子どもの声が聞こえる中、Zoomインタビュー
ストーリーはニコラスが演じるポール・マシューズは平凡な大学教授だが、彼がある日何百万人もの人の夢に登場し、バズってしまう。一躍有名人になった彼は、戸惑いながらも、これで念願の本が出版できると喜ぶのだ。しかし、それが突然悪夢に変わり、今度は大炎上してしまう。
今作は、現代の不条理で残酷な世論やカルチャーを笑いと鋭い視点で斬ったオフビートな痛快コメディ。スパイク・ジョーンズや、ミシェル・ゴンドリー、チャーリー・カウフマンなどのエッジのある才能が次々に登場した時代をも彷彿とさせる作品でもある。
ニコラスは、すでにあらゆる役を演じ、その才能を改めて証明する必要もないが、今回の新挑戦を熱く語ってくれたのが印象的だった。また、Zoomで行われたこの取材で、現在2歳の子どもの声がずっと聞こえていた。すぐそばにいるのが分かったのがなんとも微笑ましかった。
プロデューサーのアリ・アスターとの関係性は?
──アリ・アスターがプロデューサーですが、どのように関わったのですか?
Nicolas: アリ・アスターの『ヘレディタリー/継承』(2018年)や、『ミッドサマー』(2019年)がすごく気に入って、彼の作品に出演したいと思い、彼とメールでやり取りしていたんです。それである時、彼から、自分は監督ではないけどプロデューサーで、クリストファー・ボルグリが監督する『ドリーム・シナリオ』の脚本を読んでみたらどうか、と勧められたのです。
『ドリーム・シナリオ』の脚本を読んだ感想は?
──ニコラスさんのキャリアを見ても、これまで演じたことのないような役で、本当に”夢のような脚本”だったのではないかと思います。この映画をやりたかった理由のひとつでしょうか?
Nicolas: 脚本を受け取った瞬間に、まずなんて素敵なタイトルなんだろうと思いました。”ドリーム”と”シナリオ”というのは自分の好きな言葉でもあり、それが合わさっていたわけですから。しかも、この仕事を40年以上やっているけど、読み始めてすぐに、これまでに読んだ脚本の中でもベスト5に入ると思いました。
──それは素晴らしいですね。ちなみにベスト5とはどんなラインナップですか?
Nicolas: その5作は、『赤ちゃん泥棒』(1987年)、『リービング・ラスベガス』(1995年)、『バンパイア・キッス』(1988年)と、『アダプテーション』(2002年)、そしてこの『ドリーム・シナリオ』です。だからすぐに、この役を絶対に演じたい、この映画を絶対に作らなくては、と思いました。
しかも、自分はこの役ポール・マシューズと同じ体験をしているとも思ったのです。”ネット上でバズる”体験を初めてした俳優は私だったのではないでしょうか。2008年か、2009年頃に、ある朝起きて、”Nicolas Cage Losing His Shit(ニコラス・ケイジが激怒した瞬間)”というタイトルで、私がこれまで演じた数々の役柄の中で、危機に陥った瞬間がコラージュされた映像を見付けました。今でこそ、”Memefied"(ミームにされた)とでも呼ぶのでしょうけど、でも、当時は一体何が起きたのかよく分からなくて(笑)。でも止めることもできないし、どうすることもできない。世界中に拡散し、それを元にTシャツを作る人までいました。一体どうすればいいのか分からなかったのです。
だから、『ドリーム・シナリオ』の脚本を読んだ時に、「そうだ、あの時の体験をこの役で活かせる!」と思いました。彼は、人の夢に出て、でも、どうすることもできないわけですから。
想像する演技ではなく、自身の体験や感情を活かして頂点へ持っていく
──確かに、過去に『ドリーム・シナリオ』と似たような体験をしていたわけですね。
Nicolas: そうです。最近は、昔よりパーソナルなアプローチをする演技に拘っていました。自分が体験したことをより活かしたいと思っていたのです。『PIG/ピッグ』(2021年)もそうですし、『ドリーム・シナリオ』もです。 全てを演技でやり切ってしまうのではなくて、自分の体験やリアルな感情をより活かすことで頂点まで持っていきたいと思っています。だから、(映画の中の)謝罪映像は、本当に自分が謝っているような心境にすらなりました(笑)。映像がバズった時に、戸惑いや恐怖を感じたので。それがこの役を演じる決め手のひとつです。
また、夢にまつわる映画が作れることも重要でした。これまでなかなかその機会がなかったのですが、夢について語ると、夢独自の展開となり、物語のあり方が変わります。例えば、日本のホラー映画の『リング』や『呪怨』などの大ファンですが、夢の論理をうまく使っていると思います。この映画でもそれができると考えました。つまり、色々な思いや期待があり、この映画をやりたかったのです。
──ニコラスさんのお父様は、大学教授で文学を教えていたそうですね。ニコラスさんも、今作で教授を演じていますが、大学教授という仕事をどのように見ていましたか?
Nicoras: 父は、学生たちが大好きでした。想像力の素晴らしさを教えていたような教授です。ただ学者や学校教育の現場は、競争が激しくて問題もあり、父が苛立ちを感じているのも見てきました。でも、父は学生たちとの交流に情熱を持っていたし、それが大好きだったのです。この役を演じる際には、学生たちと良い関係性を築きたいと思っている良い教授として演じました。
役ごとに変わる特徴的な声について
──『バンパイア・キッス』(1988年)でも明らかですが、ニコラスさんは特徴的な声を作るのに長けています。ポールの声はどのように作りましたか?
Nicolas: 俳優を始めた当初は、自分の声は特徴もないし、良い声だと思っていませんでした。でも、(ジェームズ・)キャグニーとか、(ハンフリー・)ボガードなど、私のヒーローたちは、ビジュアル以上に心を惹きつけるような声を持っています。だから、単に”ニコラス・ケイジ”が映画の中で話している以上の声を作らなくてはと思い、役ごとに作ってみたのです。
例えば、『バンパイア・キッス』では、父の声を真似しました。父は、大西洋中部の訛りで話していて、あの役の声はそれが元になっています。ポールは、見た目も自分とは変えたので、演じている時に、ニコラス・ケイジではなくて、ポールを見ていると思えるようにしたかったのです。だから自分の声よりは少し高めで、優しく響くような声にしました。
──『ドリーム・シナリオ』の役柄は、『アダプテーション』などで演じた少し風変わりな役を彷彿とさせますが、いかがですか?
Nicolas: 私も、この脚本を読んだ時に、『アダプテーション』を思い出したし、監督のクリストファーも大好きな映画で、チャーリー・カウフマン的な脚本を書きたいと思ってこの作品を書いたそうです。
先入観の少ない若い世代との仕事
──こういう映画に出ることで、より若い世代にも届く可能性はあると思いますか?
Nicolas: それはあると思います。それに昔を知る世代の人たちは、私がどんな俳優かもう決めている気がするのです。でも、これからも演技を続けていくには、若い世代の人たちがネットでバズった私を見て、「ニコラスと仕事したい」と思ってくれるのも大事だと思います。若い世代が、私に新たな可能性を見出し、興奮してくれて、彼らが子どもの時に観た私の映画を元に、何か新しいものを作り出してくれたら嬉しいです。
だから今回もクリストファーに言ったのですが、「あなたの歳は私は半分ですが、知性は2倍で、このビジョンを誰より理解しています。この映画はあなたの大事な子どもと同然で、主導権を握っているのはあなたです。リモコンを持っているのはあなたで、だからスイッチさえ押してくれたら、私はその通りに動きます」とね。
──ニコラスさんはスパイク・ジョーンズや、デヴィッド・リンチのような監督とも仕事してきています。彼らも夢をメタァーとして、またビジュアル表現においても使っています。そういう作品で演技するのはどのような感じですか?
Nicolas: それを聞いて今思ったのだけど、全ての映画はつまるところ夢だと思います(笑)。実は私は昨晩すごく変な夢を見て、それを元に映画ができると思ったくらいです。映画と夢には、共通点があるし、同じDNAを持っているんですね。
『ドリーム・シナリオ』でのキャンセルカルチャーについて
──人の夢に登場するポールを演じるのはどのようなものでしたか?
Nicolas: 夢の中の演技は楽しみながら考えて撮影しました。ポールは、感じの良い教授から、脅威の存在に変わるわけです。例えば、ポールの娘が悪夢を見ているシーンで、何をするか決まっていなかったのですが、「娘に向かって思い切り行進してみるというのはどうか?」と提案しました。それでクリストファーが、「それをものすごい笑顔でやってみよう」、と言ったのです。結果、ものすごい笑顔で思い切り行進する夢になりました。そうやってコラボレーションしたのです。それが悪夢なのかは分からなかったのですが、でも夢って、抽象的だし、辻褄が合わないものです。それをうまく利用して楽しみました。
──『ドリーム・シナリオ』はキャンセルカルチャーについて何を語っていると思いますか?
Nicolas: 脚本を読んで出演を決めた時は、それは考えていませんでした。それよりも、有名になることを分析しているのが面白かったんです。そして、この映画は”集団的無意識”を描いた作品だと思っていました。技術の発達により、多くの人の意見が一瞬で統一されてしまうことについてだと。
インディーズと大作映画、演技の関係性
──A24はこれまでにも拘りのある作品を作ってきたことでも有名ですが、あなたが好きな映画はありますか?
Nicolas: A24が、アリ(・アスター)と作った作品は全て魔法のようです。A24のような会社があるからこそ、私はインディ映画をやり続けるのです。インディ映画にこそ、オリジナリティがあると思うから。もちろん製作費は多くないですが、その代わりスタジオからの注文も多いわけでもないので、より自由があります。
監督と一緒に何か新しいもの、輝きを見つけていく余裕があります。毎回リスクはありますが、そのおかげで、クリエイティビティや新しい物語を生み出せるのです。A24はそれを見事にやっていて、大きなスタジオが見向きもしないような題材を危険をおかして選んでいます。
──インディーズと大作映画、両方出演されていますが、どんな違いがあるのでしょうか?
Nicolas: 私自身は、インディーズ映画での挑戦を、大作にも活かせたりもします。その良い例が、『バンパイア・キッス』と『フェイス/オフ』(1998年)です。『バンパイア・キッス』が、ある種の実験室で、ドイツ表現主義やサイレント映画の演技を、現代的キャラクターの中で活かしてみました。正気を失っていく役を、シュールリアルに完璧に表現できたと思うのです。その経験があったからこそ、大作『フェイス/オフ』でもそれを上手く活かせる自信がありました。インディ映画と大作はそうやって共存できるものです。
ともに名声をテーマにした『マッシブ・タレント』との共通点は?
──去年、ニコラスさんは自分自身を『マッシブ・タレント』(2022年)で演じました。両作品とも名声に関わる作品ですが、共通点はありますか?
Nicolas: 『ドリーム・シナリオ』のポール・マシューズは、『マッシブ・タレント』の”ニック・ケイジ”役とは違います。この役には私個人の体験と重なる部分があり、それを元に演技はできましたが、でもポール・マシューズは、『マッシブ・タレント』とは全く違います。
『マッシブ・タレント』は、40年以上のキャリアの中でも、最も演じるのが怖い役でした。”ニック・ケイジ”という名前の役を演じたいとは思えなかったし。そもそも、俳優は、役を演じることで自分は隠したいと思うものです(笑)。でも、あの役では、自分を演じたわけですが、厳密には本当の自分ではありません。
当時は(役柄のように)娘もいなかったですし、家族よりキャリアを優先する人間でもなかったのです。しかも全シーンで私を笑いにしていて(笑)。これは一体何なんだ?コメディ番組か? と思いました。それなら嫌だと。
でもトム(・ゴーミカン監督)と脚本家のケヴィン(・エッテン)は、幸いしっかりと心のある物語を作ってくれました。しかし、危険な綱渡りのような役だったので、ああいう役はもう2度とできないと思います。だから『マッシブ・タレント2』はありません(笑)。