監督の熱意が決め手となった韓国ドラマへの出演
──今秋、2作品連続で世界配信されますね。かなりお忙しかったのでは?
「8か月から9か月、この2作品の撮影で韓国や北海道に行っていて、家にほとんど帰っていませんでした」
──そういう生活はいかがですか?
「ちょっと東京の家に帰って、荷物を入れ替えてまたすぐ現場に戻るという感じで慌しかったんですけど、僕自身は結構どこでも寝られる体質なので不便ではなかったです。一日休みだからと東京に帰る方が大変なんですよね。いっそのことずっと現場にいて、過ごす方が落ち着きます」
──まず、10月11日からPrime Video で配信される韓国ドラマ『愛のあとにくるもの』についてですが、どんなところに惹かれてこの作品に出演したいと思いましたか?
「監督が僕の出演を熱望してくださったんです。韓国での作品ということで、言葉ももちろんそうですけど、ドラマとか映画でやってきた今までのことは、きっと通用しないだろう、と。でも、監督と何度かお会いして、そういう不安を払拭するぐらいの熱意で話してくれて、やってみようって飛び込むことができました」
──最初に脚本を読んだ時の、ご自身のキャラクター含めての印象を教えてください。
「5年っていう月日が流れ、元恋人同士の潤吾とホンが空港で再会して、目線が合う。いろんなものがフラッシュバックしたと思うんですけど、素直にすごいなって思いました。5年間、愛情のモチベーションを保ち続けるって、やっぱりなかなか難しいことだと思いますが、彼は想い続けていたんですよね。僕は出会いも縁だと思うし、別れることも縁だと思っていて。この作品は、過去の出会ったところから描いて、その後別れがあって、意図せずもう一度出会うという、出会いと別れが描かれます。台本を読んでいて、すごく面白かったのが、韓国と日本の感覚の相違点です」
日韓の違い、男女の違いを、監督や共演者と話し合えた
──どんなところですか?
「すごく似てる部分もあるし、そうでない部分もあって。一つ例えに出すと、「愛してる」っていうセリフが多かったんです。日本で撮影する場合だと、「愛してる」っていうワードって、LIKEの好きよりも密度が濃くなるじゃないですか。だから監督に「愛してる」っていうセリフがすごく多いと思うと伝えました。そうしたら、僕はこれでも少ないと思うって。相手役の(イ・)セヨンにも聞いたら、もっと潤吾は気持ちを伝えてもいいのにと。でも、日本人はあまり言わないので、通訳の人にも「愛してる」「サランヘヨ」ってそんなに言う?って聞いたら、すごく言うと言われました(笑)」
──確かに日本人の男性は「愛してる」って、簡単に言わないイメージがあります。
「ですよね。そうやって意見交換をする中、監督は坂口くんが潤吾の感覚で脚本を読んでそう思うんだったら、減らしたほうがいいと思うと言ってくれて、ちょっと減ったんです。普段「愛してる」っていうことに気恥ずかしさもあるじゃないですか。監督といろいろ話してた時、この感覚の違いが、二人のズレとなって、物語の中で二人が別れるきっかけになっていくのかなって。あと、韓国人のホンにとって「なぜ気持ちをもっと伝えてくれないの」とか「なんでもっとこっちを見てくれないの」とかそういう感覚が正解なんだねみたいな話にもなったんですけど、少し間引いてどういうふうに愛情を伝えるかということをいろいろ調節していきましたね。それは文化が違うからこそ生じた疑問点だろうし、監督もそれを面白がって、潤吾とホンの間にそういったズレはリアルにあったんだろうねということになりました」
──潤吾というキャラクターは演じてみていかがでした?
「今の「I love you」の話もそうですけど、すごく難しかったです。例えば殺人鬼の役ってなると、みんな経験がないですし、観る方の中にもサイコパシーはあまりないでしょうから、極端な表現は意外とできる気がするんですよね。でも、愛情の話とかって、みんな経験がありますし、自然な、とか普通の、っていうのは、それぞれの中に基準があるので、すべての人に理解してもらうのは難しいなって。ラブストーリーをやるときに思うのは、自分の感覚でやってみようというところがあるのかもしれないです。潤吾とホンのストーリーがあって、僕の身体を使って表現しているのを見てもらってる感覚なので、その表現はもう委ねるしかないなっていうのが、どこかにあるかもしれないですね。自分で潤吾を理解して、潤吾だったらこういうふうに行動するのかなって考えています」
愛の形の表現が作品選びの要素になっている
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──今までさまざまな役を演じていますが、役を通して、愛について考える機会は多いですか?
「いろんなドラマや映画に出演させてもらうなかで、すごくありがたいことに作品のテーマに愛があることが多いんですよね。11月に配信されるNetflixの『さよならのつづき』も、愛の物語です。事故で恋人を失った女性と、その恋人に心臓移植によって命を救われた男という、運命に翻弄される2人の切なくも複雑な愛の行方が描かれます。
『CODE -願いの代償-』では奥さんが亡くなっているけど、愛がゆえの苦しみだったり、『ヘルドッグス』でも岡田准一さんが演じていた兼高に対して、ちょっと屈折してるかもしれないけど、愛情はすごくあったし、濃い作品をやらせてもらっています。
演じる上で、愛情表現はいつも考えているかも。恋人に対する愛だけでなく、物だったり環境だったり、家族だったり、いろんな愛の形を表現できることは、自分の作品選びの大きな要素になっていると感じます。何かに愛情が欲しいというか。愛とは目に見えないものだし、触れられないけど、色も違って、食感とか感覚も違う気がするんですよね。すごく硬い時もあるだろうし、ふわふわな時もあるだろうし、なんかそういう感覚の部分でも、作品を選ぶ際に大切にしているところです」
──2024年は坂口さんにとって、俳優としてのキャリア、11年目の年になります。
「10年経つんですよね。もう33歳ですよ。いつの間にか自分より若いスタッフさんが増えました。俳優の仕事を始めた当初、現場ではずっと僕の年齢が下の方でしたが、今は自分が年齢を重ねた分、年下の人とお仕事することが増えたなと」
子供の感覚でいたいけど変化も受け入れる
『愛のあとにくるもの』(C)2024 Coupang Play All Rights Reserved
──この秋、2作連続で大人の切ない恋を演じたこと、また33歳という年齢から、「大人」という言葉をどう感じますか?
「僕はどこかで子供のままでいたいなと思っています。大人になるってなんだろうって思いがあって。成長が止まるというのは、自分の変化を受け入れられなくなることだと思っています。僕はずっと子供のままでいたいけど、変化も受け入れていきたいと思っているんですよね。現場でも、慣れだったり、こういう時はこういう風にした方がいいかなって、そういう知識ももちろん10年前よりわかるようになっています。だけど、次、じゃあ来週から新しい現場が始まりますってなった時、新しい現場を自分の今までの経験値に当てはめすぎるとよくないって思います。僕の中の経験値は大事にしないといけないけど、本当に何が起こるか分からないってどこかで思っておきたいし、そうしてないと自分の歩みを止めてしまう気がして」
──自分の変化はどういう時に感じますか?
「一番大きいのは、以前よりお喋りになったこと。気がつかないうちに人目についていたこともあって、以前は自分に蓋をした時期がありました。ピリピリしていたなあと思います。その頃から見ると、今はずっとラクになって、基本何でも楽しいし、本当によく喋るようになりました(笑)」
──変わらない部分は?
「少し前に地元で結婚式があって出席した際、友人に昔から本当に変わんないねって言われました(笑)」
──坂口さんは、常にニュートラルにいらっしゃる印象です。
「そうかも。あと、韓国では、こんな人だと思わなかったってすごく言われました。逆にどんな人だと思ってるのって思うんですけど(笑)」
──もっとクールに見えるとか?
「そうそう(笑)。本当によく言われるんですよ。ポジティブな意味で言われることが多いからいいんですけど」
──どの国のどの現場に行っても、変わらないテンションで居そうです。
「確かにそうですね。韓国の現場では、頻繁に差し入れしてたんですよ。日本でロケの時にみんなにおいしいものを食べてほしいって思って、差し入れでお弁当を入れたり、ケータリングを入れたりしてました。で、みんなが「いつもありがとう」って言ってくれる時、「昨日寝てないんだ。みんなのためにこれ作ってたから」っていう嘘を言ってふざけてましたね(笑)。2、3回目からは、僕が近くにいて喋ろうとすると「作ってたんだろう」って言われるようになって。最終的にはなんか喋ろうとすると、「作ってくれてありがとう」みたいなことを先に言われるくらい仲良くなりました(笑)」
──(笑)。最初からすぐ仲良しになれたんですか?
「クランクインしてから、通訳の方が入ってくれるので、コミュニケーションが取れないわけではないんです。でも、母国語ではないので、どうしてもいつもの感じで喋れないから最初は難しいと感じました。でも、みんなの向いてる方向が一緒だったので、スムーズにできたと思います。途中からは、今話したように撮影の合間ふざけまくってましたから(笑)。すごく素晴らしいチームで作品を作れたので、感謝しています」
10年間、今が楽しいからこの仕事を続けてきた
──今年は『愛のあとにくるもの』と『さよならのつづき』など世界配信の作品が続いていますが、海外の映画界は意識していますか?
「どうなんでしょうね。自分のなかで、海外でもっとやりたいという気持ちが強いわけではないんです。もともとお芝居に対しても、始めた時から、絶対この仕事だっていう気持ちはなくて。今が楽しいから、この仕事をチョイスしているので、これからもその感覚は持ち続けていたいと思っています。でも、それぐらいの感覚でいる方が自分のスタンスにはすごく合ってるなって」
──何歳までに俳優としてこうなりたいとか、そういう感じで動くのではないってことですよね。
「そうですね。全力で楽しいと思うことをやるけど、この先はどうなっていてもいいやみたいなところは、少しあります。今回の2作品も10周年だからみたいなことは正直全くなく、ご縁をいただいて、参加させてもらいました」
──数ヶ月、家を空けていたとのことですが、これは絶対どこの仕事場にも持っていくというマストアイテムはありますか?
「タンブラーです。昔もらってからずっと使っているタンブラーで、アイスコーヒーを入れるんですけど、これは絶対欠かせないですね。アイスコーヒーが冷たいままなのが、うれしくて(笑)。結構使いこんでいるんですけど、これがなくなっちゃったら困っちゃいます。結構、物を大事にするので物持ちがいいんですよ。中学の時の運動着で、トレーニングしてますからね(笑)」
──今ハマってるものを教えてください 。
「トレーニングです。やっぱり運動すると元気になりますね。明るくなります。もともと明るいのにもっと拍車がかかってます(笑)」
Profile さかぐち・けんたろう 1991年7月11日生まれ、東京都出身。’14年俳優デビュー後、ドラマや映画に多数出演。’17年『64-ロクヨン-前編/後編』で日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。’18年『シグナル 長期未解決事件捜査班』で連ドラ初主演。近作にテレビドラマ『Dr.チョコレート』、『CODE-願いの代償-』、映画『余命10年』『サイド バイ サイド 隣にいる人』などがある。また、有村架純とW主演のドラマNetflixシリーズ『さよならのつづき』は11月14日(木)より全世界配信予定。
『愛のあとにくるもの』 韓国の女優イ・セヨンとW主演を務める韓国ドラマ。原作は、「トガニ 幼き瞳の告発」の作家コン・ジヨンと「冷静と情熱のあいだ」の辻仁成による共著。舞台となるのは5年前の春の日本、そして現在の冬の韓国。5年前、韓国から日本へ留学に来たチェ・ホンは、小説家を目指す日本の大学生・潤吾と出会い運命的な恋に落ちる。二人は幸せな時間を過ごしていたが、別れが訪れ、ホンは韓国へ帰国。時は経ち、ホンは日本での初恋を心に閉じ込めて新しい人生を歩んでいた。そんなある日、韓国で潤吾とホンは、偶然の再会を果たし……。男女それぞれの視点から展開していくラブストーリー。2024年10月11日(金)よりPrime Videoにて見放題で独占配信。