【林士平の推しマンガ道】イチオシのエッセイマンガ3選『ニューヨークで考え中』『百姓貴族』『定額制夫のこづかい万歳』

ストーリーマンガとは違うリアルな感触も、拾い読みOKの気楽さもいい!大好物のエッセイ&ルポマンガから、今読みたい3作品をリコメンド

林士平の推しマンガ道

「ジャンプ放送局」を愛読していた頃から、他人の独自の視点や価値観をリアルに読ませてくれる記事、エッセイやルポなどが大好物です。数あるおすすめから、連載中の3作を選びました。

『ニューヨークで考え中』近藤聡乃著

『ニューヨークで考え中』近藤聡乃著
亜紀書房/ 既刊4巻・1,100円〜

1年だけのつもりでやって来たNY生活も気づけば15年。その間に家族が増えたり、引っ越ししたり、コロナ禍で生活が変容したり。亜紀書房WEB「あき地」で隔週連載中。

『ニューヨークで考え中』には、近藤聡乃先生の、移住者ならではの情緒とでもいうべきものが作中に漂っていて、周囲との文化や視点の差異の描き方も楽しんでます。

後に夫となるアメリカ人の恋人が、ひらがなや漢字に抱くイメージの話は特に好き。「英語には興味を持てない」と言う近藤先生に「それは『僕には興味を持てない』と同じ意味だと思う」と彼が反論する回は、なぜ1話2ページしかないんだ、もっと読ませてくれ!ともだえました。彼が先生のお母さんをハグする回にもグッとくる。そんな合間に「ゲーム・オブ・スローンズ」の人名を思い出すだけの回もあって、この自由さが心地よいんです。そしてなにしろ絵が巧い!

『百姓貴族』荒川 弘著

『百姓貴族』荒川 弘著
新書館 ウィングス・コミックス・ デラックス/既刊7巻・748円〜

北海道の農家生まれ農家育ち。マンガ家デビュー前の7年間、農業に従事した作者が、酪農業の表と裏を大開陳。日本の食料自給率からクマの恐ろしさまで学べる。

『百姓貴族』は、同じく荒川弘先生の『銀の匙』とA面・B面的な読み方もできる酪農業エッセイマンガです。牛乳も野菜もおいしそうだし、とにかく未知のことだらけだし、「楽しそう〜」と農業に憧れる読者にジャンジャン冷や水を浴びせてくれるのもいいですね。専門知識から、これ描いちゃっていいの?と驚く裏話まで、すいすい読ませる異常なまでのネームの巧さ! 人の言動からネタを見つける観察力! いろいろ感嘆しつつ、牛乳の乳脂肪分がアップするという冬が待ち遠しくなります。

『定額制夫のこづかい万歳 〜月額2万千円の金欠ライフ〜』吉本浩二著 

『定額制夫のこづかい万歳 〜月額2万千円の金欠ライフ〜』吉本浩二著 
講談社 モーニングコミックス/既刊5巻・704円〜

46歳のマンガ家が、2万千円のこづかいを手に右往左往。お菓子売り場で目を光らせたり、フードコートに救われたり。こづかい仲間を増やしながら進む定額制夫の花道。

現代日本のドキュメントともいえる『定額制夫のこづかい万歳〜月額2万千円の金欠ライフ〜』。副題は吉本浩二先生の1カ月のおこづかいの金額で、作者以外にもおこづかい制を導入している老若男女が登場します。金額の制限がある中、いかに工夫して欲望を充足させるか。子ども時代におこづかいを握りしめてマンガやお菓子を買った感覚を思い出すのと同時に、幸せの本質ってなんだろうと考えさせられもする。

日高屋での晩酌回、駅の片隅で飲むステーションバー回など、SNSでバズった話もいろいろ収められています。このぐらいが「ちょうどいい」というあんばいがわかっている人たちの話で、結局幸せの度合いというものは、どこに目線を据えるかによって決まるんだ。新たな視点を得ることで広がる景色もあるんだ、と教えてくれる哲学的な作品です。

林士平プロフィール画像
マンガ編集者林士平

マンガ編集者。「少年ジャンプ+」連載中の『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』『ダンダダン』『幼稚園WARS』『BEAT&MOTION』担当。創作支援アプリ「World Maker」リリース! 

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