この店にはもう来れない……」って思いました。

中島 そうなの?(笑) 俺は、存在認識まではギリギリOK。「ジュニアのときからTV見てました」とか言われたら、気になっちゃうかも。でも懇意にするのはいいと思うけどな。苦手なんだね。

キタニ たぶん自意識過剰なんです(笑)。何も悪いことをしてなくても「恥ずかしい!」ってなっちゃう。

中島 じゃあ次は俺からの質問。どんな部屋に住んでるの?

キタニ (笑)。物が全然ないかな。いろんなところでもらったぬいぐるみが転がってます。

中島 ソファの色は黒? L字?

キタニ ああー、そっち系じゃない(笑)。くすんだ青……IKEAみたいな色です。北欧っぽいテイストかな。家ではあんまりカッコつけたくないんですよね。カメラの前やライブでカッコつけるのさえも苦痛な人間だから。

中島 なるほどね(笑)。

キタニ 自分の音楽を届けるために、仕方なくやってるような感覚なんです。

中島 それはそれでカッコいいけどね。でも今回のユニットではカッコつけないと。

キタニ 苦痛ですよ(笑)。でも今回は案内役、P(プロデューサー)がいるから頼もしいですね。ケンP。これまでは自分の判断で「これであってるかな?」って探り探り進めることもあったけど、今回はすごく気持ちが楽です。

星野アイが降りてきた

『【推しの子】』を介して出会った中島健人の画像_3

──そんな2人が『【推しの子】』という作品を介して出会いました。キタニさんにも中島さんにもそれぞれリンクする部分のある作品だと思いますが、最初に触れたときはどう感じましたか?

キタニ 僕はマンガから入りました。コミックスが3、4巻くらいまで出た頃に読み始めて。今回第2期で描かれる舞台「東京ブレイド」あたりのエピソードでは、表に立つ側ではなく、脚本家やプロデューサーなどクリエイターの仕事ぶりにもスポットが当たるじゃないですか。そこはすごく共感できる部分が多かったんです。序盤は普通に「面白いな」とファンタジーを読むような気持ちで追っていたけど、「東京ブレイド」編からは自分ごととして読んでいました。健人さんはやっぱり“最強で無敵のアイドル”だから、最初から「これって俺じゃん」と思いながら読んでたの?

中島 うん(笑)。アイの姿に、アイドルの葛藤が詰まっていて……すごく共鳴しました。すべての喜怒哀楽が詰まっていたんですよね。初めて観たときは「こんなアニメが存在するんだ」ってカルチャーショックを受けたし、久々にアニメで泣いて。でもすごいエネルギーを受け取れるんですよ。『【推しの子】』を観たあとのツアーは、ちょっとパワーが備わっている印象がありました。

キタニ 星野アイが、自分に降りてきてたんだ。

中島 そう。降りてきてた。

──中島さんは、『【推しの子】』第1期の主題歌であるYOASOBIさんの「アイドル」をコンサートの舞台裏で踊った動画をInstagramで公開して、話題になっていましたよね。

中島 あれがすごく反響があって、翌日のMCで「ちょっと踊って」みたいな流れになって、急遽アカペラで歌って踊ったんです。それが自分の中では印象深い思い出で。それきりだと思っていたら、こういうご縁につながって。今お仕事で『【推しの子】』の話ができていることをすごく贅沢に感じるし、淀みなく言葉が出てきますね。

スタジオでの“ザ・クリエイティブ”で贅沢な時間

『【推しの子】』を介して出会った中島健人の画像_4

──YOASOBIさんの「アイドル」は、説明の必要がないほど、2023年を代表するヒット曲になりました。一方でキタニさんは、アニメ『呪術廻戦』のオープニングテーマ「青のすみか」が昨年ヒットしましたよね。日本の音楽シーン全体としてもインパクトの大きな出来事だったと思うのですが、そんな「アイドル」に続く主題歌のオファーを受けた際は、どう感じましたか?

キタニ めっちゃ嫌でした!

中島 ははは!(笑)そうなんだ。

キタニ そりゃもう、超プレッシャーじゃないですか(笑)。でも純粋に『【推しの子】』が好きで、第2期のエピソードは特に好きだから。好きな作品に音楽を寄せられるのは純粋にうれしいことなので、喜んで引き受けました。「アイドル」があれだけポップに間口を広げてくれて、ひたすら1曲を通して星野アイという人を描いてくれたのは、逆にありがたかったです。そのあとはそれぞれのキャラクターや作品全体にスポットを当てて掘り下げる余地があるから。俺はそこに感謝しながら、「アイドル」とは真逆の、人の暗部に踏み込むような歌詞が書けました。1期の主題歌が「アイドル」じゃなかったら、たぶんもっと手加減していたと思う。ポップさを残して、歌詞をもっと曖昧にするとか。

中島 なるほどね。

キタニ その必要がなかったから、とにかく攻めて、てんこ盛りにしました。YOASOBIの仕事には感謝しているし、彼らからのバトンをしっかり受け取ろうという意識はすごくありますね。

──歌詞ではアクアの狂おしいほどの思いが綴られているように感じました。楽曲の制作はどのように進んでいったんですか?

キタニ 歌詞は僕が書きました。曲も基本的には僕が作って、Aメロの健人さんがまくしたてるパートは、2人でスタジオに入って相談しながら固めていきました。その場で即興で試して、案を出してもらい、それを僕が持ち帰ってブラッシュアップしていって。

中島 “ザ・クリエイティブ”で贅沢な時間だったよね。最初の最初はもっとシンセが強くてテクノっぽい感じだったんですけど、今の自分の気持ちを曲に乗せたくて、最終的には呪文を唱えるようなパートになりました。お互いの呼応がちゃんと整った形で曲にはめ込まれて、すごく楽しい作業でしたね。自分が一番したかったクリエイティブの部分を、ソロになってからすぐに取り組ませてもらえるのはすごく光栄なことでした。

キタニ 健人さんは、自分のやりたいことがたくさんある人。自分はクリエイター目線で曲に向き合ってしまうから、「いいメロディを乗せよう」「トレンドのサウンドを入れよう」とかそういう細かい考え方になってしまうけど、健人さんはもっとポップな視座に立っているというか、大衆目線に近い。「多くの人にとって一番美しい形はこうだから、そこを目指そう」というビジョンが見えているんですよね。俯瞰で見れている。自分はプロデューサーを立てたことがなかったから、「プロデューサーと話すって、こんな感じかな」と思いました。

中島 それはありがたいな。

キタニ 自分はどうしても考え方が作り手側で、聴き手の気持ちがわからなくなる瞬間もけっこうあるんです。健人さんはずっと受け手側の気持ちを考えてきた人じゃないですか。エンターテイナーというか。そういう視点からの意見をもらえたのはすごく良かったですね。

同業者をビビらせたい

『【推しの子】』を介して出会った中島健人の画像_5

中島 今後パフォーマンスするときにはどういう形にするかも一緒に考えていきたいし、いろいろと密に相談してるよね。ダークヒーロー的な目線にも立てる楽曲な気がしているし、どうパッケージングするか、最高到達点までのプロセスが、自分の中ではもうぼんやりと見えてます。新しいキタニティーが見られると思います。

キタニ 健人さんにいろいろ案があるみたいなので、そこは任せようと思います(笑)。

──ちなみに中島さんは、この楽曲を自分のアイドルとしての経験も乗せて表現するのか、それとも演じるように表現するのか、どちらでしょうか?

中島 基本的には、この曲はどちらかというとアートだと思っています。その上で、芸術の中に1個だけ挟むんですよ。

キタニ 情の部分を。100人が見て100人ともわかる部分と、1人しかわからない部分が共存しているような。

中島 そうそう。1個抜け感があると面白い。おこがましいけど、多くの方に聴いていただける曲になっていると思います。

キタニ MVでは演じるように表現するかもしれないけど、ライブでやるとしたら情の部分が9割になったりするかもしれない。自分たちの素のまま歌うこともできるだろうし、どこに振っても面白いですね。

中島 正直、現時点ではまだこれからの活動内容も決まってないんですけど、いろんな場所に出向きたいです。

キタニ 同業者をビビらせたい。

中島 それに限ります(笑)。今年の12月31日は、どこで何してるんだろうね。

キタニ どちらかの家でコタツで酒飲んで、年が明ける前に寝ちゃってるかもしれない(笑)。

中島 何もない場合はね(笑)。もし出演が叶った場合は、帰りにそのまま初詣に行こうねって、そんな話までしています(笑)。