【林士平の推しマンガ道】名手の名作は短〜中編マンガにあり!

作家の「描きたい!」が凝縮した自費出版本に、発表から半世紀がたつ古典。1巻で完結する、短くも濃厚、読後感まで絶品なストーリーマンガに浸る

作家の「描きたい!」が凝縮した自費出版本に、発表から半世紀がたつ古典。1巻で完結する、短くも濃厚、読後感まで絶品なストーリーマンガに浸る

林士平の推しマンガ道

わずか100ページ台という短さでありながら、物語の奥行きを感じさせ、圧倒的な満足感を約束してくれる1巻完結のおすすめ作品について今月は語りたい!

『ROCA 吉川ロカ ストーリーライブ』いしいひさいち著

『ROCA 吉川ロカ  ストーリーライブ』いしいひさいち著
(笑)いしい商店/ 1,000円

海沿いの街の高校に通う吉川ロカはファド歌手になる日を夢見て今日も歌う。新たに描き下ろされたエピソードを収める『花の雨が降る ROCAエピソード集』も販売中。

『ROCA 吉川ロカ ストーリーライブ』は、いしいひさいち先生の自費出版本。先生の個人サイトで2022年の夏に販売が始まってマンガ好きの間で話題になり、現在は電子書籍でも読めるようになりました。ポルトガルの国民歌謡であるファドの歌手を目指す少女の夢と、年上の同級生との友情を軸にした物語。この題材をこの絵柄で! しかも4コマの連作で構築するとは! いしい先生といえば『ののちゃん』『となりの山田くん』といった新聞連載が有名ですが、職人芸と称えたくなる省略の美学はこちらの作品でもたっぷり楽しめます。コマの数や大小は変動しつつ基本は4つ。ツッコミなしのボケ倒し、歌、時代背景の描写、懐かしさ、切なさなどさまざまな要素を入れ込みながら、読み手の解釈や想像を自由に遊ばせる余白も作られている。4コママンガというジャンルの凄みが詰まった、名手による名作です。

『ヨルとネル』施川ユウキ著

『ヨルとネル』施川ユウキ著
秋田書店 ヤングチャンピオンコミックス/ 693円

世界各地で"袖触れ合った"人たちと、話したり写真を撮ったり家に招かれたり。SNSとブログで公開された旅マンガに未公開作品を加えた無印、続編、さらに3〜5巻が発売中。

『ヨルとネル』も同じく4コママンガ。『バーナード嬢曰く。』『鬱ごはん』『銀河の死なない子供たちへ』などでおなじみの施川ユウキ先生の作品です。11歳のときに体が11㎝に縮んでしまったヨルとネル、子どもふたりきりの逃亡劇。ギャグに見せかけて大きな物語に転じていくというオリジナルな表現で、危険と隣り合わせの旅の中での友情が描かれます。可愛い物語に回収されがちな設定に、原因の説明されない病や死の匂い、シュールさも持ち込み、味のある絵と会話劇で魅了する。ふたりが浴槽に落ちてしまう第10話「遭難」が特に好きです。

『11人いる!』萩尾望都著

『11人いる!』萩尾望都著
小学館文庫/ 935円

宇宙大学の試験に臨むべく各地からやってきた受験生たち。最終テストのため宇宙船に乗り込むと、そこには規定より1人多い11人がいた。1975年から読み継がれてきた傑作。

萩尾望都先生の『11人いる!』はSFマンガの古典的名作です。宇宙船という閉鎖空間で11人のキャラクターたちが試験を受けるという、個人的に大好きな"トライアウトもの"です。プロットとキャラ設定は今読んでも斬新だし、120ページの中編で11人のキャラクターを回しきるという、これもまた名手の技ですね。コマ割りは細かく、モノクロ絵の簡略化は美しく、カラー絵は麗しい。SFを軸にホラーやサスペンス、恋愛の要素も入っています。「続・11人いる! ー東の地平 西の永遠ー」も同時収録されていますので、あわせてぜひ。

林士平プロフィール画像
マンガ編集者林士平

マンガ編集者。「少年ジャンプ+」の人気作品のほか、『ケントゥリア』『おぼろとまち』『さらしもの』など新連載も担当。僕もときどき近くのホテルをとって、マンガを読んだりサウナに入ったりしています。

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