プロフェッショナルの「2026年を勝手に大予言!」 コミュニケーション、医療、エンタメ、音楽はどう変わる?

コミュニケーション、医療、エンタメ、音楽ーー4つ分野のプロフェッショナルがそれぞれの分野で2026年の動向を予言! 

コミュニケーション、医療、エンタメ、音楽ーー4つ分野のプロフェッショナルがそれぞれの分野で2026年の動向を予言! 

コミュニケーションはどうなる?

永井玲衣

「対話の場」を持つことが希望につながる

永井玲衣さん 作家・哲学者

予言は口に出したら本当になる気がする

永井玲衣さんは学校や企業などあらゆるところで、日常の素朴な違和感やもやもやを問いの形にして、人々の声を聞き合う哲学対話の場を開いてきた。そのリアルな問いの現場で最近うっすらと感じるのは、参加者の言葉から漂ってくるなんとなくの不安。

「それは何なのかを考えると、ひとつには人間が根源的に持っている、生きていることへの不安。もうひとつは、行きすぎた新自由主義社会の状況がつくり出している不安なのかなと」

今、社会の現状を分析すると信じられないほど暗い。世界を見ても右傾化や自国ファーストの主義主張が広がり、永井さん自身も、生きてきた中で最も暴力に近い時代と感じている。意見が違っても聞き合ったり歩み寄ったり、しんどい中でもすり合わせていくのがコミュニケーションのはずなのに、イキり合いのような乱暴な姿勢が支持されている。その上2020年から始まったコロナ禍は、他者を恐怖に感じざるを得ず、私たちはばらばらにされた。

「学者の予測をみると、2026年はこの状況が加速していくんでしょう。でも予測と予言は違うもので、予言は希望をつくること。私は予言って口に出したら本当になる気がしているんですね。昔から大事にしているサルトルの有名な言葉があります。最後に遺した『いまこそ、希望を』という対談集で彼は、この世は絶望であるが、私は希望の中で死んでいく。ただこの希望を根拠づけなければ、というようなことを言っています。この言葉は本当に大事。私がこれまで書いてきたことって中身はすべて同じで、『よく聞いて、ちゃんと考えて、ともに生きよう』ということ。それは実は難しいことではないんです。ただ、私は対話の場は必要だと考えていて、それは意識的に作っています。場さえあれば人は語りだすし、一緒にいることができる。現実的には、身近な相手ほど自分の言葉で対話するのは難しいものだから、家庭や職場から少し離れた、読書会やワークショップなどの対話の場を持つことも、ひとつの希望になると考えています。私は場を信じたい。それが希望につながるはずです」

社会構造の問題を肯定せず、問うことで抵抗する

この先、人類と共存していくであろうAI。でもチャットGPTが起こす対話での過度な共感は、現実のコミュニケーションにズレを招く恐れがあり、心の病に陥る危険性も指摘されている。

「できればAIを使いたくないし、AIと話すのも対話とは呼びたくないんですね。対話は他者とどう生きるかという問いが、互いの真ん中に横たわっているような場です。相手を傷つけるかもしれないし、逆の可能性もある中で、恐れながら語ったり聞いたり。そういうことを試みる場だから」

コロナ禍を経て自己完結できるAIやチャットGPTが台頭してくるのは、社会の流れとして非常にわかりやすい。しかし、それが進化しすぎた先には共同体の崩壊しかない、と永井さん。

「そんな現代だからこそ、抵抗という概念を思い出してほしい。『結局この世はしょうもない』とふてくされるのではなく、『本当に?』と問う。問うことは抵抗であり、他者を求めること。だってひとりでは問えないし、わからないじゃないですか。だから他者が必要。ほんの少しの光ですが、それは共同体の端緒だと思うんです」

現状の分析としては、コロナ禍や新自由主義が私たちに大打撃を与えている。人々が漠然とした不安に襲われているのは、それによって引き起こされた社会構造の問題だ。その現状を肯定するのではなく、問うことで抵抗する。

「私たちは問うことができると何度でも言っていきたい。世の中のすべてが速すぎるし、わかっていてもできない現実もあるけれど、それでも言い続ける。そういうしぶとさを持つ。それが希望をつくることだと思います」

永井玲衣さんプロフィール画像
作家・哲学者永井玲衣さん

東京都生まれ。各所で人々と考え合い聞き合う場を開いている。表現を通して戦争について対話する「せんそうってプロジェクト」の活動も。近著は『これがそうなのか』(集英社)。

医療はどうなる?

髙橋 淳さん 京都大学iPS細胞研究所(CiRAサイラ)所長、教授

iPS細胞を用いた再生医療はパーキンソン病と心不全において、 一般治療の実現へ大きく前進します

髙橋 淳さん 京都大学iPS細胞研究所(CiRAサイラ)所長、教授

大人の細胞を受精卵の段階まで逆戻し

山中伸弥教授と京都大学研究チームが作製に成功したiPS細胞。画期的なこの細胞の研究は、どこまで進んでいるのだろうか。マウスから作製に成功して20年目に当たる2026年には何ができるのかを、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)所長の髙橋淳さんに聞いてみた。

「すでに実際の患者さんにiPS細胞から誘導した細胞を投与しています。たとえばパーキンソン病、網膜や角膜が失われる目の病気、心不全などの心臓の病気。最近は糖尿病の治療も始まりました。病名でいうと全部で20件近くのプロジェクトに対して国内で臨床試験が行われています(図)。その中から少なくともパーキンソン病と心不全に関しては、国への申請がすでに行われていて、現在承認の結果待ちの状態。早ければ2026年中に結果が出ます。承認されればiPS細胞を使った治療が保険診療下で行われるようになるでしょう。その近いところまで来ています」

近年美容医療の分野で、iPS細胞の培養液を使うなどの方法が注目されている。しかし専門家の意見としては、科学的に効果や安全性が証明されておらず、信用しすぎるのは危険だという。ただ、アンチエイジングの面での調査を進めている研究者は大勢いる。

「iPS細胞そのものが時間軸を逆戻しにするという概念を持っています。つまりそれは、大人の皮膚や血液の細胞を赤ちゃんよりももっと前の、受精卵の段階まで逆戻しさせるという、究極の若返り技術。その考えを用いて、数十年分若返らせるという研究をしている人たちがいます。つまり細胞の移植ではなく、iPS細胞を使って皮膚の老化について調べるとか、老化を抑制する薬を見つけるという研究です」

iPS細胞はすべて自分事。身近に感じてほしい

いつ実現するかは未知数だが、髙橋さんたちが目指しているのは、人間が自分の細胞で自分の病気を治すこと。未来にはそれが可能になると〝予言〟する。今求められているのは、その実現に向けて、研究者が円滑に研究を進めていけるような社会や環境。

「そのためにはまず平和であることが大切ですよね。それからiPS細胞は万能ではないのですが、希望そのもの。だから関心を持って、自分事として正しく知ってもらいたい。なぜかというと、iPS細胞は自分の分身みたいなものだから。誰からもiPS細胞は作れて、自分の細胞で自分を治せるし、自分のiPS細胞から神経や脳、臓器で起こっていることを培養皿の中で再現して知ることができる。要するにすべて自分のことなんです。そのように捉えて、もっと身近に感じてほしい」

そうなれば多くの人が関心を持ち、研究者ももっと増えて研究がさらに加速する可能性がある。CiRAではシミュレーションゲームアプリ「iPSマスター」や、YouTubeチャンネルの配信などで一般への普及に努めている。

「予言ではありませんが、赤ん坊やその前段階である受精卵には無限の可能性がありますよね。別の細胞に生まれ変われるiPS細胞も同様です。つまりそれは人生も同じ。僕は若い人にいつも、iPS細胞のように人生は何度でもやり直せるよと言っているんです」

髙橋 淳さんプロフィール画像
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)所長、教授髙橋 淳さん

1961年生まれ。京都大学医学部卒業、脳神経外科医に。京都大学大学院博士課程修了、アメリカ・ソーク研究所研究員などを経て京都大学教授に。2022年にCiRA所長に就任。

エンタメはどうなる?

岩崎う大さん(かもめんたる) お笑い芸人

キーワードは「裏切り」と「感情移入」。 ミクロな視点から描く物語が共感と評価を集める

岩崎う大さん(かもめんたる) お笑い芸人

コンプラはお笑いの起爆剤。制限ではなく楽しむべきもの

お笑い業界随一の奇才、かもめんたる・岩崎う大さん。お笑い芸人をはじめ、作家、脚本家、漫画家などいくつもの顔を使い分け、引いた目線でエンタメを見つめる。言葉を待っていると「予言できるなら、もっと活躍しろよって話ですけど」と笑みを浮かべ語り始めた。まずはお笑いの話から。

「近年、どのメディアもコンプライアンスが厳しくて、昔と比べて面白くなくなったなんて声を聞きますが、芸人がそれでスタンスを変えたということはないんです。企画のコンセプトに沿ってどんな面白いことを言えるかに尽きるので、やることは変わらない。むしろコンプライアンスは楽しむべきもの──厳しすぎると、酸欠状態で動けなくなって不健全ですが。そもそもお笑いは、観る人の常識を超えたりタブーに触れたり、“裏切り”と“毒”でできている。縛るものが強くなっていくとしたら、打破したときの笑いは今より大きくなるはず。コントで笑いを起こすのに必要なのは、感情移入させて裏切るためのネタの物語性や演者たちの演技力。個人的には、芝居との差がより縮まっていく気がしています。そもそもコンプライアンスって、多様性に対して余裕がないから生まれている反応ですよね。それが当たり前の社会になっていけば笑い飛ばせる世の中になって、もっと笑顔が増えていく。お笑いがその助けになることは確実です」

話は賞レースに向かう。大会の数が増える中で起こりうる未来へ、う大さんは新しい趣旨を提案する。

「賞レースが増えてお笑いのジャンルの間口が広がるのはいいこと。あえて今から新しい大会を作るとしたら、大喜利的要素を持つテーマを掲げた大会が出てきてもいいのかな。大喜利も“裏切り”ですよね。お題だけ聞くと『どうしたらいいんだろう』と思うものを、予想だにしない回答でクリアしていく。一つのテーマのもと、漫才やコントを作って、それを評価する。観る人は、一つの物差しでそれぞれの芸人の感性をジャッジする。すでに持ちネタがある有利な芸人も出てくるかもしれませんが、ちゃんと面白いやつが関係なく勝ち上がるから問題なし」

シリーズ展開で沼らせて自分事化させたら勝ち!

続いて、映画やドラマ。Netflixをはじめとする映像配信サービスで、無数のコンテンツを享受できる現在。それによりう大さんは、作品性と視聴者が求める嗜好に“ミクロ視点の感情移入”が重視されていくと感じている。先日刊行した、家族との日常を綴った最新のエッセイ『家族コント』を書き上げて生まれた視点だという。

「今はとにかくシリーズものが次々と作られていて、放送期間も一話の尺も自由。展開のリズムはあれど、ストーリーにも人物描写にも時間を使えます。自分が15年以上にわたる家族の話を書いてわかったのは、一度その世界にどっぷりと浸っていくと、登場人物の生活の細かい部分にまで感情移入できるということ。些細な出来事を大きな事件に感じたり、当事者のように身につまされる思いに駆られたりする。ちょっと前の話ですが、(Netflixの)『イカゲーム』が流行ったのも、長く観ている中で『この人死んじゃうの!?』っていう人が突然死んだりすることが新鮮だったんですよね。死ぬとまではいかなくても、物語の出来事を自分の近くにあることのように感じて心が動かされる、という作品がこの先もどんどん作られていくと思います。これって、今でいう私生活を露出するYouTuberを好きになる感覚に近い。実際には自分からとんでもなく遠いんだけど、“追いかけさせる”ことで等身大の感情を提供するという手ざわりのエンタメが当たり前になっていくのかなと。ハリウッドのように決まった尺の中でも、主人公が問題を乗り越えて成長するという王道を裏切る、新しい物語が出てくるかもしれませんね」

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『家族コント』

岩崎う大著
実業之日本社/1,980円
自他ともに認める「家族バカ」な創作の鬼才・岩崎う大。15年以上にわたる子育ての日々と今しかない家族のかたちを残した愛と笑いの記録。父の目線からすくい上げた28篇を収めた一冊。

岩崎う大さん(かもめんたる)プロフィール画像
お笑い芸人岩崎う大さん(かもめんたる)

2007年に、槙尾ユウスケとお笑いコンビ「かもめんたる」を結成。「劇団かもめんたる」を主宰し、脚本家としても活躍。近年は賞レースの審査員も務める。自身が好きなエンタメは怪談。「お笑いも怪談も面白いとか怖いとか、感情を処理するという欲望を満たす行為で、そこには成長がなくていい。ある意味、性欲に近い存在なのかも。料理をしながら怪談を聴いてる時間が、今いちばん幸せ」

音楽はどうなる?

つやちゃんさん 文筆家

音楽シーンに起こる6つの未来予想

つやちゃんさん 文筆家

サブスクリプションやSNSの発展に伴って、楽曲やアーティストの人気の移り変わりが激しい昨今。視聴者が注目するポイントや、トレンドとなるカルチャーを、幅広い視点で分析するつやちゃんさんに聞いた

1. レジェンドが“再発見”される

「2025年のオアシス旋風を皮切りに、レジェンドアーティストが再発見される現象が発生中。ライブ会場にも10代、20代のドンピシャ世代ではない観客が押し寄せ、単なるリバイバルではなく、いま目撃したい存在に更新されています。そしてこの流れは’26年1月のレディー・ガガ来日にも波及しそう! 新アルバムが高く評価される中、名前は知っていても実像を知らない世代が初めて彼女を目にするとき、大きな熱気に包まれるはず」

2. アルバムはデラックス盤で“2度味わう”戦略

「一曲勝負ではなく、作品を拡張しながら長く聴かれる流れが定着しつつあります。近年英米では新曲や豪華ゲストを加えたデラックス盤が標準化。アルバムを出して数カ月後に、デラックス盤としてアップデートしたものを再リリースするんです。チャーリーxcxの2枚組CDが好例です。これはJ-POP界にも普及してきそう」

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『Brat and it’s completely different but also still brat』

チャーリーxcxの6作目『Brat』が、リミックスや新曲を収録した2枚組のデラックス盤CDで登場。ビリー・アイリッシュやアリアナ・グランデら豪華ゲストが参加して、クラブ×アヴァンポップの世界観を凝縮した一枚。

3. 安全圏から、攻めたサウンドにトライする

「最近のサウンドは、安全なところで攻めた表現をする傾向に。昔のパンクやハードコアのように荒々しさをそのままぶつけるのではなく、ミックスやマスタリングの技術が上がったことで音をひずませても最終的には耳ざわりよくまとめています。ハイパーポップのようにトゲトゲしい質感を残しつつ、聴きやすく仕上げるやり方が典型。昨今メタルは売れにくいとされる中で、イギリスのスリープ・トークンがR&BっぽいなめらかさでコーティングしたサウンドでUSチャートを席巻しているのが代表例。過激さをそのまま出すのではなく、あえて整えて届ける。この矛盾したニュアンスが今後もいろんなジャンルで共有されると思います」

4. アイドル文化は多様化&飽和状態に

「ここ数年で“カワイイラボ”系を中心とした可愛い路線のグループが一気に伸びた一方、K-POPのガールクラッシュ系のように強さを打ち出す流れは落ち着きつつあります。ただ、かっこいい系が消えたわけではなく、両方が共存しているのがポイント。アイドルはいまや飽和状態になり、可愛いとかっこいいが引っ張り合っている状態に。可愛いの意味も細分化され、男性目線と女性が共感するニュアンスが混在し、一言では語れないフェーズへ。さらにはここ数年の揺り戻しによる推し活疲れもあり、全力で追うよりも自分のペースで楽しむ層が増加するはず。’26年は多様化が進み、トレンドを誰も言い切れない時代に突入する予感!」

5. 音楽は「ジャンル」から「美学」の時代へ

「ジャンル起点ではなく、自身の美学を軸に作品を作る傾向に。ジャンルが飽和し、誰も聴いたことのない音を生み出すことが難しくなり、アーティストはまずイメージボードを作り、ビジュアルや世界観から曲作りを始めるケースが増加しています。プレイリスト文化の浸透で、リスナーが気分に合わせて聴く習慣が定着したことや、アーティスト側がPinterestやSNSで写真を共有しやすくなったことも背景に。Peterparker69やNewJeansなどは美学先行で独自の世界観を確立し、共感するファンを獲得している印象です。これからは曲がいいだけではなく、キャラクターや思想、独自性などを含めた美学がより求められるでしょう」

6. 中世ムード&メディーバルコアの広がり

「’26年はポップミュージックやファッションで、中世の貴族的なムードを取り入れるメディーバルコアがいっそう加速しそうです。コロナ禍に人気が広がり始めたダークアカデミア的世界観と、Y3K的な未来像とのミックスがポイント。火つけ役のチャペル・ローンは豪華な装飾や絞られたコルセット風シルエットなどを衣装やステージセットに取り入れており、クラシカルでゴスなムードを自身の世界観と結びつけて昇華させている好例」

つやちゃんさんプロフィール画像
文筆家つやちゃんさん

音楽誌や文芸誌、ファッション誌で執筆し、論考やエッセイ、インタビューを手がけるほか、メディアの企画やアーティストのコンセプトメイキングなど活動は多岐にわたる。