「かゆいところに手が届く——二宮和也が考える“アイドル”のかたち」 1万字レポート(後編) 動画コメント到着!#独断と偏見 #二宮和也

二宮和也の新書『独断と偏見』には、これまで語られなかった“仕事論”と“アイドル論”が静かに宿っている。後編では、動画でもSNSでもなく“文字”を選んだ理由、読者へのまなざし、独立後に知った「断ること」の重み、そして“かゆいところに手が届く存在”としてのアイドル観までを丁寧に言葉にしていく。成功の軌跡ではなく、問い続ける自分を記録したかったという本音も。今の二宮和也を映し出すのは、テレビでもSNSでもない——“言葉”そのものだ。

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二宮和也の新書『独断と偏見』には、これまで語られなかった“仕事論”と“アイドル論”が静かに宿っている。後編では、動画でもSNSでもなく“文字”を選んだ理由、読者へのまなざし、独立後に知った「断ること」の重み、そして“かゆいところに手が届く存在”としてのアイドル観までを丁寧に言葉にしていく。成功の軌跡ではなく、問い続ける自分を記録したかったという本音も。今の二宮和也を映し出すのは、テレビでもSNSでもない——“言葉”そのものだ。

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動画でもなくSNSでもなく、“文字”を選んだ理由

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photo:Sai

——今それこそ動画ですとか、いろんな形で、思いを、表現することが可能になっている中で、文字、文章という形で伝えることのメリットやデメリットなど意識したことがあれば教えてください。

メリット、デメリットは、考えてはなかったですね。いろいろある選択肢の中の一つとして、文字ベースがあっていいんじゃないかな、というふうに思ったんですけど、一つの物事に対して語っていることが多いので、一冊の本になっている方が伝わるんじゃないかな、というふうに思っていたのが、メリットの一つかなと。デメリットでいうと、何でしょうね。四字熟語の漢字が小さくて読めないとか(笑)。魑魅魍魎とか。今の時代結構便利だし、いろんな情報が取れる時代になってきているけれども、そういうのを削ぎ落として、言葉と対峙するというのは、贅沢な時間ですし。それがある種の、乾きを癒す日常になるんじゃないかなって思います。本として読める実感を得ているということ自体が、今言ったような贅沢につながると思っているので、それの一つのアイテムになればいいな、というふうに思います。

僕がそうではあるんですけど、紙をめくらないと、いまいち言葉が入ってこないというか。いや、デジタルが悪いって言ったわけではなくて、めくるときに、初めてインプットできるというか、言葉が入ってくる感じがするので、この本というものは、それがいいかな、というふうに感じてました。なんかデジタル版がでたらごめんなさい(笑)。

——本で読んでいて、二宮さんのその発言はどういう表情でどういう声色で、どういうテンションでおっしゃってるんだろうというのが、気になりまして。結構赤裸々な内容なので。

めちゃくちゃ偉そうにしてましたね。なんで野呂さんはこんなことも分かんないんだと思いながら、話してるところもありますし。ただ本当に、今時珍しい情景ですね。僕はそういうタイプと言いますか。分かんない人は分かんなくていいとか、っていうことはあんまりなくて、何で分かんないのかをまず言ってくれって言っているので。じゃないと、何が分かんないと分かんないと言うのか、分かんないんですよ。ほら、もう分からなくなっちゃった(笑)。だから、野呂さんが僕が言ったことに対して、はてなな顔をしてるので、例えばA、B、Cで迷っているときに、Aでも迷っているのか、Bで迷っているのか、Cで迷っているのか分からないから、何で迷っているのか教えてくれって話をして、ここですってなったことを砕いていって、分かりやすくしているんですけど、この人が言ってたことはこういうことなんだっていうのを分かるまでずっと言っていました。まあなんかもう、そういうところはお説教みたいな感じです、野呂さんに対して(笑)。

この本の受け取り方は、読者に委ねたい

——どう思われるかとか、受け取り方は、読む人に任せるっていう感じですか?

そうですね。それがあったので、こういうタイトルになったって言いますか。これはあくまで、一個人の意見ですという立ち位置というか。例えば、自分が起業して、会社が大きくなって、っていう流れで、こんな億万長者になりましたっていうものではなかったので、だからこそ、これを読んでどう思うかはそれぞれだと思いますし、そもそもこいつが成功してるのか成功してないのかっていうのは、まだファジーな状態にいる人間なので、その人が言っている言葉の中でこれを持っときたいなっていう言葉があればいいなという趣旨ですね。

アイドルとは、“かゆいところに手が届く存在”

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photo:Sai

——著書の中で“アイドル”という言葉について、普段の自分とアイドルとしての自分を切り離しているように見えました。改めて、二宮さんにとっての“アイドル”の概念とはなんでしょうか?

「こうあるべきだな」と思っていたのは、ちゃんと“相手の欲求を叶える存在”であることなんですよね。いわば、かゆいところに手が届くような――そういう存在でありたいと思っていました。もちろん、エンタメに携わる人間として、最前線・最新のものを取り入れて、新たな可能性を探っていくというのも大事なんですけど。たとえば、「今こういうときに、ファンは何を聴きたいんだろう」とか。「最新の曲じゃないかもしれない。往年のヒット曲なんじゃないか」とか。そういうことを分かったうえで、ちゃんと叶えてあげられる人たちが、アイドルなんじゃないかって思ってるんです。自分たちを支持してくれているコミュニティの人たちが、「こういうのが見たい」「こういうのを届けてほしい」って思っていることを、まず第一にやっていく。

そこが満たされて、初めて“お茶の間”と呼ばれるような、もっと広い層に届いていけるんじゃないかな、って。だから、誠実に応援してくれている方々が、今何を望んでいて、何を見たいと思っているのか。そこにちゃんと応えたいというのが、僕の基本的な考え方ですね。ただ、言っちゃいけないんじゃないか、望んじゃいけないんじゃないか、っていうような遠慮も、ファンの中にはあると思うんですよ。でもそれって、本当は壊していいものだと思っていて。僕たちがそれを「叶えていいんだよ」と示していくことが、すごく大事だと思うんです。僕自身は、たとえば応援してくれている方の“お父さん”や“お母さん”が、「嵐のコンサートだったら行っていいよ」って言ってくれるような、なんとなく“安心できる存在”であれたらいいな、と思ってます。安全だし、安心だし、子どもが楽しみにしていることを提供できる存在でありたい。そこに調整も、冒険もあるけど、“安心と信頼”は同時に必要なものだと思っています。それが、僕の思う“アイドルの概念”ですね。

——エゴサーチとか、以前はまだ一般的ではなかったと思うんですけど、その時のファンなどの声はどうやって知っていましたか?

やっぱりファンレターが一番でしたね。それが、“エゴサーチ”というものができるようになってからは、本当に幅が広がったなという感覚があります。僕、基本的に映画とかではそこまでしないんですけど、連続ドラマのように続いていくものに関しては、徹底的に見ます。キャラクターがどうだとか、芝居が下手だ、上手いだ、いつもと同じだとか、そういう声もありますけど。とくに気にしているのは、「展開が読めた」とか、「変だった」とか、ストーリー上の違和感について。そういう声に対しては、「じゃあそれをどうしていけばいいんだろう?」って。もちろん、その意見を“変えるために”やっているわけじゃないんですけど、よりよくなる可能性があるなら、それは積極的に取り入れていきたいという考えはあるんですよね。

「断る」ことも、仕事のうちだった 独立後に知った、責任と自由

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photo:Sai

——俳優業やYouTube、今回の本の出版とか、近年ますますマルチにご活躍されている印象がありますが、その中に対する思いとか、仕事に対する向き合い方や思いなど、ここ数年で何か変化したことはありますか?

ここ数年で、「仕事に関わる変化」という点で言うと、やっぱり一番大きいのは、より強く責任を持つようになったということですね。もちろん本にも書いてあるんですけど、今はすべての仕事のご依頼を自分で目を通すんです。で、そのうえで、「断る」ということも、仕事の一つなんだという感覚を、42歳になって初めてちゃんと知ったというか(笑)。事務所に所属していた頃は、やっぱり「自分という人間に対して、何が一番リーチするか」「何が一番マッチするか」を、プロの方たちが考えてくれて、自分のもとに届いたものを、読み込んで、理解して、表現する。そういう仕事のやり方をしていました。

でも今は、お受けするものも、お断りするものも、全部平等に時間をかけて向き合っている。そこが大きく変わった点だと思います。時間に追われているんですけど、スケジュールがどうしても詰まっていて、物理的に「二人いないと回らないな」というような状況でも、「スケジュールがないのでごめんなさい」という前に、まずはちゃんと一読する。で、「これは自分じゃないかも」「誰か他に適任がいるんじゃないかな」と考えながら。一方で、「自分がやるとしたら、どう表現できるか」「どんな言い方になるだろうか」。そういったことを全案件に対して平等に考えるようになりました。

そのうえでお返事するという作業をしていると、「これまで自分がどれだけ人に支えてもらっていたのか」を、改めて実感する瞬間もあります。今までは現場に行って「よろしくお願いします」と会うまで、ほとんどやりとりがなかった以前と違って、今は、たとえば記者の方とも、メールで何度もやりとりをして、「取材したいです」「お願いします」「いつがいいですか」と。そのうえで、現場で「あ、あのやりとりの方ですね」とスタートできることは、こちらもやりやすいし、相手の方も、マネージャーを通さずにやりとりしている自分に気づいて、ケアしてくださることもあるんです。僕は常々、共演者とスタッフがいい人間だと思っていて、そういう人たちにケアしてもらいながら、展開できているのは、感謝するところです。

サクセスストーリーではなく、問い続ける自分を記録したかった

——今回、新書ということで、一般的には学術書とかのイメージがあると思いますが、今回二宮さんが出版されたことで、新書の可能性も広がっていくと思いました。これまでエンタメとかに興味はなかった人も手にとるかもしれません。そういう人たちに、この新書がどのように伝わってほしいと思っていますか?

これも本当に偏見なんですけど、自叙伝的な書籍より新書にすると、もうちょっと客観的な意見になれるんじゃないか、と考えたところでありまして。芸能人が、自分の考えをまとめるときって、自叙伝でいいじゃん、みたいな、そういう形が多いと思うんですけど、そうすると、自分の考えや覚えに対して、すごく自分が信用しているというか、信頼しているというか、だから成功してきたんだっていう、こう答えづけになってきちゃう。だから今の俺がいるんだ、みたいな感じは僕は自分自身になかったので。なので、自分の考えだし、自分の思いということなんですけど、もう少し客観的になるには、どうしたらいいんだろう、って考えたときに、ご提案いただいた新書というものは、二宮和也はこう思ってるよね、って言えるような、その立場になれると思ったので、それを選択させてもらいました。シンプルなサクセス本みたいなことに なっていないというか。だから僕はここまで来たんだよね、という感じではなく、悩んでいるものはずっと悩み続けているし、解決していくべきものは解決していくし。責任を持つ部分が多くなってきた中での、自分の振る舞い方というのが、ちゃんと客観的に、さっきも言っているように、整理できたんじゃないかな、というふうに思っています。

若い世代、上の世代――価値観の違いが気になるからこそ読んでほしい

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——社会人としてすごく心に響く本でした。二宮さんはどんな世代の人たちに読んでほしいですか?
同世代はもちろんですが、若い世代や、もう一つ上の世代の方たちなど、働き方の価値観が違う人たちの目にはどう映るのか、すごく興味があります。僕自身、10代、20代の頃は、先輩の背中を見て仕事を覚えるというような時代を過ごしてきました。「先輩に意見を求めるなんておこがましい」みたいな雰囲気があって、「見て感じろよ」というのが当たり前だった。でも、今は違いますよね。後輩から「これについて意見ください」と言われると、「あ、時代が変わったんだな」と思います。そういう変化に、いま必死に慣れようとしている感じです。

「分かった、見ておくね」なんて言ってくれる先輩は、自分のまわりには誰一人いませんでした(笑)。だからこそ、嘆くよりも、まずは慣れなきゃなって。今回の本を通して、自分の考えが他の世代にどう受け止められるのか。若い世代から「積極的に見える」と思われるのか、「まだまだひよっこだな」と思われるのか。その反応がとても気になりますし、いろんな世代の方々に読んでいただけたら嬉しいです。

今の自分を表すなら「我田引水」

——2025年になってからまた二宮さんの現在地が大きく変わっていらっしゃると思います。今のご自身を四字熟語で表すと?

「我田引水」でしょうね。基本的に、人のふんどしで相撲を取る人間なので(笑)。とにかく、僕自身が僕にそんなに興味がないので、興味を持ってくれている人たちが、いかにこうしたほうがいいんじゃないかというアドバイスを聞いたときに、ヒットしてくるのかということで、ものごとが進んでいるので、なので、本当にまさにこれ、な感じがしますね。



集英社新書『独断と偏見』
2025年6月17日発売 ¥1,100 新書判/192ページ

二宮和也による初めての〈新書〉。あえて文字だけの表現に挑戦。
40代になった著者二宮が、これまで考えてきたこと、いま考えていること――。

俳優やアーティストとしての表現のみならず、二宮和也が発信する独創的な言葉の力には定評があります。その最新の〈哲学〉を言語化すべく、10の四字熟語をテーマに計100の問いと向きあいました。ビジネス論から人づきあいの流儀、会話術から死生観にいたるまで、「独断と偏見」にもとづいて縦横無尽に語りおろします。エンターテイナーとしての思考が明かされると同時に、実生活に役立つ働きかたの極意や現代を生きぬく知恵が凝縮。世代や性別を問わず、どのページを開いても人生のヒントが見つかる新しい形のバイブル的一冊です。

【著者プロフィール】二宮和也(にのみや かずなり)
1983年6月17日生まれ、東京都出身。1999年、アイドルグループ「嵐」のメンバーとしてデビュー。映画やドラマ、バラエティ、CMなど幅広く活躍。最近の主な出演作品に映画『ラーゲリより愛を込めて』『アナログ』『8番出口』、ドラマ『ブラックペアン』シリーズなど。2016年、映画『母と暮せば』で第39回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。近著に『二宮和也のIt[一途]』(集英社)がある。

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