4Kで甦る! いま『ひなぎく』を観るべき理由

60年代ガールズムービーの金字塔『ひなぎく』の 4Kレストア版が3月14日(土)より公開。数多くのクリエイターたちを魅了してきたこの映画の魅力を、コラムニストの山崎まどかさんが解説。

60年代ガールズムービーの金字塔『ひなぎく』の 4Kレストア版が3月14日(土)より公開。数多くのクリエイターたちを魅了してきたこの映画の魅力を、コラムニストの山崎まどかさんが解説。

永遠に新しい“反逆の映画”である ― Madoka Yamasaki

1966年のチェコ映画『ひなぎく』

©Czech audiovisual fund, source: NFA

1966年のチェコ映画『ひなぎく』が日本でロードショー公開されたのは1991年のことだった。当時は渋谷系のブームで60年代のファッションが流行っていた。そこに現れたのが、この映画の二人の"マリエ"だ。

マリエ1はツインテール、マリエ2は金髪のボブカットに花冠。二人は同じ型のミニドレスを着て、踊ったり、レストランで中高年の男性を騙してご馳走させたり、好き勝手をして生きている。随所に現れる青リンゴや蝶の標本、次々とカラートーンが変わる映像。どこまでもキュートで、奇想天外、女の子の自由が詰まっていた!

当時にこの映画を観て、影響された女性クリエイターも大勢いるはずだ。ヴェラ・ヒティロヴァー監督の映像センスは一過性のブームにとどまらず、いまもフォトグラファーのペトラ・コリンズなどがインスパイア源として挙げている。

2026年の現在に『ひなぎく』を観ると、監督が二人のマリエに込めた思いがより明確に伝わってくる。オープニングは回る歯車と爆撃の映像。二人のマリエの姿は、自転車で工場に向かう労働者からは見えない。

そう、二人のマリエは当時のチェコスロヴァキアの社会主義体制のシステムの中に入っていけない、役に立たない"ダメ人間"だ。国のために働かない、体制に与しない若い女は、この国で自分の存在を証明できない。マリエたちの悪ふざけは「自分たちはここにいる」という精いっぱいの抵抗なのである。若い女が軽んじられ、世の中の周縁に置かれる状況は、現代も変わっていない。

権力者に用意されたとおぼしき豪華なディナーを手づかみで食べて、テーブルの上で踊るマリエたちはアナーキーに戦う革命の女神なのかもしれない。でも、そんなことは微塵も感じさせない。愛の幻想にも惑わされず、ただ楽しさだけを求めて刹那に生きる。『ひなぎく』はガーリーでいることが永遠にアヴァンギャルドなのだと教えてくれる。

『ひなぎく 4Kレストア版』
『ひなぎく 4Kレストア版』の画像_2

マリエ1とマリエ2は人形の真似をし、姉妹と偽り、男たちを騙しては食事をおごらせ、嘘泣きの後、笑いながら逃げ出す。あらゆる実験的な映画手法が使われ、衣装や美術、音楽のセンスも抜群。60年代ガールズムービーの金字塔。(3月14日公開)

Profile

Věra Chytilová

Profileの画像_3

ヴェラ・ヒティロヴァー ●1929 年、チェコ生まれ。『天井』(’62)で注目され、60 年代チェコ・ヌーヴェルヴァーグの代表的な監督となる。プラハの春以降『ひなぎく』と『楽園の果実を食べて』(’69)で政府ににらまれ、1976 年まで活動停止。2014 年に永眠。

山崎まどかプロフィール画像
コラムニスト山崎まどか

SPUR4月号から「銀幕のロールモデル」連載がスタート。昨今の再上映の流れは「新しい視点で見直されて浮上した旧作のロードショーや特集上映が増えていてうれしい悲鳴。単なるリバイバルじゃない、新しい映画と出合う機会だと捉えてほしい」。

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