パラアイスホッケー/伊藤 樹さん【パラアスリートが見つめる未来 vol.13】

悲願のパラリンピック出場に向けて、挑み続ける!

SPUR4月号 伊藤 樹 パラアイスホッケー

下肢に障がいがある選手がスレッジと呼ばれる専用のそりに乗り、巧みに両手でスティックを操りながらプレーするパラアイスホッケー。伊藤樹選手は、日本代表チームの攻撃の要であり、次代を担う若きエースだ。

「6歳でアイスホッケーに出合い、小学3年生のときに交通事故で下半身が動かなくなり、パラアイスホッケーに転向しました。入院中から競技の存在について聞いてはいましたが、あまり乗り気ではなく……。でも、いざやってみると楽しくて、いつの間にかのめり込んでいました。もう一度、一から挑戦しようと思った原動力は、競技の面白さと誰よりもうまくなりたいという向上心だと思います。僕のように経験がある選手はかなり珍しく、事故後も同じスポーツができることはラッキー。パラアイスホッケーをやるために生まれてきたのかなとよく思います」

日本ではあまりなじみのない競技だが、北米では大人気スポーツのひとつ。その魅力を伺ってみた。

「スポーツの面白いところを詰め込んだ競技が、パラアイスホッケーだと思います。たとえば、スレッジの制御の仕方、容赦のないボディコンタクト、勝敗のわかりやすい得点種目で、みんなで高みを目指すチーム競技であるところ。もちろん、選手として求められる資質も多く、難しさもありますが、とてもやりがいを感じます」

SPUR4月号 伊藤 樹
©gettyimages

そんな彼は、さらなる技術向上のため2024年に高校を卒業後、世界ランキング2位の強豪国アメリカへの留学を決意した。

「海外でプレーすることはアイスホッケーを始めた幼少期からの夢でした。アメリカでの生活は、日々充実していて楽しいです。今は、所属企業などからサポートを受けて語学学校に通いながら、コロラド・アバランチの育成チームでトレーニングに励んでいます。実は、同チームには動画を見て、プレーを参考にしていたアメリカの絶対的エース、デクラン・ファーマー選手がいるんです。憧れの選手と一緒に練習ができ、直接学べる環境に感謝をしています。こんなに幸せなことはないですね。ここまで続けてきてよかったな、と」

激闘が予想される2026年ミラノ・コルティナパラリンピック大会の最終予選まで、すでに1年を切っている。目下の目標は、2大会ぶりの出場権の獲得。

「今の課題はシュート力の向上。自分がゴールを決めることで勝利に直結するので、どこから狙ってもパックが入るような正確さを求められています。あと、体の大きい海外の選手が、高スピードでぶつかってきても負けないフィジカルも強化したい。1年後の大会への出場を逃したら、あとはないという覚悟で挑み続けます!」

伊藤 樹プロフィール画像
伊藤 樹

いとう いつき●2005年9月29日、大阪府生まれ。6歳からアイスホッケーを始め、9歳のときに交通事故に遭い脊髄を損傷。その翌年にパラアイスホッケーへ転向し、地元のクラブチーム、ロスパーダ関西で活動しながら、2018年には日本代表入りを果たす。2023年の世界選手権(B-pool)では、6ゴール3アシストという活躍でチームを優勝に導くとともに、日本人史上初の大会MVPに輝く。2024年からアメリカに単身留学中。ビーズインターナショナル所属。

伊藤さんを読み解く3つのS

Society

10歳から『週刊少年ジャンプ』を愛読していて、渡米してからもデジタル版で購読を続けています。休日にベッドの中で漫画を読むのが至福のひととき。どの作品も面白いですが、最近のお気に入りは『SAKAMOTO DAYS』と『カグラバチ』。単行本も集めています!

Sleep

日本にいたときは、寝る前に懸垂20回とチューブトレーニングをするのが日課でした。ほどよい疲労感が入眠スピードを早め、深い眠りに誘導してくれるので。そうすると体がしっかりと休息を取れます。今は新たなルーティンを模索しているところです!

Smile

小学3年生から車いす生活になって、周りの人をよく観察するようになりました。日常生活の中で車いすの介助をお願いしたいときには「この人は手伝ってくれそうだ」と思う方に声をかけるように。生活をよりよくするために、視野が広がったと思います。

 

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