夏だ! ホラーだ! 納涼だ! 今こそ読みたい怖いマンガ3選【林士平の推しマンガ道】

ひとり恐怖に浸ったり、脳内であれこれ考えたり、考察するためにネットをさまよったり。楽しみ方は十人十色。不思議と不穏が立ち込め、納涼もかなうホラーマンガのススメ。

林士平の推しマンガ道

エンターテインメントとしてのホラーへの希求って、人間の根幹にあるものだと思うんです。怖い話を摂取することで分泌される脳内物質なのか、情報を処理する脳の部位の影響なのか。恐怖とワクワクって隣り合わせというか表裏一体のような感情ですよね。というわけで、暑い夏でも読めば体感温度をグッと下げてくれるホラーマンガのススメです!

『青野くんに触りたいから 死にたい』椎名うみ著 

『青野くんに触りたいから 死にたい』椎名うみ著 
講談社アフタヌーンKC/ 既刊10巻・各748円

初恋の人・青野くんはつき合い始めて2週間後に死んでしまう。さわりたい、一緒にいたい、理解したい。そんな思いを抱えて主人公と友人たちが奮闘する純愛&青春物語。

まずは、ホラーとマンガ表現の幸せな融合に感激する『青野くんに触りたいから死にたい』。ラブコメのようなスタートから、見たこともない物語の形式へ突き進む、連載中の人気作です。

青野くんの幽霊と、彼を成仏させようとする主人公たちが、協力し合う味方かつ敵でもあるという設定も新しい。敵対する青野くんのホラー感と、それをどうにかして解きたいと頑張る仲間たちの絆。大ゴマにじんわり描かれたまま触れられない影や、マンガの枠の外=異世界から伸びる手の表現などマンガだからこそハマる演出。完璧なリズム。謎に溺れて怖がりたい人も、推測や考察を交わしたい人も楽しめる、一気読みを推奨したい激推し作品です。

『座敷女』望月峯太郎著

『座敷女』望月峯太郎著
(電子版のみ)講談社ヤングマガジン/660円

90年代ホラーの傑作と名高い作品。長い髪、赤い爪、ロングコートに汚れた靴を履いた不審な女。誰が、どうしてなんのために?一切の説明なしに恐怖が迫りくる。

「ストーカー」という語が一般的になる以前、1993年に発表されたのが『座敷女』。アパートの隣の部屋を訪ねてきた不審な女につきまとわれる大学生の話です。

携帯電話も普及していない時代、こんなふうに相手を待ち続けたり家に電話をかけたりっていう頑張り方があったんですよね。状況や人によっては、このやり方は恋を進めるカードだった。でも、視点を変えるとこんなに怖い! うっかり気軽に異物に触れてしまったことで、まとわりつかれるという構造の物語を人間パートで魅せる、ホラーマンガのある種の完成形といえる古典的名作です。

『惨家』井上三太著

『惨家』井上三太著
秋田書店ヤングチャンピオン コミックス/既刊3巻・715円〜

猟奇的な殺人が繰り返される、ダークでテリブルなサスペンスホラー。セリフを削った、スタイリッシュな絵面から、強靭な殺意が立ち上る。

"触らぬ神にたたりなし"という考えを強くさせられるのは『惨家』も同様。連載中の新しい作品ですが、30年たっても人間の怖さというものは変わらないんだなぁと思います。

SNSで自殺志願者を探したり、電車内のいざこざが事件に発展したり、作中で起こる出来事はリアリティたっぷり。人の悪意がこれでもかと描かれます。セリフを極限まで絞って絵と演出で見せるのですが、R指定したほうがよいのでは!? と思うほどのエグい表現がエンドレスで続きます。現代ホラーの一形態としてすごく面白いんですが、怖いのが苦手な方はどうか無理せず!

林士平プロフィール画像
マンガ編集者林士平

りん しへい。「少年ジャンプ+」連載中の『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』『ダンダダン』『幼稚園WARS』『BEAT&MOTION』担当。怖がりなので自宅は電子ロックにしています。

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