『寄生獣』不変的なテーマと高密度の物語に震える、ド級の名作 【マンガ編集者のおすすめ】

林士平の推しマンガ道

マンガ編集者の礎には『寄生獣』の3文字が刻まれている。林士平さんが30年来何度も読み返してきた、金字塔的作品の一作の魅力を語る。

マンガという表現で世界を揺るがす。不変的なテーマと高密度の物語に震える名作

今号から連載がリニューアル!林士平さんが作品についてより熱く深く語ります。記念すべき初回はこの作品!「日本のマンガにおける特異点のひとつ!ド級の名作です!」

『寄生獣』 岩明 均 著

『寄生獣』 岩明 均 著
講談社 アフタヌーンKCDX 新装版 全10巻・各770円

マンガ編集者の林士平さんが鼻息もあらく太鼓判を押す『寄生獣』。空から飛来して人の体内に潜り込み、本能に従ってほかの人間を捕食する謎の寄生生物、寄生獣と人間との関わりや争いを描き、発表から30年以上にわたって社会を揺るがし続ける岩明均の代表作だ。

「小学生の頃に読み始め、中学生時代に完結。カバーの絵が強烈なのでブックカバーをつけていたんですが、数え切れないほど繰り返し読んだのでボロボロになっちゃいました。今は電子版で読んでいますがコミックスも手放さずに残してあります。たまにパラパラめくってみるだけでも、コマ運びの巧みさや物語の密度に唸らされる。マンガ作りはここまでやらなきゃダメなんだ!という明確な基準というか目標として、自分の中に刷り込まれている特別な作品です」

2024年にはNetflixオリジナルの韓国ドラマ「寄生獣 −ザ・グレイ−』も配信され世界中で話題に。トリビュート作品集『ネオ寄生獣』『ネオ寄生獣f』、スピンオフマンガ『寄生獣リバーシ』もあり、2014〜’15年にはTVアニメ化、実写映画化もされた。

『寄生獣』 岩明 均 著
Ⓒ岩明均/講談社

寄生によって変化した新一。ガールフレンドの里美に真実を告げたいと願うがミギーは許さない(6巻p.68〜p.69より)

「そういった展開もオリジンの素晴らしさゆえですよね。本編の連載は1989〜’95年ですが、描かれていることは何も古びていないんですよ。環境問題、ウイルスを思い起こさせる寄生生物、他者と争いながら、同時にどうにか寄り添って生きていくほかないという感覚も、むしろ今こそ新しい。主人公の新一くんは右手に寄生されてしまうんですが、ミギーと名付けた異物を受け入れ理解しようとすることで強くなっていくんです。勝ち負けの二極じゃない。何が正しくて何が間違っているか考え続けることを推しているから、同質的な空間や集団になじめないと感じたことがある人には刺さると思います」

マンガ表現のすごみは数え切れず、語り尽くせないほどひしめいている。

『寄生獣』 岩明 均 著
Ⓒ岩明均/講談社

耳から侵入して脳を奪った寄生獣が本当の姿をさらす衝撃的なシーン(1話に登場。1巻p.22より)

「最初の1〜2話や1巻を読んでみるだけでも体感してもらえると思いますが、無駄なものがひとつもないんです。たとえば最初の捕食の場面。完璧なビジュアルに、「ぱふぁ」「ファッ」「あ」。スプラッタ具合もテーマの明確な提示もすごい。この発想、どこからやってくるんでしょう。2話には早くも「きみ………泉新一くん………………だよね?」という名セリフが出てきます。これは物語全体を貫くテーマでもあって、最終話のタイトルが「きみ」なんですよ。

『寄生獣』 岩明 均 著
Ⓒ岩明均/講談社

幼い新一を守ってついた火傷の痕はそのまま。母の姿をした何かが家にやってくる(2巻p.131より)

カメラワークとフラグの立て方に唸ったのは、2巻の新一のお母さんが寄生獣に襲われるくだり。その後、母の形をしたものが家に入ってくるシーンもホラーとして秀逸です。手のカットで大好きなお母さんを、靴を履いたままの次のコマで違和感を表す。短い巻数とページ数でこれだけの展開と衝撃が作れるんだ!マンガってこんなにすごい表現ができるんだ!と何度読んでも興奮します。ヒーローの帰還という鉄板といえる展開もご都合主義のそれとは違う。ネタバレはしたくないんですが、最後の最後まで完璧なプロットで畳みかけてくるので、安心して耽読してください」

林士平プロフィール画像
マンガ編集者林士平

マンガ編集者。「少年ジャンプ+」の人気作品のほか、『セイレーンは君に歌わない』などの新連載、『まち子の恋』などの読切も担当。「SPURでの連載も3年目に突入&リニューアル!よろしくお願いします!」

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