映画『しあわせな選択』 イ・ビョンホンにインタビュー。 「どんな役でも普遍性から入る」イ・ビョンホンの演技論

イ・ビョンホンは今、世界的にすごい状況にいる。韓国映画好きにとっては、パク・チャヌク監督作『JSA』(2000)の頃からずっと、颯爽とした主役も恐ろしい悪役も、なんでもこなしてしまう実力派スター俳優。だがそれを知らない人たちにも、空前のヒットとなった『イカゲーム』シリーズ(2021・2024・2025)で広く認知され、声の演技に挑戦したアニメ『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』(2025)ではまさに世界を席巻した。

最新作は長編映画では25年ぶりにパク・チャヌク監督と組む『しあわせな選択』。平凡な男がリストラに遭い、就活するうちにライバルを消そうとする物語だ。とはいっても話は単純ではなく、さまざまな人物が登場し、感情が交錯し、どんどん奇妙な展開に。社会風刺もブラックな笑いも、パク・チャヌク監督作らしい美しさもある独自の映画になっている。これまで演じてきたすべての役がつめこまれたような主人公、ユ・マンスをどう演じたのか訊いてみた。

イ・ビョンホンは今、世界的にすごい状況にいる。韓国映画好きにとっては、パク・チャヌク監督作『JSA』(2000)の頃からずっと、颯爽とした主役も恐ろしい悪役も、なんでもこなしてしまう実力派スター俳優。だがそれを知らない人たちにも、空前のヒットとなった『イカゲーム』シリーズ(2021・2024・2025)で広く認知され、声の演技に挑戦したアニメ『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』(2025)ではまさに世界を席巻した。

最新作は長編映画では25年ぶりにパク・チャヌク監督と組む『しあわせな選択』。平凡な男がリストラに遭い、就活するうちにライバルを消そうとする物語だ。とはいっても話は単純ではなく、さまざまな人物が登場し、感情が交錯し、どんどん奇妙な展開に。社会風刺もブラックな笑いも、パク・チャヌク監督作らしい美しさもある独自の映画になっている。これまで演じてきたすべての役がつめこまれたような主人公、ユ・マンスをどう演じたのか訊いてみた。

イ・ビョンホンの演技論は観客をどう納得させるか

——とても奇妙な物語で、イ・ビョンホンさん自身も他のインタビューで「観客をどう納得させるか」が本作のやりがいだった、と語っているのを見ました。

「参加するすべての作品でやることなんですが……私にとってはつねに、それが役柄にアプローチする過程で。つまり、あらゆる人が持っている普遍性を通して、そのキャラクターを理解しようとしています。とはいえ今回は、主人公のユ・マンスを自分のものにするのにすごく時間がかかりました。新しい職を得るためにライバルを排除しようとしている男ですよね。彼がそう決心した瞬間から、行動に移すところが一番重要なポイント。でも私自身、そこが一番納得しづらかったし、一番難しい部分だった。彼の決心、行動は普遍性からかけはなれていますから。ただし映画全体として見ると理解できたんです。雇用の問題、失業は全世界的に大きな問題ですよね。それによって苦しんでいる人たち、切迫した状況に置かれている大勢の人々を代弁するのがマンスである、と設定したんです。それが彼を理解するうえで役立ちました。マンスはあることを決心し、実行するけれど、彼自身とてもぎこちないし、おびえながらやっている。そのおびえやぎこちなさを通して、観客のみなさんを説得したいと思ったんです」

——映画としても、たとえば普通リベンジものだと、みんなが主人公の動機に納得して、復讐を応援する気持ちで観ているけれど、この映画ではむしろ排除される側に共感してしまう。マンス自身も、自分と同じ立場の人間として彼らに共感しています。

「そこが本当にこの映画の独特なところですよね。マンスは普通の男なので、感情移入しやすい。でも途中で、『なんでそんなことするんだ? やめてくれ!』と、観る人がその状態から抜け出してしまう。たださらに進むと、マンスに憐れみのような気持ちが湧いてきて、また彼の味方になったりもする。そうやって出たり入ったりが繰り返される、不思議な映画なんです。私が最近参加した2作品、この『しあわせな選択』と、『イカゲーム』もそこがユニークだと思います。あなたの言うとおり、普通のリベンジものでは主人公が敵を倒すのを観客が応援する。でもこの映画では、観ていて『これは可哀想だ、ひどい』という気持ちになるし、マンスが相手を排除していくのを応援できない。だからこそ、韓国の原題が『仕方がない(어쩔수가없다)』になったんじゃないでしょうか」

人間は一日のうちにあらゆるジャンルを生きている

イ・ビョンホンが映画『しあわせな選択』 で演じたマンスとはどんな人なのか? パク・チャヌク監督作の魅力

——実際、マンスの行動は狂気的なのに平凡な男で、極端な手段を遂行するのだけれど、憎めず、笑える。コメディの部分も多いですよね。どのような心境で演じ、バランスを取ったのか教えてください。

「ちょっとジャンルについて話してもいいでしょうか。現実に私たちが生活しているときにジャンル分けはしないと思うんです。一日を過ごすなかで、ある時はコメディだったり、ある時は復讐劇だったり。メロドラマもヒューマンドラマもある。そういうすべてのジャンルを体感しながら人は生きていると思います。あと観客として見ると、確かにこの映画にはユーモラスな箇所がたくさんあるんですが、マンスの立場で見ると、彼は行き場がなく、切羽詰まって極端な行動をしてしまうわけです。なので私は最初から最後までそういう感情で演じていました。マンスの感情や彼が置かれた状況さえちゃんと追っていけば、ユーモアなどは自然に表れるだろうと。ユーモアのような装置は脚本の段階でもうすでに組み込まれています。だから私が主人公さえきちんとつかんでいれば、観客は笑えるポイントでは笑うだろうし、虚しさも感じるだろうし。そこは脚本を信用していました」

——展開が読めないのはパク・チャヌク監督作の魅力のひとつです。あなた自身にとって監督の映画のもっとも大きな魅力は? 私はセットや美術が好きで、今回も、出てきた郊外の家や庭にキャラクターがあると感じました。

「そういう美的なところ、セットや美術、カメラアングル、色彩がやはり素晴らしいですよね。あと、パク・チャヌク監督は特に音楽を重視しています。既存の曲を使うにせよ、オーケストラでオリジナル・スコアを作るにせよ、考え抜かれている。その二つの部分では、他の追随を許さない監督だと思います。私自身が感じる魅力としては、どの映画も直感的に楽しめるんですよ。何も考えずにポップコーンを食べながら観ても面白い。でも注意して観ると、『あ、ここはこういう意味があるんじゃないか』とか、観るたびに新しい発見がある。どうやってこんなふうに全部を映画の中に隠して、仕掛けを作っているんだろう、と感心させられますね。まるで準備に100年かけて作ったみたいで。本当に普通の人じゃないですよ」

イ・ビョンホンが語るパク・チャヌク監督作の魅力

出演するとメガヒットになる状況とは

イ・ビョンホンが『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』に出演した理由は?

——ラストシーンはいまの社会が人をさらに孤独にしているようにも感じられます。この映画のメッセージはなんだと思いますか。

「もちろん、パク・チャヌク監督作にはメッセージを残す映画もあるんですが、問題提起をする映画のほうが多いんじゃないでしょうか。この映画は資本主義の問題点を指摘している、とも言われているんですが、私としては資本主義を含めて、人間が作り出したシステムについて語っていると思います。システムというのは根本的には、人が人のために作ったもの。でも長い時間が経つうち、そのシステムが本当に人のためになっているのか。その問いかけがある気がします」

——では最後に。『イカゲーム』や『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』のようなメガヒット作を引き受ける時には、「これは当たる」というような感覚があるのでしょうか。

「全然ないですよ! あんなにヒットするなんて、まったく予想していませんでした。特に『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』はほんとに軽い気持ちで参加したんです。自分の子どもと一緒に観られる作品があるといいなと思って。私の出演作はかなり暴力的なものが多いので、なかなか一緒に観られない。息子はこれまで私の出演作を二本くらいしか観たことがなくて。なので私自身、いまも『これってどういうこと?』みたいな、すごいことに巻き込まれているような状況です(笑)」

映画『しあわせな選択』【2026年3月6日(金)ロードショー】
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