パラ陸上100m金メダル! 川上秀太選手が目指す、ロサンゼルス2028パラリンピックへの道

パラアスリートが見つめる未来 vol.22

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陸上競技/川上秀太さん「健常とパラの垣根を越えてもっと速く走りたい」

SPUR1月号 川上秀太 陸上競技

先日の世界パラ陸上競技選手権大会の男子100m(T13)で見事、優勝した川上秀太選手。

「現在の視力は右0.06、左0.03くらいで、右目は中心が見えにくく、左目は内側の半分が見えていません。でも、両目で補い合っているので視界が抜ける部分はなく、白杖を持たずに歩行しています。小学3年生で交通事故に遭ってからこの見え方なので、競技中の視野を特別意識することはないです」

視力を補うように、彼の走りは聴覚で支えられている。

「ウォーミングアップ中もイヤホンはつけずに、音でフォームのズレを聞き取っています。接地する音、風を切る音、自分の中のリズムなどが、その日の調子のよし悪しの手がかりになるんです」

川上選手が陸上競技を始めたのは、中学1年生の頃。タイムが縮むたびにうれしくて、順位ではなく数字で見える成長に夢中になっていった。

「ただ走るだけの競技に見えても、そこには自分との闘いがありますし、陸上競技をやっている人にしかわからない楽しさがあると思います。記録では自分に、順位では相手に挑む。チームスポーツにはない、自分の体ひとつで勝負するところにも魅力を感じています。並行して、パラ陸上に興味を持ったのは大学3年時。授業でパラスポーツに触れたことをきっかけに、僕が走ることで障がいのある人たちの活力になればと思いました。ただ『陸上部のみんなと同じ目標に向かって走りたい』と思い、大学を卒業するまでは健常者の大会に出場していました」

SPUR1月号 川上秀太 陸上競技

写真:SportsPressJP/アフロ

そして、大学卒業後にパラ陸上競技をスタートし、現在もふたつの大会に出場している。

「僕のT13という視覚障がいクラスは、健常の大会にも出られるんです。トラックも距離も競技ルールもまったく同じ。その中で、どこまで自分を高められるかだけ。健常の選手と並んで走ると、今の自分のレベルがすぐにわかるし、それがかなり刺激になります。自分がやっているのは陸上競技であり、そこにパラ、健常の線は引きたくないので、両方の大会に出たいと思っています」

パラ陸上の世界に挑んで約3年。自身の走りと誠実に向き合い、着実に力をつけていく彼に、今後の目標を聞いた。

「記録では100mを10秒5台で走り、2026年に行われるアジアパラ競技大会での王者を目指します。健常の日本選手権の標準記録を切って、ロサンゼルス2028パラリンピックでも金メダルを狙いたい。健常もパラも関係なく、同じ土俵で戦えることを証明したいから、ひたすら速く走る。僕の走りを見た誰かが一歩を踏み出そうと思ってくれたらうれしいですね」

川上秀太プロフィール画像
川上秀太

かわかみ しゅうた●1998年11月22日、福井県生まれ。小学3年生のときに交通事故で視神経を損傷し、弱視となる。中学から陸上競技部に所属。2021年に社会人になってから、健常者の大会と並行しパラ陸上への挑戦を決める。2024年の世界パラ陸上競技選手権大会では100m(T13)で銀メダル、パリパラリンピックでは銅メダルを獲得。2025年にニューデリーで開催された世界選手権では、100m(T13)で金メダルに輝いた。アスピカに所属。

川上さんを読み解く3つのS

Smile

家族と過ごす時間を大切にしています。仕事が終わってからは子どもと遊び、リフレッシュして練習へ向かうのが日課。最近はアンパンマンのパズルに夢中な息子の姿に癒やされています。成長した息子に自分の活躍を見せたいという新たな目標ができました!

Sleep

子どもが生まれるまでは特に睡眠を重視しておらず、夜更かしをすることも。でも、今では寝かしつけをしてから12時までには寝るようにして、朝は6時半に起床するサイクルになりました。息子が生活リズムを整えてくれたと言っても過言ではないですね(笑)。

Society

大学の授業でボッチャを体験したのがパラスポーツとの出合いでした。障がいの有無に関係なく、一緒に楽しめるスポーツの世界が少しずつ広がっていると実感します。自分も橋渡しの役割を担いたいし、健常もパラも関係ない陸上競技の大会が増えてほしいですね。

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