映画を観れば、世の中の“今”と“未来”がわかる。最新作で現代社会を描いた二人の映画監督、ルカ・グァダニーノとアリ・アスターに映画の未来を聞いた。

映画が社会を変えていく! 稀代の監督は、 現代社会をどう描く?【ルカ・グァダニーノ】【アリ・アスター】

映画を観れば、世の中の“今”と“未来”がわかる。最新作で現代社会を描いた二人の映画監督、ルカ・グァダニーノとアリ・アスターに映画の未来を聞いた。

ルカ・グァダニーノ Interview 「映画は、文化的対話の一部となる」

『アフター・ザ・ハント』

『アフター・ザ・ハント』
イェール大学哲学科の人気教授が、同僚が起こした事件をきっかけにその立場を脅かされる。エリートの権力社会の中に潜む虚栄と、それぞれの思惑の中、真実と正義とは何かが問われることに。利己的で人を操ることに長けた複雑な人物に扮するロバーツが圧巻。彼女を取り巻く演技派キャストのアンサンブルも見どころ。(配信中)

主演のジュリア・ロバーツにアカデミー賞の呼び声も高い新作、『アフター・ザ・ハント』を2025年のべネチア国際映画祭で披露し、次回作もすでに撮り終えているルカ・グァダニーノ監督。2026年はさらに3本もプロジェクトを抱える彼に、ロバーツとの初タッグの経験、そして今後の映画界について聞いた。

「ジュリアはこの脚本に大変惹かれていて、私は彼女と話し合ってすぐに、一緒にやらない手はないと思いました。撮影中も彼女には毎日うならされていた。とても献身的で妥協がないんです。周りにも常に気を配り、共演者たちと打ち解けていました。彼女は映画のすべてを知り尽くしている。そしてカメラに愛される、アイコニックな存在です」

ロバーツ扮する名門大学のスター教授アルマは教え子(アヨ・エデビリ)が、彼女と親しい教師(アンドリュー・ガーフィールド)から性的暴行を受けたと明かされる。それをきっかけに、アルマの複雑な人間関係、大学での地位、さらに過去のトラウマまでが明らかになる。べネチアでは批評家から、「女性同士の対立やアルマの人柄がフェミニズムを逆行させるものでは」という声も出たものの、グァダニーノ自身はそういった意見にとても驚いたと告白する。

「そもそもこんなに強く魅力的な女性キャラクターを描いているのにどうして?と。複雑なキャラクターを受け入れる柔軟性に欠けた、短絡的な見方のような気がしました。フェミニズム自体も、時代とともにもっと進化すべきだと思います」

では映画界はどこへ向かっていくのだろう。

「私たちは今、混沌とした興味深い時期にあると思います。ストリーミングによって、今日ほどたくさん映画が作られている時代はない。プラットフォームには作品があふれていますが、それは誰がどんなものを観たいか、という消費の対象であり、それをどのように享受するかもまた人それぞれです。その一方で、今回本作を製作したAmazon MGMの姿勢は素晴らしいと感じました。彼らはとても協力的で、私たちのヴィジョンを信頼し、内容的なことには一切干渉しませんでした。映画の理念に深く根差している。作品が劇場で公開されるか否かにかかわらず、彼らは、時代を超えて愛され、今日の社会の中で、広い意味で文化的対話の一部になり得るような作品を作らなければならないことを理解しているのです。それが彼らのカタログになり、将来的に価値を高めるからです。もちろんわれわれ作り手にとっても喜ばしいこと。ですから、こうした傾向はこれから増えていくのではないでしょうか」

最後に今気になる映画、人材を尋ねた。

「ずっと自作に携わっていたのであまり情報を追えていないのですが、見逃しているもので早く観たいのは、ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ワン・バトル・アフター・アナザー』ですね。注目している才能ですか? 彼の前作『リコリス・ピザ』に出ていたクーパー・ホフマンです。私の次回作『Artificial』に出演してもらい、その資質に魅了されました」

Luca Guadagninoプロフィール画像
Luca Guadagnino

1971年、シチリア生まれ。『君の名前で僕を呼んで』(’17)でブレイク。『チャレンジャーズ』(’24)、『クィア/QUEER』(’24)など一作ごとに異なる意欲作を撮り続け、映画ファンから熱い注目を集めている。


©Courtesy of Amazon MGM Studios

アリ・アスター Interview 「アートは、鏡のように現実を映す」

『エディントンへようこそ』

『エディントンへようこそ』
コロナ禍、ロックダウン中の町で保安官(ホアキン・フェニックス)と市長(ペドロ・パスカル)の対立が激化。保安官の妻(エマ・ストーン)はカルト指導者にハマり、若者たちはデモを始める。住民は嘘と怒りにたきつけられ大混乱に。政治的立場全方向を風刺するブラック・コメディ。(公開中)

恐怖、不安、パニック、トラウマ。アリ・アスターの映画は、これまでも現代人のネガティブな心理をビビッドに捉えていた。それは超自然的な力を帯びて映画的に表現されていたが、新作『エディントンへようこそ』では社会的現象としてリアルに描かれる。舞台はコロナ禍のニューメキシコ州の町。疫病を怖がる気持ちや選挙戦のディスり合いが人々をのみこみ、コミュニティを壊してしまうのだ。ドーバー ストリート マーケット ギンザのイベントに登壇した監督が、本作の意図を語った。

「とてもアメリカ的な映画ですが、現時点で普遍的だとも思います。『エディントンへようこそ』の登場人物はみんなネットの中で生きていて、それは私たち全員にとっての現状なので。この時代のミアズマ(瘴気、悪い空気、毒気)についての映画なんですよ」

確かに過去のアメリカの話というより、実感するのは今誰もが抱える不安。その原因がインターネットで、そこから吸収するものがドラッグのように人々の頭を占めている。

「アメリカで『エディントンへようこそ』は評価が真っ二つに分かれたんです。そう意図したものでもあるんですが、私としては不可解な映画であってほしいし、私自身の政治性もよくわからない映画であってほしい。ある主張を支持する映画では一方的ですから。その先にある状況を語っているんですよ。主張を押しつけ合うようないがみ合いの中で途方に暮れている人々の物語だし、結局のところ、いがみ合いは罠で、誰も気づかないところで起きている大きな状況から人々の注意をそらすものなんです」

ではずばり、アリ・アスター監督が考えるその先の展望とは?

「現時点で、私たちは橋の上にいると思います。橋の片側では何かが崩れつつあり、もしくは崩れ去ってしまった。もう片側からは新しいものが迫ってきている。その新しいものが私にはとても恐ろしく思えるんですが、はっきり何かはわからない。歴史を振り返ると、予想通りのことは起きませんよね。だから個人的に、これから向かう方向が私はとにかく怖い。アメリカでは、まだその物語は書かれていません。ただ2024年の大統領選挙のストーリーはすでに書かれていて、私たちはアメリカという国が直面しているものを実感しています。だから、2020年という過去を舞台にした作品を作ったんですよ。今では何もかも動きが速くて、ニュースのサイクルなんて目が回りそう。全部を受け止め、理解するなんて無理で、そこからこの絶望感が生まれている。すべてがトゥー・マッチで、圧倒されてしまうわけです。哲学者、ヘーゲルによる〝時代精神〟という言葉を思い出しますが、誰もがそうした今の世界のあり方に翻弄され、逃れられない。そして現代の世界の精神は病んでいるんです」

そうした社会を描くことで、映画は人々に何を与えることができるのだろうか。

「アートには処方箋的なものもあって、答えを提示します。たとえ超楽観的な、お気楽な答えでも。また別のアートは鏡のように現実を映し出し、そこには解決策はない。『エディントンへようこそ』への批判を聞くと、見終わったあと不完全燃焼というか、満足できないものが残る、と。私にしてみればそれは正しい反応なんです。それが現状で、私自身途方に暮れているし、ほとんどの人が『この状況は間違っている』と感じていると思う。だから、私が求めているのはそうした体験を描き出すアート。何よりも、自分自身の孤独感を減らしてくれるようなアートですね。この映画を観た人が、少しでも『自分はひとりじゃない』と感じてくれれば、と思います。それにここでは最後に、『私たちはこのままの方向に進みたいのか?』という疑問が投げかけられているんですよ」

Ari Asterプロフィール画像
Ari Aster

1986年、NY生まれ。脚本・監督を務めた短編が注目され、2018年に初長編『ヘレディタリー/継承』を発表。第2作『ミッドサマー』(’19)とともに高く評価された。第3作は『ボーはおそれている』(’23)。

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