『3月のライオン』林士平的オールタイムベスト級の大傑作!【マンガ編集者のおすすめ・最終回】

林士平の推しマンガ道

『3月のライオン』 羽海野チカ 著

『3月のライオン』 羽海野チカ 著

白泉社 ヤングアニマルコミックス 既刊18巻・各759円

「数年ごとに読み返しては“好き”を噛み締め、マンガを読む目を清らかにすすいでもらっている特別な作品です!」

『3月のライオン』は、林士平さんにとってのオールタイムベストのひとつ。2007年から連載中、手塚治虫文化賞マンガ大賞などを受賞した羽海野チカの長編マンガだ。東京の下町、カーテンもない部屋で寝起きしてひたすら将棋を指す17歳のプロ棋士・桐山零と、彼を取り巻く人々の姿を鮮やかに描く。

「静かなオープニングなんですよね。幼い自分を引き取って棋士として育ててくれた師匠をやっつけたあと、眠りながら涙を流す零くん。川本家のあかりさん、ひなちゃん、モモちゃん3姉妹が出てくる第1話。ライバルの二海堂くんが登場する第2話。第9&10話でようやくさまざまなバックグラウンドが明かされて、主人公がなぜこんなふうに生きているのかを第1巻の最後で見せる構成です」

『3月のライオン』のライバル二海堂晴信

Ⓒ 羽海野チカ/白泉社

幼い頃から幾度となく対戦してきた同年代随一のライバル二海堂晴信が、テレビの画面越しに主人公に喝!

主人公とたびたび食卓を囲む3姉妹、対戦相手などキャラクターも多彩。単行本カバーに登場するだけでも13人いる!

「これだけの大人数を描きながら、主人公の感情を少しずつ引き出していく。登場した瞬間から『親友』だと主張し続ける二海堂くんが、『勝ちたいんなら粘れっっっ』と零くんに発破をかける場面なんて最高です。勝負事って残酷だけど、同時に救いにもなりうる。同じ土俵で本気で戦っている仲間だからこそ言えるセリフなんですよね」

『3月のライオン』桐山零という少年が将棋の世界で生きることを決めた一コマ

Ⓒ 羽海野チカ/白泉社

桐山零という少年が将棋の世界で生きることを決めた、運命のひとコマ。密やかな過去が第1巻の終わりで明らかにされる。

第1巻のあとがきには、《「零」という名前の男の子と彼をめぐるみんなの物語》の箱を見つけた作家の姿が。ただし、連載以前は将棋をほとんど知らなかったという。

「零という少年と将棋という題材に出合ってしまったから描くしかない、という気概を感じます。あとはどこまでも取材と観察だと思います。現場に足を運んで、記事やドキュメンタリーもすごい量に目を通しているんじゃないでしょうか。見聞きしたであろう言葉を物語に落とし込んで、リアルに響かせるスキルがすごい。キャラクターの関係性が的確に描写されたところに戦いのシチュエーションが重なるから、将棋を知らなくてもとにかく面白いんですよね。さらに監修の棋士・先崎学さんが、物語における勝負の具合をきっちり理解した上で棋譜を書いたり選んだりされていて、これぞプロの協業だなと感激します」

『3月のライオン』ひなちゃん

Ⓒ 羽海野チカ/白泉社

中学校でいじめにあった友人をかばい、標的にされたひなちゃん。大粒の涙をこぼしながら口にした言葉が、時空を超えて、幼い主人公を孤独の淵から救い出す。

コマとセリフとモノローグ。重層的な構造も羽海野作品ならではの読みごたえだ。

「パワーのある言葉がセリフとモノローグとして、縦に横に置かれて重なり合う。絵も可愛いだけじゃないんですよね。うれしかったり、悲しかったり、悔しかったりする表情や、戦う人の覚悟を決めた顔が生き生きとした言葉と結びついて、キャラクターの感情がスムースに流れ込んでくる。羽海野先生のマンガ力に、18巻分ずーっと圧倒されっぱなしです!」

名場面の嵐が続くなか、5巻の終わりは林さんにとって特に忘れ難い。

「学校でのいじめを家族に告げ、『後悔なんてしないっっ』『私のした事はぜったいまちがってなんかない‼』と言い切るひなちゃんの強さが、主人公が幼い頃から抱えてきた孤独に救いの手を伸ばすんです。誰もがきっと心に傷を負っていて、でも不意に救われることがある。そんなミラクルを力強く提示してくれる、マンガ史に残る名場面だと思います!」

林士平プロフィール画像
マンガ編集者林士平

マンガ編集者。『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』『ダンダダン』『幼稚園WARS』などの人気作品、「少年ジャンプ+」の新連載や読切も担当。「3年間の推しマンガ連載、ありがとうございました!」

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