海外で日本の「蒸発」が注目されている? 映画『蒸発』共同監督にインタビュー

世界の映画祭で話題を呼び、各国で満員を記録したドキュメンタリー映画『蒸発』(’24)。日本で人が「蒸発」する理由と、その背景にある社会について、アンドレアス・ハートマン監督と森あらた監督に聞いた。

世界の映画祭で話題を呼び、各国で満員を記録したドキュメンタリー映画『蒸発』(’24)。日本で人が「蒸発」する理由と、その背景にある社会について、アンドレアス・ハートマン監督と森あらた監督に聞いた。

ハートマン監督と森監督、 日本ではなぜ、人が「蒸発」するんでしょう?

海外で日本の「蒸発」が注目されている

『蒸発』共同監督を務めたドイツ人のアンドレアス・ハートマン監督と日本人の森あらた監督

世界の映画祭で話題を集め、各国の映画館を満員にしたドキュメンタリーがある。それが『蒸発』(’24 )だ。突然人が姿を消し、行方不明になる——それはどの国でも起きる現象だが、この映画は今の日本ならではの「蒸発」を探る。観ていると最初は他人事のように感じられても、だんだん自分事になっていく。それは共同監督を務めたドイツ人のアンドレアス・ハートマン監督と日本人の森あらた監督にとっても同じだったのだろうか。

『蒸発』共同監督を務めた日本人の森あらた監督

「もちろん。プロジェクトの起点では私自身の物語ではありませんでした。最初は日本にいるときに大阪の西成という地区を知って、興味を持ったんです。夜逃げ屋が存在することにも。でも作品を手がけていくうちに、自分の人生を振り返るようになりました。誰でも、どこかで人がいなくなることを経験していると思うんですね。人間関係が壊れてしまったり、理由もわからず連絡が途絶えてしまったり」(ハートマン)

「僕にとってこの作品は、初めて日本で作った映画なんです。これでこの国に対する見方がすっかり変わりましたね。自分が育った日本とは違う日本を見られたことが大きかった。あと僕は18年ほど前にヨーロッパに移住したんですが、そのときは誰にも言わないで出ていったんですよ。なので自分も蒸発者の一人なんじゃないか、と、映画を作る過程で気づきました」(森)

夜逃げ屋の助けを借りて逃げようとする人。失踪した息子を探す母親。そしてもちろん、実際に「蒸発」した人々が画面に登場して心境を語る。

「一番大変だったのは失踪した人を探し出すことでした。しかも、出演を了承してくれる人でなければならない。なので、当初は出演者と海外だけで公開するという約束をしました。その後日本で公開する際に、顔を隠すことで同意したんです。AIのディープフェイクで顔を変える、と」(ハートマン)

「もともと日本版を作る予定はなかったんです。でも出演した人たちと再度話したときに、日本で公開する策を見つけようと。ぼかしの代わりにAIを使ったのは、心理描写が重要だから。表情を見せたくてこうしました」(森)

ディープフェイクというと犯罪など悪い印象があるが、この映画では出演者を守るために使われている。

日本の社会的・文化的状況が生んでいる下地とは

『蒸発』共同監督を務めたドイツ人のアンドレアス・ハートマン監督

二人にとって、特に日本的だと感じた出来事や行動はあったのだろうか。

「人が失踪する大きな理由は、一つにはやはり借金とか、経済的なものです。もう一つがDV。でも私が感じたのは、それ以前に日本ではある意味、社会的に蒸発が受け入れられているというか。欧米よりも相手の選択や決断をリスペクトする文化があるんじゃないかと」(ハートマン)

「世間体を重んじる面もあるのかなと思いました。僕も昔はそうだったんですが、日本では感情を外に出さない教育を受ける。ヨーロッパでは意見を言うことを叩き込まれるじゃないですか。でも日本人は自分の中で抑えて、何も言わないことが美徳とされる。で、積もり積もった問題を消化しきれず、ある日突然、爆発する。撮影した人たちにもそういうところがありました。自分でコントロールしきれなくなって、突然いなくなるのが日本の現象としてあると思います」(森)

作中である女性が「普通ってなんだろう」と言うが、その問いは観客にも跳ね返ってくる。自由になって得るものと、その代償を考えさせるのだ。

「日本社会では調和が重要な価値観ですよね。人々が調和を保とうとして、他人との衝突を避けてしまう。で、何も言わず、その関係から去ってしまうのかもしれません」(ハートマン)

「この映画を知り合いに見せると、それまで全然してこなかった話を聞かせてくれることがあるんですよ。たとえば、ドイツの映画館でのプレミアに知り合いの日本人が観にきたんです。すると『実は何十年も前に兄が蒸発したんです』と。その人は西成の場面を見ながら、お兄さんを探していたらしくて。この映画は普段隠れている蒸発者が外部と対話することで、自分自身を振り返るセラピーのような作用があったと思っていますが、観客にとっても触れてこなかったタブーをよみがえらせ、人に話してみたくなる作用があるんじゃないかと思っています」(森)

森あらたプロフィール画像
映像作家森あらた

ベルリンと東京を拠点にする映像作家。ヴィム・ヴェンダースが自ら選ぶヴィム・ヴェンダース奨学金を受賞。パラリンピックのドキュメンタリーシリーズ「WHO I AM」が国際エミー賞候補に。

アンドレアス・ハートマンプロフィール画像
映画作家アンドレアス・ハートマン

ベルリンを拠点にする映画監督、プロデューサー。これまで監督作、プロデュース作が世界の映画祭で上映されている。長編第3作『自由人』は釜山国際映画祭で釜山シネフィルアワードを受賞。

INFORMATION

『蒸発』

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日本では毎年約8万人が失踪し、うち数千人が完全に姿を消す。その現象を二人の映画作家が追うドキュメンタリー。合間に映る日本の街角や風景の映像も圧倒的だ。(公開中)

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